メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
セシルについてはほぼオリキャラになっているのでご注意ください。
我ら錬金鍛冶研究会!
僕の周りの状況は、目まぐるしく変わっていって、正直ついていけない。
それが僕の正直な気持ちだった。
アストレア・ファミリアの皆にはとても良くしてもらっていたので、半ば仲間みたいなつもりでいたけど、接点のなかったヘファイストス・ファミリアまで繋がりができて、しかも技術提携までするとなるとは、僕には全然予想なんて出来なかった。
神様もそれは考えてもいなかったようで、ずっと慌てふためいていたので逆に安心してしまった部分もあったりした。
難しい話は置いておくとして、僕は連日ヴェルフさんの工房へお邪魔して鍛冶技術の指導を受けたり、逆に僕達の拠点に来て貰って錬金術の指導を行ったりしていた。
やはり錬金釜をぐるぐるしているだけで調合品が作れてしまうのにはヴェルフさんも驚いたようで、「ふざけろ!」と言いながら頭を抱えていたけれど。
ちなみにソーマ様は、僕達の隣の錬金釜をかき混ぜていて、お酒の研究開発に余念が無かったりする。最近はガネーシャファミリアの護衛が拠点の前で待機しているので、何となく落ち着かないけど。
ちなみに、ソーマ様はガネーシャ様から色々と依頼をされているようで、錬金術を使ってそれに答えているらしい。…全部お酒のアイテムにしているので、ガネーシャ様は頭を抱えているらしいけど。
そんなソーマ様は、錬金術自体の腕前はそこまで上がっていないけれど、錬金術の知識を凄まじい勢いで吸収して、これまでの培ってきた酒造りの技術を併用して、僕をもはるかに超えるお酒を作り出していたりする。
もうお酒に関しては僕に教えられることなど無いと思ったのだけれど、ソーマ様は僕のことを未だ師と仰ぎ、ヴェルフさんとの話にも参加して知識と技術の吸収に余念がない様子だった。
閑話休題として、今日もヴェルフさん立会のもとで、僕は錬金釜をかき混ぜて装備の調合を行っていた。
「ぐーるぐる。ぐーるぐる。」
「なあ、その、ぐーるぐるって奴は毎回言わないといけないものなのか?」
「えーと、別に言わなくてもいいよ。これはリズムを取ってるだけだから。」
「さよか…。」
でも、ぐーるぐる派の一員として、これは言わないといけない気がするのだ。そんなの気の所為だという声も聞こえた気がするが、それを無視して僕は今日もぐーるぐると言いながら錬金釜をかき混ぜていた。
「出来たっ!」
「何回見ても面妖な光景だな、おい。」
ヴェルフさんのツッコミを無視して、僕はメリクリウスの瞳をかけて詳細な情報を確認する。裸眼でも大体の品質や特性は分かるのだけれど、先日ようやく調合できたメリクリウスの瞳を使えばより詳細な情報がわかるので重宝していた。
「品質は61。特性は狙った通りに品質上昇と能力強化を付与できている。やった、今までで一番の品質だ。」
今回ナイフを作るのに使った素材の平均品質は73だったので、以前よりも品質が上昇したとは言っても、それでも品質低下はしている。でも以前と比べれば品質低下の度合いは減少していた。これも全てヴェルフさんのおかげであった。
ちなみに、ヴェルフさんが同じ素材で作ったら品質は70くらいになっていた。本職とのレベルの違いを感じる出来事だったけど、僕も着実に成長していることを今は喜びたい。
「ありがとうヴェルフさん!」
「こっちこそありがとな。レベル2にならなくても、鍛冶アビリティーを持っているのに近いことができるようになった。それにこの眼鏡のおかげで、特性とやらが分かるようになったから、鍛冶仕事も捗ってるぜ。」
