東方日々綴   作:春日霧

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その十三

 月 日 ( )

 

 我ながら馬鹿みたいな話だが、先日日記を書き終えた後ふと思い至って、かなり危ない真っ暗な時間帯に霧の湖まで行ってきた。そしたら案の定蛮奇さんと影狼さんと姫さんがいたので、その三人とも酒を飲んできたというわけだ。

 

 あの三人組とは少々ご無沙汰だったので楽しかったが、さすがに宴会を梯子は身体的というかアルコール的にキツかった。今日一日頭がガンガンしていて、本を返しに行った鈴奈庵でも小鈴ちゃんに「深酒はやめた方がいいですよ?」と説教される始末。

 おっしゃる通りで……。と、年下の女の子に素直に謝る情けない成人男性。

 

 その後そのまま酒に関する本の話に移っていったのは、なんとも小鈴ちゃんらしい、森近君にもよく似た趣味人らしい一面であった。今はまだ森近君の方が勝ってる気もするが。

 

 小鈴ちゃんの長話の切れ目を我ながら上手く見切り、昼ご飯を頂きに軽食屋へ行こうと鈴奈庵を出ようとしたら、なぜだか小鈴ちゃんも付いてきた。

 元々今日は阿求嬢とお食事する約束だったようなのだが、なぜだか俺が二人の分の食事代も払うことになった。いや、確かに俺は成人で尚且つ男性だけれども。

 

 香霖堂はそんなに収入良くないんだぞ。と言い聞かせるように小鈴ちゃんに語りかけるも、まさに暖簾に腕押し。聞く耳持たずにニコニコと微笑んだまますたすたと歩いて行った。

 小鈴ちゃんと出会ってまだ間もないが、少なからず性格は把握している。

 おそらくあの表情は、「親からもらった食費を日暮さんに奢って貰うことで浮かせて、本屋で本を買おう」とでも考えている表情だ。もしくは本を買うためにお金を貯めようとかそんなん。

 

 阿求嬢に小鈴ちゃんという可愛い女の子二人と食事ができるとしても、手痛い出費と言わざるを得ない。どう考えても二人の方が収入多いと思う。だって二人とも一戸建ての家に住んでるもん。俺長屋だし。

 食事中ずっと愚痴ってやったが、効果は全くと言っていいほど見られなかった。二人とも図太い神経をしていらっしゃる。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 昨日たかられた分取り返してやるぜ!

 ……と、意気込んでみても全く意味がないのが香霖堂。きっと売上の折れ線グラフを描いたら線が折れないんだろうなと思う。ゼロで一定。

 あぁ、でもよくよく考えれば、霊夢ちゃんや魔理沙ちゃんのおかげでマイナスにはなってるのかな。損害の折れ線グラフの方が見栄えいいかもしれない。

 

 まぁいずれにせよ、香霖堂は今日も閑古鳥が蝉と共に大合唱であった。

 

 仕方がないので鈴奈庵で借りてきた本をパラパラと読みつつ、時折「暑くなりましたねぇ」とか「扇風機ってあります?」とか奥にいる森近君に向かって話しかけてみたりしていた。

 どうやらまた読書か道具いじりか何かをしているようで、返事が返ってきても所詮生返事というヤツで、俺が声を上げれば上げるだけ、ただひたすらにむなしくなるだけであった。

 

 夏。

 夏と言えば海に川に山だが川と山はすぐそこにあるし危険地帯だし、幻想郷に海はないしそもそも水着が無いとこの間結論付けたばかりだ。海も川も山も却下。

 じゃあ目線を変えて食べ物なんてどうだろうか。

 心太やそうめんや冷奴だろうか。あとは西瓜やかき氷。

 

