ウマ娘伝説:蒼焔の挑戦者   作:ネギ市場

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 第4話ビクトリームの駄々っ子とメロン探しの旅

 

 朝靄の残るトレセンのグラウンドを、

 メロヴィクトは黙々と走っていた。

 地方所属とはいえ、

 レースに勝ち続けるためには日々の積み重ねしかない。

 息は上がり、脚も重い。

 それでも止まらない。

 ――その時だった。

 

 『我が肉体よ、緊急事態だ! Vの体勢で待機せよ!』

 

 唐突に頭の中へ響く尊大な声。

 メロヴィクトはつんのめりそうになりながら減速した。

 

 「え、えっと……トレーニング中なんですけど……?」

 

 周囲に人はいない。

 だが、彼女の脳内ではビクトリームがふんぞり返っていた。

 

 『……メロン。マイスイートハートが足りないんだってばよぉ〜!』

 「メロン……?」

 

 嫌な予感しかしない。

 

 『最近力を使い過ぎてメロン食べんと力が出ないんだってばよ〜〜!』

 

 どこかしおれた様子で胸を張るビクトリーム。

 その視線がゆっくりと下へ向かう。

 

 『見ろ! 私の股間の紳士もすっかりシオシオだぁ!』

 「へ、変なもの見せないで下さい!」

 

 メロヴィクトは、顔を真っ赤にして両手で頭を押さえた。

 もちろん他人には何も見えない。

 ただ彼女だけの地獄である。

 

 『股間の紳士の光が弱っているってばよぉ〜……』

 「えぇ……でも、それじゃレースに勝てないんじゃ……?」

 『当然だ! メロンがなければ我が光は最大出力にならん!』

 

 断言だった。

 根拠は皆無である。

 しかしその日の練習は、確かにどこか噛み合わなかった。

 心のどこかで「メロン不足」という謎ワードがちらつくせいだ。

 ――結局、メロヴィクトは折れた。

 

 

 午後。

 近くの商店街。

 

 「ど、どこかに50円くらいで売ってませんでしょうか……」

 

 果物屋の前で、彼女は本気で祈っていた。

 そこに鎮座する高級マスクメロン。

 完璧な網目。

 艶。

 王者の風格。

 

 『ほれ、これだ! 我が肉体よ、私にこれを献上するのだ!』

 

 値札を見る。

 桁が違う。

 

 「む、無理です! 今月の生活費が吹き飛んでも買えません!」

 『高すぎる!? これじゃ私の紳士も萎え萎えだってばよぉ〜!』

 

 股間を押さえて滂沱の涙で崩れ落ちるビクトリーム。

 周囲の主婦が怪訝な目でメロヴィクトを見ている。

 彼女は小声で「すみませんすみません」と呟きながら撤退した。

 

 

 ――代用品作戦。

 最初はピーマンだった。

 緑。

 つやつや。

 多分丸い。

 いけるのでは?

 脳内のビクトリームは一瞬うっとりした顔をした。

 

 『そうそうそう、この何時もと違うツヤツヤな深い緑色、とぉ〜ってもジューシーな見た目じゃないのよぉ……』

 

 生のピーマンを食べたことは無いが、

 メロヴィクトが意を決して齧る。

 次の瞬間。

 

 『んでわ……ブルァァアー! メロンじゃねえっ! 違う! 我はメロンが食べたいんだぁぁぁあー!!』

 「頭の中で大声で叫ばないで!あと苦い!生ピーマン苦い!」

 

 鼓膜がないのに痛い。

 メロヴィクトは鼓膜と味覚にダメージを受けて涙ぐむ。

 次はブロッコリー。

 丸い。緑。

 

 『これは見るからにメロンじゃねぇ! 我はフルーツを所望しているのだ!』

 

 キャベツ。

 

 『断面の水分量が違う!』

 

 キュウリ。

 

 『細い!最早色だけじゃねぇのよぉ!』

 

