メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
フレイヤは以前からベルに目をつけていましたが、一般人だったので自重していました。
しかし、ベルが冒険者になったので我が物にしようと画策しています。
大体は原作通りです。
ダンジョンでの探索は、8階層までは順調だった。今回は10階層で採集を行う予定なので、道中は向かってくるモンスターと戦い、魔石とドロップアイテムを回収するだけだった。
数時間で8階層に到達し、9階層に踏み入れてから暫くして、アーシャが「撤退したほうがいいかも知れない。」と言い出した。
アーシャは手元のコンパスを覗き込んでいた。コンパスは敵の存在や位置を確認することができるアイテムだ。それを見ながらそんな事を言うには、なにか危険な敵がいるのかも知れない。
僕はアーシャの言うことに素直に従おうとしたけど、ヴェルフさんとセシルさんはせっかくここまで来たのに引き返すなんてありえないと抗議してきた。
そもそも、今回のパーティーリーダーはセシルさんになるので、アーシャの言うことを受け入れるかどうかは彼女が判断することになる。
そして、セシルさんが下した決断は探索の続行だった。
だけど、セシルさんがそれを言っている最中に、奴は現れた。
「ほら、くだらん言い争いをしている内に、奴さんのほうがしびれを切らして現れたぞ。」
アーシャはそう言って、腰のホルスターからディアマント*1を抜き取ると現れた敵、ミノタウロスに向けた。以前見たミノタウロスよりも、明らかに体躯が大きい。
「それでどうする? 戦うのか、逃げるのか?」
アーシャはセシルさんに判断を迫った。多分アーシャならあれくらいの敵だと簡単に倒せるのかも知れないけど、こんなふうな言い方をするには何か考えがあるのだろう。
僕はとりあえず右手にナイフを持ち、左手にドナーストーンを構えて戦闘準備をした。回復アイテムは自動使用50%がついたリフュールボトルがある。
「わ、私が時間を稼ぐから、皆逃げてっー!」
セシルさんはそう言うやいなや、ミノタウロスに向かって走っていった。槌を手に持ちミノタウロスに思い切り振り抜く。それは容易く受け止められ、反撃を受けたセシルさんは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
レベル2が一撃で倒された。その事実に僕達は恐慌状態になりかけた。
「セシルさん!」
「ふざけろっ!レベル2が一撃だって!」
幸いリフュールボトルが発動した*2ようで、セシルさんの怪我は治ったようですぐに立ち上がることが出来た。
ミノタウロスはレベル2相当のモンスターだ。だと言うのに、レベル2のセシルさんが容易く吹き飛ばされ、しかも一撃で生命力の50%以上を失うダメージを受けたのだ。
間違いなく普通のミノタウロスではなかった。強化種という言葉が脳裏をかすめる。
「それでベル、どうすべきだと思う?」
この絶望的な状況でも、アーシャは僕を鍛えることを考えているようだった。セシルさんは怪我こそ治ったけど、一撃で酷いダメージを受けた事に衝撃を受けたのか腰が引けていた。
ヴェルフさんもレベル2が吹き飛ばされたことで戦意を喪失しかけている。
かといって、逃げるにしても遅きに失している。
ここは戦うしか選択肢がないのではないか。
「戦うしかないのか…!」
ヴェルフさんは戦う覚悟を決めたらしく、両手剣を上段に構える。セシルさんもミノタウロスに近づき、片手剣を構えた。2人とも微かに体が震えているようだ。へっぴり腰でも戦う意志を見せる2人に、僕も覚悟を決めた。
「あの2人だけでは死ぬぞ。」
「分かってるよ!」
僕は右手のナイフをしまい、杖に持ち替えた。左手にはドナーストーンを持ったままだけど、次弾をすぐに持てるように腰のポーチの留め具は開いたままだ。
