ウマ娘伝説:蒼焔の挑戦者   作:ネギ市場

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第6話「中央の壁」

 

 地方レース場。

 この日は地方重賞レースが開催される事もあり、

 スタンドは7割くらい埋まっていた。

 贔屓のウマ娘の物だろうか、

 横断幕が風に揺れている。

 

 レース場内に実況の声が弾む。

 「さあ注目はもちろんメロヴィクト! 前走は圧巻の差し切り勝ち!ここで勝って地方重賞連勝なるか?注目の一戦が始まります。」

 

 ゲートイン。

 あれだけ騒がしかった場内が水を打ったかのように静まり返る。

 スタート。

 出遅れない。


 でも無理に前に行かない。

 後方三番手。

 観客は知っている。

 ――あの形だ。

 

 「メロヴィクト、今回も差しの構えか!? しかし前はハイペース!」

 

 ビクトリームが静かに立つ。

 

 「焦るな。溜めよ」

 

 メロヴィクトの呼吸が整う。

 

 「怒りの力(パワー)を右腕に!!」

 「チャーグル!」

 

 観客席がざわつく。

 

 「出たぞ……」

 「なんか、光って……」

 

 「憎しみの力を左腕に!!」

 「チャーグル!」

 「我が強さを右肩に!!!」

 「チャーグル!」

 「誇り高き心を左肩に!!」

 「チャーグル!」

 「我が美しさを股間の紳……淑女に!!」

 「何で毎回間違えるのよ……チャーグル……」

 「Vの華麗な力を頂点に!!!」

 

 光が、静かに灯る。

 

 第3コーナー。

 隊列が崩れ始める。

 実況の声が上ずる。

 

 「さあメロヴィクト、まだ動かない! まだ後方だ!謎の発光も何時も通りだ!」

 

 ビクトリームが低く唸る。

 

 「密度は十分」

 

 スタンドが波打つ。

 「股間が光った!」


 「来るぞ……!」

 

 最終コーナー。

 メロヴィクトが顔を上げる。

 視界が狭まる。

 音が遠のく。

 (今――)

 

 「チャーグル・イミスドン!!」

 

 一気に光量が上がる。

 実況が叫ぶ。

 

 「来たァァァァァ!!」

 

 観客が立ち上がる。

 六畳の床に巨大なVが浮かぶ。

 背後から光の軌跡。

 芝が震える。

 

 「メロヴィクト加速!! とんでもない伸び!!」

 

 差が一気に詰まる。

 並ぶ間も無く抜き去る。

 観客席が沸き立つ。

 

 「速い!!」


 「何だあの脚!!」

 

 メロヴィクトはその勢いのままゴール。

 着差は三バ身差。

 場内がどよめきに包まれる。

 そして一瞬の静寂。

 次の瞬間、歓声が爆発した。

 

 「強すぎる!!」


 「完成してる!!」

 

 ビクトリームが腕を組む。

 

 「これが我が肉体の力だ」

 

 メロヴィクトも、息を整えながら小さく笑う。

 (負ける気がしない)

 

 

 地方重賞での連勝を重ねた次の朝。
 

 メロヴィクトは、六畳一間で浮かれていた。

 

 「やった……地方重賞、2連勝だ!」

 


 手を小さく握りしめ、胸の奥に勝利の余韻を感じる。

 ビクトリームも中央で小躍りし、両手を上げ肩を揺らす。

 

 「ふむ、光の軌跡は美しいぞ!ヒャッホイ!」


 「ふふ、……落ち着いてください、ビクトリーム様!メインディッシュがまだですよ!」

 

 そう言ってメロヴィクトが、

 嬉しそうにちゃぶ台に置いたメロンをアピールする。

 これは、昨日帰りにふと思い立ち、

 八百屋に立ち寄って手に入れたのは、

 緑と黄色が混ざった丸い果実

 ――メロンだ。


 香りをかぎ、手に持つだけで自然と笑みがこぼれる。

 

 「……やっと、メロンが買えました!」

 


