メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
原作でも結構厄アイテムでしたけど。
今日は
お祭りの内容は重要ではない。重要なのは、お祭りだということなのだ。
お祭りということは、住民の多くが遊びに出かけて沢山お金を落とすということ。私たち商人にとっては、そんな人達が落とすお金をどれだけ目敏く集める事ができるかを競うイベントでもあるのだ!
「と言う訳で、去年と同じように私とアーシャはお店で営業するから、ベルとイクセルは東の大通りで屋台をお願いね。」
「あー、俺はサンライズ食堂の仕事をお願いされてるんだけど…。」
「家族と修行先、どっちが大切なの?」
「…分かりましたお母様。」
怪物祭の当日の朝、私達家族は
ベルもお店の手伝いに来ることに渋っていたけど、アーシャが
私たちは家族なのだから、お店は家族皆で手伝うべきだ。そんな事を思いながら笑顔でベルに顔を向けると、急に姿勢を正して「はい、頑張ります!」と敬礼してきた。
うん。今日も私の子供たちは家族思いのいい子ばかりだ。
ちなみに、屋台の商品数は去年より5割ほど増やした。去年は売れすぎて昼前には売り切れてしまい、儲ける機会を失ってしまったと歯痒い思いをしたためだ。私は菓子職人ではあるが、同時に商人なのだ。
去年はその自覚があまりなかったせいで、慣れない店舗経営にヒーヒー言っていたが、今年は違う。
「母さん、去年と同じということは…。」
「ええ、アーシャ、今年も気合を入れて作ったから、可愛い服を着て接客してね。」
「ええっ…。」
アーシャは見るからに嫌そうな顔をして項垂れた。そんな顔をしないの。去年のメイド服は殊の外好評だった。普段無愛想な美少女が、恥じらいながらも接客をするさまは、男女問わず人気を博した。
去年よりも成長して美しくなったアーシャは、今年も人気になるだろう。そして、売上にも貢献してくれるはずだ。…余りにも不躾な態度や視線を向けてくる輩は、捕まえてアストレア・ファミリアに突き出してやるつもりだけれど。
「さあ、今年も稼ぐわよ!」
こうして、今年も私たちの戦いが始まった!
「メティーさーん、おやつくださいー!」
いつもよりも少ないお客さんしかいない店内に、アストレア・ファミリアのネーゼさんの元気な声が響き渡った。ネーゼさんは褐色肌と、アマゾネス顔負けの露出が多い格好が特徴的な狼人の女性だ。
今日も元気におやつを買いに来たネーゼさんは、怪物祭用に作った特製パイ”アイスパイ”*1とカップ売りのフルーティー*2を購入して、1つだけ空いていたソファーに相席して寛いでいた。
「ネーゼさん、今日はどうされたんですか?」
今日のお祭りのメイン会場となる闘技場は東のメインストリートが一番混雑するため、ガネーシャ・ファミリアやアストレア・ファミリアはそちらに人員の多くを割いているはずなのだ。
だと言うのに、こんな昼間から反対側にある西地区のわたしの所にやってきたのだ。何かあるのか勘ぐるのは仕方がないだろう。
ちなみに、いつもよりお客さんの人数が少ないのは皆東の方へ行ってしまっているためである。決して私の店が人気がないわけではないのだ。多分、ベルたちに頼んだ屋台は地獄のように忙しくなっているだろうけど。
「特に何かあったわけじゃないけどさ、元々こっちの方の巡回担当だったし、1度はメティーさんの所に顔を出しとかなきゃ駄目だって思ってさ。あ、ちなみに東の方は例年通り凄い人通りだったよ。」
ネーゼさんの言葉につい笑顔を浮かべる。色々と理由を言っているが、何かと私たちのことを気にかけてくれていることは分かっていた。
去年は嫌がらせをしてくる人が少しだけいたので、今年もいないかと顔を出してきてくれたのだろう。姉さんが馬鹿なことをしたツケはそれだけ大きかったということだ。
とは言え、アストレア・ファミリアの皆が全力で私を擁護してくれたおかげで、そんな噂話はすぐに消え去ったけれど。彼女たちの善性は、オラリオではとても知れ渡っているのだ。感謝してもしきれないほどに、私たちは彼女たちにはお世話になっている。
特にベルが冒険者になりたいと言い出してからは、彼女たちに頼る機会は格段いに増えた。だと言うのに、彼女たちはそれに不満を言うこともなく受け入れてくれた。*3
「で、今年もアーシャは可愛いカッコしてるじゃない。アリーゼあたりなら抱きついて頬ずりしそうな可愛さだねぇ。」
「はぁ…、この格好は私の本意ではない。本意ではないが、着ないと母さんが悲しそうな顔をするからな。しかたなく着ているだけだ。」
