元男、女に惚れられる……なんで?   作:庭顔宅

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第十六話

 あれから休め、と言われることも無かった。

 

 今俺は学園にいる。既に時刻は放課後だ。

 椅子の上で少し待っていると、ざわざわと騒がしくなる。そうして、この教室に鳳がきた。

 

「少し、いいだろうか」

 

「ええ」

 

 朝の時間には、放課後に時間が欲しいと会いに来ていた。精華が言っていた、アクションだった。

 

 鳳が目の前にいる。だけども距離があり、いつもの笑みは無く真面目な顔で、態度が改められ何処か他人行儀だ。

 

「すまなかった」

 

 その一言は静かだった。

 友人にする謝罪などではなく、しっかりと頭を下げるそれ。

 

「あの状況を許してしまった。気づくのが遅れた。止めるのも遅れた。それで、あなたが傷ついた」

 

「本当に、すまなかった」

 

 一拍。

 

「どうして」

 

 俺は口を開いた。

 

「どうして、こうなったのですか?」

 

 彼女を見る。

 

「驚かせようと、サプライズをしようとして距離を置いた。」

 

「なぜ、完全に距離を置いたのですか」

 

「仲良くなれていなかったから」

 

 しっかりと、聞き取った。

 

「貴方は極端で、強情ですね」

 

 ずっと考えていた。俺はどうしたいのだろうか。

 

 別に孤立したいわけじゃない。でも、友達が沢山欲しい訳でもない。流れるままに、やって来た。あの日、転生した時から、流れ着くままに来た。別にやりたいことをやらなかった訳じゃない。むしろ、全部やった。ただ自然と、自分の物とそうでない物とで分けているだけ。

 

 精華は言っていた。後悔しない選択をしなさいと。

 

 あれほどの時間をかけて、どんなに考えても、どうなりたいのかなんて思いつかなかった。このまま鳳と距離が生まれ、当初の想定通り一人学園生活を過ごす。逆に仲良くなり、振り回される。最悪の結果が無くなった今、どれでも大して変わらない。

 

 だからこそ、いつも通りに俺はやる。

 

「それならば、貴方の弱みを見せてください」

 

 ざわり、と空気が揺れる。

 

 悪く言って選択の責任の放棄。良く言っても他人任せ。

 

 自分に望みがないのなら、他人の望みに合わせて動く。

 別に身内でもないのだ。連絡をしなくなったら、自然と疎遠になるだけ。彼女がしたいようにすればいい。ただ、悪い方向に進まないのであればそれでいい。それが、俺の出した結論だった。

 

「他の人ならこんなことは言いませんよ。もっと穏便に終わらせます」

 

「あんな事があったというのに、まだ距離を縮めたいなんて思っているのなら、本当になりたいと思うならば見せてください」

 

 随分と教室は騒がしかった。でも、今は鳳しか見ていなかった。

 

「この後時間はあるだろうか」

 

「はい」

 

「行こう」

 

 彼女の後ろをついてゆく。今回ばかりは会話はなかった。

 

 そうしてたどり着いたのは、学園の一室。

 

 鍵を閉める。次の瞬間に鳳は服を脱ぎ始めていた。

 

「何を」

 

 戸惑いの声が出た。だが鳳は言うのだ。

 

「私には君に差し出せるものがない。それに、君はやられたのだ。これでお相子と言うつもりはないが、せめて」

 

 随分と痛々しかった。

 

「それは弱みではありません」

 

 自分の上着を掛ける。そして椅子を向かい合わせ、座る。

 

「座ってください」

 

 それを口にして選択肢を狭める。

 

「見せられる弱みがないとは?」

 

 鳳はしばらく黙っていた。

 

「私は、負けたことがない」

 

 静かな声だった。

 

「欲しいものは手に入る。反対されれば押し切る。問題が起きれば解決させる。そういう場所にいた」

 

 視線は逸らされたまま。

 

「だから、弱みというものが分からない」

 