 メロンを見たビクトリームは、

 嬉しさのあまり、くるくる回転する。

 

 「メロォォォォン!!ヒャッホイ!勝利の光だ、Vの果実だってばよぉ〜!!」
 「はいはい、落ち着いてください!」

 

 胸の高鳴り、

 脚の軽さ、

 そして何より、

 自分の努力が形になった実感。
 

 メロンの香りはほんの短い時間だが、

 心地よい甘さを伴い次の挑戦への原動力になる。

 しかし、この世話の外では中央挑戦という新たな壁が、

 人知れず静かに迫っていた。


 地方重賞の連勝で手応えを感じつつも、

 中央では相手も環境も格段に違う。

 ビクトリームはメロン越しに言う。

 

 「ふむ、ここまでの勝利は良き経験だ。しかし、この先戦うには、光だけでは足りぬ。肉体は貴様のもの、知恵は貸せるが、専門家の助力が必要だ」

 「専門家……ですか?」


 「うむ。中央で戦うには経験豊富なトレーナーの力を借りねば、我が力を最大化できぬ。私の助言はあくまで補助に過ぎぬ」

 

 メロヴィクトは少し肩を落とす。


 これまで通りの練習とビクトリームの力だけでは、

 中央挑戦は厳しい。


 自分の脚で確実にVを描くには、

 新たな支援者を見つける必要がある。

 

 「よし……頑張ろう、中央挑戦に向けて」

 


 ビクトリームが低く唸る。

 

 「力は貸せる、だが走りは貴様のもの――忘れるな」

 

 メロヴィクトは深く頷き、

 今の浮かれた気持ちと現実の壁、

 その両方を抱え、

 次の挑戦に向け静かに歩みを進めた。

 

 

 7月13日。
 夏の陽射しが照りつける 福島競馬場。

 今回メロヴィクトが挑むのは
、

 芝2000mの重賞――七夕賞。

 地方重賞連勝の勢いそのままに中央重賞初挑戦。

 久しぶりに実現した、実力が拮抗した中央対地方。


 その一戦を見ようと普段より多い観客。


 熱気の密度が、明らかに違う。

 

 「……行きます!」

 

 ゲートが開く。

 一斉に飛び出す中央の強者たち。


 脚音が重い。

 速い、鋭い。

 

 「怒りの力を右腕に!チャーグル!」


 「誇り高き心を左肩に!チャーグル!」

 

 光が立つ。

 実況が叫ぶ。

 

 「出ましたメロヴィクトの発光走法!地方重賞連勝の勢いそのまま、この中央でも光るか!」

 

 どよめきが起きる。

 しかし――第3コーナー。

 内で包まれる。


 外は早めのロングスパート。

 (速い……展開が違う……!)

 2000mの流れが重い。


 地方では溜められた区間で、中央勢は既に仕掛けている。

 

 「Vの華麗な力を頂点に!!チャーグル!!」

 

 光が強まる。

 だが脚が削られる。

 実況が興奮気味に叫ぶ。

 

 「中央勢が早くも動いた!メロヴィクト、対応できるか!?」

 

 直線。

 前が三枚壁。

 (前が塞がってる、このままじゃ抜けない……!)

 焦るメロヴィクトにビクトリームが叫ぶ。

 

 「焦るな!自分を信じろ!!」

 「チャーグル・イミスドン!!ブルァアアア!!」

 

 Vが鋭く立つ。

 観客が総立ちになる。

 

 「伸びた!!地方所属メロヴィクト、外から来た!!」

 

 ゴール板。

 胸差。

 掲示板――1着。

 歓声が遅れて爆発する。

 だが……

 メロヴィクトは息を荒げたまま、その場から動けない。

 (……きつい)

 地方では圧倒的だった。


 だが、中央では削り合いだった。

 六畳一間でビクトリームが静かに言う。

 

 「勝った。だが余裕は無い」

 「……はい」

 

