イベント【選抜レース前夜】
新年最初の選抜レースの日が近づいている。
一月初め、今年もトレセン学園にはその空気が漂っていた。
めぼしい重賞レースも少ない新年、新しいスターウマ娘の誕生をこの目に収められる(かもしれない)選抜レースというのは、トレセン学園にとって一大イベントである。
自身のライバルを見つけられるかと思うウマ娘、いいウマ娘をスカウトせんと息巻くトレーナー、そして栄光を掴まんとギラつく出場者たち。
学園の身内しか観られないレース、しかし学園内の誰にでも見られるレース。そこで良い結果を出すことは注目されることに大いに繋がる。
いいライバルを、トレーナーを(あるいはウマ娘を)見つけられるか。前評判はどうなるか。それを決める大きなレース、それが選抜レースだ。
勝利を、栄光を、圧倒的な実力を、ただ一人しか座れないその席を獲れるウマ娘を誰もが欲している。"ある意味有マより重要なレース"とは、いったい誰が言い出したものだかわからない。
さて、そんな選抜レースに向かううちの一人であるチコリは寝不足気味が続いていた。
緊張するし、不安が消えてくれない。私だって、ちゃんと人並みに練習してはいる。地力がある。
「……でも、もっと上には上がいます。私の好走は、その天才にとっては凡走かそれ以下になるくらいの、そんな人が」
チコリは真っ暗な夜空を見ながらそう呟く。
「
チコリは知っている。圧倒的な地力を、技術を、熱意をもって走る彼女たちのことを。
そしてその娘たちに勝るものが自分にはないことを、知っていた。
空を覆う黒い雲の向こうから、雷の音が響いている。やっと椅子から動いたチコリは窓とカーテンを閉めて、布団に潜り込んだ。
「きっと明日は重バ場か不良バ場になるのでしょうね。嫌だなあ……」
雨は汚れるし冷えるからチコリは嫌いだ。しかもバ場が重くなると脚が減るのが早くなるうえ、スピードが出しづらい。
つまり死ぬほど走りづらい。
まぁいくら嫌だと言おうが眠れなかろうが、時間は進むし、選抜レース本番も迫ってくる。
もうすぐそこまで、その時は来ていた。
スキルヒント獲得:道悪◯(90pt)
スキルポイント獲得:10
スキル獲得
選抜レースに向けて、ヒントを所持しているスキルを獲得します。
汎用スキル・適性C以上のスキルが獲得対象となります。
なお長距離レースは開催されないため、《距離:長距離》スキルは除外します。
所持スキルポイント:290pt
集中力 lv.1(140pt) →取得成功(290pt→150pt)
道悪◯(90pt) →取得成功(150pt→60pt)
スキル獲得完了
固定イベント【選抜レース】
選抜レース当日、トレセン学園は祭りもかくやといった盛り上がりを見せていた。
部外者は入れないとはいえ、ここはマンモス校・中央トレセン学園。その生徒だけで四桁人数が在籍し、トレーナー・教師陣を含めればその数はもっと増える。そしてその人数の内ほとんどが、選抜レースという次代のスターの第一歩をこの目に収めんと息巻いている。
並大抵のプレッシャーではない。トゥインクル・シリーズほどの観客はいないが、渦巻く熱意はそれ以上のものだ。ゆえに、多くのウマ娘は緊張のとけないままレースに臨む。
そんな選抜レース、チコリの番の最終レースがもうすぐ始まろうとしている。
【選抜レース】
このレースはチコリにとって有利な条件で生成されます。
出場ウマ娘はアプリ版のモブウマ娘から選出され、枠順はランダムで決定します。
〔条件〕
【トレセン学園 芝 2000m(中距離) 右回り 不良】
〔展開〕
スタート/序盤/中盤/終盤/スパート
〔枠順〕
1枠1番:チコリ(逃げ)
2枠2番:トモエナゲ(逃げ)
3枠3番:ブリーズカイト(追込)
4枠4番:ネレイドランデブー(逃げ)
5枠5番:ソワールセレステ(差し)
6枠6番:パラディンソード(先行)
〔ステータス補正〕
バ場適性A→パワー+10%
距離適性B→スピード+5%
脚質適性A→賢さ+10%
