メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー   作:斎藤 晃

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錬金術に爆発はつきもの!

誤字のご指摘ありがとうございました。


新人店員アミッド!

「いらっしゃいませー。」

 

 今日もお店は大繁盛。新しい店員さんも入って、ベルが抜けた穴も埋めることが出来た。アーシャも冒険者をする時間が増えたので、少し嬉しそうだ。*1

 

「い、いらっしゃいませ……っ。」

 

 アミッドさんはまだ慣れていないのか、お客さんにかける声に戸惑いが現れている。笑顔も硬いし、後でアドバイスしてあげた方が良さそうだ。

 

 そんな事を考えつつ、今日もお店の商品は完売して、お昼を少し回った頃にはお店を閉めることになった。

 

 

 

 

 

 

「って、なんで私がお菓子屋の店員なんてやらないといけないんですか!」

 

「??? あなたは私の弟子になったのでしょう? 私の仕事はお菓子屋の店長兼職人(パティシエール)よ?」

 

「私は! モンスター化の呪いを解く薬を作りたくて弟子入りしたのです!!」

 

 アミッドさんは、騙されたと言わんばかりの表情で私に食ってかかってきた。心外な。これもきちんとした修行よ。

 

「ねえ、今日来ていたお客さんたちの中で気になった人はいたかしら? 私はカリンさんっていう元鍛冶師の人の体調が悪そうなのが気になったけど。」

 

「髪のかなり短い年配の女性の方ですか? あの方はーー多分右肩を酷く痛めていますよね。後は視力も低下しているようです。」

 

「正解。カリンさんには健康レーションを毎回勧めているの。年齢もあるから完全に治ることはないけど、痛みも小さくなって目も見えやすくなるはずよ。」

 

 私の話に、アミッドさんは眼を丸くした。どうも、私が単なる労働力として彼女を見ているのではないかと勘違いしていたらしい。

 

「まずは私の店にある商品が、どのような効能があるのかを知ってほしいの。その上で、お客さんに必要な商品をおすすめできるようになってね。」

 

「はい、分かりました!」

 

 アミッドさんの頼もしい返事に、私はしめしめとほくそ笑んだ。ベルが冒険者になって、うちのお店が人手不足になったのは間違いじゃないから、ビシバシ働いてね。

 

 

 

 

 

 店の片付けを終えて、私たちは少し遅い昼食を取った。昼食は基本的にイクセルがほぼ毎日作ってくれている。これも修行の一環だとか。

 

 今日のメニューはロイヤルコッペと豆のスープだ。両方ともイクセルが作ったものだ。錬金術のようにとはいかないけれど、十分に元気が出そうな美味しさだ。

 

「アミッドさん、これも錬金術を応用して作った料理よ。イクセルは錬金術そのものは使えないけど、料理に応用して使っているの。」

 

 そして、どのような効能があるのかを説明すると、アミッドさんは眼を丸くさせて驚いた表情を見せた。パンとスープをジーッと凝視するけど、何も分からなかったようで、すぐに「はぁ……。」と気落ちした様子をみせる。

 

「まだ初日だからそんなに焦らずに、気長にいきましょ。ベルもあそこまで成長するのに5年はかかったのよ。」

 

「むしろ、たった5年で私たちの常識をぶち壊すものを、大量に作れるようになったことのほうが驚きです。」

 

「言っておくけど、あの子は今年になってから急激に成長し始めたのよ。でも、それはこれまで5年間の勉強の成果とも言っていいわ。肩の力を抜いて、もっと気楽にいきましょう。」

 

 私の言葉にアミッドさんは小さく頷いて、食事をし始めた。私やベルのような効果はないけれど、料理で少しは疲れが取れることに驚いたようだった。

 

 だからか、彼女はあっという間に完食してしまった。

 

「片付けは私がやっておくから、母さんは調合をしていてくれたら良い。」

 

「それじゃ、俺は少し休むから頼むな。いつも通り3時頃にはレストラン(サンライズ食堂)に行かなくちゃならないからな。」

 

 アーシャが片付けを買って出てくれたので、それに甘えてアミッドさんを連れて調合室へと向かう。イクセルはレストランに行くまで休憩するようだ。

 

 以前はアーシャはイクセルにもっと働けなんて言っていたけど、イクセルが料理の道に進むと決めてからは、私の後押しもあったからかアーシャはこうしてイクセルの身体を気遣い、休憩を取れるようにサポートしてくれるようになっていた。

