春野サクラ君のデュエル忍伝   作:鯖缶詰

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第四話:盤面を支配する者

演習場を包む空気は、陽光に照らされながらも、どこか刺すような冷たさを帯びていた。

 森のざわめきが止む。鳥たちが気配を消し、腐葉土の湿った匂いだけが濃密に立ち上る中、はたけカカシは悠然と、その場に立ち尽くしていた。

 

(……来たか)

 

 マスクに隠れたカカシの口元が、微かに、そして愉しげに緩む。

 周囲の茂みからは、三つの異なる気配が重なり合い、うねるようなプレッシャーとなって彼を包囲していた。先ほどまでの、バラバラに飛び出しては叩き伏せられていた稚拙な殺気ではない。それは、一つの意思によって編み上げられた、巨大な「網」のようだった。

 

 樹上の影。桜色の髪を揺らし、春野サクラは細めた瞳で「盤面」を見下ろしていた。

 

(チェックメイトまでの手数は、まだ見えない。けれど――)

 

 彼は懐から、一束のカード……否、自らのチャクラを固定化した「幻想の依代」を指先でなぞる。

 指先から伝わるカードの冷たさは、彼の昂ぶる思考を冷静に研ぎ澄ましていった。前世で慣れ親しんだあの「ゲーム」の感覚。勝利条件、リソースの配分、そして相手の心理的な隙。それらすべてが、忍の世界の理(ことわり)と融合し、彼の脳内に最適解を弾き出していく。

 

「ナルト、定位置(ポイント)へ。……君のチャクラは、この森の静寂に溶かすだけでいい。まだ『召喚』の合図は出すな」

 

 サクラの唇が、音もなく動く。

 その指示に、オレンジ色の影が音もなく蠢いた。兵糧丸によって強制的に出力を上げられたナルトのチャクラは、今や巨大な蓄電池のようにサクラの背後で脈打っている。

 

(サスケ君、君は僕の『切っ先』だ。誇り高い君には屈辱だろうけど、その刃を振るうタイミングは僕が決める)

 

 サクラは視線をカカシに固定したまま、右手の指をスッと水平に滑らせた。

 それは、カードを裏向きに伏せるような、あるいは複雑な罠を起動させるような、優雅で不吉な予備動作。

 

 カカシの片目が、わずかに見開かれる。

 サクラを中心とした三人の位置関係、そして彼が森の各所に配置した「何か」が、有機的なつながりを持って彼を縛りつけ始めていた。

 

「……なるほど。少し、空気が変わったね」

 

 カカシは懐の『イチャイチャパラダイス』のページを捲りながらも、その重心はいつでも地を蹴れるよう、低く沈められていた。

 サクラはそれを見逃さない。

 

「先生。……その本を閉じる準備はできていますか?」

 

 サクラの瞳の中で、幻想の紋章が怪しく、そして鮮やかに輝きを増す。

 彼にとって、これはもはや単なる演習ではない。

 世界という巨大な盤面を、自らの意志で書き換えるための、最初の「ターン」だった。

 

 

「――ドロー」

 

 サクラの指先が、チャクラの残滓を帯びたカードの縁を弾いた。

 その呟きは、誰に届かせるためでもない、彼自身の魂へ向けた開戦の宣誓だった。

 

「ナルト、起動(アクティベート)。……一気に視界を埋めて!」

 

「おうっ、任せろってばよ! 影分身の術!」

 

 静寂を切り裂き、爆発的な白煙が演習場に充満する。兵糧丸によってチャクラを底上げされたナルトが放ったのは、通常の倍以上に膨れ上がった数十体の分身たちだった。

 オレンジ色の影が、四方八方からカカシへと殺到する。だが、その動きはこれまでのように無秩序ではない。ある者は地を這い、ある者は樹々の死角に潜み、カカシの網膜から「余白」を奪うための幾何学的な包囲網を形成していた。

 

「……数で押すだけじゃ、俺は捉えられないよ?」

 

 カカシは依然として本から目を離さない。押し寄せるナルトの波を、最小限の歩法でいなし、クナイの柄で次々と分身を霧へと変えていく。

 だが、サクラの狙いはそこにはなかった。

 

(カカシ先生。……あなたの『回避』という選択肢そのものが、僕の盤面(ボード)における誘い受け(コスト)だ)

 

 サクラは懐から二枚のカードを抜き放ち、チャクラを流し込んだ。

 空気が凍てつくような震動。

 

「幻想召喚――『砦を守る翼竜』! 上空より風圧(ブロウ)を叩き込め!」

 