「あー、マザコンは未だ健在かぁ。って、怒るなってば。」
私が作ったお揃いの、メイド服を着たアーシャは、ネーゼさんのからかう声に過剰に反応して拳を振り上げかけたが、すぐに肩をがっくりと落としてため息を付いた。
「今日だけ、今日だけだからな。今年はもう二度と着ないぞ。」
「可愛いのに。なんてもったいない。」
「もっと可愛い服を着ているところを見せてよ。ね、アーシャ?」
ネーゼさんと私の言葉にイヤイヤと顔を振るアーシャの動作はあまりにも可愛かった。それを見ていた常連客の皆さんも。
「アーシャちゃんの恥ずかしがっている顔、凄く可愛いわぁ。」
「ねえメティーさん、あの服の型紙をくれません? 今度孫娘に作ってあげたいのよ。」
私の店はお菓子屋ということもあり、常連客も女性が多かった。特に今日はお祭りの熱気から逃れたい人がこの店に避難しているために、年配の女性を中心としたお客さんが多かったりする。
「メティーの作る服って、時々変なのがあるけど、結構可愛い服が多いもんね。売ったりしないの?」
「うーん、申し訳ないですけれど、服を売るほど時間も手間も割けないですね。カリンさん、型紙くらいなら今度お譲りしますね。」
「あら本当? 嬉しいわ。」
型紙を欲しがっていた老婦人は、私の言葉に笑顔で喜んでくれた。
「あー、食べた食べた。じゃあ、私は巡回に戻るね。何かあったらこの大通りを歩いてると思うから、知らせてね。」
そう言って、ネーゼさんはお仕事へと戻っていった。さて、私もお仕事に戻りますか。
そうして店ではゆったりとした時間が流れていたが、店を畳んだ後の夕方になる少し前、陽が少し傾いた頃に屋台組の息子2人が帰ってきた。どうも、商品を売り切ってしまったので早めに帰ってきたらしかった。
「今年もすごい人出だったよ。まあ、時々盗みやらが出てきたからすぐさま捕まえて
「昼過ぎ辺りに何だか慌ただしくなったけど、特に何にも起きなかったな。出来ればもっと早く売り切れてたら、遊びに行けたのに。」
ベルとイクセルが、今日の屋台での売上を報告しながらそんな感想をこぼしていた。
後日知ったことだけれど、どうやらガネーシャ・ファミリアが用意していたモンスターを解き放とうとした輩がいたらしい。警備の人たちが倒されてしまって騒ぎになったという。
幸いにもモンスターはよく調教されていた*4ので、逃げ出すこともなく半壊した檻の中で大人しくしていたらしいが。
ただ、それとは別に街中にモンスターが現れたという話もあったけど、ロキ・ファミリアがサクッと倒して大事には至らなかったと言う。
そんな話をアストレア・ファミリア経由で知った私だったが、ガネーシャ・ファミリアの憲兵としての実力がよく分かる話だった。アーシャもイクセルもガネーシャ・ファミリアに対して賛辞を送っていたが、それ以上に
とは言え、何事もなくお祭りが終わり、去年以上に稼げたのだ。今年は私の完全勝利だと言っていいだろう。
「じゃあ、お店の片付けをしたら外に食べに行きましょう。『豊醸の女主人』に予約を入れているのよ。こういう機会でないと、ベルの仕事ぶりを確認する機会はないから、お母さん楽しみだわ。」
「ちょ、待ってお母さん! 聞いてない! 聞いてないよ、そんなの!」
かの店の女主人のミアさんとは時々お話をする間柄だ。同じ西地区に店を構える女店主同士、色々と話が弾むこともあるのだ。
ただ、かの店に食べに行くのはこれが始めてだったりする。新しいお店の開拓というのは、幾つになってもワクワクして楽しいものなのだ。
あ、その前にお土産お土産。仕事終わりに食べられるように、ハニーパイやミルクパイなどの手軽に食べられるお菓子を詰め合わせを持っていくつもりだ。
さて、今日は楽しく家族皆での外食よ。
怪物祭が終わり、『豊醸の女主人』で注文した食事を楽しみに、家族皆で話しながら席に座っていると団体客が入ってきた。どうも冒険者たちとその主神のようだった。
「ロキファミリアか…。」
「あそこの主神、最近毎日のように来てるよな。」
「祝福のワイン狙いだろ。ここでしか飲めない上に、早い者勝ちだからな。」
そんな声が聞こえてくる。この店は冒険者も一般人も一緒に食事を楽しめる場所として、この西の大通りで有名な店だ。問題を起こせば、元冒険者の店主によって容赦なく店からつまみ出される、そんな場所であるので私たちもこうして食事を楽しみに来れているのだ。
