東方日々綴   作:春日霧

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 凄いへたくそになってる気がするので挿話はそろそろやめた方がいい気がします。お詫びに後半に東方オリ主物の鉄板を仕込んでおいたので許してください。


その二十五 挿話

 事の始まりは、九代目阿礼乙女、稗田阿求が怪しげな集団を目にしたことであった。

 

 その日既に、幻想郷中の花という花が咲き誇るという異様な事態から数日が経過していた。

 当然人里の人間もただその光景に目を奪われ浮かれるだけでなく、数年前から定期的に起こる異変事ではないかと不安に駆られたりしていた。その不安という疑問の矛先は上白沢慧音へと向かい、そして彼女阿求の下へと向かった。

 これは六十年周期で起こる異変、というよりはイベントに近いもので、どうやらその周期で外から流れてくる霊魂が増え三途の川で捌ききれぬ魂が花に姿を変えるらしいのだ。短い生を九度も繰り返している阿求にはその知識が記憶として脳裏に残っていた。

 

 まあそんな花異変の最中のことである。

 外へ出かけた帰り道。花に浮かれ金の匂いを感じ取った人間が屋台を開いたりしている大通りで、何やら他の屋台よりも一段と人が群がっている屋台を見かけた。

 眉を顰めて何事かと近寄った阿求は、垣根を作る人混みの後ろで飛び跳ね首を伸ばし、隙を突きかがんでみたりと少ない体力で努力をして、その正体を突き止めることに成功した。それは手軽な賭博の屋台であった。

 

 宙を舞う少女が酒を飲む幻想郷であっても、賭博はあまり褒められた娯楽ではない。しかしなまじ賭けに興じている者というのが揃いも揃ってがたいの良い男ばかりということもあってか、あまり積極的な取り締まりはされていない。ようは怖いのである。

 それに色々と金のトラブルは発生するものの、関わらなければ害は無い。

 なのであの屋台も興味が無ければ近寄るなの精神で黙認されているのだろう。

 

 阿求がそんな風に観察していると、また一人金とスリルに惹かれた男が屋台の主人、目元を黒子のような頭巾で隠し薄く笑った口元だけが見える男へと金を渡した。それは屋台の後ろでこれまた黒子のような頭巾を被った小柄な人物が、中が見えるように開かれた携帯の金庫へとしまった。

 その金庫の中にはそれまで敗れた者たちの参加料が積み上げられており、挑戦者である男は物欲しそうにそれを眺めた。そして胴元、屋台の主人は机に置かれたサイコロや花札、将棋の駒などを指し示した。賭けの対象は選べるらしい。

 

 それから少しの間人混みの隙間を縫って観察したが、どうやら賭け金が倍になったり賭けた人間の人数によって倍率が変動するような賭博ではないようだ。参加料を取り、賭けるゲームを選びそして勝てば、それまでに徴収された参加料が全て手に入る。つまりこれはあの黒子の男がかなりの勝率を持たなければ成り立たない商売である。

 しかし賭けというのはすなわち、参加するもの達全てに等しく勝率があるゲームだ。勝つか負けるか、それは結果を見るまで分からない。だというのにわざわざ屋台でオールオアナッシングの賭け。どう考えても成立するようには思えない。

 

 阿求が色々と考えを巡らせている間に、挑戦者はわざわざ持ち込んだ自前の賽子を振っていた。

 その賽子が机上を跳ね、カランコロンと音を立ててやがて止まった。

 そして歓声が上がる。

 

「おお!また勝ったぜあの旦那」

「ここまでくるとイカサマも疑いにくいんだが、いくらなんでもなぁ」

「おいおいイカサマ対策で賭けの対象は持ち込みでも何でもいいらしいぜ。さっきなんか『次に通りかかる人が食べたいと思う物』っていう賭けでも勝ってたしな」

「……いや、さすがにそれは怖いな」

「それならイカサマは無さそうだが……そうなると勝ち目あるのかこれ」

「あれ、お前さん午後から来たのか?午前で二回くらい負けてるんだぜ旦那」

「はーなるほどなぁ」

 

 阿求の目前に立つ男たちはそこで会話を断ち切り、僅かに歓声を上げた。

 どうやらまた次の賭けが始まったようだった。

 

 その辺りで興味を失ってそっと踵を返した阿求だったが、ふと思い至った。

 

「……もしかして日暮さんかしら」

 

