メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー   作:斎藤 晃

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アトリエシリーズの主人公は、結構お金に苦しんでいたりします。
というわけでベル君にも苦しんで貰います。


ソーマファミリア解散!

「毒ですね。」

 

 私の店にある唯一のソファーセットで私は自称神のソーマ様と向き合って座っていた。ソーマ様は自己紹介を信じるならば酒の神様らしい。たしかにソーマという高級酒が時々オラリオの街で出回っているという噂は聞いたことがあるけど、それが本当ならば結構凄い神様ということになる。

 だけど、私の目の前にあるお酒はそれを否定するに足りるものだった。

 

「どう見ても毒だよね。状態異常『魅了』に『依存』って初めて見るものだけど…。」

 

 隣りに座るベルも同見解らしかった。

 昨日の朝にベルを訪ねてきたソーマ様だったけど、あいにくとダンジョンに潜る初日ということもあって、日を改めて会うことになった。

 今日の夕方になり、ベルとともにソーマ様と会うことになったのだけど、ソーマ様はベルの作った祝福のワインがいかに素晴らしいかを語り、その上で自分の作った神酒(ソーマ)を見てもらいたいと言ってきた。

 最初はただのマウント取りかと思ったけれど、ひと目見て分かった。この人自分が何を作ってるのか分かってないか、悪意を持って毒をばら撒いている邪神だと。

 ベルも同じような感想を持ったのか顔が強張っている。毒酒を確認した後、アーシャにはヘスティア様を呼ぶために走ってもらっている。無自覚なのか、確信犯なのかはわからないが、こちら側にも神様が居なければ話は進まないだろう感じていた。

 

「毒? 私が作った酒を、事もあろうか毒だというのか!」

 

 私たちの言葉にソーマ様は激昂して、自身の作る酒がいかに素晴らしいのかを力説している。

 だけど、目の前にある酒瓶は動かぬ証拠として存在していた。

 

「ソーマ様、もしかしてこれを飲んだ者は、酒に魅入られてしまいそれ以外のことを考えられない腑抜けになっているのではないでしょうか?」

 

 私の言葉にソーマ様は「何故それをっ!」と返してきた。その反応から、この自称酒神が無自覚に毒をばら撒いてるのではという疑惑が、確証に変わった。

 

「このお酒には、いえ毒酒には飲んだ者を虜にして、それ以外のことが考えられないようにする毒が含まれているように思えます。心当たりがあるというのなら、もう作らないほうがいいかも知れません。」

 

 私は少し語気を強めて言った。これは毒だ。酒の姿形をした毒だ。麻薬だ。こんな物を大量にばらまかれでもすれば、早晩オラリオの秩序は崩壊するかも知れない。

 そうなれば、私たちの生活にも影響が出てくるだろう。店の経営は立ち行かなくなり、そこら中で犯罪行為が行われるようになる。せっかくつくった私の大切な場所(メティーのアトリエ)が奪われてしまうかも知れないのだ。苛立ってしまうのも仕方ないだろう。

 最初はベルに任せようとも思ったが、これは駄目だ。錬金術士として見過ごせない。

 

 私の言葉を聞いたソーマ様は何かを言いたげにしていたが、肩を落としてソファーに座り込んでしまった。

 それから彼はずっと黙ったままだった。ベルの視線は私とソーマ様の間を行ったり来たりしているが、何も言い出せないようだった。

 誰も声を出せなくなり、ただ沈黙がその場を支配していた。

 

 その時だった。

 

「母さん連れてきたぞ。」

 

 アーシャがヘスティア様を連れてきてくれたのだ。それだけでは無い。なんとミアハ様まで連れてきていたのだ!

 ミアハ様は『青の薬舗』という薬屋を営むファミリアの主神だ。冒険者のみならず一般住民相手にも薬を売ってくれるので、オラリオの一般人にとってはそれなりに馴染みがある男神だ。とは言え、今は貧乏な超零細ファミリアまっしぐらのところなので、正直言って経営者としては信用できそうもないが。

 

 どうやらヘスティア様とミアハ様はお酒を飲む約束をしていたらしかったが、その約束を取りやめてこちらに来てくれたのだと言う。

 アーシャのファインプレーに、私は立ち上がり娘を抱きしめたくなったが、ここは我慢だ。

 

「さて、御二方にも聞いてほしいのですが…。」

 