 

 イクセル曰く、アーシャはかつてアルフィアだった頃と比べると信じられないほど丸くなったらしい。私にはいつも優しかった*2ので実感はないけれど、私以外にはかなり厳しく接していたようで、その落差が凄まじいらしい。

 

 

 

 調合室にやって来た私たちは、早速アミッドさんに錬金術について教えはじめた。

 

「まず覚えてほしいのは、錬金術とは『複数の材料を組み合わせて、まったく別のものを作り出す技術』ということよ。それ自体は他の職人の人達もやっていると思うけど。」

 

「はい。私も神秘のアビリティを持っていますので、魔道具や薬を作ることもあります。それは理解できます。」

 

「そうなのね。だけど、錬金術が特殊なのは、私たちが『効果』と『特性』と呼んでいる2つの物を引き出すことができる技術だということよ。」

 

 そして、私は錬金術の簡単な説明をしていく。

 

 かつて、ベルはヴェルフという鍛冶師が効果を発現させ特性を付与できていることを知って驚いたそうだ。錬金術を使わなくても、それらを扱うことができることは、私も先生から教わって知っていた。

 

 けれど、実際に目にしたことはなかったので、ベルからその事を聞いた時はやはり驚いてしまった。

 

 アミッドさんがこれまでに作ったという魔道具や薬を見せてもらったが、一部のアイテムにはしっかりと「効果」が発現していた。彼女には間違いなく、錬金術の才能があるのだと思う。

 

 ただ、特性を付与できているものは1つもなかったので、それがこれからの課題になるだろう。

 

「じゃあ、まずはヒーリングサルブを作ってみましょうか。」

 

 ヒーリングサルブは錬金術で作る最も初歩的な回復薬だ。アミッドさんもその存在は知っていた*3ようで、二属性回復薬(デュアル・ヒーリング・ポーション)としてオラリオ中の医療系ファミリアが再現しようとして失敗しているのだという。

 

 それを作るさまを直接見れるということで、アミッドさんは目を輝かせて私を見つめてきていた。何となく居心地が悪くなった。

 

「……よく見ててね。後であなたにも作ってもらうから。」

 

 まずはお手本として、私がヒーリングサルブを作るところを見せる。素材はトーン、植物油、井戸水を使う。これが一番安く手に入る材料で、数も沢山用意できる。練習用の素材としては最適な選択だと思う。

 

「ここで、魔力を込めながらーーぐーるぐるして……。」

 

「ぐ、ぐーるぐる?」

 

「そう、ぐーるぐる。」

 

「ぐーるぐる…。」

 

 そうして、錬金釜をかき混ぜていくと、ものの数分でヒーリングサルブが完成した。品質は50。ほぼ最低品質と言ってもいいし、効果も最低レベルで特性もない。だけど、練習用としては十分だ。

 

「これをつけて見てみて。多分あなたなら見えると思うから。」

 

「見える……? 何が見えるというのですか?」

 

 アミッドさんにメリクリウスの瞳を渡すと、疑問符を浮かべながらそれを掛けた。――次の瞬間、彼女の顔が驚きに包まれて、大声を上げ始めた。

 

「メ、メ、メ、メティーさん! こ、これは一体何なのですか!! 数字と文字が宙に浮かび上がってますよ!?」

 

「それが私たち錬金術士が常日頃から見ているものよ。数字は品質の高さを表していて、文字はそれの効果を表示しているはずよ。本当はそれに加えて、特性というものがあるんだけど、練習用だから今回は付けてないわ。」

 

「ひんしつ……? こうか……? とくせい……?」

 

 未知の概念の濁流に、アミッドさんはもうキャパシティが一杯一杯という表情で、ふらふらと足元を揺らしている。いきなり世界の裏側を見せるような大量の情報を与えてしまった。知恵熱でも出てしまったのだろうか。

 

「大丈夫? 少し休みましょうか。」

 

「だ、大丈夫です。これが錬金術。私の知らない神の奇跡の再現でもない技術。これが今から私が学ぶもの……。」

 

 アミッドさんは自分に暗示をかけるかのように、ブツブツ呟いていたけど、メリクリウスの瞳を外すと意を決して錬金釜の前へと立った。

 