道悪○→パワー+40
調子:不調→全ステータス-5%
スピ:91→91
スタ:115→109
パワ:125→171
根性:129→122
賢さ:87→91
『曇天のトレセン学園選抜レース、まもなく芝部門の最終レースが始まります。バ場状態は先ほどまでの雨で不良、厳しい戦いが予想されます。数少ない中距離部門、ここで夢を掴むのは一体誰か。一枠一番チコリ、ゲートに向かい始めました』
『落ち着いていますが緊張が伺えます。隈もありますし、どうなることでしょう』
……やっぱり隠せていなかったらしい。
調子も落ちたままだし厳しいかもしれない、とチコリは考える。
『二枠二番トモエナゲ、落ち着いた様子でとくに問題なくゲートイン。三枠三番ブリーズカイト、少々苛立ちが見えるもののゲートインは完了。』
『待機時間が長かったからでしょうか、だいぶ落ち着いている娘が多いですね。しかし戦意を削がれていないか心配です』
『四枠四番ネレイドランデブー、待たされたせいか尻尾がだいぶ荒ぶっています。五枠五番ソワールセレステ、堂々とした様子。六枠六番パラディンソード、耳が少し垂れていますが……落ち着いてゲートインしました』
全員がちゃんとゲートに入れたらしい。
チコリは一枠一番の最内枠、逃げを(相対的に)得意とするチコリにはありがたい枠順を引けたことになる。あとはファンファーレが鳴り止むのを待つだけだ……が、唐突にゲートを叩く音が聞こえた。
『おっとネレイドランデブー、尻尾でゲートを叩いています。あーそれに反応したかブリーズカイト、ゲートの壁を叩き返しています』
『あぁ、すぐに落ち着いた様ですが……。しかし、これはいけませんね。ほぼ全員、集中力が削がれている模様です』
『殆どの娘が耳を絞っている様子。これはどうなることでしょうか』
ファンファーレが鳴り響く。騒音も落ち着き、チコリは集中を切らさずにスタート準備をする。
『まもなく始まります、第一回選抜レースの芝部門最終戦。トゥインクル・シリーズ行きの切符を賭けた六人の戦いです。ゲートイン完了、出走の準備が整いました』
スタート判定
難度40 *0.9(集中力lv.1) =36
賢さ:91
d>91(大成功)
『一番チコリ、華麗なロケットスタートを決めた。三番ブリーズカイト、四番ネレイドランデブーは揃って出遅れ。それ以外は揃ったスタートを決めました』
完璧なスタートを決められた。一つの懸念事項が消えたことにチコリは安堵する。
トップスピードに劣り、バ郡を苦手とするチコリにとってスタートの出来は死活問題だ。強いパワーでハナを奪い、スタミナと勝負根性でずっと抜かれないようにする、それ以外の選択肢をチコリは取ることができない。バ郡に沈んだが最後、チコリは無様に負けるだろう。
勝つために、チコリは脚に力を込める。
序盤の行動/チコリ:全力でハナを奪う
難度:40 +10(不良バ場)=50
パワー:171
d>162(大成功)
『熾烈な先頭争い、制したのはチコリです。力強い踏み込みでハイペースな展開。五バ身ほど離れてトモエナゲ、一バ身差パラディンソード、半バ身ネレイドランデブー、二バ身ソワールセレステ、最後方にブリーズカイト。……おっとあがってきたネレイドランデブー、パラディンソードを抜いてソワールセレステに迫りますがスタミナ温存か、一バ身ほど後ろで落ち着きました』
『思ったより早く決まりましたね。しかしまだレースは残っていますから、ここからどうなるかです。特にチコリ、早くからスタミナを使い切ってしまわないでしょうか。心配ですね』
特に問題なくチコリはハナを奪う。
脚を多少使ったがこれくらいなら許容範囲内のはずだ。最内枠でロケットスタートを決められたおかげで、一番いいコースを走れている。バ場は結構な荒れ具合だが、それはもう予測済みだ。
逃げを選んでいるのはチコリ含めて三人、このレースは六人立てだから実に半分が同じ戦法ということになる。しかし、大逃げを選んだチコリと普通の逃げを選んだ二人では大きな差がついている。
