キヴォトスの独裁者 作:坂間
「先生、起きて下さい」
何処からか声が聞こえる。
次第に声が大きくなるのを感じる
「……先生」
もう少しだけ寝かせて欲しいなどと子供じみた事を思いつつ再び襲いかかる睡魔に身を委ねようとする。
「先生! 起きて下さい!」
強く身体を揺さぶられ私は意識が覚醒する。
「……誰だ?」
目を覚ますと目の前には女性がいた。
だが目の前の女性は私の知っている人間とは違う点があった。
1つ目は耳が鋭く尖っている事、2つ目は頭の上に光る輪が浮いている事だ。少なくとも私は耳が尖っていて頭の上に光る輪を浮かばせる人は見たどころかその様な文献すらも知らない。
「私は七神リンと申します、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そして貴方はおそらく、私たちがここに呼び出した先生……のようですが……」
「……何故推測系で話す?」
「……えぇ推測系でお話ししたのは、私も先生がここにいらっしゃった経緯を詳しく把握していないためです」
「意味がわからん……」
「……乱されてますよね。心中お察しします。しかし私はあくまで案内役ですから……先生を選んだ方はまた別であり、詳しい説明は私からは致しかねます」
「……選んだ方だと? つまり私を此処に連れてきた存在が居るのか?」
「はい、そう言う事になります」
つまり世界に干渉できる超越者がこの世界にはいるのか
「ふむ……ならばその選んだ方と合わせてくれ、話が早い方が貴方も良いだろう?」
「…先生、私について来て貰えないでしょうか?」
リンと名乗った女性は私の言葉を聞き僅かに目に動揺が浮かんだのを私は見逃さかなかった。
どうやら状況は複雑な様だが…此処は大人しく従ったほうが賢いか
「分かった、ついて行こう」
リンに連れられ暫く歩くとエレベーターに乗せられ私はそこで驚愕する事になる。
「これは……!」
エレベーターはガラス張りになっておりそのエレベーターから見える景色に圧倒された。圧倒される私に目線を向けリンは言う
「それでは、改めて……『キヴォトス』へようこそ、先生」
広大な土地が眼下に広がっている。こうして見れば一見普通の巨大な都市群に思えるが、どうやらこれら一つ一つが『学園』なのだと言う。
「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。これから先生が働く場所でもあります」
学園都市か……祖国にも大学を中核とした都市があったが話を聞くにがどうやら私の居た世界とは随分と違うようだ。
キヴォトスでは連邦生徒会が各学園に行政権限を与え都市を運営させて居るそうだ。
学園と云うよりもかつて私が設置した大管区に近い気がするが…
「きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう」
「1つ質問がしたい」
「どうしましたか先生?」
リンの謎の信頼とも言える様なモノが含まれた言葉、そして何故私を先生と呼ぶのか
「何故私の事を先生と呼ぶ?」
私の事を知っているならば総帥と呼んでも先生と呼ぶ事はない。
「……ええと……先生、ですから」
「答えになって無っていないな」
「……」
リンは戸惑った表情を浮かべる。
「いや、怒っている訳では無いただ気になっただけだ……だか私には先生は務まらないと思う」
これは本心だ、私は人に何かを教えるのは向いていない
「……大丈夫です。先生とは、勉学を教えるだけのものではありません」
リンは私を励ます様に言う
「なんだ我が抗争でも教科書にして道徳を教えるのか?」
「……?」
私なりに皮肉を込めて言うがリンには伝わらなかったようだ。
どうやら私の身元を彼女は知らない様だ。
「そのわがこうそう……? と言うものは分かりかねますが……あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですから」
「連邦生徒会長……つまり私をこの世界に連れてきた存在か?」
私は目ざとくリンの言葉に反応する。
「はい、その通りです……ですがそれは後でゆっくり説明することにして」
そうリンが言うとチン、と音がなりエレベーターの扉が開く。
「どうぞ」
とリンが私に先に降りる様に手で催促をする
「すまない」
感謝の言葉を言いながら先にエレベーターから降りる。
到着した階層は細かく言えば違うのだろうが端的に言えばフロントである。
エレベーターの扉が開くと喧騒が耳のなかに駆け込んでくる。
(騒がしいな……)
自害寸前の防空壕の中での日々を思い出す。
罵詈雑言が飛び交い時には乱闘騒ぎにもなった、今思えば敗けて当然だったと思いをふけていると
「ちょっと待って! 代行! 見つけた、待ってたわよ! 連邦生徒会長を呼んできて!」
濃い青色の髪色の少女が畳み掛ける様にリンに詰め寄る様に話し掛ける。
すると私が居る事に気付いたのか少女はリンに疑問を問いかける。
「……? リン、隣の大人の人は……?」
リンが青髪の少女の質問に答える前に更なる乱入者が現れる。
「主席行政官。お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
黒髪の長身のスナイパーライフルを持つ少女とブロンドの髪に眼鏡を掛けたハンドガンを持つ少女やその他大勢の少女達の存在に気付く。
人を殺す為に人の手によって作られた銃を平然とした顔で持つ少女達の前に身体が硬直し、会話の内容から穏やかな雰囲気では無い事位は私にも感じ取れた。
(…どうやら状況はかなり不味そうだな)
心臓の鼓動が疾くなるのを感じていた。そんな私とは裏腹にリンは心底面倒くさそうな顔で。
「はぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」
とそばにいる私にしか聞こえない小声で言う、彼女はどうもこの様子を想像していた様で、多くの銃を目の前にしても慌てた様子は無くそれどころか、周りの少女たちの落ち着きのなさに呆れてすらいるように感じた。
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん」
その言葉にはトゲがあった
(…あの紳士の国の連中が聞いたら喜びそうな言葉選びだな)
と私は感心しているとリンが一呼吸置いてから言葉を再開する。
「今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」
「そこまで分かってるなら何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ! 数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ! この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
と青色の髪の少女が声を荒げながらリンを問い詰める。
(学校に発電設備があるのか……)
学校に発電設備がある事に驚くが驚くのはそれだけではなかった。
それに続くように黒髪の少女やブロンド色の髪の少女が言う。
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したとの情報もありました」
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
と物騒な事が聞こえ思わず泡を吹いて卒倒しそうになる
(学校に矯正局……? スケバン……? 戦車……? ヘリコプター? 武器? ……? だと? 治安はどうなっているんだ!?)
