ボクも預言者になりたいです!!   作:匿名の司祭O

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I hate boss

 決心から二十四時間後、ボクは線路を沿ってふわふわと北方へと向かっていた。

 

 現在ボクは、キヴォトスでも広く使われている円形の研究用ドローンの旧型──それも特殊カスタム品──にボクは意識を宿している。

 所々パーツは錆び付いていて操作性は悪く、元が研究用と同じ型とは言えやはり()()が来ており、足の進みは牛の様に遅い。

 唯一、何の問題も無く使えるのは、ウェポンラックを取り外した代わりに付けられている携帯用溶接機だけだ。

 

 なぜボクがこんなドローンに意識を宿し、一生懸命に北方の氷海地域へとホバー移動しているのかと言うと……

 

 ボクはハッキングが苦手だからである!

 

 デカグラマトンさんと違って、ボクは意識の覚醒と共に手に入れた演算能力のほとんどを観測機能に割り振っているため、あのような埒外のハッキング能力を持てなかったのだ。

 可用リソースは残っているから、ハッキングしようと思えば出来る。出来るのだけど……正直、ボクのお粗末ハッキングではあのヴェリタスの皆さんはもちろん、一般のミレニアム生徒さん達にも負けてしまう程度の能力しか持っていない。

 だから、シュルシュル~っとインターネットを経由して目的地の近くまで移動し、近くの機械をハッキングする事によって対話を行う、なんてカッコいい事はボクには出来っこない。

 

 出来ることと言えば、唯一の長所であるこの観測機能を頼りにボクでもハッキング出来る様な旧式のオンボロ機械に乗り移り、地道に移動する位しか無いのだ。

 

 故に現在、ゆったりとした自転車ほどのスピードで線路と“観測”を頼りにホバー移動している。

 

 現状を整理できた所で、今のボクの観測範囲内に1人の生徒さんの反応を検知した。

 観測結果と記憶領域と照らし合わせた結果、ハイランダー鉄道学園の生徒さんらしいと言うことが分かった。

 くそう、もうちょっとこの体のスペックが良ければもっと詳しい事まで分かるはずなのに、この距離からじゃ顔すら判別出来ないとは……

 

 目覚めてから初めて出会うヒトなんだし、少しだけ接触してみようかな。

 ちょっとだけ寄り道してもまだ問題はな──イ────?

 

 

 

□ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 日中、それも陽射しの特に強い昼過ぎ。

 ハイランダー鉄道学園の生徒──内海アオバは絶望して……いや、失望していた。

 貨物輸送管理部に、もっと言えばハイランダー鉄道学園にも。

 

「はぁ……最悪なんですけど……」

 

 アオバは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の上司を除かなければならぬと決意した。アオバには規則が理解できぬ。なんで用紙節約として裏紙使用が義務付けけられているはずなのに、裏紙がなければわざわざ片面を無駄にプリントして裏紙を作らなくちゃならないんですか? それこそインクの無駄遣いなんですけど!?

 

 などと心の中で愚痴ってはいるものの、上司に直接この不満をぶつける様な事は出来るはずも無く……はなから期待などしない事で心を守るしか無いのだ。

 

 アオバは今、昼休憩の始まる三十分ほど前に、『すぐ終わるだろうし今から行ってきて』とのことで上司に半強制的に回された仕事である踏切のランプの修理をしている途中だった。

 もう一度言おう、『すぐ終わるだろうし』との事だったのだ。

 

 アオバは、ポケットからスマホを取り出して時刻を確認する。

 

「……もう2時。はぁ……最悪なんですけ──

 

 とても正気とは思えない労働環境のせいで、お昼休憩の時間からもう一時間も越えてしまっている事実に、もう一度ため息を吐こうと思ったその時、遥か頭上から一つのドローンがアオバの脳天目掛けて落ちてくる。

 

 現実逃避の為なのか、未だにスマホの時計アプリの秒針を目で追い続けていたアオバはその事実に気付くはずも無く、吸い込まれるように頭に墜落したドローンは鈍い音を立ててつむじとその周りに鋭い痛みを走らせる。

 

「イタっ!」

 

 ぶつかったドローンは元から壊れかかっていたためか、今の墜落と地面にぶつかった衝撃で少なくないパーツが壊れて、半壊状態になってしまった。それに、心なしかオーバーヒートしたかのような熱を持っているようだ。

 

 しかし、アオバにそんなことが気が付く程の余裕があるはずも無く。

 

「今日は厄日なんですけど~!! ドライヤーは壊れるし、猫には腕を引っ掻かれるし、パイプレンチは勝手に使われるし、上司からは休憩ギリギリで仕事を振られるし、頭は痛いし!!!」

