元男、女に惚れられる……なんで?   作:庭顔宅

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第十三話

「あと2週間か」

 

「鳳さん、どうしたの?その日何かあるの?」

 

「ああ、大切な日さ」

 

 私が瀬名から離れて2週間たった。

 いわゆる、押してダメなら退いてみろと言う奴だ。どれだけ押しても瀬名の一枚壁を置いた関係性が変わる事はなかった。だからこその、それだ。

 

 彼女の事を調べて行くうちに、丁度1月後、彼女の誕生日があると知った。

 

 まさに渡りに船。それからは早かった。関係性を絶ち、ただ待つだけ。

 

 私にとってはいつも通りの日常に戻るだけ。そうだと思っていたのだが、私の心には既に彼女が居た。彼女はどうだろうか?

 

 私が側にいないことを違和感と思っているだろうか。そんなわくわくが湧き上がってくる。

 だけども、彼女はツンと、何一つ反応しそうにない。そんな予感があった。

 

 誕生日会はそこまで大きな物にはしない。既に会場に目星は付けてある。一週間前には彼女の家族に連絡しよう。

 

 そういった思考にまみれてく。

 

ガチャリ

 

 妙に大きな音に聞こえた。

 

 ちらりと視線を向ければ、静香が居た。その横には最近のお気に入りらしい花宮という少女を連れている。

 

「やぁ、めずらしいね精華」

 

「貴方堕ちたわね」

 

 いわゆる腐れ縁。幼馴染。

 幼い頃から顔を合わせる事の多かった私たちは自然とそんな関係になっていた。

 

「堕ちた、とは?」

 

 その一言に、精華はいつも以上に鋭い視線を緩め、呆れに染まった。

 

「……まさか本当に知らないの?」

 

「何の話をしているのだ?」

 

 その言葉で、緊張に強張った花宮が覚悟の染まったような顔に変わる。だが、精華がそっと制した。

 

「随分と仲良くしてた子がいるらしいわね」

 

「そうだな」

 

「虐められてるわよ」

 

 その言葉は、音としては軽かった。

 ただ、私の思考だけが、はっきりと止まった。

 

「は?」

 

 自分でも驚くほど、実感のない響きだった。

 

「瀬名伊織、だったかしら」

 

 静香は淡々と続ける。いつものように感情を挟まない。

 

「知ってる?つい2日前虐められて早退して、今日も学園休んでるわよ」

 

「……そんなはずはない」

 

 反射的に否定する。

 

 瀬名は、そんな弱い子じゃない。誰であろうと、自分が正しいと思ったことを貫き通す。ハッキリと言う。そういう人間だ。

 

「伊織は、何も言ってこなかった」

 

「言わなかったんじゃないわ」

 

 静香は、静かに訂正する。

 

「言えなかったの」

 

 精華にそう言われても、そんな訳がないとすぐに思い浮かんだ。

 だが事実、言われなかった。どうしてと考えていると思い浮かんだ。

 

「お前たちは何か知っているか?」

 

 瀬名が何も言わなかった理由。それは原因が私にある事だ。

 

 私は周囲の人々を見た。

 言いずらそうに、だけども口を開いてくれた。

 

「なんとなくは」

 

 すかさず精華が、静かに言葉を挟む。

 

「彼女たちを責めるのは辞めなさい。貴方、何も言ってないでしょ?」

 

 静香は、一度たりとも視線を逸らしていなかった。

 

「堕ちたわね」

 

 胸の奥が、きしりと音を立てた。

 

「貴方はちゃんと周囲が見えていたと思ったのだけど、何があったの?」

 

 その瞬間、喉の奥がひりついた。

 

 待つ。

 驚かせる。

 喜ばせる。

 全部、未来の話だった。

 

 彼女が、そこに居る前提の。

 

「まぁいいわ。横に居る花宮さんが、その虐めを止めてくれたの。感謝することね」

 

「ありがとう」

 

 最初の印象とは変わり、弱った姿を見て花宮は、刺々しい態度を改めるようになった。

 

「いいえ」

 

 そこからは早かった。

 

 原因の4名を捕まえて、事情をその口から話させる。実に鳳らしいやり方だった。

 

 そうして問いつめて行く内に、気になる単語が聞こえてきた。

 

「手紙?」

 

 それは2度目の問いで話される内容。4月21日、あの場所で。

 

 あの日、瀬名に送った内容と同じだ。

 

 それを知った時、考えるより先に体が動き出していた。だが、精華が言う。

 

「言っておくけど、貴方が今会って改善できることは無いわ」

 

 一歩、踏み出しかけていた。

 止めたつもりはない。止まったのだ。

 今会えば、何かが壊れる。直感だけが、はっきりそう告げていた。

 

 睨み付ける。それが間違いだと知りながらも。

 

「無駄に拗れるだけよ。しょうがないから、私が話を通してあげる」

 

「問題が無ければ月曜日、それまで待っていなさい」

 

「……わかった。ありがとう」

 

 それ以上、言葉は続かなかった。

 代わりに、拳を一度だけ握りしめて、力を抜く。

 立ち止まることを選んだのは、弱さではない。そう言い聞かせるように。

 

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