 賭博に必要なのは金と度胸と、そして運だ。運と言えば、スーツ姿の外来人である日暮が思い浮かぶ。

 そっと振り返って黒子の男性を眺めようとして、一瞬、人混みの動きによって生まれた隙間から、その男の顔が見えた気がした。当然頭巾によって目元は隠れていたが、なんとなく阿求は男性と目が合ったような気がした。

 

「んー……ま、いっか」

 

 あとから聞いた話によるとあれはやはり「運を使う程度の能力」を持った日暮と「人を幸運にする程度の能力」を持った因幡てゐの合わせ技だったようだ。

 そしてふらりとやってきた博麗霊夢に叱られて止められたらしいので、今はもう大人しい。

 

 

 

 そんなこともつい先日あったわけで、阿求は今、日暮についての話を集めている。

 まあ先日の件が無くとも集めていたのだが、一番の理由は幻想郷縁起である。幻想郷ガイドブックとでもいうべきその書物は、歴代阿礼乙女が代々書き記してきた物であり、九代目である阿求も当然それを書かねばならないのだ。

 数年前に管理者である八雲紫と博麗霊夢が始めたスペルカードルールとやらにより、人と妖怪の関係が揺れ動きそうな昨今の幻想郷において、幻想郷縁起を書くことは阿求にとって大事な役目の一つなのである。

 

 そして日暮がそれにどう関わるかというと、縁起にある妖怪図鑑において外来人の項目があるからである。人間である以上そもそも載らないか、もしくは英雄伝にでも載る方が相応しくも思えるが、生憎日暮は人里に住んでおり妖怪退治も異変解決も行っていない凡人である。

 しかし外から不本意の内に幻想郷へ入り込み、そのまま住み着く人物は少なくその上幻想郷になじむともなると稀も稀、極稀である。となると数少ない外来人の例として載せざるを得ない。

 

 

 

 そうして日暮について調べている阿求だが、今日は一つ自分の足で話を聞きに行くことにした。ここの所こもりっぱなしで疲れていたというのもあって気分転換がしたかったのだ。

 

 外行き用の服に身を包み屋敷を出た阿求は、ひとまず日暮を知る人を探そうと歩き出したが、はてどこに行くべきかと早速悩んでしまった。

 日暮を知るだけであるならおそらく人里中の人間が知っているはずだ。最近では滅多にやらなくなったが、一年前ぐらいはかなり頻繁に台車を引っ張って古物を捨てるように売っていたのだ。結構な範囲を練り歩いていたし、彼の洋装はそれなりに目立つ。

 しかし縁起に乗せる以上、それなりに深い話が聞きたいのだ。

 そう思って幻想郷の始まりを知る頭脳をフル回転させてそれらしい話の聞ける日暮の知り合いを思い出したが、知らない物を覚えているはずもなく、阿求は渋々と鈴奈庵へ向かった。結局はいつも通りである。

 

 その店の暖簾をくぐると、小さく鈴の音が響いた。

 

「小鈴ー、いるー?」

「あれ阿求、どうしたの。また何か資料が必要?」

 

 四方に本の積まれた貸本屋、鈴奈庵に待ち構えていたのは阿求の友人本居小鈴。市松模様の着物に若草色のスカートといういつも通りの格好で見慣れぬ本を読んでいた彼女は、声を上げつつ阿求を見て、意外そうな表情を浮かべた。

 というのも、ここ数日は今現在とりかかっている縁起のあれこれで忙しかったために小鈴とも顔を合わせていなかったのだ。

 

「そうじゃなくて、ちょっと日暮さんについて話聞きたいんだけど」

「日暮さん?あぁ、丁度さっき来てたよ。檸檬の作者思い出したんだって」

 

 なんということだ。本人に会えればそれで満足だというのにすれ違いとは。

 阿求は己の不運さに溜息を零した。

 

「……で、檸檬の作者?農家さんの事?」

「いやいや違うよ。何だかそういう本があるらしくて、作者がずっと分からなかったんだけど思い出したーって言いに来たの」

「はぁ。本の作者……。それをわざわざ?」

「うーん、前に聞きに来たことがあったからかなぁ。えっと、梶井基次郎って人が書いたんだって」

「ふーん」

 

 あまり大した話ではなかった。

 まあ何も聞けないよりはいいかも知れないが。

 

「小鈴、日暮さんについて知ってそうな人知ってる?」

 

 

 