「ええと、材料はこれとこれとこれ。順番はこのとおりで、魔力はこれくらい出しながら…。それと、ぐーるぐる。」

 

 イメージトレーニングをしてから、材料を入れ始めて調合を始めた。……うーん、これじゃあこの調合は失敗しそうね。ぐーるぐるじゃなくて、ぐるぐーるになっちゃってるから。

 

 爆発に備えて私がすっと距離を取った、まさにその瞬間。 ――ドォン! と激しい音を立てて、錬金釜が爆発した。

 

「キャ―――っ!」

 

「まあ、最初はこうなるわよねぇ…。」

 

 アミッドさんは何が起きたのか分からずに混乱して悲鳴を上げていた。昔のベルを見ているようで懐かしいわ。*4

 

「な、な、なんで釜が爆発するんですかー! しかも火元じゃなくて釜の中身が――っ!?」

 

「そりゃ、魔力の制御に失敗したからよ。でも落ち込まないで。最初は皆爆発させるから。」

 

「爆発するのが普通なんですか!」

 

「そういうものなのよ。」

 

「もうヤダ―――ッ!」

 

 何でか知らないけど、アミッドさんは涙を流し始めた。錬金術って爆発してなんぼだと思うのだけど。*5

 

 

「ぐーるぐる。ぐるぐーる。」

 

「そこ違うわよ。今はぐーるぐーるーになってる。」

 

「ぐ、ぐーるぐーる?」

 

 

「ここをこうして、魔力をこう流せば、綺麗なぐーるぐるになるわよ。」

 

「こ、こうですか?」

 

「今度はぐるぐーるになってるわね…。」

 

 

 その後、何とか自分を奮い立たせて再度挑戦したアミッドさんだったけど、3回ほど派手な爆発を経験した後にようやくヒーリングサルブを完成させることが出来た。

 

 

「品質は28、効果は最低レベル…。それでも成功よ。おめでとう、アミッドさん。」

 

「あ、ありがとうございます…。ふぅ。」

 

 初日でヒーリングサルブを調合できるなんて凄いじゃない。ちなみに、私は2日ほどかかった記憶がある。さすがは戦場の聖女(デア・セイント)の名を冠する天才治療師、その肩書きは伊達じゃないということね。

 

「でも、ベルは最初の1回で調合に成功したのよね。」

 

「あの人本当に凄すぎませんか!」

 

 思い出せば、ベルの才能は最初から私を超えていたような気がする。先生が私にベルを教えるように言ったのは、ベルを通じて私も成長しなさいという意図があったのかも知れない。

 

「それはともかく、あなたは錬金術士としての第一歩を踏み出したのよ。明日からも頑張ってね。」

 

「分かりました。」

 

 アミッドさんは私の励ましの言葉を聞いて、ヒーリングサルブを胸に抱きしめて力強く返事をしてきた。

 

 明日からも売り子をお願いね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ベルが久しぶりに顔を見せた。ダンジョンの18階層に行っていたらしく、大量の素材を手に入れてホクホクしていたとアーシャが言っていた。私も、アーシャからたくさんの素材を受け取ったので、多分ベルと同じ顔をしていたと思うけど。

 

 そして、ベルはとうとう、()()()()()()()を調合できるようになったのだという。1ヶ月半前まではリフュールボトルを作るので精一杯だったベルが、そよ風のアロマをつくれるようになってしまった。しかも、ダンジョンで毒に侵された人を数十人も一気に治したのだとか。

 

 それを知った私は、冷や汗をかいていたと思う。信じられないほどの成長速度だとは思っていたけれど、ここまでの成長は想像すらしていなかったからだ。

 

 リフュールボトルとそよ風のアロマでは、調合の難易度が倍近く違う。この私ですら、リフュールボトルを安定して作れるようになってから、そよ風のアロマを完成させるまでには半年以上かかったのだ。その何倍もの速度で成長しているという事実に、母親として少しの恐ろしさすら覚えてしまう。

 

 とは言え、ベルは錬金術を学んで5年も経っている。私もそれくらいの時には、そよ風のアロマを作れるようになっていたので、まあ、同じくらいの成長速度と言えなくもない……。 うん、きっとそう。そうに違いない。そういうことにしておこう。

 

「わ、ほんとにアミッドさんがいる!」

 