 かき氷か……。幻想郷にあるだろうか。

 シロップは、昔シロップが流行る前に存在した砂糖を振りかける「雪」というかき氷で誤魔化すとしよう。それか茶屋で餡蜜でもかけてもらうとして。

 ふむ。いいな。この夏の目標はかき氷にしよう。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 今日はイロモノが一つ売れたからもう満足。ちなみに「一人暮らし用の冷蔵庫」である。重要な冷蔵機能が壊れているコイツをどう使うんだろうかと聞いてみると、開けやすいし収納性能も高く、尚且つ見た目も珍しくて面白い。とのこと。

 どうやらただの棚として使うようだ。そういう考えもあったか。

 

 その答えに感心し、次からイロモノを売る時の指針にしようと頭に刻みつつ、残ったイロモノが存在感を出す台車を長屋の井戸の脇に放置して、いつもの軽食屋に昼を食べに行った。

 するとそこにはあの死神さんがいて、近くには妖夢ちゃんもいた。

 

 なるほど、刃物コンビか。と俺が感心しつつ近くの席に座って定食を頼むと、俺に気付いた妖夢ちゃんが挨拶をして、小野塚さんも俺を覚えていたようで挨拶をしてくれた。

 席の離れ具合で薄々勘付いていたが、どうやら二人とも初対面のようだった。

 

 今日もやっぱり壁に鎌を立てかけている小野塚さんに興味津津の俺だったが、今回もタイミングが悪く、俺の頼んだ定食が出てくる前に昼を食べ終えてしまった。

 「お前さんも間が悪いね。悪いけどこれからサボ……仕事なんだ。それじゃ」とカウンターにお代を置いて颯爽と去っていった。何となく小野塚さんの性格が掴めた気がする。

 

 その後、この時期になんでそんなもん食べてるんだろうと不思議に思えるほど熱そうなうどんを、ふうふうと冷ましつつ食べている妖夢ちゃんと、しばし無駄話をしながらの昼食と相成った。

 本当なんであんなうどん食べてたんだろう。

 

 うどんが熱かったせいか、後から来た俺が定食を食べ終えるのと同時くらいに食べ終えた妖夢ちゃんが、相変わらず大量の買い物袋を携えていたので「冥界まではいけないけど、人里を出るところまでくらいは荷物持ってあげるよ」と、久々に成人男性らしい親切ができた。

 なんというか、同年代に見える霊夢ちゃんや魔理沙ちゃんや咲夜ちゃんに比べて、妖夢ちゃんはかなり素直な性格に見える。あの三人はどことなく擦れてるというか、大人びているからなぁ。いや、魔理沙ちゃんは中途半端かな。

 

 久々に年長面ができて満足していた俺は、結局冥界へと帰っていく妖夢ちゃんが見えなくなるまで、宴会について話を聞くことをすっかり忘れていたのだった。

 帰り際に聞こうと思ってたんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 日中香霖堂勤務だったので蛮奇さんに酒を買ってきてもらったのだが、案の定手間賃を取られた。遠慮が無いのは親しみの証拠ということで納得しておこう。うん。寝ている友人に頼んだのが悪かったのだ。

 できればお金に余裕のある時だけにして欲しいというのも正直な気持ちだが、伝わることはないだろう。

 

 このままでは少ない金を根こそぎ奪われかねん。と思い蛮奇さんに対妖怪用の用心棒を頼まず、そろそろ霊夢ちゃんに新しいのと取り換えてもらおうかなと思いつつある例のお札を懐に仕舞って、宴会会場へ赴いた。

 なんで会場には人(じゃない奴の方が多い気もする)がたくさんいるのに、博麗神社への道は草が生い茂っていて歩き辛いのだろうかと愚痴にも似た疑問を吐き捨てつつ神社の長い階段を上って行ったが、どうやら彼女らは皆飛んでくるらしい。

 ずるい。

 

 いくら幸運になっても空は飛べないな。無理。

 