このまま突き離せば勝てるかもしれない、チコリはそう確信した。
ターン終了/消耗処理
高速:4%/加速:2%/ロケットスタート:-2%/逃げA:-1%
消耗合計:3%(-3)
スタミナ:109-3=106
中盤の行動/他のウマ娘
ネレイドランデブーがハナを狙う:成功
『おっとここで加速してきたネレイドランデブー! トモエナゲを追い抜いてチコリに迫ります! その差はもう二バ身といったところでしょうか』
『これは掛かっているかもしれません、大丈夫でしょうか』
ふいに、後ろの足音が大きくなる。後続の彼女が速度を上げてきているのだ、と振り向かずともわかった。
ネレイドランデブー⋯⋯といったか、私と同じく逃げウマの娘。
「その場所っ、譲りなさいよ!」
風にかき消えながら、怒号がチコリの耳に届く。ウマ娘の力で蹄鉄が芝生と地面を抉る音が、踏みしめたターフから伝わってくる。もうリードがそこまでないようだ、とわかるほどに段々とその衝撃は近づいてくる。
(追い抜かれたくありませんね⋯⋯)
一瞥して、また前に顔を戻す。後ろを見ても速度が落ちるだけだからだ。チコリにとってそれは避けたい。
リードを奪い返すために、チコリはまた脚に力を込める。
中盤の行動/チコリ:もっともっと加速する
難度:40 +10(不良バ場)=50
パワー:171
d>67(成功)
『しかし追い越させてくれません、チコリ! 絶対に詰めさせないという気迫で後続を突き放す!』
『すごいパワーですね、もう五バ身リードに戻しましたよ』
スタミナ消費がなんだとばかりにチコリは加速する。なにがなんでもハナは奪わせてやらない、奪われたくないから。チコリにとって唯一の勝ち筋を辿るために、この脚は緩められない。
(このレースに私は勝ちたいんです! あなた達に負けるわけにはいかない……ッ)
『ハナを走るチコリ、しかしその顔は苦しそうです』
『やはり消耗しているのでしょうね、強い踏み込みでしたから』
ちっ、と舌打ちが聞こえた気がした。気づけば、あの強い音がもう聞こえなくなっているではないか。
リードを無事、奪い返せたことにチコリはそっと胸を撫で下ろした。
『おっとネレイドランデブー、後方へゆっくりと沈んで行きます。流石にあの加速は無理があったのでしょう』
どうやら後続のバ郡にあの娘は沈んでいったらしい。
チコリはまた前だけを向いて、稼いだリードを奪われないように脚を回す。
ターン終了/消耗処理
高速:4%/再加速:3%/逃げA:-1%
消耗合計:6%(-6)
スタミナ:106-6=100
終盤の行動/他のウマ娘
パラディンソードとソワールセレステが位置を上げ始める:成功
ブリーズカイトがスパートを始める:成功
『さてここから終盤、最終直線へと入っていきます。そしてここで後続三人が位置取りを上げてきた!』
『このコーナーを越えた先にゴールがありますからね、ここで差をつけたいところでしょう。このカーブが無事に曲がりきれたら、ですが』
ここはトレセン学園内のレース場、その中でも指折り急角度のカーブを描くコーナーを持つ場所である。
スピードに乗ったままだと遠心力で振り落とされ、内ラチ付近を走ろうとすればスピードを落とさざるを得ない。
(内ラチ付近は無理があるでしょうね⋯⋯少しそとへ
出たその時、後ろが見えた。
突き放して置いてけぼりを喰らわせたはずの顔が、もう二バ身もないところまで来ている。
出遅れて、しかもその前にゲートインで問題のあったあの娘がいる。
調子の悪そうだったあの娘も、その娘も、みんな、追い上げてきている。
あんなに綺麗にスタートできたのに、あんなに突き放したはずなのに、本物の輝きがもうすぐそこまで来ている。
あの娘が私を追い抜いていく。私は所詮、スピードのでない逃げウマだから、ハナにいた私を抜いたら勝てるから。ゴールを目前にした今、きっとその目に私は障害物としてしか写ってないんだろう。
でも、
「づっ⋯⋯あぁぁ!!」