「ご挨拶が遅れたこと、本当に申し訳ありません。この度メーテリアさんの弟子となったアミッド・テアサレーナです。これからは妹弟子としてよろしくお願いします。」

 

「あ、これはどうも。僕はベル・クラネルです。これからもよろしくお願いします。って違うでしょ! アミッドさん、モンスター化の呪いの治療薬の開発はどうなったんですか!」

 

 ベルのテンションは非常に高いようだ。

 

「それなのですが、私では治療薬の開発が無理だと分かりました。というのも、あの呪いは複数の呪いが複雑に絡み合って成立しているもののようで、事実上研究開発が頓挫してしまいました。そもそも、私の魔法で治せなかった以上、私たちの力では治療薬の開発は無理だと結論づけていましたから。」

 

「そ、そんなぁ。」

 

 ベルはアミッドさんの話を聞いて、ヘナヘナと座り込んでしまった。

 

「アミッドさんの事は置いておいて、ベルの方はどうなの? どれくらい成長してるの? そよ風のアロマを作れた事は分かってるけど。」

 

「うん、ようやくそよ風のアロマは作れたよ。それより聞いてよ。僕、やっと()()()()を作れるようになったよ!」

 

「は?」

 

「生命の蜜? それはどのようなアイテムなんですか?」

 

 生命の蜜を作れるようになったと聞いて、私はつい間が抜けた声を出してしまった。なんて成長速度なの。

 

 生命の蜜とは、数ある回復アイテムの中でも定番の蘇生アイテムとして一種の道標となっているものだ。それをベルは作ってしまったのだという。

 

「生命の蜜は、簡単に言えば蘇生効果のある回復アイテムです。」

 

「そ、蘇生ですか……っ!? そんな神の奇跡を具現化したような代物が、この世に存在するのですか!?」

 

「それが……あるのよねぇ……」

 

 ベルの才能ってもしかしてヘルミーナさんレベルなの? そう思えてくるくらい、ベルの成長速度は異常だった。

 

「これが生命の蜜です。」

 

「はぁ……。どれどれ、見せて……って、ええええええええええっ!? 本当に、本当に『蘇生効果』が発現しているじゃないですか――っ!?」

 

 アミッドさんは、ベルから渡された生命の蜜をメリクリウスの瞳を掛けて確認して絶叫した。私も確認してみたけど、確かに“戦闘不能回復・微”の効果が発現していた。

 

「お、おめでとうベル。」

 

 多分今の私の顔は少し引きつっていると思う。ベルが冒険者になった時、私はベルにライバル宣言をしていた。だと言うのに、ベルだけが成長し続けていて、私は停滞している。これは、いよいよ本気で賢者の石の調合を頑張らないといけないかも知れない。

 

 このままベルの成長速度が続いたとすると、夏が終わる頃には私はベルに追い越されてしまうかも知れない。それは私の心に焦りを生み出すのに十分な事だった。

 

 アミッドさんに修行を付けながら、自分の研究を続けるのはかなりのハードスケジュールだ。

 

 だけど、ベルもまたソーマ様を始めとして合計3人もの人や神に錬金術を教えながら成長しているのだ。そんなのはただの泣き言にしかならない。

 

「アミッドさん、これからはもっとビシバシいくわよ。」

 

「は、はいぃ。」

 

 ついアミッドさんに強い口調で言ってしまった。だけど、ベルに負けないためにも私はもっと頑張らないといけないのだ。そのためにも、アミッドさんには、できるだけ早く錬金術を身に着けてもらわなければならなくなった。

 

 ベル、私はまだ負けてないからね!

 

 

*1
そんな事はない。

*2
実の妹にトロ子というあだ名を付ける程度の優しさ。

*3
もちろんベルが作ったものである。

*4
なお、自分も最初の頃は爆発させていたことはきれいさっぱり忘れている。

*5
これは完全に錬金術の沼にどっぷりハマった、狂気の錬金術士の感想である。もちろん、オラリオの一般的な感性とは激しく乖離していた




ベル君の錬金術士レベルは現在18です。
冒険者になってから8も上がりました。
このままの成長スピードだと、あっという間にメティーを追い越してしまうので、メティーはかなり焦っています。
ちなみに今のメティーの錬金術師レベルは33です。

ちなみに、ライザ(1作目)はおそらく2から3ヶ月でレベルカンスト(レベル99)しています。
多分シリーズ最速の成長スピードです。
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