 でもよくよく考えてみれば、別に皆空を飛ぶという能力を持っているわけではなかったはずだ。すなわち、空を飛べるというのは異端の必須スキルなのではないのかと思える。

 つまり俺にも空を飛べる可能性が。

 ……なんとなく怖いし、地に足付けてる方が人間らしいから飛ばんでええわ。

 

 宴会自体の方はいつもと変わりなく、三日置きなんて頻繁に宴会やってるのに話す話題あるのかよとか思ったりもするが、いつも通り無駄話に花を咲かせてその花をつまみに酒を飲んでいた。

 ……我ながら上手い喩えだ。誰かに自慢したいくらい。

 

 今回は魔理沙ちゃんがしかめっ面をしていた。霊夢ちゃんがそれとなく構ってあげて機嫌を直していたが、やっぱり毎回何かある奴がいるんだよなぁ。

 何かやってきてるのかな。俺にはさっぱりわからんけど。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 朝目覚めたら目の前に蛮奇さんの顔があった。

 で、驚いて飛びのいたら飛びのいた先にも蛮奇さんの顔が浮いてた。

 

 驚きすぎて逆に冷静になり、首一つを抱き枕にして再び寝てやろうとして、慌てふためく首を抱きしめて布団に入った辺りで、同じように慌てた様子の蛮奇さん(首と体の完全体)が部屋にやってきた。

 

 仕方なく起きて話を聞いてみると、どうやら夏らしく人を驚かしてみたらしい。

 いつもの湖の畔の宴会で思いついた話なので、当然のように相手は俺に決まったが、俺は蛮奇さんと仲もいいので普通にやっても驚かれないだろうとのことで、寝起きを狙ったのだそうだ。

 

 いやまぁ、確かに首がいくつも浮いてるのは驚いたけども。というかその首増えるんですね。最近のろくろ首ってすごいんですね。驚きました。ええ。

 

 その後「普通人の頭抱えて寝ようと思う?」とか「日暮にはデリカシーってものが足りない」とか文句を言いつつも、一応俺を驚かせられたことに満足している様子の蛮奇さんと朝食を食べた。

 そもそも普通寝起きの友人を驚かそうとしますかね?という反論が喉元まで出かかったが、蛮奇さんはろくろ首なので普通なんていう言葉は通じないだろうと思い堪えた。

 

 食事中、蛮奇さんが伸びてきた俺の髪を見て「そろそろ髪切らないの?」と言うので、「まぁ気が向いたら散髪にでも行ってくるんじゃないかなぁ」と適当に返していたら「私が切ろうか?」と目から鱗というか寝耳に水というかなんかそんな感じの驚きの返事が返ってきた。

 

 清々しい夏空の元、気心の知れた女友達に髪を切って貰う。

 うわ、なんだこの一文。すごい青春してる。学生時代より青春してる。

 

 聞けば、蛮奇さんは首が取れるということと首が増えるということを利用して、自分で自分の髪を整えている上に、最近では影狼さんの髪なんかも整えたりしているらしい。

 妖怪って凄いんだなぁと、幻想郷に来て何十回目になるか分からないような凡庸な感想を抱いた後、是非お願いします髪を切ってください。と頼み込んだ次第である。 

 

 んでその後、夜行性蛮奇さんが夜まで眠りについたので、俺は一人寂しく貸本屋とか道具屋とか色々冷やかして回って、今日は日が暮れた。実に休日らしい休日だったと言える。

 

 この後に蛮奇さんたちの小規模な宴会にお邪魔する予定である。最近宴会だらけで、胃がアルコール漬けになりそうで怖いくらいだ。少し自重しようと思う。

 けど、彼女らの宴会は博麗神社の宴会よりよっぽど気が楽だし平和的だから足を運びたくなる。ろくろ首と人狼と人魚と人間だけど。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 この一年、幻想郷で俺は酒に強くなった気がする。

 まぁ覚えている限りでは両親とも酒に強かった気がするし、無事その遺伝子を引き継いだという事だろう。よかったよかった。酒が飲めない身体なんて今になって考えると耐えられん。

 

 昨日蛮奇さんと霧の湖に酒を持って歩いて行く時、蛮奇さんがかさばる荷物を持っていたのでもしやと思っていたら、案の定霧の湖で髪を切ってくれた。

 夏空(昼間)の元っていう俺の想像はちょっと変更せざるを得なかったわけだが、星空の下っていうのもロマンチックでいいんじゃないかな。……散髪にロマンチック?

