メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー   作:斎藤 晃

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ダンジョンで1週間ほど過ごしたベルは、その間に溜まった仕事を熟しつつ、取引先を回ったり、新規開拓をしたりします。


営業活動!

 ダンジョンで1週間ほどの素材収集から帰ってきてから、まずしたことは神様によるステータスの更新だった。錬金術をずっと使い続けて来たから、僕のステータスは魔力と器用に偏っていたけど、今回の更新で他のアビリティーも大幅に成長していた。

 

「ああ、ベル君のステータスを見てると癒されるなぁ。アーシャ君のはいつも心臓と胃に悪いから尚更だよ。」

 

「ははははは。」

 

 今回の更新で、僕のスキルが成長しているのが分かった。

 

 

 

 

 ベル・クラネル

 <ヘスティア・ファミリア>

 レベル1

 

 力 :H143

 耐久:I98

 器用:G297

 敏捷:G221

 魔力:F335

 

 《魔法》

 

 【】

 

《スキル》

 

【錬金術士】

 調合時、発展アビリティ『調合』の一時発現。

 調合時、発展アビリティ『神秘』の一時発現。

 発展アビリティ『分解』の発現。

 錬金スキルの強化。

 特性枠解放+1。

 生産数+1。

 調合により錬金術士としての経験値を得る。

 

【霊魂収奪】

 敵からレベルやステータスを奪う。(装備依存)*1

 基礎アビリティーに次の数値を均等に分配する。

 “351”

 

 

 

 

 神様曰く、「かなり早い成長スピード。」らしいけど、一緒に冒険者になったはずのアーシャがもうレベル2になっているからイマイチ実感がわかなかった。

 

 ちなみに、アーシャの二つ名は【兎銃士】(ラビットガンナー)になったらしい。拳銃が武器で、見た目が兎っぽいからだと言う。*2神様曰く、無難な名前になって嬉しいとのことだった。アーシャはどうでもいいと感じているようだったけど。

 

 でも、僕たち3兄妹は皆白髪で赤眼なんだけどなぁ。

 

 話を戻して、リリも神様と同感なようで、僕の成長スピードは異常だとかいっていた。そんなリリは基礎アビリティがHやGばかりらしい。

 

「ベル君の成長が早いのは、やっぱり調合で直接経験値を得られるのが原因だろうね。アーシャ君は例外として。」

 

「ベル様っていつ寝てるんですか*3、ってレベルでいつも調合ばかりしていますからね……。まあ、アーシャ様は……比較対象になりませんから!」

 

「まあ、でもベル君も大概信じられないほど凄いけどね。けれど、本当だったらもっとステータスは伸びてるはずなんだけどなぁ。」

 

「たしかに、中層ではヘルハウンドとかミノタウロスとかの群れをお一人で殲滅されていましたからね。普通ならランクアップできるんじゃ……?」

 

「それが出来なかったんだよね。リリ君の話どおりならランクアップは確実なんだけどね。」

 

 2人に呆れられるアーシャって一体…。同時に僕のアビリティーの伸びは想定よりも悪いらしいと聞いて、少し凹んでしまった。別に爆弾で倒したからって、魔剣と違って経験値はきちんと入るはずなんだけど。

 

 そんな事を考えながら、今回の成長でスキルに追記された文章を読んでみる。生産数が1つ増加するというのは簡単に理解できるものだった。

 

 問題は、発展アビリティ『分解』だった。これが一体何なのか全く分からなかった。

 

「分解なんて発展アビリティは聞いたことないや。」

 

「リリも聞いたことはありません。多分レアアビリティだとは思いますけど。」

 

「調合したものを材料に戻すスキルなのかな?」

 

「多分違うと思いますよ、ベル様。」

 

 2人ともに聞いたことのない発展アビリティだという。それがどのようなものであるか、僕は全く分からなかった。ギルドでエイナさんに聞いてみたけど、エイナさんですら知らないようだった。

 

 まあ、今はよく分からないアビリティの事を調べるよりも、不思議な絵を書ける人を探すことのほうが大切だ、それよりも営業の挨拶周りのほうが大切だって、リリには強く言われたけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンから帰ってきてから暫くして、僕はようやくミアハ・ファミリアの『青の薬舗』にやって来ていた。実は、以前からナァーザさんから呼ばれていたんだ。

 

 でも、ダンジョンから帰ってきてから、体を休めたり、収集した素材の分別を行ったりしていて時間を中々作れなかったので後回しになってしまっていた。

 

 お供としてリリにも付いてきてもらっている。リリはうちのファミリアの経営全般を一手に担ってくれているので、僕からすれば頼もしい限りだった。

 

 『青の薬舗』に到着すると、ナァーザさんは僕を見るなり駆け寄ってきて、勢いよく頭を下げてきた。

 

「な、ナァーザさん、一体どうしたんですか?」

 

「お願いベル君。私たちを見捨てないで、これまで通り商品を置かせてほしいの!」

 

「ええっ、一体何があったんですか?」

 

 ナァーザさんは僕に縋り付くようにお願いしてきたので、一体何があったのか事情を尋ねてみると驚きの事実が判明した!

 

「うそっ! お母さんがアミッドさんを弟子にしたんですか!!」

 

「……知らなかったの?」

 

「今初めて知りましたよ!」

 

 なんと、お母さんがアミッドさんを弟子にしたというのだ。時々お母さんのお店の手伝いをしているアミッドさんの姿があるとか。何やってるんですかアミッドさん!

