これは――偶然居合わせた名探偵の孫に、謎を暴かれてしまった犯人たちの綿密な計画と実行の記録である。  (金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿 より引用)

*pixivにも投稿しています。

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 この作品は“金田一少年の事件簿”の小説『鬼火島殺人事件』の“犯人たちの事件簿”風二次創作になります。そのため同作品の重大なネタバレや一部セリフなどの引用があります。また、作品の性質上未読の方には不親切な仕様となっていますのでご注意ください。
 犯人簿本家で同作品が書かれたら消します。


犯人簿『鬼火島殺人事件』

 海老沢が考えたこのトリックを使って、あいつを自殺へと追い詰めた奴らに復讐しよう。それが海老沢を裏切ってしまった俺にできる唯一の償いなんだ。

 

 

 ◆

 

 

 鬼火島殺人事件……!!

 

 アルバイトで予備校の夏期合宿の雑用係として『鬼火島』を訪れた金田一一と七瀬美雪。

 掃除洗濯、食事の支度に草むしりと、悪戦苦闘しながらも楽しく日々が過ぎていくはずだったが……合宿恒例の肝試しに参加したことから『午前零時の悪霊』による恐ろしい殺人事件に巻き込まれることになる。

 

 

 

 

 

 不動総合病院。

 夜間電灯だけが灯る薄暗い廊下は、昼間とは打って変わり人の気配がなく静まり返っている。

 重く冷たい鉄の扉を前に、俺――椎名真木男はこみ上げてくる緊張に手を震わせながら、指先で冷たい鍵の感触を確かめた。

 

(開かなかったらどうしよう……)

 

 ぶっちゃけノープランである。

 ここで吸入用の麻酔薬と内視鏡――ファイバースコープを手に入れなければ、俺が考えているトリックは実行できない。

 こっそり取ったゴム粘土の型に合わせて、丹念にヤスリで削りながら作ったけど……これ、ホントにあってる? なんとか鍵っぽい見た目にはなっているが正直自信はない。

 合い鍵を自作するなど明らかに男子高校生の一般的なスキルを超えている。それっぽい形になっただけでも褒めてほしいくらいだ。

 息を呑み、鍵穴へと差し込んだ手製の合い鍵をゆっくりひねる。

 

 ガチャッ。

 

 金属音とともに呆気なく開いた扉に身体が震えた。ヤバい。一発で成功するとは、控えめに言って天才では?

 緊張で高まった心臓の鼓動が、まるで自分を讃える拍手のように感じられる。

 ここにいるのはもう、いままでの俺じゃない。冷徹な殺人者――『午前零時の悪霊』だ!

 

 

 

 殺人の舞台は房総沖の孤島・不知火島――別名『鬼火島』。

 ここでは毎年、俺たちの通う予備校・不動ヒポクラテス・セミナーの夏期合宿が行われている。船でしか行き来ができず、電話も非常用のもの以外ないという、まさにクローズドサークルに使ってくれと言わんばかりのロケーションである。

 人を殺そうと思ったときにこんな絶好の機会が与えられたら、ねぇ? 使うしかないわ、こんなの。

 ターゲットは三人。森村圭一、加藤賢太郎、そして……俺自身だ。

 まず、森村を殺す。別に加藤でもいいけど、まあ、とりあえず森村かな、うん。

 そのあとは一旦俺も殺されたように偽装し、残る加藤を殺す。で、それから本当に死ぬ。犯人は『午前零時の悪霊』っていうことにしてもらおう。警察にはちょっと申し訳ないが、未解決事件入りが狙いだ。

 やっぱり、家族にはなるべく迷惑かけたくないし。

 

 と、いうことで。

 

 受講生たちが泊まる栄光寮西館の合宿名物『午前零時の肝試し』で使いたいトリックがあるので、俺は予定通り森村圭一をサクッと絞殺することにした。

 殺害の手順はとっても簡単。

 誰にも見られないように森村の部屋を訪ねる。無警戒の森村がこちらに背を向けた瞬間、隠し持っていた革紐で絞めあげる。全身の力をその手に込めれば、ほらできた!

 

(……殺せた!)

