「花宮、朱音さんですよね」
「は、はい!」
「同じ、中等学園に居た」
「はい」
先ほど元気いっぱいの返事に比べたら、それは意気消沈していた。
彼女と出会ったのは三年の頃だ。
虐められていたところを、偶然目にして助けた。その後、秋も半ばを過ぎた頃に「勉強を教えてほしい」と声をかけられた。関係と呼べるものは、それだけだった。
「驚きました。まさか、同じ高等学園に進学しているなんて」
確かに勉強は教えていた。
だが、同じ場所を目指しているなどとは思っていなかった。
「貴方と同じ学園に行きたくて。ギリギリだったんですけど、何とか受かれました」
おちゃらけたような乾いた声。
「幻滅したでしょう」
「へ?」
「私は強くなんてないわ」
俺は一方的に虐められては涙まで見せた。虐められていた自分を助けてくれた憧れの人というには、見っともない。
「むしろ……安心しました」
「安心?」
「ちゃんと人間なんだなって」
「自分磨きも頑張って、勉強も頑張って、凄い友達も出来て。きっと貴方がいなかったら、こんな学園生活にはならなかったです」
「久しぶりに見かけた貴方は、相変わらず一人で、なのになんか強そうで、怖くて、教室の外から見るだけで限界でした」
「こんな事言うのもなんですけど、あんな姿を見てもまだ憧れています」
「あなたは強い人です。誰よりも優しい人です」
「そんな人じゃない。あの時、先に妹が虐められていなかったら、君は助けなかったよ」
「でも助けられました」
一瞬の間も無く言われた。
「貴方、勿体ないほどいい子ね」
「ありがとうございます」
本当に、花開くように笑う。
「あ、あの!」
突然の声に、俺は視線を向けるだけ。
何か言いたそうにしてる。それは、先ほどからずっと感じていた。
「迷惑じゃなかったら……私と友達になってください!!」
椅子に座ったまま、頭を下げられる。まさに一世一代の告白のよう。
「お好きにどうぞ」
「……そ、それは?」
「なりたければ勝手になればいいです。問題は友達になって何をするのか、でしょう?」
その問い掛けに、花宮は考える様子を見せた。
「別に深く考える必要はないわ。やりたいようにやる、それだけよ」
「やりたいように、やる」
まるで納得したかのように呟く。
「そろそろ妹が帰ってくる。何もなければ帰って」
「あ、はい」
先に立ち上がる。
それだけで、この場に留まるという選択肢は消えさせる。
「今日はありがとうございました」
花宮は頭を下げた。
「気を付けて」
その言葉を背に、花宮は帰って行った。
扉が閉まる音を背に、リビングに戻る。
片付けて、夕食の支度に取りかかる。
「おかえり」
家族にそんな言葉を投げかけながらその日は終わって行った。