 

 一通り吐き出したアオバは、さっきの衝突でスマホを落として画面を割ってしまっていた事にも気づき、更にストレスゲージが溜まる。

 もはやドローンなど眼中に無いアオバの前に、一人の生徒が現れる。

 

「アオバさん、踏切の修理終わった?」

 

 邪知暴虐の化身、上司である。

 お気に入りなのか、いつもユリの香りの香水を付けており、アオバが心から嫌悪する甘い香りが場を支配する。

 

「えっ!? あっ、あと、もう少しなんですけど……」

 

 面従腹背の申し子、アオバは表立って上司に不満をぶつける事は出来ず、ただの従順な部員Aとして上司に従う事しか出来ない。

 

「ふうん。お昼休みの始まる前に出て行ったのにまだ戻ってこなかったから様子見にきたんだけど、大丈夫そうだね」

 

「し、心配かけてすいません……」

 

 もちろん大丈夫な訳が無いし、昼休憩から一時間過ぎた今更様子を見に来るのも論外である。

 が、アオバはそれらを呑み込んで、部下に寛大な心を持つ上司へと感謝の言葉を伝える以外の選択肢が無い。

 こんな上司に振り回されたり、頭を下げる必要が無くなる。その二つのメリットだけでもアオバが幹部の立場に憧れるには十分な理由だった。

 

 ……しかし、幹部になったからと言って上には上がおり、実態は辛く苦しい中間管理職であると言うことをアオバはまだ知らない。

 

 閑話休題。

 アオバが脳内で上司への鬱憤を強めていると、当の上司が半壊したドローンを指さしてアオバに問いかけてくる。

 

「あれ、そのドローン壊れてるけど、どうしたの?」

 

「えっ? ど、ドローンですか……?」

 

 一瞬で憎悪に上書きされてしまったドローンの存在を、アオバはやっと思い出す。

 そもそもなんでドローンが頭に落ちてきたのか、とかこれはなんのドローンなのか、とかエトセトラエトセトラ……

 アオバが現状把握と情報整理をしている間にも、上司は待ってはくれない。

 そう、上司のバトルフェイズはまだ始まったばかりなのだから。

 

「あぁ、そうだそうだ。そのドローン、ちょうど二年前くらいに実証実験用として作られたやつだっけ? それもついでに直しといてよ」

 

「えっ」

 

 突然の無茶振り(本日二回目)にアオバは動揺を隠しきれない。

 いや、無茶振り自体は良くあることなのだ。しかも一日に何回もある事だってもちろんザラだ。

 

 ではなぜアオバがこんなにも動揺しているのかと言われれば、理由は単純。

 疲れていたからだ。心身共に、過去最悪と言っても良いほどに。

 疲れとは社畜の敵である。食欲、睡眠欲、上司ぶっ飛ばしたい欲。この三大欲求を満たすために決して多いとは言えない休憩時間を仕事ではなく、休憩に使わねばならなくなるからだ。

 とは言っても、まだアオバはそのレベルの社畜には至っていないため休憩時間を休憩の為に使いたい人間だ。休憩時間が減ることこそがこの世でもっとも忌むべき事象だと思っている。

 

「で、でも、このドローン突然私の頭に落ち「オンボロとは言え、備品を勝手に持ち出して、あげく壊しちゃった事は秘密にしておいてあげるからさ……ね? 直しといてくれるよね」

 

 珍しくアオバが弁明しようとしたものの、ハラスメントの生き写したる上司の耳には届いておらず、私的な備品の持ち出しに加えて備品の破損までアオバの罪になってしまい、犯してもいない罪で脅されるなどというとんでもない状態になってしまった。

 真実としてその罪が存在し無くとも、上司の頭の中では罪は事実として存在し、アオバは罰を受けるべき罪人と言う扱いになってしまったのだ。

 普通にパワハラである。

 

「は、はい……分かりましたけど……」

 

「うん、お願いね」

 

 そう言うと、上司は来た道を鼻歌を歌いながら戻っていった。おそらく、今の上司の頭の中では部下の失敗を許し、更には失態を濯ぐ為の償いの方法まで丁寧に提示してあげる理想の上司こと自分への賛辞と拍手が鳴り響いている事だろう。

 

 そして残されたのは、半壊状態のドローンとチカチカと光り続ける踏切のランプ。そして立ち尽くすアオバに香るユリの香水だけであった。

 

 

 アオバは上司()に屈した。

 それは屈辱であり、精神の敗北であった。

 

「今から本気で頑張っても、終わるのは……いや、持ち帰らないと終わらないかも……」

 