 その後慧音に話を聞きに行ったら寺子屋の子供たちに絡まれ体力を消耗し、茶屋で店員から日暮の話を聞けたりしつつ、大分足が疲れてきた頃。阿求は巡り巡って里の外れの方まで来ていた。具体的に言うと里の墓地なのだが、ここで日暮が目撃されたことがあったらしいのだ。

 まあ大分日暮の事が分かってきている阿求には、それがおそらく散歩とかそういうあっさりとした理由なのだと予想がついたのだが。

 

 案の定何もなく、そのまま墓地を抜けようとしたその時である。

 

「驚けーッ!」

「ひゃっ!?」

 

 突然脇から投げかけられた声に、阿求はびくっと体を竦ませた。悲鳴すらも僅かに零れ、手に持っていた巾着を落とすほどであった。ギリギリのところで転ぶことはしなかったが、瞑ってしまった目を開くまでにいくらかの時間を要した。

 そんな阿求の耳に、若い女性の声が届く。

 というか少女の声だ。

 

「……え、嘘、や、やったー!!驚かせられたー!!ありがとー!!」

「え!?な、何!?何なの!?」

「やったー!!」

 

 なぜか脅かしてきた人物に手を取られ喜びを分かち合わされる阿求。

 手がぶんぶんと振られる困惑の中、自分の手を取る喜色満面の笑みを浮かべた人物が水色の髪を持った少女であることに気が付いた。そしてその片手には奇抜な紫色の番傘。

 経験則だが、幻想郷で出会う洋服の人物、変わった色の髪の人物、奇妙な人物は大体妖怪である。

 

 そもそもこんな日中に人を驚かして喜ぶのは妖怪以外あり得まい。

 ……いや、妖怪でもこんな日中に人を驚かすのはおかしい気がする。

 

「あなた、妖怪……なのよね?」

「え?うん。傘妖怪、多々良小傘。あなたは人間でしょ?」

「それは、そうね」

 

 聞き覚えの無い名前を脳裏に刻みつつ、未だにがっしりと握られていた両手をそっと抜き取り、阿求は幾つかの疑問を解消すべく尋ねた。

 

「あなたはなんでこんな昼間に、こんな場所に?」

「ここで驚いて貰う約束があるの。名前は知らないけど黒い服の兄さんに」

「驚いてもらう約束?それに黒い服?んーまぁ、よくわからないけど、襲ったりしないでね」

「それはもちろん!」

 

 一応人里に近いここでは人を襲うのはご法度であろうと忠告をした阿求に、楽しげに頷いた多々良小傘。妖怪の割に物分かりが良く、阿求は少し安心した。

 

「あ、これごめんなさい。どうぞ」

「あ、ありがとう。……えっと、じゃあ、さようなら」

「さようならー!」

 

 そして落としていた荷物を拾われ、何がなんだか分からぬままその場を後にした。

 話を聞けばよかっただろうか。いや、あの元気さは相手にしていたら疲れそうだ。

 

 思っていたより歩いたらしく、両足はじんじんと痛み疲労を訴えている。そして昼頃に家を出たせいか既に日が傾きどこからか美味しい匂いが漂ってくる。八つ時かはたまた夕食か、美味しげな匂いは阿求の足を自宅へと向けた。

 

「ああ、何だかもう疲れた」

 

 というかもう既に疲労困憊だ。全然当初の予定がこなせていないが、溜息と共にどっと疲れが押し寄せてきた。だめだ。もう帰りたい。帰ろう。

 今日はぐっすり眠れそうだ。阿求はそう思った。

 

 後日、結局自分が話を聞きに行くには幻想郷は広すぎると確信した阿求は、日暮を屋敷まで呼びつけ、いくらかの話を聞くことに成功したのであった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

幻想郷縁起 妖怪図鑑 外来人の項

 

 奇妙な外来人

 日暮 Higure

 

 能力     運を使う程度の能力

 危険度    極低

 人間友好度  高

 主な活動場所 人里・香霖堂

 

 

 

 ある日フラッと幻想郷に紛れ込んできた外来人で、ネクタイを締めた格好が目印の男性。

 見た目はそのネクタイと、ワイシャツと呼ばれる外の世界では主に事務仕事をする人たちがしているという服装のみが目立ち、それ以外は至って普通。平凡である。

 

 人里の一角の長屋に住んでおり、人付き合いも良い。外の世界では常識だったとのことだが、男性にしては珍しく炊事洗濯等を全て丁寧にこなす。おかげで本人の耳には届いていないだろうが、人里の主婦達から密かに人気を集めている。