その上で不幸の瓶詰め*3を腰のベルトに差し込む。
「ふたりとも避けて!」
僕は大声をあげてドナーストーンをミノタウロスに向けて放つ。真正面から受けたミノタウロスは状態異常“しびれる”となり動けなくなった。
すぐさま不幸の瓶詰めを思いっきり投げつける。投げた不幸の瓶詰めはミノタウロスに寸分違わずにぶつかり、瓶が割れて効果を発揮しだした。
これでしびれが抜けたとしても、ミノタウロスの動きは著しく遅くなっているはずだ。その上で、僕は持っている杖“鳥と陽の杖”の第1スキル“ガードブレイク”*4を放つ。
「敵の防御力を下げました!」
僕の言葉にセシルさんとヴェルフさんが剣を振るい始めた。まだドナーストーンの“しびれる”の効果が残っているのか、ミノタウロスは動けないようだった。
「次、爆弾を2個連続でいきます!」
「「分かった!」」
2人は即席の連携ながら、サッと後ろに引いた。ポーチから取り出したのはフラムとレヘルンだ。フラムは火属性の爆弾で、火傷を負わせて継続ダメージが期待できる。レヘルンは、氷属性の爆弾で、敵の動きを遅くすることが期待できる。
これらを使って、更にミノタウロスにデバフを盛るのだ。
フラムを投げて炎とともに爆発音がした後に、レヘルンを投げてミノタウロスに氷が張り付いているのを確認できた。
最後に、僕は杖の第2のスキル“強化の術式”*5を2人にかけた後、自分にもかける。
この頃になると、2人は再びミノタウロスに接近して攻撃を再開していた。
そして、ここからは僕も攻撃に参加するのだ。
杖とドナーストーンを持ちながら、ミノタウロスに向け駆けて行く。しびれが取れたのか、遅いながらも動き始めたミノタウロスに再びドナーストーンを放って、痺れさせる。
そして、それからは僕を含め3人でミノタウロスをタコ殴りし始めた。動き出したらまたドナーストーンを使う予定だけど、そろそろ“しびれる”の効果も薄れてしまうだろう。ドナーストーンの“しびれる”は強力だけど、使うたびに効果は薄れていくのだ。
効果が消える前にミノタウロスを倒しきりたい。そんな時に、セシルさんの槌がミノタウロスの右太ももの表皮を叩き、血が吹き出た!
「チャンスだ!」
僕はそう叫んで、傷口にフラムを叩き込む。僕のやりたいことが分かったのか、2人とも僕同様にすぐに後ろに下がった。そして爆発。右足を失い、腹部も大きく吹き飛んだミノタウロスだったけど、まだ生きていた。
「しぶとい奴め! さっさと倒れやがれ!」
「素直に私の経験値になりなさい!」
二人はそう言いながら再び剣を振るう。僕もガードブレイクを再び放ち、2人と共にミノタウロスへの攻撃に参加した。
大きく口を開けてハウルを放とうとするミノタウロスに、僕は最後のドナーストーンを放つ。大口を開けたまま動けなくなったミノタウロスに、僕はその口めがけてフラムを投げ入れた。
そして爆発。頭が吹き飛んだミノタウロスはゆっくりと崩れ落ち、灰へと変わっていった。
「ハァハァハァ、やった…のか?」
ヴェルフさんが信じられないと言った面持ちで、灰へと変わっていったミノタウロスを見ていた。セシルさんは気が抜けたのか武器を落とし、座り込んでしまっていた。
「やった! 僕達の勝利だ!」
僕は思わず勝鬨をあげた。ミノタウロスと戦ったのはこれで2度目。そして、初めて(仲間もいるとは言え)自力で倒したのだ。喜びも一入だった。
「勝ちやがった…。」
聞き慣れない声がするなと思い振り返ると、そこには数人の冒険者の姿があった。その中に見覚えのある女性も居た。あの時ミノタウロスから僕を助けてくれた女性。真っ赤にしてしまったあの人が居た。
「強化種のミノタウロス。恐らくはレベル3相当の相手に勝ったのか…。」
エルフの女性が信じられないものを見るかのような顔で僕達を見ていた。
言いたい放題のあの人達は誰なのだろうか?
