男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴 作:陽波ゆうい
「99、100! ふぅ……朝の素振りはここまでにしておくか」
木刀を止めて、大きく息を吐く。
ずっと続けてきた効果もあって、姿勢や木刀を振るう速度もかなり安定してきたな。
チートスキルがあるけど、油断大敵。
どんな能力でも基礎があってこそというわけで、鍛錬も欠かさない。
鍛えていたことで幼いながらにも、人助けとかもできたわけだし。
まあ、強くて困ることなんてないからな。
タオルと水の入った容器を取ったところで、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
といっても、この家にいるのは俺と……。
「おう、フェイ! 今日も朝から頑張っていて偉いなぁ!!」
畑仕事を終えた親父が帰ってきた。
手に持っている竹かごには、採れたて野菜がてんこ盛りである。
「ああ、親父も朝からご苦労さん」
「おうよっ。今日も採れたて野菜で美味い飯作ってやるからな〜!」
にしし、と歯を見せて笑う親父。
そんな屈託のない笑みを向けられると、自然とこちらの口角も上がるものだ。
俺はこの世界で、フェイ・オルクスという名前で生きている。
そして親父はというと、そこそこ人が多いこの村の領主だ。
ただ……俺たちは本当の親子ではない。
この人は、血のつながった実の父親ではない。
俺は転生した。
しかしながら、どこかの家庭で生まれ直したとかではなく……。
何故か、森の中で赤ん坊として置かれていたのだった。
そこを偶然通りがかった親父が拾って、ここまで育ててくれたってわけ。
当時は、「貞操逆転世界なら、過保護な美人ママじゃねーのかよぉ!」と思ったものだが……。
今思えば、この男女比3:1の世界だと女の子が生まれなかったら、ハズレなどと言われるのかなとと思った。
実際、そういう風潮のある国も存在すると聞く。
それもあって……親父に拾ってもらって、育ててもらえて本当に良かったと思っている。
「学園の入学試験もあと1週間後だよな! 頑張れよ、フェイ! 王立学園に入って……仕えるお嫁さん候補見つけてこい!」
「ははは……」
親父は声を弾ませるが、俺は苦笑を浮かべる。
前世では、どちらかと言えば、女性が男性に尽くす……みたいなことが多かったイメージ。
しかしながら、この世界は男女比3:1。
女性の方が数が少なく、守るべき存在でありつつ、立場も上である。
なんというか、女性全員が高嶺の花みたいな感じなのだ。
そのため、男たちはいかに自分にアピールポイントがあるか、尽くすことができるかなどと取り合いである。
そんな中で、田舎者で容姿も普通な俺がモテるなんてありえないよなぁー。
「そういや、フェイお前……昔、女の子と遊んでいたことあったよなぁ。あの子たちとはその後、何もないのかよー」
親父が何かを期待するような眼差しを向けてくるが……。
「ないよ。つーか、俺みたいな平凡なやつには、女の子たちは興味すら湧かないって」
「そうかぁ?」
「そうだ。たとえあったとしても、他の男に取られるのがオチだろ。うちの村でもあっただろう? 若い女の子が貴族の男たちに連れて行かれて、今じゃ豪華な暮らししてるとかさ」
「あー、そんなことあったなぁー。あの子に片思いしていた男も多かったよなぁー」
4人に1人は女の子がいるとしても、結局は取り合いだ。
その取り合いに参加せずとも、俺の敗北は決まったものだけど。
「ということで残念だが、俺は結婚とは無縁だよ親父」
「いや、やっぱり疑問だな。うちの息子はどこに出しても恥ずかしくないのによぉー」
「そういうのは、親バカって言うんだよ」
「あったりまえだろっ。俺は愛情たっぷりにお前を育ててきたんだからよっ」
「ちょっ、暑苦しい暑苦しいっ」
親父が俺の肩に手を回して、くっついてきた。
力仕事が多かったからか、背の高い親父の胸板はデカくて、普通に顔が沈む。
それを本来の貞操逆転世界なら、美女の巨乳のはずだったんだけどなぁ!
この世界じゃ、絶対に無理そうだ。
「まあ、お前には俺みたいになってほしくないからなぁ〜。俺が情けない男だから、すぐ見捨てられてよぉ〜」
「あー、はいはい。その話もう聞き飽きたからー」
親父は、過去に女性トラブルがあって、未婚で子供もいないのだ。
女性トラブルっていうか……。
まあ要約すれば、ヤッて捨てられたってやつだ。
身近な人の実例もあって、俺はもっと女の子にモテることを諦めていた。
そんな俺が学園に通う理由は……将来のためだ。
いい学園に入っておけば、仕事の幅も広がる。
チートスキルで危機を解決しながら、領地拡大、資金を増やす。
親父が老後も不自由なく暮らせるぐらいの恩返しできればいいなって思っている。
「じゃあ朝飯にすっか!」
「ああ」
ここは貞操逆転世界らしいが……この世界は、男女比3:1。
俺はというと、女の子の取り合いに参加する気はないので……。
うん、スローライフを送ることになりそうだな!
◆◆
(???side)
それは、豪華な一室での出来事。
「お嬢様! 何故、婚約を破談なさるのですかっ」
「この前も、その前も……面談はあんなにもいい雰囲気であったじゃありませんかっ」
執事服に身を包んだ男性が2人。
彼女に向かって、慌てふためいた声で問う。
「何故って……興味がないから。だから断るの」
彼女は、窓の外を眺めながらさらっと告げた。
その様子もいつものことなのか、執事たちは小さくため息をつくも、言葉は続ける。
「しかしながら、お嬢様……。貴方には、立場というものがあります。公爵位であるフィリスト家の唯一の女性であり、次期当主であり……。子孫繁栄のためにも、お嬢様が男性と婚約するのは必然となってきて……」
「だからこそ、他の男なんて必要ないのよ。私の夫は、もう決まっているのだから」
彼女は立ち上がり、窓の外をぼんやりと見つめた。
まるで、何かを思い出すように……。
「……今の私があるのは、あの日出会った
そんな彼女の呟きもいつものことなのか、執事たちは顔を顰めた。
「ああ……また、あの男の話ですか……」
「昔、お嬢様が魔物に襲われそうになり、それを救ったあの少年には、奥様や旦那様だけではなく、私たち使用人一同も深く感謝しております。その褒美として、フィリスト家の領地の1つの管理を任せられているところです。ですが……結婚の話はまた別です」
「ましてや、あの男の言った……
執事たちは言葉を続けようとして……止まった。
いや、反射的に言葉が出なくなったのだ。
「……」
何故なら、こちらを向いた彼女が……恐ろしい顔をしていたから。
「私と彼の関係を邪魔するような発言は許しません。いえ……言い方を変えましょう。私の未来の夫たる者に、そのような態度は改めた方が良いですよ? 私の夫となれば、立場は彼の方が上なのですからね」
続けて「下がりなさい」と冷たく放った彼女を見て、執事たちは大人しく去っていったのだった。
部屋で1人になった彼女は、机から1枚の写真を取り出す。
そこには、少女と少年が写っており……。
「やっと……やっと、会えますね、フェイ様。まずは