しかし、彼が帰還を果たしたのは、魔界でもなく、彼の知っている世界でもなかった――
あれよあれよという間に、ウマ娘の世界に転送されてしまい、目覚めた先で待っていたのは、結果が出せない平凡なウマ娘・メロヴィクトだった。
しかも、ビクトリームはなぜかその体に憑依してしまう!?
ちょっと待ってください、ビクトリーム様?
その熱いメロン愛、どうしてここに来たんですか?
しかも、レースに挑戦するって――そんなの、どう考えても無理がありすぎる!
でも、そんなビクトリームが持ち込んだ異世界からの力で、メロヴィクトは少しずつ成長していく。
彼女は果たして、最後のチャンスを掴むことができるのか?
二人の「V」伝説は一体どこまで続くのか!?
果たして、メロンの力は勝利を引き寄せるのか、それとも――?
ふと思い付いたら書いていた話です。
それでは、どうぞお楽しみください!
魔界。
歓声。
爆発。
そして――帰還。
「ぬぅぅ……まぁたしてもぉお、帰還かぁぁいっ!」
ビクトリームは腕を組んだ。
誇り高きVの戦士。
尊厳の塊。
その足元が、ふっと消えた。
落下。
視界が白に染まる。
真っ白な空間。
「……ここはどこだってばよぉ?」
中央に、台座がひとつ。
意味はわからない。
だが、置けと言わんばかりの形。
ビクトリームは、手に持っていたものを見た。
丸い。緑。網目。
「……良いメロンだ」
理由はない。
何時も必ず持っていた。
大好きだ。
「……ふむ」
台座に、置く。
その瞬間。
台座から眩い光。
空間が震え、何かが“適合”した。
【光属性魂、認識】
【ウマソウル検知】
【接続開始】
「なぁぁあーにぃぃぃっ!?」
世界が裏返る。
目覚め
未勝利戦、7戦連続着外。
掲示板に名前が載ることすらない。
スタンドの端で、メロヴィクトは小さく息を吐いた。
「……また、ダメでした」
地方トレセン近くの小さなレース場。
観客もまばら。
風だけが、妙に大きい。
彼女の体操服は、まだ新品みたいに綺麗だった。
それはつまり――
砂にまみれるほど前へ出ていないということだ。
トレーナーは腕を組み、静かに言った。
「次の登録費は、俺が出す」
メロヴィクトは顔を上げた。
「ほ、本当ですか……?」
「ただし……」
その声は優しかったが、甘くはなかった。
「次で勝てなければ、転校だ。普通の学校へ行け。お前はまだ十五だ。まだ人生やり直しには間に合う」
言葉は静かだった。
だが、それは明確な線引きだった。
助けるためではない。
夢にしがみつかせないための、
最後の機会。
「……はい」
彼女はうつむいた。
悔しさよりも、申し訳なさが先に来る。
メロヴィクトは肩を落として1人、寮へと帰った。
その夜。
寮の食堂は既に閉まっていた。
財布の中は、ほぼ空。
仕方なく何時も通り、水だけ飲んで部屋へ戻ろうとしたとき
「こら」
背後から声がした。
振り返ると、先輩ウマ娘が立っていた。
地方ではそこそこ名の知れた実力者。
面倒見がいいことで有名だ。
「暗い顔してると、運まで逃げるぞ?」
そう言って、
笑顔で差し出されたのは――
丸く、網目模様のある緑色の果実。
「……これ、なんですか?」
「マスクメロンだよ」
そう言って彼女は笑った。
「今日、条件戦勝ったからな。奢りだ」
メロヴィクトは、生まれて初めて生でそれを見た。
「た、高いんじゃ……」
「うまいぞ?今切って来てやる」
包丁が入る。
寮の台所から4等分されたメロンを皿に盛った先輩が戻って来る。
甘い香りが、部屋に広がった。
「ほら、食べな?」
勧められるまま、スプーンで一口。
口に入れた瞬間。
メロヴィクトの世界が、止まった。
甘い。
冷たい。
やわらかい。
なにこれ。
なにこれ。
なにこれ。
――その瞬間だった。
メロヴィクトの身体の内部で、何かが弾けた。
垣間見る映像。
白い空間。
台座。
その上に置かれた、メロン。
光が走る。
甘い匂い。
やわらかい食感。
少女の舌が、初めてそれを知る。
メロヴィクトは、目を見開いた。
「……あま……」
その瞬間。
内部で、雷が走る。
「ぬぉおおおおおおおおお!!!!」
視界が白に染まる。
目から光が溢れた。
「キャッチマイハーーートッ!!!!」
寮の天井が軋む。
先輩ウマ娘が尻もちをつく。
「ちょ、ちょっと!?!?」
メロヴィクトは立ち上がり、
腕をvの字に広げた。
完全憑依。
声が違う。
姿勢が違う。
「私の名前はビクトリーム!
