ウマ娘伝説:蒼焔の挑戦者   作:ネギ市場

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第7話 発光疑惑

 

 それは、レースよりも速く広がった。

 七夕賞での直線。


 外から伸びる一条の輝き。


 V字を描いた軌跡。

 その数秒は切り取られ、

 拡大され、

 「検証」と銘打たれた動画となり、瞬く間に拡散された。

 

 『発光走法の正体は?』
 

 『地方所属、制度の盲点か』
 

 『個別契約なしで中央制覇の謎』

 

 コメントは軽い。
 

 断定は重い。

 ――加工では?
 

 ――身体改造?
 

 ――トレーナーは何をしている。

 光は、いつのまにか疑念の形を与えられていた。

    

 

 URA地方支部の会議室は、白く乾いていた。

 

 「中央から正式な照会が来ています」

 

 役員は淡々としている。

 

 「個別契約を結ばないまま中央重賞を勝利した件。管理体制の確認を、とのことです」

 

 メロヴィクトのトレーナーは、小さくうなずいた。

 

 「……でしょうな」

 

 責められているわけではない。


 だが、信じられているわけでもない。

 短い沈黙のあと、彼は言った。

 

 「彼女は、真面目です」

 

 それだけだった。

 会議室を出る背中は、どこか静かだった。

 廊下の端に、聴取で呼ばれたメロヴィクトが立っている。

 目が合う。

 

 「気にするな。お前は胸を張って走ればいい。」

 

 すれ違いざまにそう言い、トレーナーは歩き去った。

 その背中が、いつもより遠く見えた。

    

 

 寮の共有スペース。

 空気が、少し違う。

 

 「見た?」
 

 「中央が動くらしいよ」

 

 声は小さいが、

 何故かこういう声ほど良く届く。

 テーブルの上のお菓子に手を伸ばしかけて、止まる。


 甘い香りが、今日は胸に落ちない。

    

 六畳一間。

 畳の匂い。


 ちゃぶ台の向こうで、ビクトリームが黙っている。

 

 「……私が光らなければ」

 

 メロヴィクトは視線を落としたまま言う。

 

 「違う」

 

 即答だったが、声は強くない。

 

 「迷惑、かけてます」

 

 トレーナーの背中が脳裏に浮かぶ。

 ビクトリームはしばらく何も言わなかった。

 

 「光は罪ではない」

 

 それは断言というより、願いに近かった。

    

 

 中央トレセン学園、生徒会室。

 大型のモニターに七夕賞の映像が映る。

 再生。

 停止。

 巻き戻し。

 画面中央で伸びる光。

 それを見つめているのは、

 “皇帝”と呼ばれるウマ娘のシンボリルドルフ。

 ルドルフは映像を止め、軌跡を目でなぞる。

 

 「……直線的だな」

 「会長、地方所属で個別契約もない状態です。制度上は問題なくとも、世論が」

 「才能を疑うのは容易い」

 

 静かに振り向く。

 

 「だが、理解するのは難しい」

 

 目線は再び映像へ。

 

 「これは偶然ではない。“意志”だ」

 

 彼女はそう断じた。

 ――かつて自分も、同じ目で見られた。

 強すぎるという理由で。


 理解できないという理由で。

 ただ、王であるというだけで。

 ルドルフは、わずかに目を伏せる。

 

 「視察を行う。悪いが準備を頼む。」

    

 

 夏の陽射しが強い日だった。

 地方トレセン学園のあまり手入れされていない芝は、

 初夏の熱を帯びている。

 黒塗りの車が止まり、空気が張りつめる。

 車の後部座席からルドルフが降り立つ。

 その存在だけで、周囲の温度が変わる。

 

 「走りを見せてほしい」

 

 予め連絡を受けて待っていたメロヴィクトはうなずき、走り出す。

 力は使わない。


 ただ、いつも通りの基礎練習。

 だが緊張からか、足取りは重い。
 

 フォームがわずかに崩れる。

 呼吸が浅い。

 ルドルフはじっと見つめている。

 

 「なぜ抑える?」

 「……え?」

 「それが、君の本来の走りか?」

 

 メロヴィクトは戸惑う。

 

 「ちょっと、何をおっしゃっているのか……」

 

 言葉がうまく出ない。

 ルドルフは一歩近づく。

 

 「恐れているのだな?」

 

 胸の奥が、わずかに痛む。

    

 「疑われぬ走りなど存在しない」

 

 ルドルフの声は、静かだ。

 

 「強ければ恐れられ、弱ければ切り捨てられる」

 

 視線がまっすぐ向けられる。

 

 「君は、なぜ走る?」

    

 六畳一間。

 ビクトリームが前に出る。

 

 「メロ……Vのためだ!」

 

 頭の中に響く声に、メロヴィクトが続く。

 

 「……自分の脚で勝つためです」

 

 緊張で挙動不審だったが、その言葉は揺れなかった。

    

 ルドルフは周囲へ向き直る。

 

 「彼女に不正はない」

 

 はっきりと告げる。

 

 「これは“領域”の発現だ」

 

 その言葉はすぐに発信された。

    

 

 だが夜。

 『生徒会長が擁護』
 

 『政治判断では?』
 

 『中央の保身か』

 炎は消えない。

 光は、今度は象徴として消費される。

    

 六畳一間。

 

 「庇われたくなかった」

 

 メロヴィクトはぽつりと言う。

 

 「守られたのではない。見抜かれたのだ」

 「でも……私はまだ未完成です」

 

 沈黙。

 

 「ならば、積み重ねるしかないだろう。」

 

 小さな光が、かすかに灯る。

 弱い。

 だが、確かに自分の意思で生まれた光だった。

    

 

 帰りの車中。

 ルドルフは窓の外を見つめる。

 

 「……あの光」

 

 ほんのわずかに、目を細める。

 

 「……懐かしい」

 

 それを理解してくれた者は少なかった。

 夏の空が、ゆっくりと流れていった。

 




 ここまで読んで頂き、有り難うございました!
 これから完結まで毎日投稿となります。
 物語は結末まで書き終わっているので、次回もお楽しみに!
 そしてもし宜しければ、感想や評価を頂けると、今後の創作活動の励みになります!
 お気軽にコメントをくださいね。
 それでは、また次回お会いしましょう!
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