男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴 作:陽波ゆうい
合格通知からまた時は過ぎて……学園入学まであと1週間となった。
学園から届いた書類には全て目を通し、制服も成長期のことを考えて、少し大きめぐらいのサイズにした。
朝の日課の素振りだって続けているし、身体もすこぶる健康。
今のところ問題はない。
ただ……悩みはある。
「うーん、やっぱり寮に入るしかないよなぁ」
学園から送られてきた書類の中から、『男子寮』の案内用紙を見てぼやく。
この村から、王立学園までは片道だけで丸1日は掛かる。
試験を受けるだけならまだしも……これからはほぼ毎日、学園に通うのだ。
となれば……ここを出て、王都で暮らすしかない。
寮で生活する選択しかないのだ。
それは親父も察しているのか、最近やけに距離が近いし、飯の時も隣で食おうとするし、一緒にお風呂に入りたがる。
まあ、それはそれとして……。
思わず苦笑しながら、ため息をつく。
「やっぱり、寂しくなるよなぁ」
自然溢れるこの村で、長い時間を過ごしてきた。
最初の頃は、「男が少なくてチヤホヤされる貞操逆転世界じゃないなんて、クソだ! 返せ、俺のモテ期!」なんて、思ってたけど……今ではそんな考えも消えてしまった。
女の子たちにモテることも、取り合いに参加することも諦めているからっていうのもだけど……。
親父や村の人たちみんな優しくて、居心地が良すぎる。
ずっとここで暮らしたいと思っている。
逆に、王都ではどんなガラの悪い男たちが待っているのか怖いよなぁ。
何故、そう思うのかというと……王都は、特に女性が多いのだ。
つまりは、女性たちの取り合いが発生する。
男女比3:1だから余計にそうだ。
それこそ、小さい頃は、親父の仕事の関係でいろんな場所に行ったものだ。
親父が日中仕事で忙しい時、邪魔にならないように1人で家にいたが……。
退屈だったので、【無限魔力】を活かして、せっかくなら人助けしようとなった。
貞操逆転世界といえど、男の数が多いので、俺が1人で出歩いても問題はなかった。
まあ、この頃の俺は、男は魔力が少ないものとは知らなかったけど。
偶然であったが、数少ない女の子だって助けたこともあった。
『なら……もう少し大きくなったら結婚しよう』
そんなことを俺から言ったこともあった。
無礼にならないよう、俺なりに丁寧な言葉を選んだものだ。
でも、周りの男には……馬鹿にされたように笑われた。
特に、イケメンや金持ちっぽい男からはよく思わない顔をされたな。
今思えば、焦っていたからこそなのかな?
この村の男たちなら逆に、「男を見せたなぁ!」「いいぞ、フェイ!」とか盛り上がってくれそうなけどなぁ。
やっぱり、この村にいい人が多いんだよな。
「空間魔法を取得すれば、実家通いでもいけるんだろうけど」
王立学園では、色んな魔法が学べそうだし。
でもまあ、1年間ぐらいはこの村を離れた寮生活になることを覚悟しといたほうがいいな。
それと、授業料は免除になっても生活費は掛かってくる。
「王都でバイトをするのもアリだな……」
親父は「仕送りガンガンするぜ!」なんてノリでいるけど……。
村を出るのなら、自分のことできる限りやってみたい気もする。
なんなら、金を稼いで逆にこっちが仕送りするのも……。
「いずれにしろ、学園が始まるまであともう少し……。計画を立てないとな」
◆◆
翌日。
いつもの変わらぬ朝を迎えた。
素振りして朝ごはんを食べて……。
買い足したいものがあったので、店が並ぶエリアに足を伸ばしていた。
「ん?」
普段はのんびりした雰囲気なのだが、人が集まり妙に賑わっている。
「なんだ? バーゲンセールでもやっているのか?」
それなら、遅れをとるわけにはいかない!
駆け寄り、人混みの間からその注目の的を見てみると……。
「え……
思わず、言葉が漏れた。
視線の先にいたのは、まさかの女の子だった。
しかも、俺と同じ歳ぐらいの。
「珍しいこともあるんだなぁ」
この村には、女性はいるにはいるけれど、おばあちゃんと呼ばれる年齢層だ。
若い人はみんな、王都に行ってしまっている。
そんな中での、若い女の子の登場なのだ。
そりゃ、騒ぎになるよな。
しかも、男女比3:1で女性は数が少ないのだから。
女の子にモテることは諦めたとしても……。
やはり、男としてはどんな子なのかは気になるところ。
容姿をよく見る。
肩にかかるくらいの艶やかな銀髪に、切れ長のブルーの瞳。
目鼻立ちがくっきりとした顔立ちからは、クールな印象を受ける。
服を押し上げるほどの大きな胸に、ロングスカートから伸びるしなやかな脚。スタイルも良い。
身に纏っている服は、高級生地でできていると分かる。
どこをとっても見るものを釘付けにする、その容姿から普通ではない彼女であるが……もちろん、1人なわけがない。
「見せ物ではない。下がりたまえ!」
「道を開けろ! ワタシたちはこの村の領主に用がある!」
彼女を囲むようにいるのは、鎧に身を包んだ男や執事服の男たち。
全員、顔がいい。
もれなく、イケメンだ。
こりゃ、あれだ。
まるで乙女ゲームのヒロインだ。
イケメンから言い寄られまくりに違いない。
そんで乙女ゲームに例えるなら、俺は間違いなくモブだな。
「おお、フェイ。お前いいところに来たな」
「ん? いいところ?」
肉屋の店主に声をそう掛けられて、俺は首を傾げる。
「あの女の子……どうやらフィリスト家のご令嬢らしいぞ。周りの護衛が領主の親父さんに用事があるって言っているし、抜き打ちの領地訪問だと思う」
「ほううほう、フィリスト家ねぇ……」
聞き覚えのある名だ。
フィリスト家は、公爵家ってやつだ。
しかも、王家の次に権力を持つ一族として名高い。
とはいえ、田舎で暮らしていて、こういうのに疎そうな俺が何故、聞き覚えがあるかというと……。
ある日突然、この村の領主として親父を任命してきたのが、フィリスト家であるからだ。
今でもその理由は謎であるが、仕事熱心な親父だからこそ、上手くやっていけている。
俺も将来は、跡を継ぐつもりだし!
「つかフェイ、お前は早く家に戻らなくていいのか?」
「ああ、うん。親父に知らせないとだな」
「おう、急げよ。まあ、いきなりの訪問でも親父さんなら大丈夫だと思うがな」
くるりと方向転換。
今度は、家へと駆け出す。
「お茶ぐらい出して、邪魔にならないようにさっさと外に出るかなー」
なんて、呑気に呟きながら。
まさか……。
「やっと……やっと会えた」
その彼女に、熱い視線を送られているとは思いもよらない。