華麗なるビクトリーム様だ!!」
「メ、メロヴィクトちゃん?」
「言ってごらん?」
「え?何言って……」
「さぁ、恥ずかしがらずに!」
「ビ、ビクトリーム……様?」
「てめえを冥途に送る名前だーーーーー!!!」
「ひ、ひぃっ!」
「よーーーーーく覚えておくんだなーーーーー!!!」
「いや誰ですかーーーー!?」
騒ぎを聞き付けた寮母も駆けつけて、
寮は大混乱に陥った。
そして数秒後。
ぱたり。
メロヴィクトは崩れ落ちた。
畳。
六畳一間。
ちゃぶ台。
古いブラウン管テレビ。
白黒ノイズ。
「……ここ、どこですか?」
メロヴィクトは正座していた。
向かいに、尊大な存在が座っている。
腕組み。
金色の目。
その姿は今まで見た全ての生物と違っていた。
頭部から胴体まで、全てが白を基調としており、
形は「V」の字の形状をしており、非常にインパクトがある。
頭部だけで全高の約半分を占めるほどの大きさ。
顔の下部中央に配置され、
口角から顎にかけて鋭いラインが入っている。
腕はコードのように細く足は褐色で少し太め。
何より目を引くのは、両腕、両肩、股間の
合計5箇所に緑色の玉があり、薄らと発光していた。
「ふふふ……目覚めたか、我が肉体よ」
「に、肉体!?」
部屋に設置されたブラウン管テレビには、
何故か今の自分が倒れている姿が映っている。
「ここは貴様の精神領域。六畳。狭い。改善を要求する」
「要求しないでください!それに、ここは何処で、だ、誰なんですかあなた!」
「……ビクトリーム」
「偉大なる戦士」
「Vの象徴」
「メロンの守護者」
「最後おかしくないですか!?」
ビクトリームは咳払いした。
「些事だ」
メロヴィクトは頭を抱える。
「私、次のレースで勝てなきゃ、転校なんです!こんな訳分からない所で、のんびり出来ないんです!」
ビクトリームの目が細まる。
「ほう?」
「トレーナーさんが登録費を出してくれて……でも、勝てなきゃ終わりで……」
テレビに、過去の着外レースが映る。
最後方を走るメロヴィクト。
置いていかれる。
ビクトリームはふっと笑った。
「ならば勝てば良い。」
「簡単に言わないでください!」
「我がいる」
「だから誰なんですか!」
「Vだ!」
「意味がわからないです!」
ビクトリームは立ち上がる。
畳の上に、光のV字が描かれる。
「力は溜めよ」
「溜める?」
「チャーグルだ」
寂れた地方レース場。
観客は少ない。
誰も期待していない。
ゲートイン。
心臓が痛い。
(負けたら終わり)
緊張するメロヴィクトの脳裏に、先日の強烈な体験が浮かんだ。
六畳一間。
ビクトリームがちゃぶ台を叩く。
「溜めよ!」
「は、はい?」
「約束の言葉、チャーグルを5回唱えるのだ!」
今思い出してみても訳がわからない。
頭が混乱したまま、その時を迎える。
スタート。
所々塗装が剥げ、サビの浮いたゲートが開く。
一瞬の躊躇の後、慌てて足を前に出す。
集団から遅れて1人。
焦りながら追い付こうとひた走る。
出遅れ最後方。
そこで先日聞いたあの声が聞こえてきた。
「焦るな」
「で、でも離されてます!」
「前二頭は飛ばしすぎだ。左脚が乱れている。こぉれはぁ、残り二百で止まるぜぇ?」
異様な冷静さ。
「この馬場は重いからよぉ〜、削らせろ」
「で、でも……」
状況から来る焦り、
