主人公を庇って死ぬ脇役に転生したので、一番心を抉るタイミングで死にたいと思います   作:ウサギチンチラ

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一話

――貴方、自殺願望がありますね。

 

『自殺?そんなものしたくないに決まってるじゃないか』

 

――では、貴方の行動はなんだと?

 

『あれは、自殺じゃない。他殺だよ』

 

――しかし、貴方は自分で死へと踏み出しました。満面の笑みで。

 

『自分で死ぬよりも、誰かに殺された方が――面白いじゃないか。ああ、もちろん私にとっても、彼女たちにとっても、ね』

 

 

 

脇役。

ただの脇役じゃない。主人公を庇って死ぬちょっと意味のある感じの脇役だ。

 

どうやら私はそういう役どころらしい。

 

「主人公を庇って、ねえ……」

 

私は街の衛兵である。

虐殺という形で世界中を恐怖に陥れた魔王軍の侵攻を受け、市民の安全を守るため戦っている。

 

まあ、私以外はだが。

 

「うーん、ここか?……いや、ドラマチックじゃない。となると、ここか?いいや、割って入れる隙間が無いな」

 

影のように付き従い蠢く闇が、背後から襲い掛かって来た魔物を殺す。

その様を見ている者は誰一人としていない。皆生きるのに必死で他人を気遣っていられ余裕は無いのだ。

 

「本来なら、どういう感じで死ぬのかね……私が思い描くような劇的な死か、それとも他愛のない死か。まったく、前者であって欲しいものだ」

 

私がずっと見ているのは、有象無象ではない。

魔物なぞ見る価値すらない。

 

見ているのはこの世界の主人公である、勇者スレナ様だ。

勇者とは、まあ簡単に言えばとても強い人。

 

五人構成のパーティを率いるスレナは、相対する魔人である魔王軍四天王ナスティーシャと死闘を繰り広げている。

一進一退、戦況は概ね互角だが長期戦になれば、数で勝るスレナ達に勝利の天秤は傾くだろう。

 

「……うん、油断だ。油断。本来のあの子たちも、油断をしていたのだろう」

 

膠着していた天秤が自分たちの方に傾けば、人は簡単に油断してしまう。

勇者だからとか、そういう話ではない。

 

人間としての心を持っているのならば当たり前の事だ。

それを自制することができるのも人だろうが、スレナ達の――いや、この街の状況を鑑みれば難しいだろう。

 

「うわああああああああああああああ!?おい、相棒、なんで死んで!?あ、あああああああああああああああ!?」

「いや、いやだあああああああああ!」

「ゆ、勇者さま、助け、たしゅ」

「いだい、ぢくじょう、俺のうでが!」

 

阿鼻叫喚。

地獄とはまさにこの事だろう。

 

この街を守る衛兵たち、そして援軍に駆けつけた騎士たち。

負傷した者は苦しみの声を上げ、絶賛魔物に食べられ中の者たちは耳障りなほど大きな声を発している。

 

「あの子は、焦っている。すぐに目の前の魔人を倒して苦悶に喘ぐ彼らを助けなくては、と。勇者として、力ある者として、何より善良な者として、あの子は見捨てることができないだろう」

 

口の端が吊り上がっていくのを感じる。

待ち侘びた瞬間が、今にも完成しそうだ!

 

「多少の無理をこなしてでも、普段ならしないような危険を冒してでも、血を流して果ては死ぬかもしれなくとも人を助けたい!ああ、良いね立派だ高潔だ最高だ!」

 

私の傍には屍の山。

知能の無い魔物は、やはり何も考えずに突進してくる。

 

ばくり、とその全てを飲み込む。

びちゃびちゃと外に零れる緑の血液、人のものである赤い色が少し混じっているのは恐らく、魔物に食われたか私が巻き込んだかの二択だろう。

 

軍靴を奏でるように、一歩一歩私は歩く。

その歩みを止められる存在は誰一人としていない。

 

「なら、だ」

 

目に焼き付けろ。

 

「君の選択が、誰かを救いたいがためだったとして」

 

一歩。

 

「自らの命を失う危険を顧みない博打だったとして」

 

二歩。

 

「同時に、危険に陥った君を助けたい者がいたとして」

 

三歩。

 

「その者が君の選択のせいで死ぬことになったとして」

 

笑う。

 

「一体君は、何を想うのかな?」

 

走る。

野原を駆けまわる少年少女のような軽やかさで。

 

 

そして、大きく息を吸って叫ぶ。

死んだふりをしたナスティーシャが、スレナの背後に刃を突き立てようとする様を見ながら。

 

「スレナあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

呆気に取られたスレナの肩をどん、と押す。

身代わりとなるように、私はナスティーシャの凶刃を受けた。

 

「ごぼ」

 

肉が割けていく感触。

臓物が溢れ、びちゃびちゃと地面に落ちていく。

 

膝の力は失われ、どちゃりと力無くうつ伏せになった。

 

「なっ、あ……っ!?ああ……あああああああああああああああああ!」

「……ちっ」

 

動転した様子を見せながらも、スレナはすぐに剣を引き抜いてナスティーシャを殺した。

胴体を真っ二つ、見事な手際だ。

 

今度は確かに死亡を確認したスレナは、急いでこちらに駆け寄って来た。

震える手で私の身体を抱き起こす。

 

「待って、ヘンリクさん……!どうして!?」

 

