男女比3:1でも貞操逆転世界なのに「もう少し大きくなったら結婚しよう」でとうとう引き返せなくなった奴   作:陽波ゆうい

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第8話 幼馴染未満、恋人まだ、夫絶対

 公爵家である、フィリスト家から直々に領主としての役目を与えられたこともあり、村の奥にある親父と俺が住む木造2階建ての家は中々に広い。

 

 それこそ、リビングには公爵令嬢が率いた男たち十数人が入りきるぐらいには。

 

「突然の訪問、失礼いたします。わたくし、フィリスト家で経理を担当しております者で……」

「ワタシはお世話係の執事長で――」

「私は護衛の――」

 

「ご丁寧にどうも。私がこの村の領主を任されております……」

 

 向かい合わせに席につくと、フィリスト家の関係者たちと親父の会話が始まった。

 

 まずは自己紹介からだ。

 

 しかしながら、フィリスト家の現当主はいないようだ。

 

 まあ、田舎であるこの領地の訪問であれば、部下に任せるってものなのかな。

 てか長い間、文書だけのやり取りだったんだけどな。

 

 だけど……。

 

 最後に、中央に座る銀髪の美女が口を開いた。

 

「お初にお目にかかります。私は、ネリネ・フィリストと申します。公爵位であるフィリスト家当主の娘であり、次期当主の立場でもあります。以後、お見知りおきを」

 

 そう言って、柔らかに笑う彼女。

 

 女性優位の世の中でありながら、男相手にも対応は丁寧で、声もしっかり芯のあるもの。

 容姿と相まって聞き惚れるものがある。

 

 これだけ完璧美女なら、男たちからのアプローチが凄そうだよなぁ。

 

 いやもう、未来の夫候補がいるだろ。

 いないとおかしいレベルだろ。

 

 何せ、男女比3:1でただでさえ女性は取り合いになるのだから。

 

 と……いいタイミングだな。

 ずっと、部屋の端に控えていた俺は動くことにする。

 

「失礼します。こちら、紅茶でございます」

 

 会話が一旦途切れたタイミングを見計らい、テーブルに紅茶を置いていく。

 

 もちろん、来賓用の最高級の紅茶だ。

 といっても、怪しんで飲まないとは思うけど。

 

 大人たち……それも格上の公爵家の関係者が集まっているとあり、緊張する。

 

 紅茶を置き終わり、軽く一礼した時だった。

 

「ああ、君は部屋を……。こほんっ、()()()()もらえないだろうか?」

「は、はい。失礼いたします」

 

 用事があるのは、領主の親父だけ。

 

 予想はしていたことだが早速、この場を追い出されたな。

  

 それも部屋じゃなくて、外にわざわざ出て行けとは……。

 よほど、大事なことを話すのかな?

 

 まあ、気にしてもあれだし、親父は1人でも大丈夫だ。

   

「じゃあ、買い出しに戻るかとは……ならないな」

 

 今、あそこに行けば、顔馴染みの誰かに「どんな様子だった?」なんて、興奮気味に根掘り葉掘り聞かれると思うし。

 

 考えた結果……森の奥に流れる川に来ていた。

 

 ここは、俺のお気に入りの場所の1つである。

 

 木々に囲まれていて涼しく、川の水は冷たく、透き通っている。

 

 下流に行けば、魚たちがわんさかいる泉へと繋がっている。

 

 王都に行けば、こんな自然と触れ合うことも減るんだろうな。

 

 そう考えると、今のうちに遊ばないととなる。

 

「くうぅ、冷てえ!」

 

 ズボンの裾を膝のところまで折り曲げてから、川に足を入れる。

 

 ここにランニング後に飛び込むと、もっと最高なんだよなぁー。

 

「そうだ。昼飯は魚にしよう。野菜も入れてホイル焼きにしちゃおう!」

 

 なんてことも思いついた。

 

 会談が終わった後は、親父は疲れているだろうし、お腹も空いているだろう。

 

 今日は料理当番ではないが、俺が代わりに作ってあげよう。

 

 ということで、下流の方へ向かおうとした時だった。

 

「ここにいましたか――()()()()

「ん?」

 

 俺の名前が呼ばれた気がして、そちらの方に振り向く。

 

 てっきり、知り合いかと思ってたが……。

 

「え……なんで……」

 

 視線の先にいたのは……公爵令嬢の銀髪を靡かせた彼女であった。

 

 でも、親父と話しているじゃ……?

  

 本来、ここにいるはずのない彼女がいたことにも驚きだけど……。

 

 今、俺の名前を呼んだよな?