 

 いじめっ子を正面から――いや、実際は後ろから襲いかかったけど、気持ち的な意味では“真っ向から”――絞め殺すって、人間やる気になればたいていのことはできるもんだなと、なんだか感慨深い。

 さあ、次の仕事に取り掛かろう。

 呼吸を整えて、森村の死体を誰にも見られないように、今度は俺の部屋へと運ばなくては。

 

「……って、重っ!?」

 

 死体ってこんなに重いの?? 想像以上なんですけど!?

 そりゃあ、俺は細身のいじめられっ子だが、森村だって特別体格がいいわけじゃないのに。

 

(加藤にしなくてよかった)

 

 とりあえずで第一のターゲットを森村に決めたが、あの大柄固太り野郎の加藤にしていたら俺の力では動かせなかったかもしれない。

 森村なら、なんとかギリギリできそう。

 実際に引きずって動かしてみると慌てるほどではなかった。

 そっと廊下の様子を窺う。

 ほかの受講生たちは自分の勉強に集中しているはずだが、この廊下の端から端を死体を引きずって移動しなければならないという事実に、俺はゴクリとつばを飲み込んだ。あれ? わりと無理ゲーでは?

 

(誰かがトイレに行こうと出てきたら……終わる!)

 

 来たときの何倍にも感じる廊下を、ずりずりと死体を引きずって運ぶ。

 誰も部屋から出てくるな、という俺の必死な祈りが通じたのかはわからないが、奇跡的に誰にも見られることなく森村を金木犀(じぶん)の部屋へと運ぶことができた。

 

「……ふぅ」

 

 さて、肝試しが始まる前にまだしなければならないことがある。

 雰囲気を出すために入院着を着て、手術用のゴム手袋をつける。頑張って運んできた森村の首には革紐の代わりに太いロープを巻きつける。

 あとは、この森村の死体を肝試しの参加者に見てもらわなければいけないのだが、このまま俺の部屋で死体を見つけてもらっては困る。

 そこで、活躍するのがこの“ファイバースコープ”だ。テッテレー。

 肝試しに使われる『百日紅の間』の入り口ドアの鍵穴と、隣の『金木犀の間』へとつながる内扉の鍵穴を病院からこっそり持ち出したファイバースコープでつなぐと……あら不思議、『百日紅の間』を覗いたはずなのに、『金木犀の間』が覗けちゃう!

 

「おお! ホントに見える!!」

 

 誰かと共有したいこの感動。海老沢、このトリックすげぇよ!

 受講生たちに見られないように気をつけながら、鍵穴から『百日紅の間』を覗けば、計画通り『金木犀の間』のなかが見えた。思ったほど違和感などもない。

 これでなんとか午前零時までにすべての準備を終えることができたと、自室に戻り肝試しが始まるのを待つ。

 

(……来た!)

 

 廊下からガヤガヤと人の声が聞こえてきた。

 ちなみに、俺は事前に不参加を伝えている。誰にも言えないが、これからすることを考えると、むしろ脅かし役としての参加かもしれない。なんだかドキドキしてきた。

 

(タイミングが大事だ)

 

 森村が死んでいるのを見てもらわなければいけない。ひとりだと見間違いですまされそうなので、できればふたり以上。ただ、ファイバースコープを回収する時間も考えると、あまりモタモタはしていられない。

 

 午前零時になった。

 

 例年通りなら新米バイトが一番手として鍵穴を覗いているはずだ。今回なら金田一だろう。

 俺の姿を見られては台無しなので、位置取りに気をつけながら、森村へと巻きつけたロープをずるずるっ、と引き上げていく。

 鍵穴を覗いている金田一には首を吊るされた森村の姿が見えている……はずなのだが。おかしいな、なんのリアクションもない。これ、ホントに誰か見てる?

 

「うわあああ――ッ!」

 

 扉越しに聞こえた悲鳴に、思わずガッツポーズ。ヨシッ!

