転生99回目のエルフと転生1回目の少女は、のんびり暮らしたい!   作:daisukenote3397

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第5話

ここは、ウエス国の森の中。

 

この世界――エルドランド大陸は、

大国《エルドランド=サウザン同盟国》を中心に、

ウエス国・ノーザリア国・イストリア国といった小国が点在している。

 

千年ほど前。

魔物の神――魔神が討たれてから、

世界には強大な魔物はほとんど姿を消した。

 

それ以来、

人々は「平和」を当たり前のものとして生きている。

 

「キー!」

「待ちなさい! モック!」

 

今日もリリィとモックは、小屋の周りを元気いっぱいに駆け回っていた。

それを、いつも通りフィーネはロッキングチェアに揺られながら、半分眠った目で見守っている。

 

平和で、のどかな一日のはずだった。

 

――その音が、すべてを破った。

 

ドカーーーーン!

 

大地を揺らすような爆発音。

フィーネは、跳ね起きた。

 

町の方角を見ると、黒い煙が空へと立ち上っている。

 

「……これは、嫌な予感がするわね」

 

そう呟くと、フィーネはすぐに裏の倉庫へ向かい、薬袋をいくつも手に取った。

 

「フィーネ、あの煙は何かしら?」

「分からないけど……町で何か起きたのは確かね」

「爆発、怖いッキー……」

 

モックも、枝の体を小さく震わせている。

 

「二人とも。出かける用意をしておきなさい」

 

その声に、リリィとモックはすぐに頷いた。

 

――その時。

 

森の奥から、煤にまみれた男が現れた。

 

「オルガ!」

「フィーネ……すまない。町まで来てくれないか」

 

肩で息をし、相当急いで走ってきた様子だ。

 

「何があったの?」

「町の火薬庫が爆発した」

 

ウエス国の町は、宝石の産出で成り立っている。

山から宝石を掘り出すために使う爆薬――

その保管庫が、何らかの原因で爆発したのだという。

 

「……分かったわ」

 

フィーネ、リリィ、モックはオルガと共に町へ向かった。

 

 

森を抜け、町が見えた瞬間。

空気が変わった。

 

火薬庫と思しき建物からは、まだ火の手が上がり、

黒煙が重く立ち込めている。

 

「フィーネ、けが人がいるんだ」

「わかったわ。傷薬と、呼吸を楽にする薬を持ってきてる」

 

オルガは薬を受け取り、けが人のもとへ駆けていった。

 

「フィーネ……」

リリィが、そっと背中に隠れる。

 

「あなたたちは、ここにいなさい。私は火を消してくる」

 

二人が頷いたのを確認し、フィーネは火薬庫へ向かった。

 

熱気が、肌を焼く。

近づくだけで息が詰まりそうだ。

 

フィーネは両手を掲げ、淡々と詠唱する。

 

「――水よ、出でよ。ウォーター」

 

空から大量の水が降り注ぎ、

炎は徐々に勢いを失い、やがて完全に鎮火した。

 

「……?」

 

その瞬間、

ほんのわずかだが――

人為的な魔力の痕跡を、フィーネは感じ取った。

 

(……気のせい、ね)

 

違和感は、すぐに霧散した。

 

「フィーネ! 本当に助かったよ!」

町人たちが、次々と礼を言う。

 

「これで、一安心ね」

 

フィーネは、リリィとモックのもとへ戻った。

 

「薬のおかげで、けが人も大丈夫そうだ」

「それは良かったわ」

 

オルガは少し躊躇ってから、言った。

 

「……お礼と言っては何だけど、一緒に食事でもどうかな。奢るよ」

 

フィーネは一瞬考え、リリィとモックを見る。

 

「この二人も一緒なら」

「もちろんだよ」

 

 

オルガの家は、石造りの二階建てだった。

年季は入っているが、どこか落ち着く家だ。

 

「前にも来たけど、いいお宅ね」

「そう言われると嬉しいな」

 

オルガは照れながら、紅茶を淹れる。

 

「我が家特製の紅茶だよ」

「……悔しいけど、美味しいのよね」

 

「うん! 美味しい!」

「この町の水は美味しいキー」

 

「……こんなふうに、他人と関わるのも久しぶりね」

 

フィーネの呟きは、小さかった。

 

 

夕方。

町の酒場《ブルークリスタル》。

 

賑やかな喧騒、笑い声、食器の音。

それらは、確かに“平和”そのものだった。

 

「今日は、じゃんじゃん食べて飲んでね!」

「ありがとう」

 

乾杯の音が響く。

 

「フィーネって、お母さんみたいね」

「親子じゃないわよ!」

 

――結局。

 

酔いつぶれたオルガを、

フィーネが背負って家まで送り届けることになった。

 

「……重いわね」

 

それでも、

彼女の足取りは、どこか軽かった。

 

 

森へ戻る帰り道。

 

夜風が、静かに頬を撫でる。

 

(……平和、ね)

 

だが、

昼に感じた、あの微かな違和感が――

胸の奥で、まだ消えずに残っていた。

 

「のんびりしてるだけじゃ……だめ、か」

 

フィーネは、そう呟いた。

 

それはまだ、

決意にも、覚悟にもならない。

 

けれど確かに――

世界が、再び動き出す前触れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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