私——ヘンリクは不格好な笑みを意識してつくる。

やさしさに満ち溢れた素晴らしい出来だ。

 

「は、は……参ったなぁ……。どうしてって、言われても」

 

ごほっ、と勢いよく血を吐き出す。

何度も何度も咳をするように。

 

「分かった、話は後で聞くから、もう喋らないで!リズ、すぐに治療を!」

「は、はい!」

 

スレナのパーティメンバーであるリズベッドが、杖を翳して私に回復魔法をかけようとする。

だが、私はそれを手で静止する。

 

「いや、いいんだ。俺の傷は、深い。治してしまったら魔力の消費は……」

「だから、喋らないでって!」

「厳しい事を言う、リズベッドちゃん。小《私》よりも、多《皆》を救ってくれ。少しでも多くの命を、助けてくれ」

 

唇は青く、震えていく。

体温は急速に奪われていく。

 

「で、でも……」

「ヘンリクさん!」

 

リズは迷っている。

スレナも、他のパーティメンバーも迷っていた。

 

「行ってくれ、頼む。この街を、皆を……守ってくれ!」

「~~~~っ、分かった」

「あり、がとう」

 

ゆっくりと、スレナは抱えていた私の身体を地面に置いて立ち上がる。

この身体が生命活動を停止する直前、私は彼女たちに告げた。

 

「一つ、頼まれごとをしても良いかな」

「なに?」

「妹が、いるんだ。まだ六歳の、ちっちゃい子だ。出来た子だから、私がいなくてもきっと大丈夫だろうけど……寂しいだろうから、どうか一緒にいてあげてくれないか」

「わかり、ました」

 

震える手を持ち上げて、私は胸にかけているペンダントを指差した。

この世界にはいない生物である鷲を象っている。間違うようなことは無いだろう。

 

「これと、同じものを身に着けてる。綺麗な、金髪で……腰まで伸びてて……それで、それで――」

「……ヘンリク、さん?」

 

そうしてヘンリクという人物は死んだ。

残されたスレナ達は、涙を拭って力強く頷く。

 

「わかりました、絶対、絶対に……見つけます」

 

一瞬だけ、ヘンリクとの事を思い起こす。

来て早々でこの街に慣れていないスレナ達を、時間が無いだろうに案内をしてくれた。

 

些細な困りごとをいくつか解決してくれた。

勇者だとか、そういうこと関係なく親身に接してくれた。

 

この戦いでも、奔走して騎士団の援軍を勝ち取って来た。

スレナ達の戦いに他の魔物が割って来れないようにしたのもヘンリクだ。

 

「ありがとう、ございました」

 

友人と呼べるほど、親しくは無く。

恋情を抱くほど、時間を共にしたわけでは無い。

 

されど、いやだからこそ。

スレナ達の胸にこの出来事は深く刻まれた。

 

後悔として。

 

 

 

 

今回の事を総括すると。

 

『救えたはずの命を、自らで救わない決断をした』

 

例えそれが、他ならない私に懇願されたものであったとしても。

救わないと決めたのは、彼女である。

 

『しかも、その命は自らを救ってくれた命だ』

 

助けられたのに、助けなかった。

それは彼女に傷を残すだろう。

 

『自らの過ちが原因で、人が死んだ。助けられたのに助けなかった。それはある程度親交があった人物で……ってね。恨みも言わずに、願いだけ託すってのも良いポイントだ』

 

――最悪ですね。

 

『最高だろう。大切な人ではないけど、親切にしてくれた人が自分のせいで死んだってのは結構きついものだ。ともすれば、大切な人よりもね』

 

私は姿勢を正し、それを見る。

 

『さて、振り返りは終わり。次の話をしようじゃないか』

 

――……………了。

 

「私は、残された残機を使用してヘンリクの妹になる。いやあ、自分自身の妹になるってのは、少し面白いねえ」

 

残機。

私にはそういうものがある。死んでも生き返る、ただし別人として。

 

肉体の死は、私にとって死ではない。

造り変えの時というだけだ。

 

そしてここはセーフティーゾーンのようなもの。

 

――聞きますが、なぜ妹なのですか?

 

『血縁関係の方が良いだろう。そしてまだ誰かの庇護が必要な子供はマストだ。これからも彼女たちとはお付き合いしていきたいからね』

 

――それだけではないでしょう?

 

『……男の子よりも女の子の方が、庇護欲がそそられるだろう?ああ、女性蔑視とか言うのは止めておくれよ。最近の世の中は物騒なんだ』

 

それに、と透明の肉体を触る。

 

『私の元々の性は、女なんだよ。男よりか、やりやすいだろう?ほら、一人称も私だ』

 

――…………理解しました。理解に苦しみますが。

 

『……まあ、なんだ。今私がやっているのは、ただの趣味だ。貴方に課せられた仕事は、ちゃんと全うするよ。魔王の殺害って仕事はね、だから、安心しなよ』

 

座っていた椅子を放りだして、私は歩く。

カーテシーを披露して、笑う。

 

『囚われの女神様?』

 

――なぜ、貴方のような怪物に魅入られてしまったのでしょうね、あの勇者たちは。

 

 

 

その存在は、異次元からやって来た異形の存在である。

その存在は、人の姿を模し、人を凌駕する知恵と力を持っている。

その存在に、事実上の死は存在し得ない。

 

その存在の名を、女神はこう評した。

【亜人《人でなし》】と。

 

 

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