 私は会話の主導権を握りヘスティア様とミアハ様に、これまでの事をまとめて話した。

 ソーマ様は黙りこんでおり、視線は下を向いていて私たちの会話を聞いているのかどうか分からなかった。

 

「それでですけど、ミアハ様にはこれがどう見えますか?」

 

 机の上に置かれた酒瓶を手に取ったミアハ様は、蓋を開けて匂いを嗅いだり眺めたりしていたが、暫くして口を開いた。

 

「何らかの毒が含まれているというのは本当のようだ、と思う。毒の種類まではわからないが…。」

 

 ミアハ様の言葉が決定打だったのだろう。これまで黙っていたソーマ様は立ち上がるやいなや、駆け足で店から出ていった。

 あまりの急展開に呆然とそれを見ることしか出来なかった私たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌週になり、ある日の夕方のことである。

 店に再びソーマ様が現れた。その顔色は非常に悪く、疲れ切っているようだった。

 昨日の今日のことなので警戒していたが、ぽつりぽつりと自分の事を語り始めた。

 ソーマ様が言うには、良かれとしてやったことだったのに、眷属たちは酒に溺れ堕落しきってしまってしまったこと。

 それを見て下界の人間になんの期待もできないと思いこんでいたこと。

 全てに失望し、酒造りのみを唯一の生きがいとして続けていた所に、ベルの作った祝福のワインの事を知り、試しに飲んでみると自分の作る神酒(ソーマ)には劣るものの、その美味しさに衝撃を受けた事を話してくれた。

 

「ベル・クラネルならば私のことを理解してくれるかも知れない。そう思ったのだが、それ以前に自分がなんと愚かだったのか理解した。」

 

 そうして続けて語られたのは、ファミリアに置いていた神酒(ソーマ)を全て叩き割り処分したこと。

 それが原因で、ソーマファミリアの団長と言い争いになった上に、彼が反旗を翻してきたので神威を解放して制圧したのだと言う。

 この事がきっかけで、ファミリアの主神をすることが嫌になり、同郷のガネーシャ様を頼って相談した結果、ファミリアの解散へと事が進むことになったのだと言う。

 

「多分、私は最初からファミリアを作るべきではなかったのだ。そのような器ではなかったし、自分が何を作っているかも知らなかったような愚か者だった。」

 

 ソーマ様の顔は、確かに疲れてはいるけど、先週に見たときよりも晴れやかな感じがした。

 

「はぁ、それで私にそんな事を話してどうしたいのですか?」

 

 私にとってはファミリアが解散しようがしまいが、関係ない。あの毒酒さえ作らないというのであれば、本当にどうでもいい話だった。

 

「あなたの息子に弟子入したい。酒の神だと言うのに自分が作っている酒の危険性がわからなかった。なのに、あなたとベル・クラネルは一目でそれを見抜いてしまった。」

 

「それならばミアハ様もそうなのでは?」

 

「ミアハはダメだ。酒のことは何も分かっていない。」

 

 そう言って深々と頭を下げてきた。

 神が人間に弟子入する。あまり聞いたことはないが、遠い昔、神が地上に降りてきた当初はそうする神も居たらしい、とは聞いたことがある。

 神は下界では神の力(アルカナム)を使えないので、下界に合わせた技術を学び、それを蓄積して現在の高度な技術を作り上げてきたと言う。

 それが現代で再現されるとなると、面倒くさいことになるだろうな、というのが私の率直な感想だった。

 

「うーん。」

 

 ある意味でこれはチャンスなのでは?

 私はなんとなく思いついたそんな言葉が浮かんでしまい考え込んだ。

 先週見た神酒(ソーマ)は、たしかに高い品質を持つ代物だった。だけど、発現している効果が酷かった。

 そう、『魅了』も『依存』も特性ではなく、あの酒本来の効果だったのだ。

 それは、今のままでは同じことばかり繰り返すことになるだろう。特性ならば選択肢から除外すればいい。

 だが、効果は別だ。ある程度の属性値を上げてしまえば効果は発現してしまう。恐らく、原料も吟味して作っていただろうから、何度作っても毒酒しか作れなくなっているのかも知れない。

 

 同時に、それは私にある答えを教えてくれた。効果を発現させている。

 つまりは、ソーマ様は錬金術を無意識下で使っているのでは、という可能性だ。

 そして、ソーマ様の経験や知識はもしかすればベルの成長に繋がるかも知れない。

 