右脚を、力任せにターフに叩きつける。
あなたたちは私をライバルとは認めないだろうし、それで多分あってる。私みたいなやつとあなたたちじゃ、そもそもここで走ってる理由からして違いすぎるから。
でも、それは私が足を止めていい理由たりえない。
終盤の行動/チコリ
追い縋る+スパート判定
難度:40 +10(不良バ場)=50
パワー:171
スタミナ:100
根性:122
d>41(失敗)
d>32(失敗)
d>117(大成功)
『追い抜いていきますパラディンソード、続く形でブリーズカイトとソワールセレステ! 逃げ集団は埋もれていっているようです』
『ブリーズカイト、いい末脚ですね。もうあそこまで追いついています』
それは私が諦めていい理由じゃなくて、あなた達に追いつきたい理由だから。あなた達と戦って、走って、その上を行かなきゃいけないから。
「だからっ、さぁ! 舐めないでっ、て、言ってんでしょっ!」
もう、脚は使い切った。スタミナもすっからかんだし、これ以上はもうどうやっても追いつけない。
脚が重い。
腕が振れない。
その背中を、きっと私は越せない。
でも、私は諦めない。
ゴール目前、無い力を振り絞って前に進む。
スパート判定/全ウマ娘
チコリ >自動失敗
トモエナゲ >大失敗
ブリーズカイト >大成功
ネレイドランデブー >成功
ソワールセレステ >成功
パラディンソード >成功
『すごい末脚だブリーズカイト! 全員差し切っていま一着! その後三バ身差パラディンソード、三着四着もつれてソワールセレステとネレイドランデブー、二バ身差チコリ、アタマ差でトモエナゲの順でゴールイン!』
『すごい追い上げでしたねあれは。ブリーズカイト、これからが楽しみですね』
結局、意味をなさない足掻きではあったが。
チコリがゴール板を踏み抜いたその時、他の娘はもう息を整え始めていた。
みんな、私を追い抜いて行った。歯牙にもかけてないツラして、涼しい顔で。
「はは、っはぁ、──ゃっぱり、無理でした、かぁ⋯⋯」
着順、5着。下から二番目で、ぎりぎり掲示板に入ってはいるが、下とはアタマ差。つまり、チコリは負けた。それも完膚なきまでに、地力の違いを見せつけられて、負けた。
悔しい。悲しい。でも、不思議と涙は流れてこなかった。汗を流しすぎたのかもしれないと判断したチコリは、控室への道を急ぐ。
リザルト
着順:5着
成長:全ステータス+3・スキルポイント+50
経験値:芝・中距離・逃げ適性+3
調子:普通
固定イベント【スカウト】
競争ウマ娘というものは大抵の場合、チーム所属か専属トレーナー付きであることが多い。
トレーナーはウマ娘の心の拠り所となり、良き理解者や保護者にもなってくれて、トレーニングの無駄やら無駄な手続きも減らせる。それにまず、トレーナーがいないとレースの出走登録ができない。
いろいろな意味でトレーナーはウマ娘にとって必須の存在だ。
さて、選抜レースの終わったチコリに対するトレーナーからのスカウトは0件である。妥当な結果だ、と苦虫を噛み潰したような顔でチコリは思案していた。
選抜レースで勝てなかった以上、スカウトされるというのは絶望的なことである。もっとも、着順以上の素質や天性のスター性でも見てもらえればされないことはない⋯⋯が、それは『たられば』の話であり、チコリにはそんなものは無い。
しかし、次の選抜レースは春、四月開催。そうなると今年中のメイクデビューは難しいうえ、一度負けたウマ娘しかいない都合上、だいぶと⋯⋯いや、けっこうギラついた顔つきのウマ娘が多い。
チコリとしては、そんなものは真っ平ごめんだ。
「ふぅー⋯⋯。よしっ」
息を吐き、パイプ椅子から立ち上がる。いつまでも控え室に居続けられるわけではないのだ。
とにかく、どうするべきか──
【チコリの行動】
1>野良トレーナーを逆ナン
2>やけ食い(二度目)
3>トレーニング
d>1(野良トレーナーを逆ナン)
その時、チコリの上から天啓が降ってきた。
