キヴォトスの独裁者   作:坂間

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独裁者は信じる者を信じる

 

 シャーレの地下へ向かう途中でリンから渡された端末が振動し1件の電報が送られて来た。

 

 

『今件の騒動を引き起こした首謀者が判明しました。生徒名:狐坂ワカモ。百鬼夜行連合学院所属で度重なる校則違反を行い矯正局に拘束され停学になったモノの矯正局を脱走した生徒です。』

 

 

その電報と共にワカモの画像と罪状が送られて来た。

 

 

 かつての極東の盟友であった国の伝統衣装に近いモノを装い、長い黒髪。特徴的な面。罪状は暴行罪に器物損壊罪、建築物破損罪、強盗致傷罪…随分とテロリズムが好きな生徒の様だ。

 

私もかつて国家転覆を試み一揆を起こした身柄故に親近感を覚えてしまう。

 

そんな事を考えている内にシャーレの地下室の入り口らしき所に着くが何やら先客が居るようだ。

 

 

「うーん……これが一体なんなのか、まったくわかりませんね。これでは壊そうにも……」

 

 

先程送られて来た情報の生徒と酷似した少女がタブレットと呼ばれる機械端末に酷使した板を叩いたり揺らしたりしている。

 

 

「あら…?誰かいらっしゃるのですか?」

 

 

隠れていたのだが私の血の匂いに気付いた彼女は、血の匂いのする方向へ身体を向ける。

 

やはり彼女も銃を装備している。装飾が施された銃剣付きの長身のライフル…拳銃と違って1発でも貰えば当たりどころ構わず命に関わりかねない。

 

 

最悪の状況だ目標地点に最も危険度の高い相手が居るとは、リンの情報からワカモは高い戦闘能力を保持していることが分かる。拳銃は腕を撃ち抜いた時に思わず投げ捨ててしまったし仮に拳銃があった所で銃弾1発で死にかねない私では天地がひっくり返っても勝てない。

 

正面突破が無理ならば口先で丸め込むしかあるまい

怯えを見せるな声を震わせるな堂々とした立ち振る舞いで話せ。

 

 

「私だ、私の名前はルドフル・ヘドラーと言う。君の名前を教えて貰えないか?」

 

 

 

物陰から身体を出し片手をポケットに入れながらもう片方の手で自慢のカイゼル髭を撫でながら名乗る。

 

 

まずは挨拶

今の私にあるのは独裁者としての経験…は今は役はたたん、実質自分の命だけしか頼れるものがない。

正直、ほぼ詰みだ。

 

だが

 

「あら、あららら……」

 

 

 と言うだけで、銃を向ける動きも、逃げ出す動きも、返答する気配すら見せない。

 

 

彼女からの反応がない以上、コチラから畳み掛ける他ない。

 

 

「どうしたお嬢さん、具合でも悪いのかね?」

 

 

私が更に彼女に近付こうとすると

 

 

「あ、ああ……し、し……失礼いたしましたー!!」

 

 

 悲鳴に近い声を上げて、何故か仮面を押さえながら蜘蛛の子を散らす様に一目散に逃げていってしまった。

 

私は彼女が逃げ出す際放り投げたタブレットを何とかキャッチする。

 

聞いていたよりも随分と大人しい娘だったな…それより何が目的で此処に…

 

 

するとワカモと入れ替わる形でリンが地下室へと入ってくる。

 

 

「……? 何かありましたか?」

 

呆然とする私の姿を見るや彼女は疑問の表情を浮かべている。

 

言うか言わないか…ほぼ無理矢理一人で此処に来た以上ワカモがいたとなれば面倒な事になりかねん。

 

 

事情聴取にあの4人からも小言を言われるに違いない。

私は時間の浪費が嫌いだ。

 

 

「いや何も、所でこれが目的のモノかね?」

 

「えぇそうです…」

 

 

先程空中キャッチしたタブレットもどきを彼女に手渡そうとすると手で拒否される。

 

 

「これは先生が持っていてください。」

 

「何?」

 

「これは連邦生徒会長が先生である貴方に遺した『シッテムの箱』です」

 

一呼吸置いて話を続ける。

 

「普通のタブレット端末に見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明」

 

「…ふむ」

 

「連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」

 

 

「…確証はないのか」

 

 

リンは俯きながら答える。

 

 

「…はい」

 

 

よほど緊迫しているのだろう、私というロクでもない大人に全てを託すほど。その連邦生徒会長は見る目が無い、悪の独裁者である私を連れてきてしまうのだから。

 

今迄の人生を信念を否定し

罪を償い

罰を受け

先生として

良き大人として

私は生きることなど出来ない。

 

それをしてしまえば私を信じ泥濘の中に身を投じた兵士を叫び火の海に焼かれた民を否定する事になる。

 

それをしてしまえば私は本当に何者でもなくなってしまう。

何処までも保身に走る私が生徒を導き救う?面白い冗談だ。そんな私にこの『シッテムの箱』を起動させる自身など無い。

 

 

「…何故私は先生に選ばれたのだろうか?」

 

 

「それは…連邦生徒会長がお選びになられたからです。」

 

 

「一度も会ったことのない私を、か?」

 

 

「……」

 

我ながら大人げない質問だ、自分の娘のような年頃の少女に行き場の無い何かをぶつける。

 

「…ですが事実、貴方は此処に来る際、彼女達を導きました。それが証明なのではないでしょうか」

 

「…!」

 

リンは真っ直ぐ私の目を見つめながらそう言い切る。

 

 

何故そこまで会ったばかりの私を信頼出来る?

連邦生徒会長が選んだから?

違う、彼女は私の行動を見て私を信じると決めたのだ。

 

眩しい、どうしようもなく眩しくて仕方ない

私はこれ以上言葉を返すことができなかった。

 

 

「…………では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかっています」

 

リンは静かに後ろに下がる

 

…私は先生ではない、悪の独裁者だ。

独裁者ならば自分を信じる者を信じなくてはいけない。

 

ならば精一杯足掻こう、その先に何が待ち受けていたとしても後悔しないように

 

それが…独裁者の責務なのだから。

 

 

「七神、いや…リン、一つ訂正する事がある。」

 

 

「?」

 

 

リンは突然の私の言葉に首をかしげる。

 

 

「私は先生ではない、独裁者だ。」

 

 

そう言い私は画面に触れた。

 

 

 

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