 そのあと、加藤の悲鳴も聞こえてくる。オーケー、オーケー、完璧。

 

(と、グズグズしちゃいられない)

 

 『百日紅の間』とつながる内扉の鍵穴越しにファイバースコープを手繰り寄せた。鍵穴を通らないファイバースコープの部分は予定通り切断する。これだとトリックの証拠が部屋に残ってしまうが、そこは内扉の鍵穴の下にごみ箱を事前に移動させておいたので無問題。

 

 ゴリゴリ……ゴリ……。ドスン。

 

 あ、あれ、意外と大きな音がしたな。大丈夫かな……まあ、こんな怪奇現象めいた密室なんて普通は考えつかないし大丈夫だろう。

 ミステリー小説だと都合よく探偵が登場するが、現実に探偵なんてそうそういるもんじゃない。ちょっと神経が過敏になっているのだと、自分を納得させる。

 そのあとは、窓の外に漂う鬼火に驚いて、廊下に飛び出してしまうというハプニングがあったが、幸い計画に支障を来さずにすんだ。マジ、あの鬼火はなんだったんだ。幽霊?

 

 森村の死体は、みんなが寝静まってから、ロープで吊って窓からそっと下に降ろした。あらかじめ用意しておいた一輪車に乗せて隠し場所に運ぶ。とってもスムーズ。ビバ、文明の利器!

 

(一時的に隠せたらそれでいいんだけど……)

 

 木の葉を集めるための穴に放り込んで、ビニールシートで覆って石をのせ、湿った木の葉をかけた。想像より雑な感じがするな……いけるか?

 今夜の出来事はまだ“誰かのいたずら”“見間違い”ですまされている。

 ほかにいい隠し場所もないし、変に凝るよりはいいだろう。

 それにこの夜の間に電話の中継アンテナをヘシ折って、 中継装置そのものも壊しておくので、万が一死体が見つかってしまってもリカバリーは利くはず。

 ただ、第二の事件が発覚するまでは見つからないに越したことはないので、とりあえずトリックの神様的なものに祈っておいた。

 

 

 

 

 

 一夜明けて、森村圭一の所在がわからないと、受講生たちは騒然となっていた。

 太田綾が悪ふざけはよせと、金田一に半泣きで詰め寄っている。

 食堂に集まった面々をそっと窺うが、鍵穴を通して森村の死体を見た金田一と加藤のふたり以外は、さすがに森村が本当に死んだとまでは考えていないようだ。

 綾の態度に業を煮やしたのか、金田一が大声で自分が見た光景を説明する。

 

「――俺は昨日の午前零時に、鍵穴の奥で森村圭一ってヒトの死体を見たんだ!」

 

 続けられたわりと詳細な情報に一同は啞然として立ちすくんでいる。

 犯人である俺自身も、あの短い時間でほぼすべてを見て記憶している金田一に若干引いた。“死体だ! うわあぁ!!”くらいの反応でよかったのに。なんでそんなに見てるの? 怖っ!

 内心慄いているところに落とされる爆弾。

 

「はじめちゃん、こういう事件では頼りになるんですよ」

 

 金田一一、まさかの名探偵の孫。

 え、殺人事件に探偵が巻き込まれるとかフィクションのなかだけじゃないの? そんな偶然ある??

 

(いや、違う。名探偵じゃなくて、その孫なんだ)

 

 孫なら大丈夫だろう。

 推理力が遺伝するわけじゃないし。頼りになると言っても警察よろしく捜査したりはしないだろうし。

 日本一の名探偵の名前に興奮する富永純矢とそれを怒鳴りつける加藤で、いよいよ場の収拾がつかなくなってきたところで、俺は絞り出すような叫び声をあげた。

 全員の視線が一斉に自分へと向けられるのを感じる。

 俺のキャラ的にかなり恥ずかしいが、ここで『午前零時の悪霊』をアピールしておかないといけないのだ。

 もうちょっと印象付けた方がいいかと、俺はさらに喚きながら、ヒステリックにテーブルを平手で叩く。さすがに見かねたのか大野が止めてくれた。

 ドン引きな周囲の雰囲気を感じながら、すかさず「次は、俺だよ……俺が殺されるんだよ、きっと……」「――海老沢に! 海老沢邦明に!」と怯える演技。これは迫真! ただの高校生にしておくにはもったいないレベル。

