キヴォトスの独裁者 作:坂間
サンクトゥムタワーが再起動した後に始動したシャーレの部室の中、私は一つの報告書を手に取る。
「上手くいったな」
嘘ではない、確かに権限はリン達に引き渡したがソレよりも今の私に必要なモノを手に入れた。
各学園へのパイプ役だ。
私がサンクトゥムタワーの制御権を渡すさいに連邦生徒会に提示した要求は三つ
・各学園の生徒を一人ずつ日替わりでシャーレの臨時部員として派遣すること。
・派遣する生徒は学校運営に関わる組織に属していること。
・シャーレにいる間は武装を解除させること。
の三つのそれだけ。
リンはもっと過激な要求をされると思っていたようで目を丸くしていた。
余所者の私から見ても【シャーレ】とは各学園から見て目障りな存在だ。
キヴォトスの勢力図に突如として現れた特異点。連邦生徒会長によって付与された権限のもとに、あらゆる規約や法律による規制や罰則を免れる超法規的機関。
危険な組織だ、かつて私が創り上げた【秘密警察】と酷似している。
故に各学園が恐れ排除の動きを見せるだろう。
だがらその前に手を打つ。
その為の取引
人は蜜に弱い
どれだけ危険なモノであっても。
権力と云う甘美な蜜の前には人は盲目になり、理性を失い、最適解を見失う。
各学園の生徒を派遣させることでシャーレの動きの透明化によって各学園の不信感を稀釈させる。
そして各学園は争う、シャーレにおける影響力を
そうすれば自ずと私を排除すると云う動きは鎮まっていく。
片手に持ったカップに注がれた珈琲を一口含む。
苦い香りが口内に広がるが微かな甘みが其処にはあった。
◆◆◆
「生徒の派遣ですか…」
あるものは冷酷に
「キキキ!お前がこの座に座るまでにキヴォトスを支配下においてやるからな!」
「?」
別のものは牙をむき出し残虐に嗤い
「ほぉ…妾を試すか」
一人は隠された意図を見抜き
「先生にホンモノの髭が生えているとは本当なのか!?」
または全く別な事に目を輝かせ
「そう…勝手にしなさい」
何も興味を抱かず
「ん、誰かを派遣すべき」
「いや、この状態でムリに決まってるでしょ!?」
各学園を巻き込んだ静かな動乱がこのシャーレを舞台に始まろうとしていた。
◆◆◆
「で?この無駄遣いは何ですか?」
そして現在進行系で私はその選択を後悔していた。
約定に基きミレニアムから派遣されたユウカに徹底的な程にまで何故か家計を管理されていたからだ。
「…無駄遣いではない、効率よく仕事を行う為に必要な嗜好品費だ。」
「一本1000円以上もするシガレットが、すか?」
「………」
反論出来ない…いや、待て流されるな!自分の給料を何に使おうが勝手だろう!
「それでお金が無くて安い廃棄処分用の弁当を食べてるからそんな今にも死にそうな顔色なんですよ!あと匂いが書類につきます!大変なんですよ!?」
それは…そう、だな…うん…
「まさか此処まで先生の給料が低いとは…」
ユウカが眉間を押さえながら言う、私もそう思う激務の割に給料が少ない気がする。
元の世界の教職も給料が低かった。せめてもう少し給料を上げてやるべきだったな…
祖国のかつての教職達の死にかけの顔を思い出す、あれは演技じゃなくて本気で死にかけてたのだと。
その日から私の執務室から灰皿が消えた。
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