ウマ娘伝説:蒼焔の挑戦者   作:ネギ市場

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 今回は投稿開始を記念して連続して投稿です。
 



第2話:Vの魂は泥の中に

 

 小さな地方トレセン学園のグラウンド。    

 荒れた土の上を、

 冷たい風が吹き抜ける。

 スタートラインもゴールラインもない。
 

 あるのは硬く乾いた土と、ところどころ浮く砂だけ。

 

 メロヴィクトは体操服の袖をまくり、

 全身の筋肉を確かめるように、ゆっくりと走り出した。


 見る者は誰もいない。

 指示を出す者もいない。


 あるのは頭の中の声――ビクトリームの指導だけだった。

 

 「脚を上げろ。心でVを描け!」

 

 その声に従い、

 砂に足を取られながらも、ダッシュを繰り返す。


 跳び、転び、立ち上がる。

 砂が顔に飛び、服は乾いた汗で白く粉をふく。


 肺が焼けるように痛むが、心の奥で小さな達成感が芽生えていた。

 


 「昨日までの私なら、ここで止めていたかもしれない…」

 

 砂の上で息を整えながら、ビクトリームの声がさらに響く。

 


 「甘えるな!大地に魂を叩きつけろ!」

 

 メロヴィクトは深呼吸をし、次の場所――

 河川敷へ移動する。


 小石混じりの土手、ぬかるむ草むら、水たまり。

 泥の匂いと、草の湿った香り。


 昭和の根性漫画さながらに、脚を取られ転ぶ。

 泥にまみれるたび、身体の感覚が研ぎ澄まされていく。

 

 「水たまりの跳ね返りも、Vの力だ!感じろ!」

 

 泥水が跳ね、冷たく全身を打つ。

 心がシャキッとする。


 息は荒く、脚は限界に近い。

 それでも体の芯には、確かな変化があった。


 足が軽くなり、フォームが整い、

 砂に足を取られる感覚すら、身体が学び対応する。

 一度、足を滑らせて膝から転ぶ。


 痛みで顔をしかめる。

 だが、倒れたまま小さく呟く。

 


 「立つ…私は立つ…Vを描く…!」

 

 精神領域の六畳一間。

 ビクトリームは腕組みで見守る。


 畳の上には光る小さなV。

 


 「今日の修行はここまでだ。次のレースでVを描ける力を溜めたぞ」

 

 メロヴィクトは泥を落とし、河川敷の水で顔を洗う。
 

 冷たい水が心まで引き締める。

 私は手を拭いながら、小さく呟いた。

 


 「やるしかない…」

 

 頭の中で、ビクトリームの声が最後に低く響いた。

 


 「次の舞台で、貴様のVを見せろ…!」

 

 日が傾き、夕日が河川敷を赤く染める。


 グラウンドには泥の跡だけが残る。

 その跡に、未来の勝利への予感がわずかに光った。

 転んで泥まみれになりながらも、メロヴィクトは小さく笑った。

 


 「私は…変われるのかもしれない…!」

 

 その夜、寮に戻る道すがら、

 足元の泥を見つめ、心の中で静かに誓った。

 


 「次も…絶対、勝ちます――!」

 

 翌朝。

 早朝の空気は冷たい。


 地方トレセン学園の荒れたグラウンドに、

 昨日の自分が残した足跡がうっすらと残っている。

 メロヴィクトはその跡の前に立った。

 

 「……ここで転んだんだ」

 

 膝の擦り傷を指で触る。


 まだ少し痛む。

 でも、逃げたいとは思わなかった。

 構える。

 ゆっくりと踏み出す。

 一歩。

 土を踏んだ瞬間、

 昨日との違いに気づく。

 (沈まない……)

 砂に足を取られない。


 重心がぶれない。

 二歩、三歩。

 昨日よりも、

 無駄なく前に出る。

 ビクトリームの声が、低く響く。

 

 「じっくりと行け。今は溜める時だ」

 

 メロヴィクトは黙って走る。

 呼吸を整え、腕を振る。


 背筋を伸ばし、視線を落とさない。

 派手な加速はない。


 レースの時の様な光もない。

 ただ、確実に“崩れない”。

 それだけで、昨日とはまるで違う。

 

 「……私、ちゃんと走れてる」

 

 言葉にして初めて実感する。

 転びかけた場所で、踏ん張る。


 泥に足を取られそうになっても、体が自然に修正する。

 

 六畳一間。

 ちゃぶ台の前で、

 ビクトリームは腕を組んでいる。

 

 「基礎だ」

 

 静かな声。

 

 「泥の中で崩れぬ脚。それが我が肉体のVの土台となる」

 

 メロヴィクトは最後の一本を走り切り、

 膝に手をついて息を整える。

 苦しい。


 でも、絶望的ではない。

 顔を上げる。

 荒れたグラウンドは何も変わっていない。


 変わったのは……自分の方だ。

 

 「……次は、自分の意思で勝ちに行きます」

 

 小さく呟く。

 ビクトリームはそれを聞き、わずかに口元を上げた。

 

 「その時にだけ、我を呼べ」

 

 夕方の風が、土をさらう。

 足跡はすぐに消える。

 だが、身体に刻まれた感覚は消えない。

 メロヴィクトは、もう一度スタート姿勢を取った。

 叫ばない。
 

 技も使わない。

 ただ、前を向く。

 Vは、まだ静かに溜まっている。

 

 

 




 ここまで読んで頂き、有り難うございました!
 これから完結まで毎日投稿となります。
 物語は結末まで書き終わっているので、次回もお楽しみに!
 そしてもし宜しければ、感想や評価を頂けると、今後の創作活動の励みになります!
 お気軽にコメントをくださいね。
 それでは、また次回お会いしましょう!
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