「Et voici la sortie du virage… les couloirs s’ouvrent !
(さあ、コーナー出口です…進路が開いた!)」
隊列は横に広がり、オープンストレッチが機能。
内側にわずかな隙間が生まれ、観客席からざわめきが起きる。
「Numéro cinq, Melo Vict… il s’engage dans le couloir ouvert ! Et il brille ! Voilà le phénomène lumineux mystérieux dont tout le monde parle !
(3枠5番メロヴィクト…開いた進路に飛び込む! そして、光った! これが噂の謎の発光現象だ!)」
――メロヴィクトの胸奥で、蒼焔が小刻みに揺れる。
脚にはまだ余力が残り、体内に蓄えたチャーグルの力はすでに股間まで溜まっている。
「Vの華麗な力を頂点に!!!……チャーグル!」
全身を駆け巡る緑の蒼焔が爆発的にVの光を放つ。
胸の奥、股間まで蓄積されたチャーグルの力が、ついに解放される瞬間だ。
《チャーグル・イスミドン》
力が全身を駆け巡る。
足元の地面、大地その物を蹴り飛ばす。
その力に、メロヴィクトの口角が上がる。
「Melo Vict ! Regardez-le ! Il s’élance à toute vitesse, enveloppé de ce mystérieux éclat lumineux !
(メロヴィクト!謎の光と共に急加速!)」
――メロヴィクトは一気に加速。
9番シルヴァ・オーロラ、12番アルカディア・ウィング、16番エルドラ・ノクターンを置き去りにする。
「Lumière de Roi résiste mais… voilà Melo Vict qui la dépasse !
(10番ルミエール・ド・ロワが抵抗するも…メロヴィクトが交わした!)」
外からのルミエールを軽く制し、内の隙間を使って前に迫る。
前方にはただ一人――欧州王者アストラル・レギウス。
「Et maintenant, Astral Regius… le duel final approche !
(そして今、アストラル・レギウス…最後の決戦が迫る!)」
緑の光と蒼焔が空気を切り裂き、メロヴィクトの速度は瞬く間に王者に接近する。
残り533メートル。
ここからが、勝負の領域だ。
「Melo Vict réalise une remontée incroyable ! En un instant, elle rejoint Astral Regius, qui menait la course ! Est-ce là la puissance du roi du Japon !
(メロヴィクト凄まじい追い上げ!あっという間に先頭を行くアストラル・レギウスに並び掛けてくる!これが日本の王の力なのか!)」
ロンシャンレース場で、メロヴィクトの実力に驚愕すると共に大きな歓声が上がる。
その歓声を背に受けてメロヴィクトが先頭に並びかけた瞬間、アストラル・レギウスの瞳が鋭く光る。
胸奥で静かに揺れるプライドが、ついにその力を見せるきっかけとなった。
「Un roi d’une île de l’Est ose défier le roi d’Europe… qu’il connaisse sa place !(東方の島国の王如きが、欧州の王に楯突いて来るとは……身の程を弁えろ!)」
―― 《Astra Majesté(アストラ・マジェステ)》
風の流れがねじれ、空気が密度を増す。
直線にいるすべてのウマ娘の感覚が微妙に狂い、時間がわずかに遅く感じられる。
「Je ne laisserai personne me dépasser… pas aujourd’hui !
(誰にも私を越させはしない…今日だけは!)」
足元の芝が微かに震え、視界の奥の景色が歪む。
並んだメロヴィクトの影を確認した瞬間、アストラルは全身の力を集中させ、まるで空間ごと押し返すかのような加速を見せる。
「Astral Regius ne laisse personne égaler sa foulée ! Avec une vitesse phénoménale, il repousse Melo Vict qui tentait de le rejoindre ! Voilà la course d’un roi d’Europe ! Aucun rival ne peut l’atteindre, telle est la foulée du champion !
(アストラル・レギウス、並ばせない!凄まじい脚で並び掛けて来たメロヴィクトを突き放す!これが欧州王者の走り!何者も並ぶ事のない、王者の走りだ!)」
半バ身の差――観客席からは驚きの声が上がる。
蒼焔を胸に秘めたメロヴィクトでさえ、この瞬間、王者の圧倒的存在感を感じずにはいられない。
「Mais Melo Vict ne cède pas… elle reste à portée !
(しかしメロヴィクトは諦めない…王者にまだ届く距離だ!)」
アストラルの領域は、ただ速さを誇示するだけではない。
空気そのものを支配し、追う者のリズムを狂わせる――
それが王者の誇り、そして《レギウス・ドミニウム》の力。
残り300メートル――
勝負は、今、真の領域で動き出した。
残り300m。
アストラル・レギウスの《Astra Majesté》が炸裂し、風がねじれ、視界の奥が微かに歪む。
肩を並べて走るも、メロヴィクトは愕然としていた。
「――こんな……全力でも……届かない……」
胸奥で蒼焔は震え、体内の光は弱まり、消えかけている。
頭の中に、ビクトリームと出会う前の未勝利戦の日々が蘇る。
負け続け、涙を流し、悔しさに胸を震わせていたあの頃。
――あの頃に比べれば、今のこの状況は……凄すぎる。
心のどこかで「もう2着でもいい」と自分に言い聞かせようとする。 頑張った自分を肯定し、諦める理由を探す。
体内の蒼焔も、消えかけてしまう。
(…2着でもいいよね…私にしては頑張った方だよ……)
その時だった。
記憶の底から、はっきりとビクトリームの声が響いた。
「我が肉体よ、Vの字で待機せよ!」
条件反射のように、メロヴィクトは両腕をVの形に構える。
胸奥に眠っていた力が反応する。
思わず口からビクトリームの声が重なった。
「シン・チャーグル・イスミドン!」
緑の光が全身を駆け巡り、胸奥の蒼焔が蒼炎へと変わる。
世界が一瞬ゆっくりと動き、周囲の時間が引き伸ばされる。
「ブルァァアアアッ!」
無意識に出た涙と笑みが混ざった絶叫と共に、メロヴィクトは爆発的な加速を見せ、アストラル・レギウスと肩を並べる。
「Melo Vict ! Regardez-la ! Elle se hisse à la hauteur d’Astral Regius, éblouissante !
