元男、女に惚れられる……なんで?   作:庭顔宅

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プロローグ

 自分の外靴の上に、手紙があった。

 

 1-Bというクラス指定の場所、そして19番という自分の靴が入っている場所。

 その中に、手紙はあった。ノートの1ページ切り取ったでは無いであろう真っ白い紙、軽い装飾が施された赤いシールが封をしていた。

 

 そこは下駄箱。多くの人が行き交う。だが、周囲から降りかかる視線よりも、手紙の内容が気になった。

 

 すぐその場で封を開ける。

 

 この感触は和紙のようだ。そこで筆のような、筆ペンのような字体で、たった一言書かれていた。

 

16時20分、屋上で。

 

 差出人も宛先も、何もない。今は16時5分程度だろうか。授業が終わり、下校時間に入ってしばらく。随分と猶予がない。送り主は、俺が部活動などを行っておらず、すぐにこの手紙を確認することになると確信していたのだろう。

 

 その手紙を受け取り、屋上へと向かう。

 

 その最中、なぜ手紙を出したのかと考えたが、分からない。

 

 この高等学園生活で出来た友達はおらず、顔も知り程度の交友関係もクラスメイト以外ではない。中等学園で、という可能性も考えた。だがあの偏差値でこの花織学園の門をくぐる事は出来ない。

 

 屋上は、施錠されている。当然の処置だ。進入禁止と校則で明言されている訳ではないが、事実上、立ち入りが許されていない場所だろう。

 

 だが、その場に呼び出される。これが常軌を逸脱したような内容でないのであれば、花織学園の屋上というスペースは、暗黙の了解のもとで密やかに利用されてきたのだろう。

 

 学園、屋上。この2つの前提条件が揃えば、俺の頭はピンクでありながらブルーの景色が思い浮かぶ。だが同時にも間違い手紙、という言葉も思いつく。

 

 そうして幾つかの思考の果て、俺は全ての階段を登り切った。

 

 屋上一歩手前の扉へと手を掛けた。

 

ガチャリ

 

 それは開かない音ではなく、開いた音だった。

 

 そこに居るのは一人の女性だった。

 

 俺と同じ今年の1年生であることを示す赤色のリボン。風になびき、太陽を照らす黄金のロングテール。どこまでも華やかでありながら、風格を纏う凛々しい顔。春風に吹雪かれる桜花が、彼女を称えるように漂っている。

 

 この俺でも知っている。鳳財閥の娘。

 

 鳳燐。おおとり りん 

 

「約束より早くに来るなんて、律儀だね。瀬名伊織」

 

 既に間違い手紙という線はなくなった。

 

「ええ、早くに揃ったので、さっそく本題に入って頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 相手は権力を持つ家。対して、俺は庶民の家。ここがお金持ちだけの高等学園という事はないのだけど、高い学力を求められる以上、必然的にそうなる。

 

「そうかしこまる必要はないさ。我々は同級生なのだから」

 

「ありがとうございます」

 

「……まぁそれはいい」

 

 そこで彼女は言葉を切った。会話に余裕を持たせる。上位者の証だ。果たして、そのような存在が俺にどのような用事があるのだろうか。

 

 そんな事を考えていると、彼女は満を持して口を開く。

 

「私と友達になれ」

 

 これほどの前準備をして、伝えるのはそれだけの内容なのだろうか。

 

「お断りします」

 

 俺にとっては当然の返事だった。このような閉鎖的な空間でわざわざ言う事ではない。だが、俺に断られるという前提があったのなら、この場は彼女の面子を保つために必要だと納得できる。

 

「しかしながら、貴公の学園ライフが素晴らしい物となる事を、ささやかながら願わせていただきます」

 

 深々と頭を下げる。

 

 すると、近づいてくる足音が聞こえてきた。決して走る音ではない。

 少なくとも、彼女ほどの存在が何も言わずに帰る事も、これほどの場を整えたというのに大人しく引き下がる理由も思いつかなかった。

 

 俺は庶民だ。相手の決定を大人しく待つ。

 

 コツコツと、上靴にしては聞き覚えの無い音が近づいて来る。

 

 最初の行動は右手首を掴まれる事だった。

 

 戸惑う暇も無く、上へと持ち上げられ、押しのけられた。それに従って下がる。下がり続ける。

 

 後ろには下へと続く階段が入った空間がある。必然的に、壁に押し込まれた。そして、顎を掴まれ、視線を固定される。

 

「やはり、いいな」

 

 吐息のかかる距離。彼女の匂いに包み込まれる。彼女の髪が、俺の髪に引っ掛かる。

 

「君は、私の好みだ」

 

 その目はどこまでも支配者の眼だった。

 

「やはり、私のモノになれ。望むモノを与えるぞ?」

 

 彼女は俺だけを見ていた。目を背けるなど許されなかった。

 

 肌寒い空気の中で、その視線だけが、肌を焦がすように熱を帯びていた。

 

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