男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴 作:陽波ゆうい
紙に書かれていた内容は……1つ。
指定場所だけであった。
他には、差出人も何も用件もない。
けれど、担任の先生から直接その紙を渡されたことから俺へ向けたもので間違いない。
今すぐ目を通すようにということは……今すぐその場所に行けということ。
周りに生徒がいたこともあって、先生は多くは語らず、配慮したのだと時間が経って理解する。
何より、先生が絡んでいることから貴族の男からの理不尽に絡まれる的な厄介ごとではないと判断して……。
「……ここか。紙に書いてあった指定場所は」
俺は、その場所へと着いていた。
そこは……礼拝堂。
その中の『準備室』のプレートがある部屋だ。
明らかに人が来なさそうな、人目につかない場所でもある。
ここに、この紙を書いた人物。
俺に会うために呼び出した人物がいる。
ノックを数回してから、部屋の中に入ると……。
「失礼します……あっ」
すぐに、目が合った。
薄紫色の長髪がさらりと揺れ、人形のように整った容姿ながらも、優しい雰囲気を纏っている。
何よりも、頭には模様の入った白色のベールを被っている女の子。
「ゆ、ユーリ様っ!」
『聖女様候補』と呼ばれており、学園でもはや知らぬ人はいない人物。ユーリ様であった。
ユーリ様……ここに用事があるのか?
いや、さすがにこれは……偶然じゃないか。
こんな人気のない場所に理由もなく、彼女のような人物がいるわけがない。
だとしたら……。
「もう、フェイ君ったら……」
そんなユーリ様というと、むすっとした顔で……こちらへ近づいてきた。
そして……。
「2人っきりの時は、『様付けは禁止』っていう約束でしたよね。約束は破ってはいけませんよ? めっ……ですっ」
子供を優しく叱りつけるような口調ともに、ユーリ様の人差し指が俺の胸元をつんっ、と突いた。
そんな可愛らしい言動に、ドキッと心臓が跳ねる。
いやいや、ドキッとしている場合じゃないなっ。
ユーリ様は誰にでもこういう優しい対応なんだ。
俺は咳払いしてから……えと確か、敬語も禁止だったよな?
そんなことを思い出して改めて、言葉を掛ける。
「この紙というか、俺のこと呼び出したのって……ユーリさん、なの?」
「はい、わたしですよ」
ユーリ様は即答。ニコリと微笑んだ。
呼び出したのが知っている人だし、ユーリ様の笑顔は、柔らかくてほっとするが……。
どこか、逃げ道を塞がれるような圧もある気が。
いや、気のせいだな。
なんでそんな圧を俺に掛ける必要があるってことよっ。
「フェイ君の担当の先生には、場所を書いた紙の方を渡してもらうようお願いしていました。こんな遠回しに呼び出す形になってしまい申し訳ありません。けれど……校内放送で呼び出すわけにも、わたしが直接、フェイ君のクラスを訪れることも
そりゃそうだ。
ユーリ様が俺をこうして呼び出した。会っていたなんて……学園中の噂にでもなったら面倒どころの話じゃない済まない。
もちろん、ユーリ様もだし、俺なんかは男どもから嫉妬の嵐だろう。
なんたって、この世界は男女比3:1。
常に、女の子の取り合いなのだから。
その中でも、ユーリ様の人気は凄まじいだろうな。
「さて、時間がもったいないですね。昼食にしましょうか」
「ああ、うん。……うん?」
自然な流れで頷いてしまったが……ユーリ様と2人っきりで昼ごはんを食べることになっている?
「フェイ君? こちらの椅子にどうぞ」
俺が固まっている間に、ユーリ様が椅子を用意してくれた。
それも、椅子の距離がかなり近い。
お互いの肩とかぶつからないかなと思うぐらいだ。
「ユーリさん。俺、お弁当とか持ってきていないから急いで買ってきてもいいかな?」
数少ない女性側の誘いを断るのは、この世界では無礼なこととして教え込まれている。
なので、一緒に昼を食べるにしても……さすがの俺も何か物を食べたい。腹ペコであるのだ。
それに、昨日みたいにユーリ様の前で盛大に腹の虫を鳴らすわけには……。
「ああ、先にお伝えするべきでしたね。フェイ君が昼食を用意する必要はないですよ。また、料理を持ってきましたから」
「へっ?」
そう言いながら、ユーリ様は傍に置いていた大きなバスケットを何やらゴソゴソと……。
「本日は、コッペパンサンドと野菜たっぷりのポトフになります。はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
そうしてユーリ様から渡されたのは、紙に包まれたコッペパン2つと木皿に入ったポトフであった。
ポトフは湯気まで立っている。
わざわざ温めて持ってきたのかな?
ユーリ様が女子寮に住んでいるのなら、それも可能だろう。
料理も受け取り……俺はもう、この場から離れる理由がなくなった。
なので、もう食べる一択だ。
「い、いただきます!」
「はい、召し上がれ」
パンっ、と手を合わせて食べ始めた。
「うま……っ」
ついつい、声が漏れる。
今食べている縦に切れ目の入ったのコッペパンには、リーフレタスに牛モモ肉、ミニトマトが挟まれている。
もう1つは、ロースハムにチーズとカット野菜だ。
ボリュームもあり、何より美味い。
ガツガツ食べ進めていると、コッペパンの中身が飛び出そうになり、それも急いで食べる。
その間に、野菜たっぷりの熱々ポトフをはふはふ、と息を吐きながら食べる。
「んー! うまぁー! 最高っ」
「ふふっ」
俺の表情が緩みきっているのか、ユーリ様が手を口元に添えて笑っているのが見えた。
「フェイ君は、本当に美味しそうに食べますね」
「そりゃ……美味いからなっ」
褒め言葉が嬉しかったのかユーリ様は、満足そうに目を細めていた。
「昨日のサンドイッチも美味しかったけど、今日のコッペパンサンドやポトフは特に具材のこだわりが凄いというか……めちゃくちゃ美味いよっ」
つい幼稚な褒め方になってしまうが、それぐらい「美味い」というので頭がいっぱいなのだ。
てか、ユーリ様料理上手すぎる!
「料理は下ごしらえと味付けをちゃんとすることで決まりすからね」
「確かに!」
俺も実家じゃ、よく料理を作っていたからわかりみが深い。
「……そう。下ごしらえは特に。不安な芽は先に摘んでおかないと。初恋と同じですよ」
「んむ?」
「いえ、なんでもないですよ」
何か言ったような気がしたが、ユーリ様はというと首を横に振ってニコリと笑っていた。
じゃあ、いっか!
それに、俺をここに呼び出した理由とか諸々のことはご飯を食べた後に聞こうと思っているし。
「ふぅ……ご馳走様でした!」
勢い止まらず、完食。
これまた、ユーリ様が付けてくれた紙ナプキンで口を拭う。
「フェイ君」
「うん?」
食べ終わったタイミングを狙ったように、ユーリ様が声を掛けてきた。
しかし、その声は……さっきまでより少し低い。
そして、ユーリ様に笑顔は……なかった。
それでも、瞳は真っ直ぐ俺を捉えて逃がさない。
「ところで……あの女は、誰ですか?」