元男、女に惚れられる……なんで?   作:庭顔宅

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第二話

 朝が来た。

 

 まだ2日目だというのに、目新しい制服を着るのは、随分と慣れていた。

 俺にとって、スカートを着ることも、この声の違いも、すでに日常の一部だった。多少形が変わった程度では変わらない。そして毎朝同じ時間に起きて、家族全員分の朝食を作るのも日常だった。

 

「おはよう」

 

「おはよう、いつも悪いわね」

 

 母が降りてきた。眠い目を擦りながらも、朝食の準備を手伝ってくれた。そうして一通り終わり、洗い物をしていた頃だった。

 

「…今日に限ってどうしたの?」

 

「いや、いつもありがとうって話よ。ほんと、ありがとうね」

 

 背後から抱き着かれ、包み込まれ、頭を撫でられる。

 

 甘い花の香り。母の香り。酷く安心してしまう匂いだ。

 

「母さん」

 

 払いのけようとも、洗い物をしている手で、それはできない。

 

「ふふ、いいじゃない。たまには」 

 

 そうして、撫で続けられる。恥ずかしい。だけども、嫌いじゃない。それをわかっているからだろうか、母は辞めてくれなかった。

 

 そうしていると、朝でも元気な妹が降りてきた。

 

「おっはよーう!おねぇちゃあァ!!ズルい!私も!!!」

 

「ちょ、ちょっと」

 

 ようやく洗い物が終わりそうだったのに、付きまとう影が増えてしまった。

 

 前は妹が、後ろは母が陣取る。 

 純粋な優しさが、染み渡る。この世の幸せに包み込まれる。

 

「ほら、もう終わったから、朝ごはん食べるよ」

 

「「は~~い」」

 

 そうして、ご飯が終わり、それぞれがそれぞれの場へと向かう。

 

 2日目の学園生活が始まる。計6限の授業を得て終わる。そうして1日も終わる。

 

 やはりというべきか、友達は出来なかった。作ろうともしなかった、が正しいけれど大して変わらない。普通にボッチ、普通の陰キャ。たとえ偏差値が上がろうとも、そこだけは変わらないようで安心した。

 

 高等学園からは中等部と違い給食が無くなる。なのでお昼は購買を利用するのか、弁当の2つに分かれるであろう。

 

 俺は弁当を作っている。もともと作っていた母の分に追加して作るだけなので大変では無かった。だけども弁当を食べる場所を探すのは大変だった。数日過ぎた現在も、理想の場所が見つからない。

 

 教室は居心地が悪く、人通りがある場所は気が散る。

 

 もはや友達作りよりも、お昼ご飯を食べる場所探しの方に気を取られていた。

 

 そんな折だった。

 

 放課後、下駄箱の中に、見慣れない紙が置かれているのに気が付いた。

 

 白い紙に、簡素な文字。時間と、場所だけが書かれている。

 

 そうしてたどり着いたのが屋上だった。

 

 そして今。

 

 俺は壁に押し込まれ、逃げ場を失っていた。

 

「私のモノになれ。望むモノを与えるぞ?」

 

 この学園で知らぬ者など存在しないのであろう、鳳財閥の娘、鳳燐。

 

 彼女ほどの存在に迫られ、求められたのなら、それを拒絶する理由は何処にもない。その美形に、きっと頬を染めながら「はい」とでも言うのだろう。だが、俺は普通ではなかった。

 

「離れてください」

 

 当然、驚きはあった。だけどもそれ以上はなかった。

 そこにあるはずの照れも、戸惑いも、嫌悪すらもない。ただひたすらの無関心が存在していた。

 

 それに、鳳は目を見開く。

 

「痛いです」

 

 その一言で、鳳はゆっくりと離れて行った。

 

「すまなかったね。つい興奮してしまって…だが、やはりいいな」

 

 距離は生まれた。だけれど、彼女の眼は相変わらずギラついていた。

 

「すみません、先ほどの話であればお断りさせてください」

 

「なぜ?」

 

「利がありません」

 

「欲しい物が無いのかい?ブランド品だって、最新のゲームだって、なんだっていい。会いたい有名人はいないかい?今夜食べたいものでもいいんだよ?」

 

 そういう話を最初にしたのは俺だった。だから、物で釣った交友関係が、友人と呼べるのかという議論をするつもりはない。

 

「ありません。欲しいものは既に持っています」

 

 今の俺にとって、一番大切なものは家族だった。それ以外はあまり興味がない。

 

「あはは、奥ゆかしいな。大和なでしこってやつかい?」

 

「さぁ、わかりません」

 

 そこで彼女は言葉を止めた。ここで次の言葉を待っていても良いことは無い。そう感じた。

 用事が、先ほどの事だけであるのならば、俺は言う。

 

「帰って良いですか」

 

「ああ」 

 

 その言葉を言う彼女は俺を見ていなかった。

 

「それでは失礼します」 

 

 それだけ言って、すぐ横にある扉を開ける。そうして、この空間を出て行こうとする、その背後に声がかかった。

 

「ああ、また」

 

 不気味な言葉が聞こえてきた。だが、今更振り返ることはできない。そして理解している。

 

 これで終わるはずがない。そういうタイプだと、もう理解していた。

 

「面倒なのに絡まれてしまったな」

 

 そう思いながらも、俺に出来る事はないと理解していた。そうして俺はいつも通りの帰路についた。

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