元男、女に惚れられる……なんで?   作:庭顔宅

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第八話

 月曜日、学園が再び始まると共に、新たな生活が始まっていた。

 

 俺が変わることは無い。周りが変わったんだ。

 

 最初の昼休み。鳳が一緒にご飯を食べようと誘って来た。その放課後は、遊びに誘われていた。

 そうした日々が2日、3日と続いてく。俺に対する鳳の対応も少し変わっていた。よく、好みを聞くようになった。好きな食べ物や好きな色。

 

 そういった普通を聞き始めた。

 

 唐突な路線変更に、不気味さすら感じる。だけどもいい流れだった。このままであれば、自然と友達にと呼ばれる関係に慣れていたのかもしれない。

 

 そう思っていた。

 

 

 最初は違和感ですらなかった。

 

 ただ、お昼を一緒にし、物理的に一緒に居る時間が増える。

 

 そうして、あのパーティで見た視線が、学園でも感じるようになった。

 

 もともとクラスにとって居ないも同然の存在。だからこそ、その異常さには一度で気が付いた。

 

 俺をソレ呼ばわりして笑う。身体の一部や鞄をぶつけられる。

 声に出すほど永続性が無くて、偶然勘違いで事片付けられる物。

 

 そういった些細なモノだ。だけども、そういった日々が続いていた。

 

 ただ、ある時から、鳳は現れなくなった。

 俺にとっては日常の再開。だけども、それが始まりだったのだろう。

 

 トイレに行っている隙に、通学鞄が消えていた。それはこの行為に虐めという名前を付けた瞬間でもあった。

 昼休憩より戻った頃には、戻って来ていた。そこだけならば少しだけ喜ばしい事実。だが、鞄の中から変な匂いがした。

 

「っふ」

 

 最初は失笑。

 それはカップラーメンの匂いだった。鞄の中にはカップラーメンが丸ごと放り込まれていた。当然、お湯で完成されたそれ。湯気がたつ時間を終え、冷め始めたそれ。つい、具材の一つを確かめる。

 

 温かい、食品サンプルでは無い感触。好奇心に負けて、食べる。

 

 まごうことなき、カップラーメンだった。

 

「アハハハハ」

 

 突然の大笑い。それは、周囲の声を奪い、自然と視線も集める。

 だけども、笑いは止められなかった。

 

「くくく」

 

「大丈夫ですか?」

 

 グルリと顔を向ける。

 

「ッヒ」

 

 隣の席だ。普段関わる事の無い人が心配をしてくれた。いや、普段は独り言すら喋らない奴が急におかしくなったのだ。ある意味では当然。いや、ここで距離を取るのではなく詰めてくれるのは優しさだ。

 

「ありがとう、大丈夫だよ。いや、このカバンを持ってきた人を知らないかい?」

 

「ごめん…」

 

「いいや、ありがとう」

 

 果たしてこの人は共犯か、本当に知らないのか。いや、無意味な思考か。関係があろうとなかろうと、関係ない。

 

 さて、どうしようか。

 

 もし、これが中等学園での出来事であれば、徹底抗戦するところだった。バックの中にあるラーメンを机の上にぶちまけて、満面の笑みで、次の授業を受けていた。

 

 だけども、それは使えない。

 

 ずっと考えていたことだ。これは、俺と鳳と関わる事が気に入らない人物の犯行か、鳳が主導して行われている犯行か。

 

 どちらとも理由付けが出来てしまう。前者はそのまま、後者は孤立、並びに依存。 

 どちらかに断定が出来ない以上、最悪を前提に動くしかない。交友関係を全く持たない弊害が、今頃になって訪れてしまった。

 

 バックを持ち、校舎から一番遠くにある別館2階のトイレへ向かう。

 異物はトイレに流し、中にあった教材は水で洗う。

 

 改めて考えよう。これは、誰の犯行か。鳳か、否か。

 

 カップラーメン。学園においてポットが併設されており、それは昼食として認識される事もある。だが、利用するのは家から持参したごく少数。独り身か、やんちゃ系統の生徒か。本当に限られている。犯人探しをするのであれば、不可能ではないだろう。

 

 鳳と会わなくなってから3日目。そして、明確に被害が出始めたのも3日目。

 

 果たして無関係なのか。

 

