男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴   作:陽波ゆうい

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第17話 前向き≠一生傍にいてほしい

「ここがフェイ様の暮らすお部屋ですよ」

 

 ネリネ様が穏やかな表情を浮かべつつ、その扉を押し開けた。

 

 俺も足を踏み入れて……数回瞬きを繰り返しながらも、部屋の中を見て回る。

     

 キングサイズのベッドに、広めの勉強机、クローゼットと……生活に必要な家具等は完備されており、トイレとバスルームまで付いている。

 

 こっちの部屋は落ち着いた内装で派手さはないが、言わずもがなの快適空間である。

 いや、学生の1人暮らしには十分すぎるくらいだ。

 

 だが、それよりも1番気になっていることがある。

 

 ここに入る前からずっと気になっていて……。

 

「あの、ここは……」

「はい、どうされましたか、フェイ様?」

 

 ネリネ様が不思議そうに首を傾げているけど、どう考えてもおかしい部分というか。

 

「女子寮ですし、さらにネリネ様が住んでいる部屋の隣というか……その中の1つですよね?」

 

 色々とおかしくない??

 

 そう、俺が案内されたのはネリネ様が住む女子寮であったのだ。

 

 女子たちの住む寮は、なんと3つもあるらしい。

 

 その中でも、ネリネ様が住んでいるという寮は、外観から豪華であった。

 高級ホテルような雰囲気であり、寮に入ってすぐにシャンデリアが吊るされてあったし。

   

 部屋の間取りもかなり凄い。

 1人につき、何部屋使えるんだっていうぐらい広い。

 

 そして、その中にある部屋の1つが俺の部屋として案内されてたわけだが……。

 

「そうですね。この部屋は通称『使()()()()()』と呼ばれています」

「し、使用人部屋……?」

  

 唖然としている俺をよそに、ネリネ様はさらりと話を続ける。

 

「数少ない女性側が安心安全に……そして、快適な学園生活を送るための特例です。通常は、寮には王立学園の生徒以外立ち入り禁止……。しかしながら、女性側は特別であり、使用人や従者などを寮に住まわせて良いということになっています。だから、この部屋があるということです」

「な、なるほど……?」

 

 その話は筋が通っているような、通っていないような?

 

 とりあえず、男女比3:1の世界で女性優位だからこそ、できることっていうのは分かった。

 

 だが、その使用人部屋に俺を住まわせる理由が分からない。

 

 いや、もしかして――

 

『そのお礼として、私から提案するのはおこがましいことなのですが……。学園では――従者として、頼っても良いですか?』

 

 心当たりというので思い出すのは、学園入学前に会ってネリネ様に告げられた言葉。

 

 今回、推薦状を出したお礼に、俺にしてほしいことというのであったが……。

 

 つまり、従者として俺を頼ることをネリネ様は前向きに考えているってことか?

 だからこそ、こうして専用部屋みたいなものを与えてくれる。

 

 この世界では、数少ない女性に気に入られるために媚びる男性が多いが……その結果、好待遇を受けられるのなら、そうする気持ちも分かるような気がした。

 

 けれど、俺は女の子たちに対して、期待しないスタンスのままでいる。

 この世界じゃ、期待した分だけ恐ろしい目に遭いそうだからな。

 

 って、部屋のことばかりに気を取られている場合じゃないっ。

 そもそも俺は、部屋のことであの礼拝堂で待つように言われていて……。

 

「あの、ネリネ様……? 俺、さっきまで寮父さんや関係者の誰かが来て、別の案内をしてくれるのを待っていたところだったんですけど……」

「そうですか」

 

 ネリネ様はそんな軽い相槌を打ちつつ、変わらぬ表情を浮かべて口を開いた。

 

「でも、あのまま待っていてもフェイ様のお部屋はなかったですよ?」

「えっ、そうなの!?」

 

 俺は思わず、裏返った声を上げる。

 いや、だってあの寮父さんに待つように言われて待っていたのに……?

 

 もしや、説明放棄ってやつ? 