ヴェルフは錬金術の基礎を学んだことで、これまでカンだけで行ってきた特性の付与がほぼ確実にできるようになっていた。以前は2割から3割ほどしか付与できなかった*1ようだが、今では8割は付与できていた。相変わらず付与できる特性は1つだけだったけれど。
それに加えて効果もある程度は発現できるようになっていたので、ヴェルフさんの作る装備は間違いなく素晴らしいものになっていた。
「とは言え、特性を複数つけられたらもっといい装備が作れるんだろうな。レベル2になればできるようになるかも知れないから、やっぱりダンジョンに潜るしかないか…。調合で経験値を得られるお前が羨ましいよ。」
僕は調合をすると経験値を得られるけど、ヴェルフさんは鍛冶をしても経験値は得られない。ランクアップを狙うならダンジョンに潜るしかないのだ。
それに、ヴェルフさんの場合は鍛冶アビリティーを取得できれば、特性2個を付けた上に属性まで付与できる可能性がある。
そうなれば、装備に関することではヴェルフさんは他の鍛冶師より高みに登れるかも知れない。
一方で、僕もダンジョンに潜る必要があった。より高位の素材を得られなければ、僕は今のまま足踏みすることになる。
最近は7階層にある
何故7階層かと言うと、あそこの
それは置いておいて、僕は装備の主材料となる高位の金属と布の原料が欲しかった。今はインゴットとクロースしか作れないので、もっと高位の装備素材の原料を手に入れたかったし、より強力な特性も欲しかった。
特に欲しいのは品質上昇系の特性だった。今は品質上昇しか持っていないので、ループ調合による品質の大幅上昇は望めない状況だったからだ。
それ以前に、『豊醸の女主人』と『青の薬舗』の仕事が忙しくてループ調合に割く時間はあまり取れないけれど。
「とりあえず、当面の目標は中層付近まで、つまり12階層を目指すってことだね。」
「まだレベル1の俺達じゃ中層に行くなんて夢のまた夢だからな。素材を買う手もあるが、それじゃ金がいくらあっても足りねぇ。やはり自分たちで取りに行くのが一番だからな。それに、鍛冶アビリティーを取りたい!」
結局のところ、僕達のやることはこれまでと変わらなかった。ダンジョンに潜って、頑張ってステータスを上げていくしかないのだ。
「目標を持つのもいいが、連携の確認やいざという時の備えも考えておけよ。特にベルは私以外の冒険者と組むのは初めてなのだからな。*2」
「分かったよ。」
「それもそうだな。」
アーシャの忠告で、とりあえず連携の確認や装備の見直しなどを行うことにした。
杖は新しく調合した鳥と陽の杖*3にしたし、ハンターナイフも作り直した*4し、防具もレザーシャツ*5を新しく調合した。
はっきり言って、最初に能力強化を手に入れられたのは奇跡みたいな話だったなと、今になって思う。だって、攻防強化や防速強化といった、能力強化の下位特性はいまだ見つかってないからだ。普通はこっちのほうが先に見つかると思うんだけどなぁ。
それは置いておくとして、ヴェルフさんも自分の新しい力で鍛えた武器と防具を揃えていた。装飾品は作るのが苦手らしいので、僕が作ったエンゼルリボンとナックルガードを装備している。
どちらも”能力強化”と”力+3”を付けている。これはヴェルフさんの希望で、戦闘スタイルが攻撃力重視だかららしい。
攻撃アイテムは、フラムとレヘルンとドナーストーンとクラフトに不幸の瓶詰め*6の5種類だ。
回復アイテムは、ヒーリングサルブと、リフュールボトル、ハニーシロップ*7、それと食料と兼用のデニッシュやフルーティーだ。
正直フルーティーは甘さがあるので苦手だけど、今の僕だとこれ以外だと、ぷにぷに玉がなくて作れないぷにぷにゼリーくらいしか魔力の回復方法がないので重宝している。…ぷにぷにってダンジョンにいるのかな?
