今回は投稿開始を記念して連続して投稿です。
小さな地方トレセン学園のグラウンド。
荒れた土の上を、
冷たい風が吹き抜ける。
スタートラインもゴールラインもない。
あるのは硬く乾いた土と、ところどころ浮く砂だけ。
メロヴィクトは体操服の袖をまくり、
全身の筋肉を確かめるように、ゆっくりと走り出した。
見る者は誰もいない。
指示を出す者もいない。
あるのは頭の中の声――ビクトリームの指導だけだった。
「脚を上げろ。心でVを描け!」
その声に従い、
砂に足を取られながらも、ダッシュを繰り返す。
跳び、転び、立ち上がる。
砂が顔に飛び、服は乾いた汗で白く粉をふく。
肺が焼けるように痛むが、心の奥で小さな達成感が芽生えていた。
「昨日までの私なら、ここで止めていたかもしれない…」
砂の上で息を整えながら、ビクトリームの声がさらに響く。
「甘えるな!大地に魂を叩きつけろ!」
メロヴィクトは深呼吸をし、次の場所――
河川敷へ移動する。
小石混じりの土手、ぬかるむ草むら、水たまり。
泥の匂いと、草の湿った香り。
昭和の根性漫画さながらに、脚を取られ転ぶ。
泥にまみれるたび、身体の感覚が研ぎ澄まされていく。
「水たまりの跳ね返りも、Vの力だ!感じろ!」
泥水が跳ね、冷たく全身を打つ。
心がシャキッとする。
息は荒く、脚は限界に近い。
それでも体の芯には、確かな変化があった。
足が軽くなり、フォームが整い、
砂に足を取られる感覚すら、身体が学び対応する。
一度、足を滑らせて膝から転ぶ。
痛みで顔をしかめる。
だが、倒れたまま小さく呟く。
「立つ…私は立つ…Vを描く…!」
精神領域の六畳一間。
ビクトリームは腕組みで見守る。
畳の上には光る小さなV。
「今日の修行はここまでだ。次のレースでVを描ける力を溜めたぞ」
メロヴィクトは泥を落とし、河川敷の水で顔を洗う。
冷たい水が心まで引き締める。
私は手を拭いながら、小さく呟いた。
「やるしかない…」
頭の中で、ビクトリームの声が最後に低く響いた。
「次の舞台で、貴様のVを見せろ…!」
日が傾き、夕日が河川敷を赤く染める。
グラウンドには泥の跡だけが残る。
その跡に、未来の勝利への予感がわずかに光った。
転んで泥まみれになりながらも、メロヴィクトは小さく笑った。
「私は…変われるのかもしれない…!」
その夜、寮に戻る道すがら、
足元の泥を見つめ、心の中で静かに誓った。
「次も…絶対、勝ちます――!」
翌朝。
早朝の空気は冷たい。
地方トレセン学園の荒れたグラウンドに、
昨日の自分が残した足跡がうっすらと残っている。
メロヴィクトはその跡の前に立った。
「……ここで転んだんだ」
膝の擦り傷を指で触る。
まだ少し痛む。
でも、逃げたいとは思わなかった。
構える。
ゆっくりと踏み出す。
一歩。
土を踏んだ瞬間、
昨日との違いに気づく。
(沈まない……)
砂に足を取られない。
重心がぶれない。
二歩、三歩。
昨日よりも、
無駄なく前に出る。
ビクトリームの声が、低く響く。
「じっくりと行け。今は溜める時だ」
メロヴィクトは黙って走る。
呼吸を整え、腕を振る。
背筋を伸ばし、視線を落とさない。
派手な加速はない。
レースの時の様な光もない。
ただ、確実に“崩れない”。
それだけで、昨日とはまるで違う。
「……私、ちゃんと走れてる」
言葉にして初めて実感する。
転びかけた場所で、踏ん張る。
泥に足を取られそうになっても、体が自然に修正する。
六畳一間。
ちゃぶ台の前で、
ビクトリームは腕を組んでいる。
「基礎だ」
静かな声。
「泥の中で崩れぬ脚。それが我が肉体のVの土台となる」
メロヴィクトは最後の一本を走り切り、
膝に手をついて息を整える。
苦しい。
でも、絶望的ではない。
顔を上げる。
荒れたグラウンドは何も変わっていない。
変わったのは……自分の方だ。
「……次は、自分の意思で勝ちに行きます」
小さく呟く。
ビクトリームはそれを聞き、わずかに口元を上げた。
「その時にだけ、我を呼べ」
夕方の風が、土をさらう。
足跡はすぐに消える。
だが、身体に刻まれた感覚は消えない。
メロヴィクトは、もう一度スタート姿勢を取った。
叫ばない。
技も使わない。
ただ、前を向く。
Vは、まだ静かに溜まっている。
ここまで読んで頂き、有り難うございました!
これから完結まで毎日投稿となります。
物語は結末まで書き終わっているので、次回もお楽しみに!
そしてもし宜しければ、感想や評価を頂けると、今後の創作活動の励みになります!
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それでは、また次回お会いしましょう!