こっちがスカウトされないのなら、チコリの方からスカウトすればいい。
そもそも、べつにウマ娘がトレーナーをスカウトしてはいけないなどというルールは存在しないのだから。
「⋯⋯いいアイデアですね。そうと決まれば善は急げ、早速行くとしましょう」
控え室の扉を開け、人気の少ない廊下に蹄鉄の音を響かせながらチコリは歩く。まだ見ぬ自分の専属トレーナーに想いを馳せながら、さっきの敗北が嘘のように綺麗な笑顔を浮かべながら。
0
⋯⋯と言ったはいいものの、この時期、選抜レースの直後に手が空いていてフリーのトレーナーというのは結構少ない。
トレーナーの数はそもそも多くなく、2000人ほど在籍しているウマ娘の数と比べて、トレーナーの数はその1/4ほどしかいない。
これまでチコリが声をかけてみたトレーナーは、大体が既に担当を持っていた。そうでないヤツはそこはかとない地雷臭が漂っていたので流石にナシ。
「道は長い、ということでしょうね」
自販機が音を立てて麦茶入りのペットボトルを吐き出すのを、チコリは眺めていた。この冬に飲むには冷たいだろうが、飲んで自分の頭を冷やすには丁度いいだろう。軽くとはいえ今からトレーニングもするし。
かしゅっ、と情けない音を立てて蓋が開く。レースでほてった身体に冷たい麦茶が効いている⋯⋯ような気がする。
疲れていたことを改めて自覚した途端、うっすら汗が出てきた。
「あ、タオル忘れてました」
耳がへにょんと垂れる。ジャージの袖で少しは拭えたが、シャワーかせめてタオルが欲しいところである。原因はチコリが用意不足だっただけだが、それとやる気は別問題なのだ。
そのとき、
「であれば、コレ使いますか? 未使用ですけれど」
唐突な意識外からの声にチコリの尻尾と耳が跳ねる。声の方向を向くとそこには一人、男性が立っていた。
【人物生成】
画像メーカーを使用して容姿を生成します。
ただし、
・青肌などの異色肌、エルフ耳
・メイド服、靴ナシ、尻尾など
・どう足掻いても男性に見えない容姿
の場合は引き直しとします。
>生成完了
色が抜け落ちたかのように色の薄い容姿とは対極的に、黒系統の色の服を着込んでいるが着飾っている風には見えない。上着でカサがあるように見えるが細身ですらっとしていて『美形』という言葉がよく似合う人だ。左肩にはショルダーバッグを持っているから、なにか仕事でもあったんだろう、と推察できる。薄い茶色のカラーグラスが結構似合う人だ。
彼の赤色の瞳が自販機の光を反射してきらきらしていた。
手元を見ると、真っ白なタオルが袋に入ったままで握られていた。
「⋯⋯お言葉に甘えて、使わせてもらいます」
おっかなびっくり差し出されたタオルを手に取り、被せられたままの袋を剥がす。粘着テープが剥がれるぺりぺりという音が静かな自販機エリアに響いて、うっすら変な気分になる。
ふわっとした手触りのタオルで顔を拭う。これは結構いい生地を使っているのだろうか、と考えると手が止まりそうになったが、それより拭かないことに対する不快感の方が上回った。というわけで、しっかりとこの手触りを堪能させていただくこととしよう。
またいつか、この人にはちゃんとお礼をしなくちゃ。
「ありがとうございます、こんなにいいタオルをくださって。助かりました」
「いや、お気になさらず。⋯⋯ところで、こんな時間になぜわざわざこんなところに?」
「あー⋯⋯それはですね、」
まさか真正面から『トレーナーが捕まらない』とはさすがに言い難い。チコリが今欲しているのはトレーナーであって同情ではないからだ。それに彼に下心がないとも言い切れない。いくら彼がマトモな人に見えると言ったって、チコリだってウマ娘の自覚はある。
閉口したチコリに何を思ったか、彼が口を開く。
「あの、悩み事でもあるのでしょうか? よろしければお聞きしますが⋯⋯」
彼は眉を寄せ、まっすぐとチコリを見つめていた。
その綺麗な澄んだ瞳には、とてもじゃないが下心なんてものは無いように見える。あと顔がいい。