冒険者になったばかりの頃と比べると、装備もアイテムもかなり充実してきた気がする。アイテムの種類もそうだけど、品質や効果も充実してきた。
最初の頃は、例えばクラフトを作っても発現した効果のないものばかりだったので、あまり使い勝手は良くなかった。お金に余裕ができて、品質と錬金成分の高い原料を買えるようになったことで、今ではかなり強力なアイテムを作れるようになったと思う。
とは言え、ヴェルフさんの言う通り、自分たちで材料を採取できたほうが断然いいアイテムを作れるようになる。品質の良し悪しを選別できるし、何よりも特性を見ながら採取できるのが大きい。
「ヴェルフさん、いつ頃ダンジョンに潜ろうか?」
「今日にも、と言いたいところだけど、怖い妹様が睨んできてるからな。ここは妹様の意見を聞こうじゃないか。」
「お前に妹などと言われる筋合いはない。明後日ならいいぞ。」
そういったやり取りがあったことで、次にダンジョンへ行く日程が決まったのだった。
それから2日後、僕達はバベル前の広場へとやってきた。まずは今日一緒に潜る人たちと合流するためだ。
今日一緒に潜るメンバーは、全部で5人だ。
僕、アーシャ、リリ、ヴェルフさん、そしてアストレア・ファミリアからセシル・ブラックリーザさんが参加することになっている。
セシルさんは、2年前にアストレア・ファミリアに入団した人でレベル2の上級鍛冶師だ。出身は剣製都市ゾーリンゲンで、地元ではいわゆる名家の出身らしい。
セシルさんが一昨日のヴェルフとの研究会にやってこなかったのは、前回の研究会が原因だった。3人の中で、セシルさんだけが特性や効果といったものが見えなかったのだ。
錬金術の素養のない人がこれらを見るのは不可能だ。メリクリウスの瞳を使えばある程度見えるようになるとは言え、素養がない人が使うと、やはり得られる情報量には限界があるようだった。
具体的に言えば、メリクリウスの瞳を使っても特性や効果の具体的な情報が分からなかったのだ。品質にしても、僕達には”品質60”と見えるものが、セシルさんには具体的な数字として見え無かったという。むしろ、自身の技術と経験からくる鑑定眼のほうが、品質に関しては精度が高かったくらいだ。
流石にこれには僕もお手上げだった。一方のセシルさんは涙目だった。
更には、僕が錬金釜での調合で実際に装備を作ってみたところ、頭を抱えて蹲ってしまった。ヴェルフさんも頭を抱えていたけど、すぐに気分を入れ替えて色々と質問してきたのに対して、セシルさんは蹲ったままブツブツ独り言を言うばかりだった。
しかも、どうやらその日からしばらく『星屑の庭』の自室で引きこもっていたらしい。そんなに僕の錬金術を見たのがショックだったんだろうか?
それでも、アストレア様とアリーゼさんたちの説得と励ましを受けた結果、今日のダンジョン探索に参加することは決まった。先日のことがあるから少し心配なんだけどね。
今回はこの5人で10階層を目指して潜ろうということになっていた。僕とアーシャのアドバイザーのエイナ・チュールさんに話してみたら、レベル2がいるパーティーなら大丈夫だろうということだった。
何故10階層なのかというと、そこには木が生えているのだ。木材だ。とにかく錬金術では木材が必要になる。ダンジョン産の木ともなれば、地上の木と比べて品質も高いし、特性もレアなものが付いている可能性があるのだ。
もちろん鉱石や粘土なども重要だ。
それらを採取して、モンスターを倒してドロップアイテムを獲得するのが今回の目的になる。
そして、ゆくゆくは12階層まで到達して、レベル2を目指すための布石にするのだ。
「先日は申し訳ありませんでしたっ!」
集合したパーティーメンバーの前で、セシルさんは深々と頭を下げて、先日のことを詫びてきた。顔つきを見る限りそこまでひどい状態ではないらしい。
そこからセシルさんは、なぜ今回のようなことになったのかを説明してくれた。普通は恥ずかしかったり、意地を張ったりして話したがらないと思うけど、真面目な性格ゆえなのか事細やかに語ってくれた。
どうも、彼女は今回の研究会で、錬金術の知識や技術を吸収して、皆に自分の能力を誇示したかったらしい。
それに加えて、研究会の3人の中で唯一のレベル2なので、自分が2人を引っ張っていかなくちゃと思っていたらしいのだ。
だけど、目の当たりにしたのはこれまでの自分の知識や経験が通用しない、全く技術形態の違う錬金術だったので気が動転したという。
そして、これまでの自分の努力を否定された気がしてしまい、数日間引きこもることに繋がったというのだ。
「あー、セシル嬢、言っとくが俺も結構ショックを受けてるからな? ベルの使う錬金術はどう見ても魔法の類に見えるから、俺の手に負えないって思ったときもある。大きな釜を混ぜてるだけで、武器や防具が出てきた時は自分の目を疑ったぜ。」
ヴェルフさんもセシルさん同様に、僕の見せた錬金術に衝撃を受けたらしい。
それでも、それを飲み込んで自分の糧にするのが今回の目的なのだから、受け入れてしまうしかないと言った。
…何だか悪口を言われている気分になる。僕の錬金術はそんなに非常識なのだろうか?