 突如、演習場の上空に巨大な翼の影が差した。現世の理を無視して顕現した、緑色の鱗を持つ翼竜。それが放つ凄まじい羽ばたきは、カカシの足元の腐葉土を巻き上げ、彼の視界を完全に遮断する「砂塵の牢獄」を作り出した。

 

「なっ……!?」

 

 初めて、カカシの独白に動揺が混じる。

 視界が塞がれ、聴覚が風の咆哮に支配された瞬間。サクラは冷徹に、自身の「切っ先」へと合図を送った。

 

「サスケ君、今だ。……僕の描いた軌跡の上を通れ」

 

 翼竜が巻き上げた砂塵の向こう側から、青い稲妻のような殺気が噴出した。

 うちはサスケ。

 彼はサクラの指示通り、翼竜の作り出した風の対流を「加速装置」として利用していた。

 

「火遁・大火球の術!」

 

 猛烈な炎の塊が、風に乗って巨大な火炎放射へと変貌し、カカシを呑み込む。

 だが、サクラはそれさえも「決定打」とは考えていない。

 

(まだだ。カカシ先生なら、この状況でも『変わり身』で抜ける。……だから、その出現ポイントに、僕の最強の剣を伏せておく)

 

 炎の渦が消え去る直前、カカシの姿が丸太へと入れ替わる。

 そのコンマ数秒後、カカシが再出現した背後の空間――そこには既に、銀色の刃を構えた『エルフの剣士』が、サクラの冷徹な意志を宿して待ち構えていた。

 

「チェック……です」

 

 サクラの呟きと同時に、剣士の刃がカカシの首筋へと、音もなく、しかし確実に奔った。

 

 

銀色の閃光が、カカシの首筋を撫でる。

 だが、刃が肉を断つ手応えはなかった。陽炎のように揺らいだカカシの身体が、一瞬にして土の塊へと瓦解する。

 

(土分身……! 変わり身の瞬間にさらに術を重ねたか)

 

 『エルフの剣士』の斬撃が虚空を切り、土塊が地面に散る。カカシはさらに十数メートル後方の、巨樹の太い枝の上へと退避していた。その手には、もはや『イチャイチャパラダイス』は握られていない。

 

「……参ったな。今のは、普通の下忍がやっていい連携じゃないよ」

 

 カカシが初めて本を仕舞い、額当てをわずかに押し上げた。露出した左の眼蓋。その奥に眠る写輪眼を解放するか否か、彼の内面で冷徹な査定が行われているのを、サクラは網膜に焼き付けるように見つめる。

 

 サクラの視界の端には、虚空に浮かぶ無機質な数字が刻まれていた。

 ――【LP:4200】。

 『エルフの剣士(ATK1400)』と『砦を守る翼竜(ATK1400)』を維持し、さらにナルトへの兵糧丸提供に伴うチャクラ操作の負荷が、サクラの精神をじわじわと削っている。

 

「驚くには及びません、先生。僕はただ、最適解を並べているだけだ」

 

 サクラは樹上から静かに飛び降り、ナルトとサスケを両翼に従えてカカシと対峙した。鼻筋からは、過度なリソース消費による一筋の鮮血が滴っている。だが、中性的な美貌に宿る瞳は、勝利への渇望にギラついたままだ。

 

「ナルト、第二陣(フェーズツー)。サスケ君、火遁はまだ撃つな。……次は、先生の『心理的な死角』を突く」

 

 サクラはナルトの膨大なチャクラを媒介にし、演習場一帯を自身の「盤面(フィールド)」として再定義する。魔法カードによる物理的な拘束はまだ使えない。ならば、前世の知識という「情報」こそが、今使える最強のトラップだ。

 

「先生……忍の掟は『仲間を大切にすること』だと、そう教えるつもりでしたか?」

 

 サクラの低く、透き通った声に、カカシの肩が微かに揺れる。

 

「慰霊碑に刻まれた名。守れなかった仲間への後悔。……その重さを僕たちの教育に利用しようとするのは、少しばかり傲慢ではありませんか? それは、あなた自身の贖罪に過ぎない」

 

「……っ!」

 

 カカシの空気が一変した。殺気。これまでの「試験官」としてのそれではない、戦場を渡り歩いてきた「コピー忍者のカカシ」としての鋭利な殺意が、サクラの肌を刺す。

 

 直後、サクラの全身を激痛が襲った。カカシの殺圧が、サクラを護るチャクラの障壁を物理的に圧迫しているのだ。数値が――【LP:3800】まで削れる。肉体は無傷だが、精神が悲鳴を上げる。

 

(耐えろ……。この『揺らぎ』こそが、僕たちが上忍に牙を立てる唯一の隙だ!)