 怒った加藤に突き飛ばされてしまったが、『悪霊』が海老沢であることを構わず説明する。悪霊に殺されるのは三人なのだと。

 そのあと加藤がどこまでもクズな自己弁明をしてくれたので、俺の殺意はさらに固まった。ありがとう、加藤。やっぱりお前は絶対殺すわ。

 

 

 

 ゴタゴタしながらも始まった講義を、気分が悪いと言って途中で抜け出す。

 午後十五時半過ぎ。

 俺は第二の事件を起こすため、礼拝堂へと来ていた。

 

(……高い)

 

 見上げる礼拝堂の天井は、床からざっと六メートルはある。

 知らずため息が漏れた。これから、あの高さまで自分の身体を持ち上げなければならないとはなんたる苦行。

 時間的に誰かに見られる心配がない分、昨夜よりはマシだろうと自分を慰めた。

 

(ええっと……ハシゴは隠したし、ドーランと口紅もつけてるな)

 

 一度上に登ってしまうと取り返しがつかないので、事前にしておくべきことを念入りに確認する。よし、大丈夫。

 これから俺は首吊り死体(仮)にならないといけないのだ。

 といっても、その方法自体はさほど難しくない。

 まずは、上半身にしっかりロープを結びつける。これは実際に体重を支えるものなので、見えないように服の下にしなければならない。

 首には首吊りに見えるようにダミーのロープを巻いておく。

 身体に結んだロープを天井近くの梁に引っ掛け、そのロープを引っ張りながら自分の身体を持ち上げる。

 

(お、重い……っ!)

 

 床から半分くらいのところで息があがる。

 ちょっとでもラクに登れるようにと滑りのいいナイロンのロープを使ったが、気を抜くと手が滑ってしまいそうでヒヤヒヤする。

 汗をかきつつ、なんとか梁の近くまで上がることができた。

 あとはロープを固定して宙吊りになり、身体を吊っているロープをすべて後ろにまわし、縛ったロープが見えないように上着を着たら、はい簡単……って、できるか!!

 支えもない状態で宙吊りになってロープを固定するってどういうことだよ!?

 そんな特殊な訓練積んでないから。ほら、もう疲れで手がプルプルしてるんですけど。

 

(無理!!)

 

 そんなこんなで、肩で息をしながらも俺がなんとかすべての工作を終えたのは午後十五時五十分だった。わりと好タイム。

 

「暇だな」

 

 講義が終わるのは午後十六時半なので、見つけてもらえるのはそれ以降になるだろう。

 じっと待つこと一時間と少し。

 素肌に巻いたロープが自重で喰い込む痛みに涙目になる俺の前に現れたのは――やはりというか、名探偵の孫だった。

 偽装がバレないように目は瞑っているので姿は見えないが、礼拝堂のドアを開けた金田一は、一緒にいた幼馴染みの少女に人を呼びに行くよう指示し、ひとりなかへと入ってきた。

 じっと俺を見つめる視線に戦慄する。

 

(コイツ、悲鳴一つあげない……だ、と!?)

 

 そんなにまじまじと死体を見ることってある? こっちは一応それっぽく死体のフリしてるんですけど??

 死体を見つけたら悲鳴をあげて出ていくのがマナーじゃないの?

 無言でこちらを見ている金田一に冷汗を禁じ得ない。こっそり息をしているのがバレそうな気がしてくる。

 俺の心配を他所に、いつの間にか礼拝堂には島にいる全員が集まっていた。

 彼らの話に聞き耳を立てていれば、とりあえず俺のこの状態は他殺ということで意見が落ち着いたようだ。昨夜の森村の死体も本物だという流れになる。よしよし、計画通り。

 名探偵の孫がミステリー小説でありがちな“犯人はこのなかにいる”をやってしまい、講師の川崎に怒鳴りつけられている。

 ここにいる誰一人、まさか犯人がいま現在宙吊りになっているとは思うまい。

 

(……ていうか、早くどっか行ってくれ)

 

 そろそろ二時間以上この状態なのだ。色々とホントに限界。

 金田一に食って掛かっていた川崎が足を踏み鳴らしながら出ていったのを皮切りに、ほかの人たちもぞろぞろと外へ出ていく。

 

(助かった)

 

 そんな俺の安堵をぶち壊すような声が響いた。

 

「あの人、あのままほっとくつもりですか!? そりゃないよ。いくらなんでも可哀相っすよ、あのままじゃ!」

 

 いい奴ーっ!

