男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴   作:陽波ゆうい

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第15話 同級生未満、恋人まだ、一生一緒

 礼拝堂の外にあるベンチにて。

 俺と「聖女様候補」と呼ばれる彼女は、並んで腰掛けていた。

 

 そして……。

 

「お、美味しい! このサンドイッチ、めちゃくちゃ美味しいですっ。もぐっ、むぐむぐ……!」

  

 ガツガツ食いつくのはみっともないと分かっているが……空腹であり、何よりもサンドイッチのあまりの美味しさに食べる手が止まらない。

 

 腹の音を盛大に鳴らせた俺に対して、彼女は、自分が持っていたサンドイッチを差し出してくれたのだ。

 

 なんとも恥ずかしいけど……ありがたい!

 サンドイッチめちゃくちゃ美味しい!!

 

「ふふ、それは良かったです。作った甲斐がありました」

「はい、本当に美味しくて……えっ、作った? このサンドイッチをですか?」

  

 あれだけ勢いの良かった手がピタリと止まった。

 いや、だって……作ったと聞こえたから。

 

 改めて、貰ったサンドイッチを見る。

 

 薄切りローストビーフと硬めのパンのちょっとリッチなサンドイッチ。

 たまごをふんだんに使い、ふわふわの食パンの王道サンドイッチ。

 イチゴジャムとマーガリンのデザートサンドイッチ。

 

 どれも丁寧に作られていて、味も美味しく、てっきりお店で買ったものだと思っていたが……。

 

 いずれにしろ……。

 

「こんなに食べておいてなんですけど……このサンドイッチ、昼食用だったりしましたよね? 俺なんかが食べて本当に良かったんですか?」

 

 サンドイッチを作った時に掛かったお金、もしくは別の対価になるものを渡す気ではいるけど……それでも、譲ってもらった事実はあるわけで。

 

 逆に、なくなって困らせていないと良いのだが……。

 

「はい、ぜひ食べてください。わたしのことでしたら、お昼は既に済ませていますから。これは、あなたの分ですよ。だから残さず食べてくださいね?」

 

 彼女は、ニコニコと笑みを浮かべていた。

 

 慈しみを持って接する姿……いや、もうこれは本物の聖女様だろうっ。

 

 お昼ご飯じゃないとしても、誰かに渡すために作ってきたかもしれないのに……俺に気遣ってそう言ってくれるなんて優しすぎる!

 

「ご馳走様でした!」

 

 ボリュームたっぷりなサンドイッチを3つ平らげて、大満足。

 腹はもう鳴らないだろう。

 

「ふふっ、見ていて気持ちの良い食べっぷりでしたよ。味付けはいかがでしたか?」

「どれも最高でしたよ! すっごく好みの味で、美味しかったです!」

「っ! そうですか、そうですか〜」

 

 お世辞ではなく、マジである。

 そんな俺がテンション高めに返すと、彼女は、ぱっと顔を輝かせた。

   

 でも次の瞬間には……。

 

「この味付けが好き、と」

 

 メモ帳を取り出し、ペンでさらさらと書き込み始めていた。

 

 向上心の塊ってやつかな?

 

 料理1つ取ってもこんなに真剣に向き合うなんて、素晴らしすぎる。

 生徒の見本にもなりそうだな!

 

「改めて、サンドイッチありがとうございました。このご恩は忘れませんっ。聖女様にはお礼をしないとですね。何か、希望とかはありますか?」

「ご恩なんて、そんな……。わたしが好きでしたことですから」

 

 なんて言葉をさらりと掛けてくれた。

 謙虚どころか、やはり聖女様だよな!

 

「しかしながら、お礼として叶えてくれるものがあるとしたら……『聖女様』呼びは控えていただけると嬉しいです。わたしはまだ見習いの身ですし……何より、名前で呼んでいただきたいですから」

    

 俺としては、もっとお礼のグレードを上げてもらっても良いのだけど……。

 

 本人がそう言うなら、名前で呼ばせてもらおう。

 

 って、名前を知りたければ、まずは自分から名乗るべきだよな!