これ迄のレース経験からか、
どうしても不安が勝る。
だが、声はそんなメロヴィクトの心情を一切無視して叫ぶ。
「わぁがぁあ、肉体よぉ〜、今こそvの体勢で唱えよ!」
メロヴィクトの唇が無意識に動く。
「怒りの力(パワー)を右腕に……」
あの声が聞こえる。
「チャーグル……」
小さく言われた言葉を紡ぐ。
右腕が、淡く緑に光る。
「憎しみの力を左腕に……」
「チャーグル……」
「我が強さを右肩に……!」
「チャーグル……」
「誇り高き心を左肩に……!」
「チャーグル……」
「我が美しさを股間の紳……淑女に!!」
「な、何言わせてるんですか!!チャーグル!」
顔が真っ赤になる。
「Vの華麗な力を頂点に!!!」
「チャーグル……」
唱える度に身体の内部で、力が積み上がる。
メロヴィクトは、今までに感じたことの無い力を感じる。
光が蓄積する。
その光に気付いた一部の観客がざわつく。
第4コーナー。
前が仕掛けの準備の為に動き始める。
頭の中でビクトリームが立ち上がる気配を感じた。
「今だってばよぉ〜!」
「まだ早――」
「奴らは勝ちに行った」
ビクトリームは低く言う。
「我らは確実に勝つ、
ブルァアアアアアアア!!!」
叫びと共に足下の地面が爆ぜる。
風を切り裂く。
緑の軌跡がVを描く。
「チャーグル・イミスドン!」
光が収束。
「三段階目、斜角」
有り得ない軌道を描いて
コーナーを曲がる。
そして、加速。
「四段階目、収束」
最後の直線で前に居たウマ娘達を抜く。
「完全V」
そのまま後続を突き放してゴール。
音が消える。
呼吸だけが大きい。
脚が震えている。
ゴール板を抜けた瞬間、 視界が揺れた。
(……私、勝った?)
瞬き。
(……これ、私の力じゃ……)
気付けば……
六畳一間。
「違う」
「え?いつの間に?」
先程ゴールしたと思ったら、何故かまたビクトリームの所に居た。
「貴様の脚が地面を蹴ったのだ!」
何故か、私が勝った事を力説するビクトリーム様が、目の前に居た。
テレビに映るのは、必死な自分。
「我は溜め方を教えただけだ。走るのは常に貴様だ!」
状況も良く分からないまま、畳に、小さなVが光って居た。
初めてのウイニングライブを終え、
現実味のないまま佇む私の所へ、
トレーナーが歩いてくる。
表情は変わらない。
「……もう一戦だけ、見る」
それだけ。
そう短く言ったトレーナーが去って行く。
メロヴィクトは、その背中に向けて深く頭を下げた。
気が付くと、またまた何時もの六畳一間で
ビクトリームが腕を組んで目の前に居た。
「ふふふ。始まったな?」
「なにがですか?」
「Vの物語だ」
ちゃぶ台の上に、いつの間にかメロンが置かれていた。
淡く、光る。
その光は、確かにVの形をしていた。
ここまで読んで頂き、有り難うございました!
ビクトリームとメロヴィクトの不思議なコンビがどうなるのか、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
物語は結末まで書き終わっているので、次回もお楽しみに!
そしてもし宜しければ、感想や評価を頂けると、今後の創作活動の励みになります!
お気軽にコメントをくださいね。
それでは、また次回お会いしましょう!
※表示がずれていた場所があったので直しました。