「おや、坊主。今日は家族で食事に着てくれたんだね。それと、メティーさん。さっきはお土産ありがとうね。後で皆で食べるのを楽しみにしているよ。なんたって、あのメティーのアトリエのお菓子だからね! それと、例の噂は知ってるけど、あんたも災難だね。顔が似てるってだけで。」
「ありがとうございます。私たちもここでの食事を楽しみにしていたんですよ。」
「ミ、ミアさん。本日はよろしくお願いします。」
店主のミアさんが私達の席にわざわざ挨拶しにきてくれた。この辺りではかなり名の知られた『豊醸の女主人』の店主に、私の店の名前を褒められるというのは何とも気恥ずかしく思える。
そして、最後は小声で私を思いやる言葉をかけてくれた。それが何となく嬉しい。
一方で、ベルは何故か堅苦しい言葉遣いになっているのを、ミアさんが不思議そうな顔で見ていたが、何かに気づいたのか悪そうな顔をしてベルの背中を叩いた。
「さては坊主。母親に自分の仕事内容を知られるのが嫌なんだね? しっかり胸を張りな。あんたはいつもいい仕事をしてくれるからね! まあ、そろそろ新しいお酒を期待してるから頼んだよ?」
そう言うと、今度は先程の団体客の席へと向かって行き、歓迎の挨拶をしていた。私の店では僅か4席だけのイートインスペースとも言えない場所しか無いけど、ここのように何十席もあれば、ああして席を回っていく必要があるのだろう。
その労力は計り知れないが、沢山のお客さんに自分の料理を食べてもらえるというのが、彼女の活力の源かも知れないと思った。
「パワフルな人ねぇ。」
「あははは。あの人いつもああなんだよね。」
私の呟きにベルが返してきた。アーシャとイクセルはロキ・ファミリアの方をじっと見ている。恐らく正体がバレないか不安なのだろう。
私のことを知っているアストレア様でも、アーシャ達のことは分からなかったのだ。多分大丈夫だ。
閑話休題として、先程からベルに視線を浴びせている薄鈍色の女の子のことについて聞きましょうか?
私は夕食の楽しい話題として、長男の女性事情について聞き出しながら、グラスに入っている飲み物を口に含んだ。
「あれ? お母さんお酒のんだの! アーシャ! イクセル! どうしよう、お母さんがお酒のんじゃった!!」
「何だと! 吐け、吐き出せ!」
「ああ、なんってこったい!」
子供たちがなにか言っているけど、何だかよく聞き取れないわね。
それよりも、何だかふわふわして気持ちいいわぁ。
そうだ、これベルの作った祝福の…。
「…、あら?」
気がついたら、私は自分のベッドで寝ていた。太陽光がカーテン越しに差し込んでおり、その角度から恐らく朝遅い時間なのだろうと理解できた。
「私いつの間に家に帰ってきてたのかしら?」
昨日は確か『豊醸の女主人』に食事に行って、ベルに気がありそうな女の子のことでからかった所までは覚えていた。
それ以降のことがどうしても思い出せない。右手を頭にやり、ウンウンと唸っていると、アーシャが部屋に入ってきた。
「起きていたのか。調子はどうだ?」
「ありがとう。ところで、私って一体いつ帰ってきたのかしら?」
アーシャは水の入ったコップを持ってきてくれていた。お礼を言ってそれを受け取り、飲みながら先程抱いた疑問を尋ねると、アーシャは暫く無言になった。
「…メーテリア、外食は暫く控えよう。昨日はお前が酒を飲んで大騒ぎして、すごく大変だったんだ…。」
「ちょっと待って! え? 私ってまたやっちゃったの?」
「やっちゃったんだよ! これで何回目だ。酒など飲むなって言ったのに!」
アーシャは怒鳴って部屋を出ていってしまった。私は以前もお酒を飲んでやらかした事があったので、できるだけ飲まないようにしていたのだけど、昨日は気分が良くて油断していたようだった。
「ははははは。どうしよ?」
ベルの取引先での失態。あまりものことに、私はベッドに倒れ込むのだった。
ベルに合わせる顔がない。この年になって、子供に恥をかかすなんてなんて駄目な母親なんだろう。
考えれば考えるほど気分が落ち込んでいく。
(今日を振替休日にしておいてよかった…。もうなにも考えずに、今日はゆっくりしましょう。)
そんな事を思いながら、私の心は沈んでいった。
アトリエ主人公が酒乱なのは伝統です。
メティーはその伝統を引き継いでいるだけなのです。具体的には他のお客さんに絡みまくり、ミアさんに店から放り出されました。
ベルくんは必死に頭を下げて、むしろミアさんに同情されました。許す代わりに、期限内に新しい種類のお酒を作ってくるように言われましたとさ。