「貴方の弱みはなんとなくわかりました」

 

「私の弱みが?」

 

「一人で全部決めてしまうところです」

 

 改めて考えてみた。どうするのが正しいのか。

 

「私から言うことは一つです。やりたいようにやってください。でも、ちゃんと言ってください。私は貴方を何も知りません」

 

「貴女は距離の詰め方が怖いんですよ。私にとって貴方は他人で、人気者で、上の立場の存在です」

 

「だというのに、友達になれやら、突然パーティに連れて行かれたり、いろんな場所に連れていかれたり。行きたくないか?そう、一言確認すればいいだけの話です。後はご自慢の押しで無理やりにでも連れて行けばいいです」

 

 鳳は少しだけ息を吐いた。

 

「ごめんなさい」

 

「まず、私が言うことはそれです。ちゃんと誘ってください。友人として」

 

「次は貴女です。言いたいことを言ってください」

 

 反応が無かった。

 

「ないんですか?聞きたいこと」

 

「敬語は辞めてくれ」

 

 それを聞いて思ったことは2つだった。1つが疑問じゃない、ということ。そしてもう1つが、俺にとって敬語を使う事は普通だという事。

 

「敬語に深い意味はありませんよ。普通の対応ってだけです」

 

 その言葉に、鳳は俯いたままだった。

 

「……でも、まぁ望むならば、やってみましょう」

 

 再度、念を押す。

 

「貴女が今までどんな人生を歩んできたかは知りません。ですが、私と友人になりたいのなら、ちゃんと言ってください。他人行儀だから敬語は辞めて欲しいだとか、仲良くなりたいからまずは敬語は辞めようだとか。何度でも言います。ちゃんと言ってください」

 

「敬語……」

 

 その問いに、つい苦笑が漏れてしまった。

 俺にとって敬語とは一種の仮面だ。男であった俺が女の子になるための。それが、嫌だというのなら言ってやろう。素の俺を見せてやろう。 

 

「……お前を知らない。だから、仲良くなりたいなら意思表明をしろ。俺は鈍いから言われないと分からない」

 

 別に、お前とどうなろうとどうでもいい。離れるなら離れろ。そんなことを思っていた。だが、鳳からは想定すらしていなかった言葉が聞こえてきた。

 

「私を怖がるな」

 

「……怖がってましたか?」 

 

 間があった。

 

「……わからない」

 

「もし、そう思ったならその場で言ってください。もっと距離を近くしてと。いっそのこと、この俺に鬱陶しいと言わせてみてください」

 

「豪快に金を使わないでください。庶民に合う金銭感覚で接してください」

 

「例えばどうすればいいのだ?」

 

 急に言われても、困るのだが。……そうだな。

 

「お小遣い制、でもやってください。私と遊ぶ費用に一般的な上限をかけましょうか。問題があれば言うので、後々修正すればよいでしょう」

 

「さっきは自分の事、俺って言ってた」

 

「……気を付ける」

 

 ずっと敬語だった。急にやめろと言われても難しい。もしやこれから、鳳と話す時だけは、敬語を辞めなければいけないのだろうか。

 

「私のことは嫌いか?」

 

「嫌いよりの普通です」

 

 その言葉に、鳳はしょぼくれた顔をしていた。

 

「これから好きになれるように頑張ってください」

 

 ほんの一瞬、間が空いた。

 

 俯いた顔が上がる。そして彼女は、初めて肩の力を抜いていた。

 

 「ああ、努力しよう」

 

 その声音には誇示も威圧もなかった。

 

 俺は、真正面から彼女を見た。

 

 彼女も、逸らさなかった。

 

 今、初めて目と目を合わせたような気がした。

 

「これからよろしく」

 

 自然と、俺も笑っていた。 

 




これをもちまして完結です。

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
だいぶ自分の中で自己完結しちゃってる部分あると自覚しており、そのわからないという不満などを、具体的な言葉にしてくれると嬉しいです。
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