 いやいや、そんなことをする人には見えなかったし……。

 何より、王立学園側も関わっているであろう寮制度である。

 理由もなしに、雑な対応はしないはず……。

 

「ですから、私がここに案内したのですよ。フェイ様を中途半端なところに住ませるわけにはいきませんからね」

 

 にこり、と柔らかに笑うネリネ様。

 

 ということは……ネリネ様は俺が訳あって寮に住めなくなっているどこかで知って、ここに住む提案をしてくれているってこと?

 

 じゃあ、ネリネ様って……めちゃくちゃ優しいじゃん!

 

 困っている俺を助けようとしてくれているってことだよなっ。

 

 でも、どうやって知ったんだろか?

 そもそも、俺なんかに推薦状を出したことの理由も分からないというのに……。

 

 いや、絶対に何か理由があるはず。

 ここは考えるべきだろ。

 

 俺はネリネ様に何かしたのだろうか? 

 もしかして、会うのは初めてじゃないのだろうか……?

 だとしたら、俺の子供の頃のことで……。

 

 思考が深みかけていた時だった。

 

 パンパン、と手を叩く音がしたことでそちらに意識が向く。

 視線も向けると、ネリネ様が微笑みを浮かべており……。

 

「さて、フェイ様。この部屋で暮らすとはいえ、ちゃんと過ごしやすいか確認しないと心配ですよね? まずは、ベッドに寝転がってみてはいかがでしょうか?」

「……え。まあ……そうですね」

  

 ここに住むと決めたわけでも、返事したわけでもないが……ネリネ様にそう促されては、断れるはずがない。

 

 俺はネリネ様に恐縮気味にぺこっと頭を下げてから、キングサイズベッドの上に寝そべった。

 

「あ〜〜、凄い。凄いふかふかだぁ〜〜……」

 

 全身の力が抜けて、あっという間に極楽気分。

 こんなの体験してしまったら、「寝れたらどこでもいいや」なんて考えが吹っ飛ぶ。

 

「ふふっ。ベッドの使い心地は良いみたいですね。そのまま仮眠を取っても良いのですよ? 目に温めたタオルを置くとよりリラックスできますよね〜」

「あ……」

 

 タオルで視界が塞がれて真っ暗になる。

 だけど、次の瞬間にはじんわりと温かさが広がっていき、さらに心地よい気分になる。

 

 もう、ここから身体を動かすことも、頭を働かせることもしたくなくなって……段々と眠くなってきて。

 

 ああ、ごちゃごちゃ考えるのはもう後にしよう。

 仮眠を取ってからでも、遅くはないはず。

 

「じゃあ、すいません……ちょっとだけ寝ます……」

「はい、おやすみなさい」

 

 ネリネ様にも許可は取ったし……。

 

 俺の意識は、そこで途絶えたのだった。

 

◆◆

 

「すぅ……すぅ……」

「良かった。また眠ってくれて」

 

 膝枕はできないものの、また静かに寝息を立てる彼を見つめることができた。

 

 そして……さっきほど、膝枕をしていた時にしていたことをもう1度、することにする。

 

 彼の前髪に指を伸ばして、かき上げる。

 そうして見えてくるのは、左眉のところにある1つの傷跡。

 

 普段は髪がかかっているし、よく見なければ、気づかないほど今は小さくなっていたけど……。

 

 ――私は、彼のことをよく知っている。

 

 この傷のことも、彼の姿も……忘れたことなど1度もない。

 

 けれど、彼の左眉の傷跡を見ると……さらに思いが溢れる。

 

 ()()()、私を庇ってくれて。

 私を守ってくれて。  

 私を助けてくれた。

 

 そんな恩人以上の男の子こそ、他の誰でもない目の前の彼であると再認識できるのだから。

 

 そして、ようやく再会できて同じ時間を過ごせる。

 

「貴方は、他の男とは違う。私のために一切の迷いなく助けてくれた。私の命を救ってくれた。……なのに、私にその恩は返させてくれなかった。だから……今度こそ絶対に離れない、逃さない、誰にも邪魔はさせないから」

 

 寝ている彼へ……そっと囁く。

 

「――一生、私の傍にいてもらうわ。卒業したら……夫として、ね?」

  

 今の私の表情は、笑顔とは呼べないのだろう。

 

 そんな甘くて、純粋無垢で、穏やかなものじゃない。

 

 けれどそれが、恋する乙女というものでしょう?

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