 金田一、めっちゃいい奴!!

 でもやめて、来ないで!!

 生きてるのがバレる!!

 責任者のくせにあからさまに面倒くさそうな塚原もどうかと思うが、ハシゴも隠してあるのだから諦めてほしい。ほかの人たちも、殺人現場ならいじらない方がいいという方針らしく、誰も金田一に同意の声をあげない。

 

(いや……まあ、別に友達ってわけでもないし)

 

 人間なんてこんなものだ。

 どうでもいい他人のために労力を使ったりはしない。

 だというのに、金田一は他の人が止めるのも聞かずに、ひとりで俺を下ろそうと壁を登り始めた。いい印象なんて持っていないだろう俺のために。

 

(……金田一)

 

 なぜか閉じた目の奥が熱くなる。いい奴すぎるよ、金田一。

 ちなみに、名探偵の孫はSASUKEクリアレベルの身体能力は持っていなかったようで、二メートルも登らないうちに派手な音をたてて転がり落ちていた。

 うわあああ、ごめん! ホント、ごめん!!

 

 

 

 

 

 登るのと同じか、それ以上に礼拝堂の梁から降りるのは大変だった。六メートルは落ちたらワンチャン死ぬ。身体に巻きつけたロープを緩めた瞬間、勢いよく落下しかけたのには心底ヒヤッとした。

 

 時刻は午後二十二時半。

 

 俺は礼拝堂からなんとか無事に生還し、加藤を殺すべく奴の部屋である『紅葉の間』の前に来ていた。

 殺人事件があったからか、誰も不用意に部屋から出てくる様子はない。

 俺は病院から盗み出した麻酔ガスのボンベを手に持ち、鍵穴から管を差し込み、加藤の部屋のなかへと大量の“笑気ガス”を送り込む。

 麻酔が効くまでに時間がかかるので、その間は念のためトイレに身を隠す。使い終わったガスボンベはとりあえずトイレの掃除道具入れに置いておいた。

 待つこと十五分。

 もういいだろうと、トイレを出て加藤の部屋を窺う。ドアへと近づき耳を澄ますが、なにも聞こえない。鍵穴からそっとなかを覗く。

 

「……?」

 

 加藤がベッドの上でのびているのはいい。麻酔ガスが効いたのだろう。

 しかし、床に敷かれた布団にいるもうひとりはいったい誰なんだ。

 

(まあ、誰でもいいか)

 

 計画に支障はない。

 おおかた『悪霊』を恐れた加藤が、誰かを招き入れたのだろうと当たりをつけ、俺は気にせず部屋へと侵入した。

 もちろんこの鍵は事前に確保しておいたものだ。事件が起こるまでは無造作に置かれていたので、合い鍵を一本ほかのものと交換しておくことなど造作もなかった。

 

(おっと、ガスを吸わないように気をつけないと)

 

 息を止め、床に寝ている人物を避けて窓に近づく。そのまま素早く窓を開けて、二分ほど換気する。

 ふたりともよく眠っているようだ。

 なんとなく予想がついていたが、加藤の部屋にいたのは金田一だった。

 

(ホント、いい奴だなぁ)

 

 加藤みたいなクズも見捨てないのか。

 狙われている人間の近くにいるリスクがわからないわけではないだろうに。これから、こんな優しい奴の横で加藤を殺さなければいけないと思うと少し気が重くなる。

 まあ、殺すけどね。

 俺はクロロホルムの瓶――病院から(ry――を取り出し、ハンカチへとその液体を染み込ませた。そばにいる金田一を起こさないように気をつけながら、ハンカチを加藤の鼻の上に被せる。

 

(金田一には嗅がせなくてもいいよな?)