 

「先に自己紹介しとくべきでしたね。俺は、1年Aクラスのフェイ・オルクスと言います!」

「ご丁寧にありがとうございます。わたしは、1年特別クラスのユーリ・セルーテと申します」

 

 ユーリ様かぁ。名前まで聖女様としてピッタリだけど。

 

「では、ユーリ様と呼びますね!」

「様付も不要ですよ? それと、先ほどから敬語になっています。同級生なのですから、もっと気兼ねなく話してください」

「いや、でも……」

 

 それはグレードでなく、ハードルが上がっている。

 

 この世界で女性に対して、様付していないことや敬語じゃない方がむしろ無礼になるというか、周りの男たちの反応が怖いというか……。

 

 どうしたものかと悩んでいると、彼女が何か思いついたように口を開いた。

 

「では、こうしましょう。2人きりの時だけは、様付けも敬語もなしにしてください。それを……今回のサンドイッチのお礼として叶えていただけませんか?」

「えと……逆にそれでいいんですか……?」

「はい。むしろ、その方が……嬉しいですから」

 

 ふむ。ここまで言われたら、やるしかないよな。

 

「それじゃあ、2人になった時はユーリさんって呼ばせてもらいます。で、敬語もなしで!」

「……ユーリと呼び捨てしてくれてもいいんですけど」

「ん?」

 

 何かボソッと言われたような?

 

「い、いえ……。とりあえず、そうしましょうか。わたしは、フェイ君と呼ばせていただきますね」

「は、はいっ。じゃなくて、いいよ!」

「ふふっ、ありがとうございます、フェイ君」

 

 フェイ君……か。

 随分、親しい感じで呼んでくれるんだなぁ。

 

 ユーリさんも数の多い男に優しいタイプなんだな。

 けど、ユーリさんと2人になる機会なんて今以外にそうないと思うけど……。

 

「ところで、フェイ君はどうして礼拝堂に1人でいたのですか?」

 

 ユーリさんが小首を傾げながら聞いてきた。

 

 やはり気になるところだよな。

 礼拝堂に男が1人なんておかしいし。

  

 相手がユーリさんあれば、特に関係もないことだろうし、話してもいいか。

 

 俺はさっきまで男子寮の説明会があったこと。

 その中で、内装工事のために俺が寮に住めないことを話した。

 

「……そうだったんですね。それは不便になりますね」

「でも、代わりの措置があるだろうし、大丈夫だと思うけどね」

 

 ……と、信じてこうして待ってるんだけどなぁ。

 

 ここのベンチから見える礼拝堂には、あれから誰も出入りしていない。

 もう帰ったことじゃないよな?

 

「てか、俺からも質問いい? ユーリさんはなんで礼拝堂に来たの?」

 

 俺も1人だったけど、ユーリさんも1人であったのだ。

 女子生徒はこの時間帯には、既に帰宅しているものだと思っていたが……。

 

「わたしは……すぐに帰るのも味気ない気がして、施設巡りをしていたんですよ」

「なるほど、なるほど」

 

 学園の施設を把握しとくのは大事よな!

 

「それに……あなたにも会いたかったんですよ、フェイ君」

「え、俺……?」

 

 俺たちは、さっき初対面のはずなのに……。

 

 いや、なんかこの感じ胸騒ぎがする。

 

 そんな俺に、ユーリさんは続きを話し出して……。

 

「実は、わたしはフェイ君へ推薦状を出しているんです。この王立学園にぜひとも来ていただけるように。推薦状はもちろん、合格祝いの花束も届いていたと思います」

「……」

 

 その言葉を聞いて……もはや、言葉を失う。

 

 2度あることは3度あると言ったように……。

 

 しかもこれで、全員が揃った。

 

 俺こと、フェイ・オルクスを王立学園カルリーネへの入学を薦める推薦状が3つほどきてきた。

 

 その差出人の3名が揃ったのだ。

 

 公爵令嬢のネリネ様。

 生徒会長のアザレア様。

 聖女様候補のユーリ様。

 

 全員、数少ない女性であった。

 

 改めて、田舎出身で大した功績も、目立ってもいない俺なんかに何故、推薦状を出したんだろうか?