(メロヴィクト!驚異の加速でアストラル・レギウスに並びかけた!)」
アストラルも驚愕し、負けじと叫ぶ。
「Je ne peux pas la laisser passer !
(絶対に抜かせはしない!)」
残り50m。
肩を並べて走るメロヴィクトとアストラル・レギウス。
二人の全力がぶつかり合う。
蒼焔と緑の光が空気を切り裂き、観客の歓声が渦のように広がる。
「Numéro cinq et numéro sept… c’est une lutte sans merci !
(5番と7番…容赦なき戦いだ!)」
メロヴィクトの脚は悲鳴を上げる。
心拍は跳ね、体内の力が全て消耗されるのを感じる。
だが、胸奥に芽生えた蒼炎は揺るがない。
諦めの縁に立ちながらも、まだ走り続ける理由がある。
「Je ne peux pas abandonner… pas maintenant…
(今、諦めるわけにはいかない…)」
アストラル・レギウスもまた、王者としての誇りを胸に最後のギアを上げる。
両者の速度は限界を超え、並ぶ瞬間――
「Derniers mètres ! Le roi d’Europe et le roi venu des lointaines terres de l’Est s’affrontent sans merci ! Les trois déesses… à quel roi vont-elles accorder leur sourire ? Impossible de le savoir avant la ligne !
(残り僅か!欧州の王と遥か東方の王が鎬を削る!3女神はどちらの王に微笑むのか?これは最後までわかりません!)」
残り20m。
観客の声は歓喜と驚嘆で揺れる。
メロヴィクトは震える声で、自らの内に響くビクトリームの声を再び受け止めた。
《シン・チャーグル・イスミドン》の力が再び胸奥を満たし、蒼炎が全身を駆け抜ける。
メロヴィクトの足が弾ける。
アストラルの領域も完全には抑えきれない。
「Numéro cinq… elle prend l’avantage !
(5番…メロヴィクトが優勢に!)」
残り10m。
半馬身差――だが二人は全力を出し切る。
呼吸も止まるかのように、ゴールラインが迫る。
「Et c’est la ligne d’arrivée… incroyable !
(そしてゴールライン…信じられない!)」
静寂。
電光掲示板に結果が表示される。
1着 ⑤メロヴィクト
2着 ⑦アストラル・レギウス
差はわずかにクビ。
歓声が一斉に爆発する。
メロヴィクトは涙をこぼしながら笑い、胸奥で燃える蒼炎を感じる。 アストラル・レギウスも唇を引き結び、静かにその実力を認めるようにうなずく。
「Incroyable… Melo Vict… elle a défié le roi d’Europe et a gagné !
(信じられない…メロヴィクト…欧州の王に挑み、勝利した!)」
ロンシャンの芝の上、二人の全力が空気を震わせたまま、静かに余韻だけを残す。
ロンシャンの空に、再びファンファーレが鳴り響く。
重厚で、誇り高い旋律。
「La cérémonie de remise des prix va commencer !
(これより表彰式が始まります!)」
芝の中央、特設ステージへと導かれるメロヴィクト。
歓声はまだ鳴り止まない。
蒼焔はもう荒ぶっていない。
だが胸の奥で、確かに燃えている。
トレーナーは目を真っ赤にしながら、震える手で拍手を送っている。
涙は止まらない。
「……ありがとう……本当に……」
男泣きだった。
よくわからないまま表彰式に出ることになったメロヴィクトは、周囲で飛び交うわからない言葉に戸惑い挙動不審になっていた。
その後ろから、静かにアストラル・レギウスが歩いてくる。
敗者の表情ではない。
誇り高き王の顔。
メロヴィクトの隣に立ち、視線を向ける。
「Tu as brisé mon domaine…
(私の領域を破ったな……)」
一拍置き、わずかに口角を上げる。
「C’est digne d’un roi.
(王にふさわしい。)」
メロヴィクトは涙を拭いながら笑う。
「……何言ってるかわからないよ。」
言葉は少ない。
だが、アストラル・レギウスだけは満足そうに去って行った。
メロヴィクトのレースを、日本の応援団と共に観戦していたシンボリルドルフは立ち上がり、静かに拍手を送る。
「世界の頂点で、あの走りか……見事だ。」
隣の先輩ウマ娘たちも頷く。
「あれが、新しい王。」
「日本の誇りね……」
「自慢の後輩だよ!」
ルドルフは小さく笑う。
「いや――世界の王だ。」
優勝トロフィーが手渡される。
歓声が再び爆発する。
「Et la gagnante du Prix… Melo Vict !
(そして勝者は…メロヴィクト!)」
その瞬間、メロヴィクトは空を見上げる。
未勝利戦で泣いていたあの日。
諦めかけた今日。
ビクトリームの声。
すべてが、今ここに繋がっている。
小さく、しかし確かな声で呟く。
「私は……王だ。」
蒼焔が、静かに揺れた。
ロンシャンの空は澄み渡り、芝にはまだ二人の全力の跡が残っている。
欧州の王と、日本の王。
その激突は伝説となる。
クビ差。
だがその差は、歴史を塗り替えるには十分だった。