「ロキ・ファミリア?」
セシルさんが立ち上がりながらあの人達の正体を教えてくれた。ロキ・ファミリアと言えば、オラリオの誇る2大ファミリアの一つだ。そんな彼らに僕達の戦いが見られていたのだ。
誇らしく思えるのと同時に、お粗末な戦いを見せてしまったのでは無いかと恥ずかしく思ってしまった。
「素晴らしい冒険だったよ。どうか君たちの名前を聞かせてくれないか?」
金髪の小人族の男性が僕達にそんな事を言ってきた。セシルさんと思わず顔を見合わせると、セシルさんはおずおずと言った感じで自己紹介をした。
「セシル・ブラックリーザ。アストレアファミリアのレベル2です。」
「ヘファイストス・ファミリア所属、ヴェルフ・クロッゾだ。レベル1だ。」
「ぼ、僕はヘスティア・ファミリア所属のベル・クラネルです。レベル1です。」
僕達の自己紹介にロキ・ファミリアの人たちは驚いたようだった。セシルさんはレベル2だったけど、他の2人はレベル1なのだ。
先程のエルフの女性が言った事が正しければ、あのミノタウロスはレベル3相当。この3人で勝てたことは奇跡にも等しい出来事だったのだろう。
「ところで、君と君、兄妹なのかな? 知り合いの顔にそっくりなのだけど、君の母親の名前を聞いてもいいかな?」
フィンと名乗った小人族の男性は、アーシャと僕とを指さしてお母さんの名前を尋ねてきた。何故そんなことをと疑問に思っていると、アーシャはそれに答えた。
「母の名はメーテリアだ。母を知っているのか?」
「ちょっとだけね。
レジーさんの名前が出てきたので、この人はお母さんの知り合いなのは間違いないと思った。
「わしとリヴェリアは一緒に戦ったこともある仲だがな。あの娘っ子にこんな大きな子供がおるとは、時間が経つのは早いのう。」
ドワーフの男性が僕達を見ながら感慨深そうに語っていた。この人たちとお母さんがどんな関係なのか僕は知らない。だけど、そこに込められた感情が好意的であることを理解できた僕は、何だか嬉しくなった。
「ところでよ、こいつがお前をトマトにしやがった奴なのか、アイズ?」
「それは…。」
「おいおいベート。あれは僕達の失態だ。レベル1でミノタウロスと戦い、曲がりなりにも倒しかけていたんだ。それを称賛こそすれ、非難することは出来ないよ。」
「チッ。」
ベートと呼ばれた狼人の男性に僕のした過ちを責められたけど、フィンさんに宥められてこの場はなんとかなったようだった。アイズさんと呼ばれた女性は、「気にしないで。」と手をヒラヒラさせていて、僕は少し心が軽くなった。
「さてと、君たちには良いものを見せてもらったけど、そろそろお暇させてもらうとするよ。」
フィンさんがそう言うと、ロキ・ファミリアの一団はダンジョンの奥へと消えていった。残された僕達は勝利の余韻を感じつつも、ロキ・ファミリアの人たちに称賛されたことに有頂天になっていた。
「俺達結構いけてるんじゃないか?」
「ベルさん、ヴェルフさん、あなた達のお陰であの強敵に勝つことが出来ました。ありがとうございます!」
「よしてください、セシルさん。僕達は仲間じゃないですか。協力するのは当然ですよ。」
「しかし、今回のダンジョン探索はどうするべきか考え直すべきだと思います。ロキ・ファミリアが先に進んでいるけど、私たちは消耗しているので。」
僕達は互いに褒め称えながら暫く話し合った。
セシルさんも流石に撤退すべきだと判断したようだった。僕もそれに賛成した。手持ちの攻撃アイテムが半分ほどになってしまっていたし、僕の持っている杖は折れかけてしまっていて、とてもじゃないが戦いを続けることは出来そうもなかった。それほどあのミノタウロスは強敵だった。
ヴェルフさんも同感だったのか、セシルさんの言葉に同意していた。
「アーシャさん、貴女は私に危険を教えてくれたのに私はそれを活かせずに、申し訳ありません。」
セシルさんは、この中で最年少のアーシャにも素直に謝罪した。付き合いの長い僕なら躊躇なく感謝できただろうけど、セシルさんはパーティー内で唯一のレベル2で、アーシャよりも年長者になる。そんな人が素直に謝罪したのは僕にはちょっとした驚きだった。
「これからは人の言うことに素直に耳を傾けるべきだな。」
いつもの生意気なアーシャの言葉に僕でもちょっとイラッときた。セシルさんも少しはイラッと思ったのだろうけど、それを何とか抑え込んだようだった。
「とりあえず今日はこれで撤退しましょう。」
セシルさんの言葉に皆が頷き、この日は結局当初の目的地である10階層に到達できぬままに終わってしまった。
だけど、次回にこの経験は活かせるはずだと思い、今日という日を終えたのだった。
でも、今日の出来事は新しい問題が起きる原因になる事を僕はまだ知らなかった。
ダンジョン探索を終えて2日後、アリーゼさんとライラさんが僕達の元を訪れた。その顔には焦りの色が見えていた。
「ベル君助けて! セシルがよくわからない状況になってるの!」
そう、誰もが想像だにしなかった問題が起きたのだ。
次回、下界の未知にオラリオ全土が慄き、錬金術士の真価が問われる。
Q.ロキ・ファミリアとメティーの関係って?
A.死の7日間で、アルフィア相手に共闘したことがある。特に18階層の戦いでは、メティーがアイテムを惜しみなく使い、アストレア・ファミリアやロキ・ファミリアを支え、縦横無尽に活躍した。
ただし、メティーはそのことをあまり覚えていない。
誤字の指摘ありがとうございます。
機能の使い方がわからず、対応できていないところもあるかと思います。申し訳ございません。