 メリットになるのだろうか……?

 

 疑問は増えていくばかりである。

 

 それと、3人の女の子というワードで思い出すことがある。

 

『貴方の名前を教えてください! そして、私の傍にずっといてください!』

『君の名前を教えてよ! アタシ、君のことが気になってっ』

『わ、わたし……これからもあなたの隣にいたいから。だからね……』

 

 昔、助けた人の中で……特に印象的だった3人の女の子。

 好意があるようなアプローチみたいなこともされたことがあった。

 

 あの女の子たちとはあれ以来、連絡も居場所も教えていない。

 わざわざ俺のことを見つける理由もないはずもない。

 

『なら……もう少し大きくなったら結婚しよう』

 

 あの言葉だって、とっくに忘れているに違いないし……。

 俺だって、本気にはしていない。

 

 何より、この世界は男女比3:1。

 男の方が数が多いのだから、彼女たちが執着する理由がない。

 

「フェイ君? どうかしましたか?」

 

 俺が黙り込んでいるのを不思議に思ってか、ユーリさんの心配するような声にハッと我に返った。

 

 か、考えすぎだよなっ。

 今はまず、推薦状を出してくれたことに対してお礼を言わないと!

 

「推薦状と、それに花束もありがとう! ユーリさんのおかげで俺もこの王立学園に通えることになったし!」

「わたしも嬉しいですよ。こうして同じ学園で同じ場所で過ごせますからね」

  

 ユーリさんは、朗らかな笑みを浮かべてくれていたのだった。

 

 それからは少し雑談をして、ユーリさんとは別れたのだった。

 

◆◆

 

 ユーリは人気のない女子専用校舎へ。

 クラスに戻っていた。

 

 誰もいない空間ながらも、彼女は実に楽しそうにしており……。

 

「ふふっ。完食してもらいました。それに、味付けも好み……良いことを知れました」

 

 空になった箱を見て、満足そうに微笑む彼女であったが。

 

「でも、本当なら一緒にお昼を食べたかったんですけどね」

 

 直後、その笑みがスッと消えた。

 

「……悪いことも知ってしまいましたね」

 

 思い返すのは、クラスでのホームルーム後。

 

 クラスメイトとの交流もほどほどに、ユーリは足早に男子の方の校舎へ向かっていたのだ。

 

 何故なら、念願の再会を果たすため。

 

 しかしながら……()()()()()()

 

 彼が……他の女性に腕を引かれているところを。

 

「フェイ君と一緒にいたあの金髪の女性は……入学式の時に挨拶をしていた生徒会長だった。目的がないことには、わざわざ出向かないはず。じゃあ、フェイ君に何か用事があった? もしかして、フェイ君を狙っていて……」

  

 独り言のように呟きながらも、もう1つ気になることがあって……。

 

「それに寮の一部屋だけ内装工事中というのも本当かどうか……。あまりにも不自然すぎます。まさか、あの生徒会長が……? それとも、また違う人物が関わっていて……?」

 

 考えが深入りしそうになった時。 

 ユーリは、笑みを浮かべていた。

 

「しかし所詮は、短い時間での出来事。フェイ君とは結婚の約束をしていますし……それは、絶対に叶えてもらうことですし。彼と一生を添い遂げるのはわたしなのですから、広い心を持たないとですね」

 

 

 




【余談】
ユリ。
花言葉:「純粋」「無垢」「威厳」
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