「……連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
「……え!?」
「……!」
「やはりあの噂は……」
とリンの言葉に三者多様な反応を返す。
(私を連れてきた存在は今は不在なのか……)
先程リンに連邦生徒会長の話題を茶化された理由が理解し胸に突っかかっていたモノが取れた様な気がした。
リンは眼鏡を直しながら更に言葉を淡々と冷静に続ける。
「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした」
「それでは、今は方法があるということですか、主席行政官?」
リンの言葉に黒髪の少女が反応し返答を求めるとヒトラーにリンが視線を向けるとそれに伴って私に視線が集まる。
(……そういう事か……)
「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」
リンの言葉を聞き少女達が口々に言い出した。
「この方が?」
「ちょっと待って。この先生はいったいどなた? どうしてここにいるの?」
「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」
「はい。こちらの先生は、これからキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です」
とリンはさも当然の様に冷静に答える。既にそのキヴォトスで先生として働く事はリンの中では決定事項の様だ。
「行方不明になった連邦生徒会長が指名……? ますますこんがらがってきたじゃないの……」
青色の髪の少女は額を抑える。
リンに視線を向けるとリンと視線が合った
名乗れとアイコンタクトしている様だ。
(…人遣いが荒い)
「こ私の名前はルドフル・ヘドラーだ、ルドフルでもヘドラーでも好きに呼んでくれ」
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……い、いや挨拶なんて今はどうでもよくて……!」
青色の髪の少女の律儀な反対に私は好感を覚える。
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」
「誰がうるさいって!? わ、私は早瀬ユウカ。覚えておいてください、先生!」
と青色の髪の少女は早瀬ユウカと名乗った。
(ハヤセユウカ…極東の方の名だな)
「あぁ、覚えるともよろしく頼むよ」
握手の手を差し出すとユウカは困惑しつつ手を握りかえす。
その様子を見ていたリンがそれを断ち切る様に口を開き言葉を次にした。
「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました」
リンがそう言うと、手元のタブレットを操作して私に画面を見せる。
そこに表示されたのは『S.C.H.A.L.E』という文字と、その地点を指し示す地図だ。
「連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることも可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動を行うことも可能です」
「ふむ…随分と強力な権限を持つ機関だが…」
顎に手を当てながら画面を見つめる。特務警察と似たようなものか…?
「なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……シャーレの部室はここから約30㎞離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に「とある物」を持ち込んでいます」
リンは手元に持つタブレットを更に操作して、目標となる地点までのルートを指し示す。
この地図の見方はよく分からないが現在地点から目標地点から遠く離れている事は分かった。
(歩いて行くには遠そうだな…)
「先生を、そこにお連れしなければなりません」
そこで、再びタブレットを──今度は通信端末として幾度か操作し、此処には居ないであろう人間に、リンは声を掛けた。
「モモカ。シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけれど……」
「モモカとは誰だの事だ?」
「すみませんが先生少し静かにして下さい」
「…すまん」
しょぼんとしているとタブレットからホログラムが現れ【モモカ】と呼ばれたトカゲの様な尻尾や謎の角の様なモノが生えた少女が写し出されたのだ。
(これは…薄々感じていたが凄まじい技術力だ…)
『シャーレの部室? ……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?』
「大騒ぎ……?」
『矯正局を脱出した生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』
モモカはケロッとした顔で言う。
「……うん?」
『連邦生徒会に恨みを抱いてる、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』
(……巡航戦車…歩兵戦車の事か)
再軍備の一環で国産の戦車を作る際に誕生した戦車達の姿を思い出す。
『それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものがあるみたいな動きだけど?』
「……」
『まあでも、とっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ごはんのデリバリー来たから、また連絡するね!』
ぶちりと通信を切断しホログラムは散布した。
緊張してるのかしてないのかよくわからない通話だった。
ふとリンの方に視線を向けると……其処には
(!?)
鬼がいた。
顔に青筋が走っており、今にも爆発しそうな形相だった
(リンを怒らせるのは辞めた方が良いな…)
と心に誓うのだった。
(気の立っている女性には…機嫌取りが良く効くはず…)
「私に何か出来る事はあるか…?」
「……だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません」
突然リンの顔が変化する。
何かに気付いたように。
何か妙案を思いついたかのように。
非常にあくどい顔をしたリンは、先ほどまでの面々、早瀬ユウカたちをじっとりと見つめる
「……?」
「な、何? どうして私たちを見つめてるの?」
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
リンは眼鏡の位置を直しながら言う。
「……えっ?」
ユウカが困惑した声を上げるが無視して更に畳み掛ける様に言う。
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」
「ちょ、ちょっと待って!? どこに行くのよ!?」
言い切るやいなや、素早く歩き出すリンと、それを追いかけるユウカたち。
(……やり手だな…リンは…)