「⋯⋯いえ、そう込み入った話じゃないんですけど、」
そのとき、あるものがチコリの目に留まる。
彼の上着の左襟のところにきらりと輝くトレーナーバッジだ。
トレーナーバッジ。
難関であるトレーナー試験に合格したものだけがつけることを許される、エリートの証。たまに合格者が出なかったり、合格率がいい時で二割に届くこともないくらい⋯⋯といえばわかりやすいか。
そんなことはともかく、トレーナーバッジをつけているなら彼はトレーナーであるはず。
「どうかされました?」
さっきまで稼働停止していたはずのチコリの脳がクアッドアクセルの練習を始めた。
今は選抜レース直後、それもチコリが走った最終レースから二時間ほどが経っている。つまり、レースで見初めたウマ娘がもういるとするならば、その娘と話し合っているかそれとも契約書を書いているかどうか、というくらいの時間。つまりここにいる
チームでトレーナーをやっているなら、今はスカウトが終わらせたくらいか、もしくはスカウトにそもそも来ないかの二択。もし万が一にもそうならこんなレース場近くの辺鄙な自販機エリアまで寄ることも無いからこれもナシ。サブトレーナーなら尚更のこと。
見た目からしてまだ若い、つまりスカウトの成功率は顔を加味しても五分五分くらいといったところだろう。若すぎるトレーナーはその腕がどうだか判りづらいために避けられる傾向にある。つまり、このトレーナーはスカウトに失敗したか、そもそもしていないかといったところか。
つまり、こんな時間にこんなところにこのトレーナーがいる理由なんてものは『担当も決まらないからふらっとしている』くらいしかないのだ。
チャンスは今、ここにある。
「⋯⋯ぇ、ねぇきみ。どうしたんです、急に黙りこくって」
彼の二人称は『きみ』なのか。意外⋯⋯いや今はどうでもいいことだ。
「すみません、失礼してしまって。ところであなた、担当の娘はいらっしゃるんですか」
「俺の担当ですか? いませんよ、今のところ」
俯いたままで話し始めてしまったが、もはやそれは些事だ。
件の彼には担当バはいないし、言い方からしてチーム所属でもない。つまるところ、フリーのトレーナー。
チコリはゆるりと顔を上げ、このトレーナーを見据えた。上目遣いで、しっかり目を開けて、光を顔に当てて。
「ねぇ、私と専属契約をむすんでくれませんか?」
綺麗な笑顔で唐突に放たれたその言葉は、三十分後に無事叶うこととなる。
つまり、久坂部美雪という新人トレーナーとチコリは無事に契約することができた。
この二人がどんなドラマを生み出すか何も為さずに散りゆくのか、現時点ではまったくもって判別もつかないが、少なくともひとつ、ここに新たな事実が生まれたというわけである。
⋯⋯まったくもってこれは余談であるのだが、世間はその一連の流れを逆ナンと呼ぶ。
専属契約を結びました。
トレーナー【久坂部美雪】のサポート効果とある程度のプロフィールをランダムに生成します。
【プロフィール】
名前:久坂部美雪
性別:男性
年齢:19歳
身長:178cm
象徴的な花:撫子
久坂部美雪は【行動的】です*1
【天然ぎみ】です*2
【秋が好き】です*3
【サポート効果】
トレーニング効果+10%
スキルヒント獲得:逃げけん制 lv.1(130pt) 魅惑のささやき(160pt)
スキルポイント獲得:80
・チコリ
13歳
身長:157cm
体重:非公開
バスト:65
ウエスト:55
ヒップ:70
青毛
【幸運体質】
調子:普通
スピ:94
スタ:118
パワ:128
根性:132
賢さ:90
芝 A(3/50)
ダ C(0/20)
短 C(0/20)
マ F(0/3)
中 B(3/30)
長 C(0/20)
逃げ A(3/50)
先行 C(0/20)
差し E(0/5)
追込 F(0/3)
所持スキル
深呼吸 lv.1
京都レース場×
集中力 lv.1
道悪◯
通算成績:0戦0勝 [0-0-0-0]
主な勝ち鞍:なし