 メロヴィクトの財布は守られたが、精神は削られていく。

 ビクトリームもブチ切れ寸前で血管を浮かべプルプルしている。

 そんな2人の最後の砦は駄菓子屋だった。

 棚の隅に、ぷるんと光る小さなカップ。

 安っぽい袋入りの商品をバラして小売りして居ますと

 そう言わんばかりのそのフォルム。

 貼られた値札は……10円。

 

 「こ、これ……」

 

 商品にはメロン味の文字。

 彼女は両手で掲げた。

 

 「これ、メロン味です! 色も緑だし!」

 『これがメロン!? 我が肉体よ、これはどう考えてもゼリーであろう!』

 

 しかしメロヴィクトは押し切った。

 封を切って無理やり口へ。

 ぷるん。

 甘い。

 人工的なメロン香。

 訪れる沈黙。

 

 『……』

 「ど、どうですか?」

 

 ビクトリームは目を閉じた。

 

 『……まさか、これがメロンに近い……!?』

 「ですよね!?」

 『……安い割に、やるではないか、◯ん子ちゃんよ!』

 

 股間の紳士(脳内)が微妙に発光した。

 勝った。

 メロヴィクトは勝った。

 その後出走したレースは、

 ヒャッホイしたビクトリームの暴走で終わった。

 

 

 スタート。

 なんかいい感じ。

 差し。

 「ブルァァア!」

 ゴール。

 観客がわあっと沸く。

 ビクトリームは誇らしげだった。

 

 『やはりメロンこそ至高の存在だってばよぉ〜!』

 「ゼリーですけどね」

 

 帰り道。

 メロヴィクトはふと思いついた。

 

 「そうだ、レースの賞金でメロンを買いましょうよ!」

 

 ビクトリームの肩が跳ねた。

 

 『ぬぅわぁにぃぃぃっ? 次のレースで勝てば、メロンが手に入るだとぉ? 我が肉体よ、貴様は既に二回程レースに勝っておるではないか? ひょっとして、実はもう買えるのではないのか?』

 

 計算する。

 地方未勝利と条件戦の賞金。

 消耗品にかかるお金。

 食費。

 遠征費。

 レース登録費。

 

 「……あれ?」

 

 足りない。

 

 「これじゃ、メロンどころか……」

 

 ビクトリームの額に血管が浮いた。

 

 『何だってこんな安いんだってばよぉ〜! 地方レースの賞金じゃ、私のベリーメロンが買えないじゃないのよぉ〜!』

 

 地団駄。

 脳内で六畳一間が揺れる。

 その瞬間、

 メロヴィクトの目がきらりと光った。

 

 「じゃあ、中央のレースに出るとか?」

 『……ほう?』

 「賞金が高いらしい中央レースなら、メロンが買える筈です!」

 

 沈黙。

 そして……にやり。

 

 『そうだ。次こそ中央のレースで勝ち、ベリーメロンを手に入れるのだ!』

 

 夕焼けが二人を照らす。

 

 『これで次回のレースは勝てるな! メロンも手に入るし、私の力も完全だ!』

 「でも、中央のレースに勝つにはもっと強くならないと……」

 『心配するな、我が肉体よ。メロンを食べれば、どんなレースでも勝てる!』

 

 メロヴィクトは真顔になった。

 

 「いや、そのメロンを買う為に中央で勝たないといけないんですけど……」

 

 沈黙。

 ビクトリーム、固まる。

 そして小さく咳払い。

 

 『……つまり、強くなれということだな』

 「最初からそう言ってください」

 

 こうして二人の目標は決まった。

 中央で勝つ。

 ベリーメロンを買う。

 股間の紳士を完全復活させる。

 志は低いのか高いのか分からない。

 だが確かに、メロヴィクトの瞳には新たな光が宿っていた。

 それが王道なのかどうかはさておき――

 彼女たちの挑戦は、まだ始まったばかりである。

 




 ここまで読んで頂き、有り難うございました!
 これから完結まで毎日投稿となります。
 物語は結末まで書き終わっているので、次回もお楽しみに!
 そしてもし宜しければ、感想や評価を頂けると、今後の創作活動の励みになります!
 お気軽にコメントをくださいね。
 それでは、また次回お会いしましょう!
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