 

 あの場では、名前は名乗れなかったのに……どうして、俺の名前を知っているんだ?

 

◆◆

 

 一方、その頃。

 

 フェイの父親とフィリスト家の関係者たちの会談は続いていた。

 

「村の活性化、そして領主としての務めも順調なようですね」

「この村の者たちは皆、よく働いてくれます。私が領主としての務めを果たしているというよりも、彼らの頑張りのおかげですよ。それに、息子のフェイもいい子で、仕事をよく手伝ってくれていますし」

「そうですか。それは良いことですね」

 

 会話の内容も、徐々に雑談のようになってきた時。

 

 フェイの父親は、中央の空席に……視線を送る。

  

 それから、男たちの方を見て心配するように声を掛けた。

 

「つかぬことを伺いますが……お手洗いで席を立たれたご令嬢は大丈夫でしょうか?」

 

 それは、フェイが外に出て、すぐのタイミングのことだった。

 

『すみません。少しお花を摘みに行ってまいりますので』

『あ、ああ。リビングを出て右手に行かれてください』

 

 彼女はそうしてリビングを出た。

 

 それっきり……姿を見ていないのだ。

 

 普通であれば、公爵令嬢が……貴重な女性が長く席を外しているとなれば、何かあったのではないかと、慌てて様子を見に行くはずだ。

 

 だが、目の前の男たちは誰1人として動じる様子を見せない。

 

 まるで、最初から席を外すことが分かっていたかのような、そんな気すら感じさせて会談をそのまま続けていた。

 

「ああ、やはり気になりますよね。しかしながら、お嬢様はここへは戻ってきませんよ」

 

 主に話をしていた男がさらりと告げた。

 

「……な、なるほど。顔見せだけ、ということですか。いやはや、ご令嬢もとい、女性がこうして出向くことは珍しいことと思っておりましたが……。そういうことでしたか。ならば、こちらも安心です。話を続けましょう」

 

 フェイの父親は、彼女はこの村を出たのだと思った。

 村を出て、お屋敷に戻ったと。

 

「では、ここからは……()()に入ります」

「ほ、本題? 話すことはもう話したかと思いましたが……?」

 

 困惑する父親をよそに、男は言葉を続けた。

 

「お嬢様は……外堀を埋めるのが非常にお上手でして」

「そ、外堀……?」

「公爵家の領地の1つを任せておけば、周囲に怪しまれずに会う口実ができますでしょう?」

「……はぁ?」

  

 いきなり何を言い出して……。

 

 その言葉の意図を汲み取れず、父親が大きく首を傾げても、男は淡々と話を続けた。

 

「そして……学園のことも。貴方の息子は、本来であれば、別の学園でも問題なかったはず。決して、侮辱しているわけではありません。王立学園カルリーネという、名高い学園以外にも素晴らしい学園はいくつもあります。教育方針との相性というのもあるかと思います。それなのに……倍率が高くこの村からも遠い王立学園カルリーネを選んだ。最大の理由は……推薦状が来ていたからでしょう?」

「そ、そうですが……。しかし何故、フェイ宛に推薦状が来ていたことを? あれは他言無用で他に知っている者は……。って、まさか……っ」

「はい。お嬢様こそが王立学園カルリーネへの推薦状を出した人物なのですから」

 

 フェイの父親は段々と話の内容を察した。

 

 ある日突然、自分が領主に任命されたこと。

 ある日突然、フェイへ推薦状がきたこと。

 

 それら全てが偶然などではなく……。

 

「全ては、彼と会うため。再び、彼の傍にいるため。お嬢様は昔、彼に助けられた過去があります。そんな彼とお嬢様の関係は、幼馴染と呼ぶには過ごした時間は短すぎて、恋人と呼ぶには身分違い。それでも、お嬢様はずっと……」

 

 男はそこで一息つき。

 言葉を選ぶような間を開けた後……話す。

 

「つまり、本題は何かというと……ネリネお嬢様は近い将来、彼を夫として迎えるおつもりです。このことは、彼本人には知らせておりませんし、知らせる必要もないとのこと。しかしながら、親である貴方にだけは、あらかじめお伝えしておく必要があると……お嬢様から頼まれましてね」

「頼まれた……? じゃあ、もしかして彼女は、今……」

「はい。彼のところへ行っているかと。念願の……再会でもありますからね」

 

 父親は未だ混乱しつつも、窓の外……フェイがいるであろう場所に視線を送ったのだった。

 

 




【余談】
ネリネ。
花言葉:「また会う日を楽しみに」「忍耐」「箱入り娘」
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