元男、女に惚れられる……なんで?   作:庭顔宅

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第七話

ゆっくりと意識が覚醒していく。目を開いた時、目の前にあるのは見慣れた天井。そして胸元にはぬくもりがあった。

 

「妹よ」

 

「なぁに、お姉ちゃん」

 

「どうして私の布団の中に居るのだい?」

 

「そこにお姉ちゃんがいたから」

 

「どうして私に抱き着いているのだい?」

 

「そこにお姉ちゃんがいるから」

 

「なるほど、わからん」

 

 妹は俺の胸を枕に、覆い被さる形でうたた寝していた。

 今ではむぎゅむぎゅと、顔で胸を弄ぶ悪女へと変貌してしまっていた。

 

「お姉ちゃんがお昼寝なんて珍しいね。学園は大変だった?」

 

「まぁ、大変だったね」

 

 ぎゅーっと妹を抱きしめる。

 

 「きゃーー」

 

 歓声のような悲鳴。いつまでもやっていたいと思うけれど、妹に不健康的な生活を定着させる訳にはいかなかった。

 

「そろそろ起きようか」

 

「うん、わかった」

 

 最後にと、もう一度抱き着く妹を優しく撫でる。

 

「まずはお昼ごはんかな」

 

「私も手伝う」

 

 そう言うと、妹は元気に起き上がって行った。

 

 最高の休日、始まり。

 

 そうしてインターホンは鳴ってしまった。

 

「はーーい」

 

「こんにちは」

 

 一目で配達物ではないことがわかった。 

 

 そこに立っていたのは、鳳だった。私服姿だが、隙のない佇まいは変わらない。

 

「休日に失礼するよ」

 

「どのようなご用件でしょうか?」

 

 外に出て、扉を閉める。

 

「君の制服を返しに来た」

 

「ありがとうございます」

 

 予感はなかった。だけども意外性も感じなかった。

 

「これから一杯どうだい?」

 

「申し訳ありません。これから昼食です」

 

「丁度いいじゃないか。美味しいカフェがあるんだ」

 

「着替えてきます」

 

 そう言い家の中に入る。そしてキッチンに立つ妹に対して言う。

 

「ごめん。大変な事が向こうからやって来た。お昼ご飯は一人で食べてといて」

 

「だいじょうぶなの?」

 

 その声は弱弱しかった。

 

 ああ、しくじった。綺麗に折りたたまれた制服を隠さなかったのはミスだった。

 

「ああ、大丈夫にしてくるさ」

 

 俺は答える。いつものように、元気はない。だけども不安を感じさせない声音で断言する。

 

 外出の服に着替える。そうして自室の前には妹が居た。先ほどの元気な様子は何処に行ってしまったのか。

 

「それじゃ行ってきます」

 

 俯くその頭を撫でる。

 

「いってらっしゃいは言ってくれないのかい?」

 

「いってらっしゃい。お姉ちゃん」

 

「よろしい。いってきます」

 

 妹を残し、家を出て行った。

 

 そうしてたどり着いたのは宣言通りの場所であった。

 

 おしゃれなカフェなのだろう。自然に溢れている。だけどもごちゃごちゃせず、開放感がある。

 

 彼女は飲み物とデザートを、俺はパスタに飲み物が運ばれてきた。

 

 静かに食事をしている所に、彼女は口を開いた。

 

「私たちの関係は、何だと思う?」

 

「なんでしょうね」

 

 一番に思いついたのは先輩と後輩だった。その次が幼馴染。そして上司、雇用主と続く。だけども、そのいずれも何かが足りていない。

 

「友達じゃないのかい?」

 

「私はその宣言を拒絶したはずです」

 

「わざわざ友達になると同意をしなければ、関係性を築くことが出来ないのかい?」

 

「少なくとも、貴方とは一方的な関係です」

 

「こうして付き合ってくれているのに?」

 

「認識が違いますね。貴方の言う付き合いとは、私にとっての脅しです」

 

「脅し?何が?」

 

「自分の存在感を認識していないのですか?あなたは全面的に私より上の存在です」

 

「そうとは思わない」

 

「ただ側にいるだけ目立ってしまう、断れば角が立つ。これまであなたと過ごした時間の中で、一度でも私が主体的に動いたことは無い。それが普通とでも思ったのですか?」

 

「昨晩のパーティも行きたいと言ったことはない。施しなんていらない」

 

 距離の詰め方の違い。それは彼女が鳳であるが故だろう。仕方ない、それは分かっている。

 

「……平等か。それでは一生友人に成れないじゃないか」

 

「そうですね。私は河辺の小石で、あなたは人間なのでしょうね」

 

 明確に違う。それを俺は知った。

 

「そんなに悲しいことは言うな。その人間は綺麗な小石を持ち帰って飾るかもしれないだろう」

 

「そして忘れられ、捨てられるのが最後です」

 

 そうして庭の一部になるのか、家の外に捨て置かれるのか。

 

「悲劇的すぎる。また他人の関係に戻るだけだ。私は価値を、君は存在をウィンウィンの関係だろう」

 

「そうですね。ただ、その価値に魅力を感じなかっただけです」

 

「本当に魅力を感じなかったのか?私というステータス、そこから来る利便性を」

 

「そこには、貴方を全面的に信用しているという前提が必要ですね」

 

 いつの間にか、パスタは食べ終えてしまった。

 

「何が好きなんだい?」

 

「家族です」

 

 断言する。

 

「それは親愛だろう?私が聞いているのはそういうのではない」

 

「時と場合によります」

 

 口を潤す。

 彼女の前のグラスは、手つかずのままそこにあった。

 

「私は貧乏性なもので、ある物だけで物事を考えてしまいます。無い物ねだりは醜い感情だと思っています。それ以上はありません」

 

 そういう瀬名の目は死んでいた。いや、これは比喩なのだろう。

 彼女の持つ狂気。今まで何一つとして表す事の無かった感情。何があっても成し遂げるという絶対的な意思。

 

 

 初めは好奇心だった。

 

 初めて聞く中等学園から訪れる者。興味本位で調べてみると彼女は2度の問題を起こしていた。

 それらを簡単に表すといじめが行われていた。そして、大人どころか誰にも頼らず、自分ひとりだけで解決させていた。

 

 それに関する噂が広まっていた。だけども、それ以外の噂は事実を含め何一つとして広まっていなかった。彼女は存在していないのと同義だった。

 

 だけども、そこに存在していた。

 

 

 そうして、彼女を屋上に呼び出した。

 

 感想としては、同級生だとは思えなかった。

 間違いなく背は私より小さい、だが、年上の如く錯覚を受けた。

 

 極端な物静かさがそう感じさせたのかもしれない。その無機質で異質な目がそう感じさせたのかもしれない。この私の事ですら、関心に無かった。

 

 そうして、感じた。

 

 これは裏切らない。将来の友になれる存在だと、初めて見つけ出した。

 

 何を、どれだけ積まれても一蹴する。価値よりも心情を重要視する。

 

 その認識に間違いはなく、私が使う手を尽く無意味だと、静かに退けられた。ああ、退けられてしまったのだ。

 

 だけども私は関わり続ける。

 

 執着未練と笑われても仕方ない。それは事実だ。

 

「どうかされましたか?」

 

 既に、彼女と別れていた。車の中で帰る道、運転手が聞いてきた。

 

「ん?彼女との意見交換も楽しかった。そのおかげで確信できた」

 

 彼女は、ほんのわずかに口元を緩めていた。

 

 明後日から、また学校が始まる。さぁ、次はどうしようか?

 

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