「ベル本人がいいというのなら構いません。ただし無理強いはダメです。後は、ファミリアとかの後始末もきちんとしてからにしてください。」

 

「ありがとう。恩に着る。」

 

 ソーマ様は御礼の言葉を言って、初めて笑顔を見せてきた。まだ暗い影は少し残っているが、これだけ笑えるのならベルに対する悪影響も少なくて済むかな、と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからの話をしようと思う。

 

「えー! 僕に弟子入り?!」

 

「ベル・クラネル、いや師匠。どうか私をあなたの弟子にしてほしい。このとおりだ!」

 

 帰ってきたベルを待っていたのは、ソーマ様のきれいな土下座であった。

 一部の神がやるこの行為は、自らの誠意を相手に伝えるために行うことだと言う。それを突然されたベルは混乱するばかりで、まともな返事が出来そうになかった。

 それを見て流石に可哀想になってきたので、私は助け舟を出してあげることにした。

 

「ソーマ様、今日は遅いですしまた明日にしませんか?」

 

「…そうだな。申し訳ない。」

 

 ソーマ様は私の言葉に素直に従って土下座を止めて、帰っていった。

 ところで何処に帰るのだろうか?

 ファミリアの眷属とは対立してしまっているようだったし。

 後日になって、ガネーシャファミリアに一時的に居候していると聞いて、やはり駄目神は何処まで言っても駄目神なのだと納得してしまった。

 

「お母さん、僕どうすれば…?」

 

「自分で決めなさい。ソーマ様も自分が二度と毒酒を作ってしまわないようにしたいと思っているのよ。今すぐに決めなければいけない、という事はないからしっかりと考えて、他の人と相談したりしながら考えなさい。」

 

「はい…。」

 

 いきなりの展開でベルには何も判断が出来ないようだった。こういう時は時間をかけて冷静になってから、じっくりと考えるべきだろう。

 もちろん、直感で決めたほうがいいときもあるけれど、今回の場合は悩みに悩みまくって決断すべきだろう。

 ベルはそれから、暫くの間上の空の様子だった。

 まだ冒険者になって数日で、こんな事が起きたのだ。錬金術を学び始めて5年という年数は、弟子を取るには少し早いと思う。

 けれど、弟子を取るといろんなことに気付かされることを、私はベルを弟子にしてから理解したのだ。

 

 子供でも理解できるようにわかりやすく説明すること。

 間違っても焦ったり苛ついたりせずに、丁寧に根気強く教え続けること。

 子供の何気ない疑問でも、何故そうなるのかを深く理解できていないと答えられないこと。

 

 私はそういった事を、すべてベルから学んだ。ベルを弟子に取ったことで、私はそれ以前よりも遥かに錬金術を深く理解し、使えるようになった。

 それをベルにも理解してほしかった。

 とは言え、決めるのはベルだ。私はベルが答えを出すのをただ待っているしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして更に1週間後、ベルは決断を下した。

 この間に様々なことがあった。

 ベルが1人でダンジョンに潜り、ミノタウロスに襲われて死にかかったり。*1

 毎日のようにベルに弟子入りを懇願するソーマ様の相手をしたり。

 本当にソーマファミリアが解散してしまったり。

 毎日が一杯一杯だったろうに、ヘスティア様に相談し、ミアハ様と唯一の眷属の方*2と回復アイテム*3のヒーリングサルブやリフュールボトルについては、『青の薬舗』で販売委託を始めたらしい。

 様々な人や神と話し合い助言を求め、悩みに悩み抜いた果に下した結論は。

 

「僕は錬金術士として未熟だし、冒険者としても駆け出しだけどやってみるよ! だからソーマ様、これからよろしくお願いします!」

 

「ああ、ああ。ありがとう。ありがとう、我が師よ。」

 

 閉店後の我が店(メティーのアトリエ)で、ソーマ様は涙を流しながらベルの決断を喜んでいた。

 どうも、酒造りが出来ないことが酷くストレスだったらしい。かと言って、今お酒を作ればあの毒酒が出来上がってしまう。*4

 だから、ベルの答えを聞いて思わず涙を流してしまったらしいのだ。

 

「ソーマ、おめでとう。」

 

「ああ、ありがとう。これから世話になる。」

 

