ロンシャンの歓声から、数か月。
メロヴィクトは静かにターフを去った。
世界の王。
日本総大将。
奇跡のウマ娘。
絶対王者。
その称号は、確かに彼女のものだった。
だが――
「……土、重いですね。」
軍手をはめ、長靴で畑を踏みしめながら彼女は呟く。
そこは日本の片隅。
広がるのは芝ではなく、黒土。
ゴール板の代わりに並ぶのは、丸々とした――メロン。
「農業は根気だ、メロヴィクトよ!」
隣で腕を組むのは、実体を持ったビクトリーム。
あの凱旋門賞の夜以降、なぜか彼は普通にそこに“いる”。
理由は誰も説明できない。
ただ一つ分かるのは――彼は手伝わない。
「光合成だ! 太陽よ! 我がVの力で照らせ!」
「やめてください。近所に迷惑です。それに、またUMAとして捕獲されますよ?」
「ブルァァアアアッ!あんな訳わかめな連中に捕まる私ではないわ!」
「……メロン置いた捕獲機であっさり捕まってたじゃないですか?あの時は見つからない様に助けるの大変だったんですよ?」
「ブルァァアアアッ!」
「困ったからって叫んで誤魔化さない!さあ、自分の食い扶持くらい、さっさと働いて下さいね?」
「むぅ、あちらで我がVを呼んでいる!」
「あ、こらっ!逃げるな!」
2人はそれなりに楽しく過ごしていた。
最初は順調だった。
畑は豊作。
糖度も高い。
評判も上々。
……だが。
「……あれ?」
収穫の朝。
昨日より、明らかにメロンが多い。
数え間違いかと思った。
だが次の日も、その次の日も。
増えている。
「ふはははは! 我が王の畑よ! Vの波動が満ちている!」
「関係ないです。」
否定はするが、心当たりはある。
疲れた夜、無意識に胸奥が熱を持つ。
蒼い光が、ほんのりと土に染みる。
翌朝、メロンが増えている。
どうやら。
チャーグルは、作物にも効くらしい。
結果。
供給過多。
価格暴落。
農園、赤字。
「……どうしてこうなるんでしょう?」
メロヴィクトは畑の端に座り込む。
遠くの山に、夕陽が沈みかけている。
王者の栄光も、世界の歓声も、今はただの思い出。
あるのは、増えすぎたメロンと請求書。
ビクトリームが隣に立つ。
「再び溜めるか?」
不敵に笑う。
「Vの力を集め、世界を再び――」
「溜めませんし、集めません。」
即答だった。
メロヴィクトが少しだけ、笑う。
「今回は、自力です。」
土を握る。
指の間からこぼれる、温かな粒。
「走って勝ったのも、自分の脚でしたから。」
ビクトリームは、ふっと目を細める。
「……ふふふ。」
珍しく、静かな声だった。
畑に風が吹く。
メロンの葉が揺れる。
ほんの少しだけ――
また、増えている。
「また……増えてますよね?」
「気のせいだ。」
「絶対増えてます。」
二人の影が、長く伸びる。
「はぁ、……やっぱり走るしかないですよねぇ。」
メロヴィクトは立ち上がる。
「賞金の出るマラソン大会とかないかなぁ?」
「ふふふ……再び溜めるか。」
「溜めません。今回は自力です。」
夕陽が沈む。
赤く染まる畑。
丸く実ったメロンが、静かに光を吸い込んでいる。
あの蒼焔とは違う、柔らかな育つ光。
メロンは光を育てる。
育った光はメロンを育てる。
王だった少女は今、土の上に立っている。
そしてきっと、また走る。
自分の脚で。
――完。
ここまででメロヴィクトの冒険が一つの終わりを迎え、彼女は新たな道を歩み始めました。
これからも彼女とビクトリームは賑やかにやっていく事でしょう。
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また次の物語でお会いできることを楽しみにしています。