 

 クロロホルムは劇薬だ。体質によっては死に至る場合もあるという。無関係な人間、それもこんな善良な相手に、危険なものを使うのは避けたい。

 大丈夫。うまく殺れる。

 加藤が熟睡していることを確認し、俺はその首にロープを巻きつける。両手に力を込め、ロープで絞め上げた。

 キシキシとロープがたてる音がいやに耳についた。

 森村のときとは違い、一切の抵抗がない加藤の首を渾身の力で絞め続ける。

 どれくらい続けていたのか、力を抜いたときには床にへたり込み、危うく金田一の上に乗りかかってしまうところだった。

 

(……終わった)

 

 加藤の胸に耳を当ててみるが、鼓動は聞こえない。死んでいる。

 

「あと、ひとりだけだ」

 

 俺はそうつぶやき、加藤の死体をカーテンレールへと吊るしてから『紅葉の間』をあとにした。

 

 

 

 俺はひとり、月明かりの差し込む礼拝堂にいた。

 ポリタンクに入った石油を辺りに、自分自身に振りかける。

 犯行は完璧に遂行した。あとはすべての証拠とともに己を焼き尽くすのみ……とライターを握りしめた俺を止めたのは金田一一だった。

 

「すべて、彼が仕組んだことだったんですよ。『午前零時の悪霊』――椎名真木男さん!」

 

 俺……まさかの、最後の殺人(自殺)間に合わず……!! あと一歩だったのにっ!

 石油を全身に被り、めちゃくちゃ異臭がするなかで俺のトリックが次々と名探偵の孫に解かれていく。客観的に見てだいぶ悲惨。

 

 第二の事件。

 俺が首吊りを偽装しようとしていたタイミングで白砂が降り始めて、地面にできた砂の“雪”のせいで、意図せずまったくありがたくない『足跡なき殺人』になったのはもう仕方ない。自然現象だから諦めもつく。あと、ハシゴないのは怪しいとはわかってたけど、トリックのためには隠すしかなかったの!

 

 第一の事件で窓の外に鬼火が飛んでいたのは受講生・川島豊のいたずらだったことが判明する。川島マジいい加減にしろ。

 え、これがなかったら金田一にトリック見破られなかったんじゃない??

 いやそれより、そんな小さなことから二つの鍵穴がつながっていたっていう結論に達する金田一、すごすぎるわ。しかも、トリックの要であるファイバースコープを、ちょうど胃の検査を受けて知ってたとかどんなウルトラCだよ。幸運まで味方につけるのはさすがに卑怯だと思う。

 まるで見ていたようにトリック説明するのやめて!

 それでもって、やっぱりあのときのファイバースコープを回収する音、ばっちり違和感を覚えられてた。全然大丈夫じゃなかった!

 『百日紅の間』の掃除はしなかったくせに、ごみ箱の位置は覚えてるって何!? どんな記憶力だよ!

 

(負けた……もう、ここから死ぬ気力はないよ)

 

 そして……謎はすべて解かれた……。

 

 

 

 

 

 どうも、椎名真木男です。鬼火島殺人事件……いかがでしたでしょうか?

 

 ――あっ、生きてるんですね。

 

 そうですね。

 あの話の流れで、金田一の前で自殺するのは空気読めなさすぎますから。

 

 ――今回の敗因を教えてください。

 

 うーん。

 原作で金田一にも言われましたが、海老沢のトリックにこだわりすぎたことですかね。

 やっぱり完全な不可能犯罪を演出するのはあんまり現実的じゃないんだと思います。探偵って、些細な“変なこと”をめちゃくちゃ執拗に追求してくるんで。

 

 ――では、金田一に勝つにはどうすればいいでしょう?

 

 推理力と正義感にプラスして、運も持ってるタイプの名探偵なので、真っ向勝負は避けた方が無難だと思いますよ。正直、重要な証拠とかを運で手に入れられたら戦えないです。

 なので、俺みたいにクローズドサークルを作るだけじゃなくて、事件の間金田一をどこかに閉じ込めておけば邪魔されないんじゃないでしょうか。

 

 ――ありがとうございました。

 

 

 




 バスに乗ってた高校生が「金田一知らない」って言っててショックでした。コナンは知ってたのに。そうか、もう最近の子ははじめちゃんのこと知らないのか……。

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