 

 夜が明けて帰宅して仮眠をとった後、鏡を見て頭を見てみれば、慣れているというだけの事はあり綺麗な仕上がりだった。偏見だが、こういうのはやっぱり女性の方がセンスがあるのではないだろうか。

 

 うんうんと満足げに鏡越しの髪を眺めてから、ちょっと早い気もするがいつものお店に足を運んで、いつも通りの定食を食べた。もはや常連である。美味しいし値段が丁度いいので仕方が無い。

 あの死神さんと会えないかなぁと僅かながら期待していたのだが、どうやら今日は来ていないようだった。非常に残念。

 

 食後、目的もなく人里をぶらついていると、いつぞやにプレゼントした私服を着た咲夜ちゃんに遭遇した。プレゼントしたと言っても、俺には女性の服なんぞ欠片も分らないので、その服屋の店員に選んでもらった服である。

 まぁ俺の趣味も少なからず入っている。厳密にいえばネクタイ。

 

 いや、咲夜ちゃんはできる女のイメージがあるのでネクタイも似合うだろうなぁと、ブラウスとネクタイを店員に提案したら、シックな色合いのベストやらスカートやらを買い揃えてくれたので、嬉々としてそのセットをプレゼントしたのだ。

 

 やっぱり似合ってるなぁと傍から見たら不審者と疑われそうな程じっくりと眺めた後、何事もなかったかのように平然と話しかけ、適当に別れた。

 服についてもお礼を言われた後、是非今度紅魔館へと言われてしまったので、服をプレゼントした時は門番の所でとんぼ返りしたあの吸血鬼の館へ近々乗り込まなくてはいけないようだ。

 視覚的に痛いんだよなぁあの館。

 

 

 

 

 

 月 日 ( )

 

 まるで我が家のような安心感すら抱くようになった香霖堂。

 結論から述べると今日も売上はゼロだった。

 

 けれども、売り上げこそないが来客自体はあった。いつもの如く霊夢ちゃんと魔理沙ちゃん。

 いつもはガラクタを弄っている森近君が珍しく弄っていなかったので、彼女らの相手を森近君に任せ、俺は明日のパッチワーク一号に乗せる品を探しつつ、かき氷機を探していた。

 

 確か以前倉庫の方を片づけている際に見かけた気がしたのだ。

 売ってしまったのかもしれないが、今年の夏の目標はかき氷だと決めたので、かき氷を食べるために努力は厭わない。

 

 これも面倒なので結論を述べると、結局見つからなかった。

 見覚えは確かにあるので、恐らく売ってしまったんだろう。面倒な仕組みもなく実用性もある道具だ。あっさりと売れた事は疑いようもない。

 

 かき氷機捜索を諦めかき氷計画の今後を考えつつ、人里で売れそうな商品を適当に選び取り、霊夢ちゃんら三人の話声を子守唄にして昼寝に興じた。時折吹く風に揺られて風鈴が鳴るのも実に心地よく、理想的な昼寝ができたと思う。

 しかし、目覚めると俺の自慢のネクタイが蝶結びにされていた。これは理想的ではない。森近君に聞くと犯人は魔理沙ちゃんであるようだ。

 

 うーむ。次魔理沙ちゃんに会った時はお返しに箒をモップにすり替えてやる。

 某宅急便みたいに飛行に手こずるがいい。







 2016/4/11 使いきったシャンプーを補充する程度の修正をしました。
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