 

 幻想郷に迷い込んできて少ししてから魔法の森の入口に建つ香霖堂で働き始め、店番をこなしたり人里へ商品を売りに来たり精力的に働いていたが、商品が減ってからはその数が減り収入が減ったため、外の世界を舞台にした小説を書いたり天狗の新聞に寄稿したりもしている。別段学があるというわけでもないので深みはないらしいが真新しさはあるとのことで、僅かながら人気はあるとのこと。

 そのため人里では道具屋の店員や物書きとして覚えられていることが多い。

 

 また香霖堂で働いているせいか、幻想郷の有名人である博麗の巫女などとも知り合いであり、天狗とすら仲良く茶を飲み酒を飲み交わしたりする。それどころか魑魅魍魎が集まる宴会にすら参加するようで、どうやらかなり積極的に人外との交流を行う人物のようだ。

 

 名乗っている日暮と言う名に下の名は無く、幻想郷に紛れ込んだ時に付けた名である。しかも適当に思いついた名前(※1)であるとのこと。外の世界での名前を隠しているというわけではなく心機一転のつもりらしいが、正直よく分からない。他人には理解しがたいこだわりがあるらしい。

 他にも愛用の道具に名前をつけたり、そもそも迷い込んだ時の持ち物が財布と日記とペンであったなど、奇妙な点が目立つ外来人である。ちなみに他の外来人がよく頼る携帯電話については、お金が無くて持っていないと語っていた。※2

 

 

 

 能力の「運を使う程度の能力」とは文字通り自身の持つ運を消費して幸運を任意に引き起こすものであり、つまりあるはずだった運を使うのでこの能力を使った後は不幸に見舞われるらしい。※3

 この能力は外の世界にいた時からあったというわけではないらしく、外の世界にいた頃はただ幸運な程度だったとのこと。つまり幻想郷の幻想に触れて能力が進化しているということだろうか。現に、最近では使わなかった運がほんのちょっとずつ溜まるようになったそうだ。※4

 

 余談だが、迷いの竹林に住む兎、因幡てゐの持つ「人間を幸運にする程度の能力」とは非常に相性がよく、人里で行われた祭りではそのことを利用して運だめしと称した屋台で大儲けしていた。

 

 

 

<目撃報告例>

 

・日も暮れているのに外出して、いつも無事に帰ってくる。彼は本当に人間だろうか?(匿名)

 

 噂によると、霧の湖の畔で妖怪と宴会をしているらしい。しかし彼は正真正銘人間である。

 

・また前回とは違う女性とお茶をして帰った。見た目によらず女性関係は大雑把なのかも。(茶屋の店員)

 

 知りあった妖怪や妖怪じみた人間とお茶をするのも趣味の一つらしい。幻想郷には女性の人外が多いのでそう見えるだけだと思われる。※5

 

・前みたいにもっと頻繁に出張販売をしてくれないだろうか。楽しみが減って悲しい。(匿名)

 

 こればっかりは仕方がないとしか言いようがない。

 

 

 

<対策>

 

 幻想郷での数少ない有名な外来人なため、この妖怪図鑑の項に外来人の例として挙げられているが、彼に妖怪としての危険性は皆無である。強いて言うなら人妖問わず広がっている彼の人脈にこそ危険性があるかもしれないが、常識持って接していればそんな心配はいらないだろう。

 前述した祭りでの騒ぎも博麗の巫女に叱られたそうなので心配はいらない。

 

 

 

※1 本人曰く、その時はもう日も暮れそうだったから。らしい。

※2 世知辛い

※3 禍福は糾える縄の如し。

※4 興味深い。

※5 かくいう私も何度かお茶をした。

 




 ありがとうございました。
 他キャラ視点の日暮を書きたかったんですがやる気とかの関係でものの見事に失敗しました。その二十までの話もしばらくしてから修正したりしてるので、この話もその内修正するかもしれません。

 次に関して悩んでるのは花映塚(百二十季の春)から風神録(百二十二季の秋)までめっちゃ時間が空くことなんですよね。儚月抄も話ややこしくて絡めるの面倒ですし多分やらない方向で行くかと。いやはや花映塚以降はなかなか難題ですね。

 今年はもう一回くらい更新できたらいいなって思います。
 そんなわけで次は番外編か風神録編かはたまた儚月抄編でお会いしましょう。
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