「ところで、何で私まで参加することになってるんですか? 今更冒険するなんて嫌なんですけど。」
2人の話が一旦終わった所で、リリが不満を表明してきた。
ソーマファミリア解散後、行き場を失って路地裏で蹲っていた彼女を見つけ、僕は彼女をヘスティア・ファミリアへ連れてきた。冒険者の資格を失い、途方に暮れていたらしい。
連れてきた先でソーマ様と再会して最初は驚き恐怖したらしいけど、僕がなんとか間を取り持って話を何度かした結果、少しは苦手意識を克服できたと言っていた。何でも数年前にあの
ソーマ様が
ソーマ様も、リリのことを気にかけていた時期があったようで、リリに良かれと思って
だから、
ソーマ様はそんなリリに何度も何度も謝っていたけど、自分はもう眷属を持てないと言って
そんなリリは、今ではヘスティア・ファミリアには居なくてはならない人材になっていた。僕の作った調合品を配達したり、帳簿をつけたり、掃除をしたり、各所と折衝をしたり、はっきり言ってリリが居なくなったらヘスティア・ファミリアが崩壊するのでは無いかと思うほど重要な存在になっていた。
僕はそんな彼女のために、僕の得た利益の半分を渡そうとした。最初は断っていた彼女だったけど、今はなんとか受け取ってもらえるようになっていた。利益の3割くらいしか受け取ってもらえてないけど。
そんなリリ曰く、僕は女透かしらしい。良いことしかしてないはずなのに、謂れなき濡れ衣を着せられた気分だ。
「お前もある程度鍛えてないと問題が起きた時に対応できんだろう。最近は祝福のワインの価値が一段と上がったし、ベルの錬金術が万が一知られたらヘスティア・ファミリアは狙われることになる。その時に真っ先に狙われるのはお前だぞ?」
アーシャの言葉に、リリは仕方ないとばかりにため息を吐いて「わかりました。」と答えた。理解はしているが納得はしていないという顔だった。
ちなみに、祝福のワインについては制作者が僕ということは少しずつ広がっているらしい。
また、値段もじわじわと上がっているようで、『豊醸の女主人』に今週分の納品に行った時の代金が1本3000ヴァリスにもなっていた。当初は1200ヴァリスだったので、この3ヶ月ほどで3倍近くにもなった計算だった。
ミアさん曰く、余りにも人気がありすぎて値上げするしかなかったらしい。でも、その結果プレミアが付いたとお客さんが思ったようで、より人気が上がっていっているらしいのが皮肉だ。
ちなみに、『豊醸の女主人』では1杯1000ヴァリス、1本4000ヴァリスで売っているらしい。ボッタクリにしか思えない値段だ。
「私はサポーターに徹しますから、絶対に守ってくださいよ?」
「そこは安心しろ。」
アーシャの返事でリリは安心したらしいけど、僕は安心できなかった。アーシャと2人で潜っていた時も、アーシャは僕を鍛えるとか言いながらモンスターの群れを押し付けてきたりしていたのだ。本当に危なくなったら助けてくれたけど、アーシャはかなりスパルタ教育をしてくるから安心できない。
もっとも、アーシャ自身もレジーさんにかなり厳しい鍛錬をつけられたらしいから、あの人との修行が判断基準になっているのではないだろうか?
お母さん曰く、レジーさんは世界最強らしい。僕からすれば、レジーさんもお母さんもアーシャもとてつもなく強いということしかわからないけど。
そんな事をつらつら考えていると、どうやら一通り話しが終わったので、僕達はダンジョンへ向かって進み始めた。
これから僕達の冒険が始まるのだ!
セシルは半ば家出状態でオラリオに来た設定です。
自分を認めない家族を見返すために、錬金術の力を利用しようと思うも、常識はずれの技術についていけなくて引きこもりました。
アトリエシリーズでも、錬金釜での調合を見て驚愕している人もいたので、ダンまち世界じゃもっとショックを受けると思いこういう話にしました。