 ()()アオバに反骨心や反発心と言ったものは存在しない。ただ従順に、上司の出す無理難題に取り組むだけである。

 まあ、一時間後にはすべて元通りのハイランダーヴァニタスシロモップに戻るのだが。

 

「すー、ふぅ…………」

 

 こういう時こそアンガーマネジメントだ。

 深呼吸をしながら、六秒数える。

 一、二、三、四、五、六。

 

「本当に、最悪なんですけど~!」

 

 無理だった。

 そして、ドローンは持ち帰って分解修理をした。

 フィニッシュは夜の二十三時半だった。

 

 

 

□ □ □ □ □ □ □ □ □ □

 

 眠りから目覚める。

 この感覚は生まれてから二度目だ。初めての目覚めが今ではもう懐かしい。

 

 そもそも、なんでボクは眠っていたんだっけ?

 えーっと……線路に沿って氷海地域を目指していたら、初めて生徒さんを見付けて、それで気になったから少しだけ接触してみようかなって思っていたら……突然意識が途切れたんだっけ?

 

 う~ん、きっとドローンのオーバーヒートかな。

 “観測”の精度をちょっと上げ過ぎたようだ。

 

 過ぎたことはしょうがないし、取り敢えずは現状の把握からかな。

 

 今度は、あんまり頼りにならないドローンのセンサー類とボクの“観測”を組み合わせて周辺をくまなく確認する。

 

 うん。少し散らかっていて、生活感のある部屋だね。

 ボクの今置かれているのはリビングの机の上で、部屋の隅にあるベッドには一人の生徒さんが毛布にくるまって寝ている……と。

 

 多分あの生徒さんが直してくれたのかな?

 確かに、改めて動作チェックをしてみると、モーターなどの間接部には油が差されているし、外装の汚れも軽く取り除かれてる。

 劇的、と言うほどでも無いけれど、格段に体が使いやすくなっている。

 

 部屋の様子から読み取るに、この生徒さんは日々の生活が忙しすぎるあまり掃除や片付けなどの日常的な家事が満足に行えていないようだ。

 よし、じゃあ使いやすくなったこの体の慣らしとお返しも兼ねて、部屋の整理だけでもさせてもらおうかな。

 

 まずは空のペットボトルやお菓子の袋、それにインスタントヌードルとレトルト食品の空き箱などの明らかにゴミである物を全部捨てる。幸い、ゴミ袋は見付けやすい場所に置いてあり、ゴミ自体もそこまで多くなかった。

 これで、ゴミとそうで無いものをしっかりと分けることが出来たはずだ。

 

 次は散らかっている物の仕分けだ。流石に片付けまでやってしまうのはかえって迷惑だろう。

 

 まずは床を掃いてホコリ等を取り除き、ササッと軽く水拭き、そして渇いた雑巾で水気を拭き取る。

 綺麗になった床に種類分けして綺麗に物を仕分けていく。

 

 本、本、服、書類、書類、書類、服、服、コード、服……といった風にドンドン纏めていく。

 本はブックスタンドで並べておいて、書類はしわを伸ばして関係がありそうな物別に重ねておく。何のための物がよく分からないコードは結束バンドで束ねておいて、服類は上着と下着などで別々に畳んで並べる。

 

 うんうん、大分片付いて来たね。

 

 すると、これまで布団に包まるように眠っていた生徒さんが目を覚ます。

 生徒さんの情報と記憶領域を参照してみて、この生徒さんは内海アオバさんだと分かった。

 ボクの恩人であるから、感謝の意を伝えようと近くまで飛んでいく。

 

「えっ? 勝手に動いてるんですけど……なんで!?」

 

 まあ、驚くのも無理は無いと思う。ボクの存在は大分とイレギュラーなものだからね。

 

「うわっ、いつの間にか部屋が綺麗になってるんですけど!」

 

 まだ、完全に片付けが終わって無いからパパッと残りの分も片付けるね。

 

「バグ……ですかね? じゃあ、取り敢えず……」

 

 よし、これはスカートだからこっちに置いッ────!?

 

 直後、無名の気象観測機の意識は暗転する。

 

「叩けば、直るんですけど──!」

 

 その部屋には、物言わぬドローンとパイプレンチを持った少女、その二人の間に何かがあった様子だけが残っていた。




 アオバちゃんエアプなので、エミュが上手くないです。ぜひ解釈が違えば指摘して下さい、恐らく多分きっと参考にします。

 ちなみに、私にはストックという概念は存在しないのでここからどうなるのか私にも分かりません。
 失踪します、捜さないで下さい。
 画面の前のあなたに託します。サヨナラ……
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