「ところでソーマ様、これからは何処に住むんですか? ソーマファミリアは解散して、資産も元眷属だった人たちへの補償として配ったらしいですけど。」

 

 ソーマファミリア解散に際しては、色々な問題が起きていた。ガネーシャファミリアの支援の元、元眷属たちは改宗(コンバージョン)先を振り分け、資産整理をしてそれを分け与えたのだ。もちろん、神酒(ソーマ)に魅入られた人たちの治療も行った。その治療薬はベルが作ったので、結果的に資産の一部はベルにも流れてきたらしいけど。

 だが、その過程でファミリアの団長を含む一部が犯罪行為を行っていた事が明るみに出たようで、その中でも団長を含めた数人は闇派閥とも関わり合いがあったらしい。

 当然、降って湧いたそれらの出来事にガネーシャファミリアは大混乱を起こし、アストレアファミリアにも手助けを求める事態にまで発展した。

 結果的に元眷属の半数近くが逮捕されるという事態にまで発展し、ソーマ様に対する風当たりはより一層厳しいものになったという。

 これが原因で、オラリオでは趣味神たちに対して、ついでに酒神に対しての見る目が変わり、ガネーシャとアストレアの両ファミリアはそれらのファミリアに対して目を光らせる必要が出てきたのだった。

 

「今の私は無一文だ…。ヘスティア、どうか私をお前の所に置いてほしい。」

 

「ええっ!? 僕達にだってそんな余裕はないやい!」

 

 なんとソーマ様は無一文に、住所不定無職の神様になってしまっていた。

 それを聞いたベルは顔が引きつってるし、アーシャは喚き散らすヘスティア様とソーマ様の言い合いに、とても苛ついている様子だった。イクセルはレストランに行ってしまいもう居ない。

 言い争いを始めるヘスティア様とソーマ様を尻目に、私はベルに呟いた。

 

「ベル、早く錬金術士としても冒険者としても立派になって、2人を養ってあげてね。」

 

「あ、あ、あ、あ、そんなぁ…。」

 

 ベルの泣き声が部屋に響いたが、2人の言い合う声にかき消された。

 アーシャはあくまでベルの手助けするだけなので、ヘスティアファミリアの運営にはノータッチだ。

 私がそうするようにベルを説得した。ダンジョンでの利益は半々で分け合うことにしてあるが、ヘスティアファミリアに入るお金はベルのだけである。

 もちろん、ベルには『豊醸の女主人』にお酒を売っているお金もあるし、アストレアファミリアへ納品している各種アイテムの収益もある。

 だけど、ようやく余裕が出来始めた所に居候(無一文)が1人追加されたのだ。

 

 

 

 

 

 なお、後日行き場をなくした小人族(パルゥム)の少女をベルが拾ってきて、ベルの扶養家族は一人増えたという。

 我が息子ながら、なんて不運なんでしょうね。いえ、自ら不運を引き寄せる駄目息子なのかしら。

 私はベルの将来が、少し不安になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
メティーとヘスティア2人がかりで説教した。ヘスティアはメーテリアに対して土下座をして謝罪をした。

*2
メティーはナァーザの顔も名前も知らなかった。

*3
デニッシュや祝福のワインは、いつの間にかポーション扱いにされていた。

*4
失敗作は普通の美味しいお酒になるが、それはそれとして成功作を作りたくなるものである。




現在のヘスティア・ファミリア
・神
 ヘスティア:時給30ヴァリスのジャが丸くん売り。
 ソーマ:住所不定無職の無一文の自称ベルの弟子で居候。無収入。

・眷属
 ベル:お酒を売って月収数十万ヴァリス+『青の薬舗』での委託販売の売上があるものの、居候が増えた。そのくせ、更に居候を増やした。素材の殆どは購入しているので、カツカツ。
 アーシャ:ほいほい神や女を拾ってくるベルの事をどう矯正してやろうかと頭を悩ませている。

・居候
 パルゥムの少女:みんな大好きリリ助。ソーマファミリアが解散したので、眷属の冒険者登録は抹消されサポーターも続けられなくなった。




ベルくんの細腕に神2柱、少女1人の生活がかかっている!
頑張れベル君。
冒険者としても錬金術士としても大成して皆を養うのだ!

なお、歴代主人公曰く、錬金術はあまり儲からない模様。
借金スタートの主人公たちも多いしね。
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