 中央は、力だけではない。


 展開の読み、仕掛けの速さと駆け引き。

 光は通じた。


 だが、ギリギリだった。

 それが現実。

 

 「地方所属で七夕賞制覇!しかし勝ち方は辛勝……ですが、メロヴィクト選手、見事に中央重賞レース制覇です!」

 

 スタンドのざわめき。

 中央重賞を地方所属が勝った事実。


 それは波紋を呼ぶ。

 

 メロヴィクトはまだ知らない。

 勝利の裏で、
とある問題が動き始めていることを。

 メロヴィクトは、福島の空を見上げる。

 勝った。


 けれど――

 

 「……中央、甘くないです」

 

 未完成のVは、確かに立った。


 だが、その角度はまだ不安定だった。

 

 

 七夕賞を辛勝してから三日後。

 地方寮の共有スペースに、


 誰かが忘れて行ったのか派手な見出しの雑誌が、

 無造作に置かれていた。

 表紙には大きく踊る文字。

 

 「地方所属の怪光走法!裏に“制度の闇”か!?」

 

 発行元は中央の三流週刊誌。


 ゴシップ専門で、炎上で部数を稼ぐことで有名な媒体だ。

 メロヴィクトは何気なく手に取りページをめくる。

 そこには、事実と憶測を巧妙に混ぜた記事。

 

 要約すると

 

 ・メロヴィクト選手は、個別トレーナー契約を結んでいない
 

 ・現在の担当トレーナーは定年間近で、積極的指導をしていない
 

 ・地方URAでは“放任型育成”が横行している可能性
 

 ・賞金目当てで管理だけしているのでは?
 

 ・中央重賞勝利は「偶然の発光能力」によるものでは?

 

 (……え?)

 指先が止まる。

 さらに追い打ち。

 

 「実質的に“無所属状態”で中央重賞を勝利。」

 「これは制度の抜け穴ではないか?」

 「地方URAの歪んだ実情が露呈した形だ」

 

 何故か笑えるほど、話が膨らんでいる。

 六畳一間でビクトリームのこめかみが震える。

 

 「……戯言だ」

 

 だがメロヴィクトの胸はざわつく。

 (トレーナーさんが何もしてない、なんて……)

 確かに、今は個別契約ではない。


 監督するウマ娘が多く、付きっきりではない。

 だが、何もしていないわけではない。

 未勝利で苦しんでいた頃。
 

 登録費に悩んでいた頃。
 

 黙って背中を押してくれた。

 それを“賞金目当て”と書かれる。

 喉が詰まる。

 さらに記事は煽る。

 

 「中央で戦う資格はあるのか?」
 

 「トレーナー制度の再検討が必要では?」

 

 廊下の向こうで、ざわつく声。

 

 「見た?例の発光の子……」


 「制度グレーらしいよ」

 

 広がる。


 事実より早く、言葉は広がる。

 ビクトリームが低く言う。

 

 「光が強ければ、影も濃くなる」

 

 メロヴィクトは雑誌を閉じる。

 震えているのは怒りか、悔しさか。

 

 「……私は、ちゃんと走っただけです」

 

 七夕賞は辛勝だった。
 

 奇跡でも偶然でもない。

 脚を削られ、

 苦しみ、

 掴んだ勝利だ。

 だが中央の世界は、
勝った瞬間から“商品”になる。

 レースの壁。


 制度の壁。


 世論の壁。

 中央は、甘くない。

 メロヴィクトは深く息を吸う。

 

 「……勝ち続ければ、黙りますか?」

 

 ビクトリームは即答しない。

 

 「勝ち続ければ、黙る者もいる。だが吠える者も増える」

 

 静かな現実。

 窓の外の世界が昨日と違う気がした。

 




 ここまで読んで頂き、有り難うございました!
 これから完結まで毎日投稿となります。
 物語は結末まで書き終わっているので、次回もお楽しみに!
 そしてもし宜しければ、感想や評価を頂けると、今後の創作活動の励みになります!
 お気軽にコメントをくださいね。
 それでは、また次回お会いしましょう!
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