 

「ナルト、サスケ君、今だ!」

 

 動揺がカカシの機先を削いだ。その刹那、ナルトの影分身が一斉に自爆に近い突撃を仕掛け、同時にサスケが温存していた最速の突進を繰り出す。

 サクラは、自身のLP(生存権)をさらに削り、三体目のモンスターを「伏せる」ように呼び出した。

 

「幻想召喚――『岩石の巨兵』! 退路を断て!」

 

 ――【LP:1800】。

 突如としてカカシの背後に聳え立った巨大な岩の塊が、枝を折り、退路を物理的に封鎖する。

 残り少ないLPが刻む鼓動は、サクラにとって「死」へのカウントダウンではなく、勝利へと至るメトロノームだった。

 

 

――キィィィィン、と。

 静寂を切り裂くように、演習場に設置されたタイムアップの鐘が鳴り響いた。

 

 その音は、張り詰め、今にも弾けそうだった殺気の糸を、物理的に断ち切る合図となった。

 カカシの首筋に肉薄していたナルトの分身たちが煙となって消え、サスケの突き出した手も、目標を見失ったように空を切る。そして、サクラの背後に聳え立っていた『岩石の巨兵』が、砂の粒子となって大気に溶けていった。

 

「……そこまで」

 

 カカシの短く、しかし重みのある一言が場を支配する。

 彼はいつの間にか、サクラたちの背後に立っていた。額当ては元の位置に戻され、写輪眼は再び隠されている。だが、その背中には、先ほどまでの「試験官」としての軽薄さは微塵も残っていなかった。

 

「はぁ、はぁ……っ! ちくしょー、あと少し、あと少しだったのにばよ……!」

 

 ナルトがその場に崩れ落ち、荒い呼吸を繰り返す。兵糧丸の反動が来たのか、その指先はわずかに震えていた。サスケもまた、クナイを握りしめたまま動かない。その横顔には、自分の全力を尽くしてもなお、カカシの奥底に触れられなかったことへの苛立ちと、同時に味わったことのない達成感が混在していた。

 

 サクラは、誰よりも静かだった。

 視界の隅で、【LP:1800】という数字が静かに明滅している。

 召喚を解除したことで、消費したチャクラが緩やかに還流してくるが、精神的な摩耗までは癒えない。サクラは鼻筋の血を手の甲で拭い、月光のような瞳でカカシを見上げた。

 

「……鈴は、奪えませんでしたね」

 

「ああ、そうだね。物理的な合格条件(ルール)で言えば、君たちは不合格だ」

 

 カカシはそう言いながら、地面に転がっていた『イチャイチャパラダイス』を拾い上げた。だが、それを再び開くことはしなかった。彼はサクラに歩み寄り、その中性的な、しかし底知れない意志を宿した少年の顔をじっと見つめる。

 

「でも、サクラ。君がこの二人を『システム』として機能させたあの瞬間、この試験の本当の目的は果たされた。……仲間を単なるリソース(資源)として再定義し、勝利へのロジックを組み立てる。君のやり方は、忍としてはあまりに異質で、冷徹すぎる」

 

 カカシの声に、微かな戦慄が混じる。

 

「……だけど、その結果として、君たちは『個』の壁を超えた。第七班……全員合格だ」

 

 ナルトが歓喜の声を上げる中、サクラは微笑むこともなく、ただ淡々と頷いた。

 彼にとって、この合格は目的ではなく、あくまで「生存」という壮大なゲームの初期イベントをクリアしたに過ぎない。

 

(LP1800……。上忍の殺気だけで2000近く削られた。このままの出力(デッキ)では、いずれ本物の死地に直面した時、防壁(バリア)が保たない)

 

 サクラは懐のカードに指を添える。

 次に目覚める午前零時。補充される四十枚のカード。

 彼の視線は、既に里の境界を越え、この「未知の異世界」のより深い深淵へと向けられていた。

 

「さあ、帰ろうか。明日からは、いよいよ任務だ」

 

 カカシの先導で歩き出す三人。

 夕闇が迫る演習場。サクラの桜色の短髪が、風に吹かれて怪しく揺れた。

 それは、木ノ葉隠れの里に現れた「異質のシステム」が、本格的に稼働を始めた合図でもあった。




無料のAIで遊んでるので描写のズレがでてきた。
また私自身がAIを使いこなせてないので表現にばらつきがでて申し訳ない。
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