 やはり分からない。鳳はなぜ、今更関わりを持つ事辞めたのか。俺の認識では、何も起こっていない。近しいイベントと言えば、中間テストぐらいだ。

 

 いくら思い出そうとも、きっかけを見つけられない。興味を失った、という説明が最有力候補か。

 

 鳳本人に聞くという手段は無い。

 彼女がこの一件に無関係であるのなら、このまま興味を無くして貰った方が良い。そうではないのなら聞いても無駄。

 

 まずは情報収集。今だけは周囲に興味を持とう。仔細に至るまで観察しよう。敵に慈悲を与えると味方を殺される。太古より決まっているのだ。

 

・・・

 

 認識が少し甘かった。

 

 犯人の特定は容易であった。

 乾かす為にとトイレに放置しておいた鞄が、その日の内に校舎裏へと捨てられていた。

 

 そうして見つけた犯人から、数日かけて関係者を探った。だけども、成果は乏しかった。

 実行犯は4名。だが、学園には派閥のようなものがある。派閥という名のようにとげとげしくはないが、概念的には同じ。その4名と関わりを持つ不特定多数が存在していた。誰が、何処まで関与しているのか、それが分からない。

 

 少なくとも実行犯に限っては、実際に鳳と話せる立場にいる存在ではない。ただそこに居るだけ。実際に意思疎通するような様子はなかった。

 

 今回の一件、2つ原因が思い浮かぶ。

 

 1つ、いわゆる取り巻きが、気に入らないものを排除する為に動いている。

 

 鳳との関わりが無くなる事。俺はそれでよかった。だが、周りは別の視点で見られている。

 

 状況的に、捨てられた存在とでも見られたのだろうか。だから遠慮が無くなり、現在と至った。

 

 これならば、対処は出来る。だが、これは楽観視されたもの。

 

 もう1つ、それは見せしめだ。

 

 そうであるならば、何をしても無意味。

 あれだけ好意を与えられながら振り向かない。そうして興味を失った。それならば、反感的な態度を示す存在がどうなるのか。学園に知らしめた方が価値になる。

 

 そう考えられていたとしたら。

 

 俺は見余っていた。最初は、相手の大きさ。そして独占欲の反面を。

 

 俺が鳳という存在を知ったのは「友達になれ」と宣言されてからだった。

 それまでの認識は、僅かに聞こえてくる噂だけ。財閥という名を甘くみていた。想像を絶する権力者だということをその時初めて知った。

 

 俺は、途中から媚びる気概を貫けられなかった。今まで通りにしてしまっていた。ああ、態度を変えて形だけでも従順になったら興味を失い、1人静かに生きれただろうか。

 

 もはや叶わぬもの。

 

 今から土下座してでも乞い願ったとしても、見逃してもらえる気がしない。まだ心が負けてないのだ。形だけのまがいものに価値を感じるはずがない。彼女がそれを見抜けない訳がない。

 

 

 そうしてヒートアップしていった。

 

 他の私物に被害が出始めた。明確に過激になっていた。

 

 そうして一日の内に中も外の靴も無くなった。

 

 終わった。そう感じた。だけども、思った。

 

 今なら心の底から屈服出来る。

 

 次の日、俺は一通の手紙を書いた。

 

 とても、簡潔な物だ。宛名も宛先も無い。

 

 4月21日、あの場所で

 

 ただ、そう書いて、鳳の靴箱の中に入れた。

 

 そして放課後、屋上で待っていた。俺は鍵を持っていなかったので、そのすぐ目の前の踊り場であったが、待っていた。

 

 彼女がまだ、俺を認識してくれているのならば、来てくれるはずだ。彼女は何を言うのだろうか。

 そんなことを想定していた。

 

 あの独善とした態度が、攻撃的に変わる。嗜虐心が刺激され過激になる。最悪の未来。

 

 幸運な事に、それは現実にはなかった。

 

「ああ、ダメか」

 

 鳳は来なかった。

 

 薄暗い踊り場。ドアに着けられたガラスは、ぼやけて夕日の明かりを見せてくれる。

 

「終わったか」

 

 完全下校を知らせるチャイムが鳴った。

 

「冷えるな」

 

 風はない。太陽が沈むと同時に気温も下がる。ただ冷たい床が、俺の熱を奪ってゆく。静かな空間という物が、心に刺さる。

 

「寒いな」

 

 全身が冷えた。

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