 

 それと、ミアハ様はアミッドさんがお母さんに弟子にして欲しいと、お願いする瞬間に立ち会っていたらしいのだ。

 

 アストレア様のおまけで付いてきたらしいのだけど、お母さんがアミッドさんに弟子入り試験として中和剤の調合ができるようになることを求めて、目の前でお手本を見せたらしい。

 

 それ以降、ミアハ様は中和剤を自分も作れないか試行錯誤しているらしいけど、上手くいっていないという。

 

 それはともかく、ナァーザさんは僕もディアンケヒト・ファミリアに与するのではと思い、あんな必死な行動をしたらしい。

 

「なんでそんな大事になってるんですか……。」

 

「私もわからないけど……。じゃあ、ベル君は別にディアンケヒト・ファミリアについたわけではないのね。」

 

「むしろ、そういった話を蹴ってきたんですけど……。」

 

「嬉しい。」

 

 ナァーザさんは、僕の言葉に感激したのか、抱きしめてきた。柔らかい2つのぷにぷにが僕の顔を攻め立ててきて、理性が、理性が…!

 

「ナァーザ様、ベル様が苦しそうですから止めてください! それと必要以上にくっつかないでくださいよ!!」

 

「あっ、ごめんなさい。」

 

「いえ、大丈夫です。リリありがとう。」

 

 リリの言葉でナァーザさんは僕を離してくれたので一息つけた。柔らかい感触が無くなったのが、男としては少し残念だった。

 

「それじゃあ、これまで通りうちで商品を委託販売してくれるということでいいのね。」

 

「そうですね。それにこれからは商品の数も増やしたいと思います。それと、『豊穣の女主人』で、こういう事があって。」

 

 僕は『青の薬舗』に来る前に、『豊穣の女主人』に寄っていた。そこでミアさんに告げられたのは、祝福のワインの更なる値上げだった。

 

 どうも、祝福のワインにポーション同様の回復効果があると分かってから、怪我をしたまま店を訪れる客がチラホラいるらしいのだ。

 

 そういった客はミアさんが力ずくで店から叩き出しているそうだが、いい加減にほとほと頭にきたとのことだ。いっそのことハイポーションより高い価格設定にして、不純な動機で来店する客を完全にシャットアウトしたいのだとか。

 

「あっちも苦労しているのね…。」

 

 ナァーザさんはどこか遠い目をしながら、ミアさんの苦悩に同情した様子だった。

 

「ウチではね、ベル君の作る商品がよく売れてるんだけど、私の作るポーションがあまり売れてないのよね。抱き合わせで売ったりしたけど、今じゃベル君の作る物が無かったら経営が立ち行かなくなってるの。」

 

「ヒエッ。」

 

「そりゃそうなりますよね。リリも今更不味いポーションを好んで飲みたいとは思いませんし、効果はベル様が作った物のほうが高いですし。」

 

 ナァーザさんは暗い瞳で僕に店の経営状態を明かしてくれた。ミアハ・ファミリアには莫大な借金があるようで、それを返済するためにも頑張っていたらしい。

 

 けれど今や、僕の作る薬やパンがお店の売上の大半を占めてしまっているという。僕が支払っている委託販売の手数料こそが、現在の彼女たちの主な収入源になってしまっているのだそうだ。

 

 先ほど、ナァーザさんがあれほど必死になって僕に縋り付いてきたのも、それが理由だったのだ。

 

「でも、このままベル君だけに頼ってるわけにもいかないから、独自に新薬の開発も進めていたんだけど上手くいってないの。お願い。レシピはもう出来てるんだけど、素材を手に入れるのを手伝ってほしいのよ!」

 

『青の薬舗』の経営が傾くのは、僕にとっても決して他人事ではない。ここから得られる利益は、僕たちヘスティア・ファミリアにとっても非常に重要な収入源になっているからだ。

 

 ナァーザさんに協力したい気持ちは山々だったのだけれど、今の僕のスケジュールには、悲しいくらいに余裕がなかった。

 

「ちょっと今は時間がなくてですね。」

 

 僕は現在、ヘファイストス・ファミリア、さらにはアストレア・ファミリアと共同で研究会を立ち上げ、新しい装備品の研究開発を進めている最中であることを打ち明けた。もちろん、この話はオラリオの勢力図に関わる大ごとになるので、誰にも漏らさないようにときつく口止めもしておく。

 

「……はぁ。才能がある人って、本当に羨ましい」

 

 一通りの事情を説明し終えると、ナァーザさんはどこか羨ましそうに拗ねてしまった。

 

 僕としては、共同研究の他にも『万能厄除け香』の調合に向けた錬金術の技能向上も頑張らなくてはならないのだ。…ホムンクルス作れたらなぁ。*4

 

「モンスター化の呪いを解く薬の調合かぁ。……私には夢のまた夢ね。」

 

 何とか納得してもらったけど、ナァーザさんの表情は優れなかった。

 

「と、ところでですね、聞きたいことがあるのですけど。『分解』って発展アビリティについてなにか知りませんか?」

 

「『分解』? いいえ、聞いたことないわね。」

 

「ナァーザさんも知らないのかぁ。」

 

「でも、文字通り解釈するなら『何かを分解したら効果がわかる』ってことよね? 試しに、これを分解してみたら?」

 

 そう言ってナァーザさんが棚から取り出して手渡してきたのは、ごく普通の一般的なポーションだった。

 

 実は、僕自身はこれまでポーションというものを作ったことがない。最初からレシピや素材を知らなかったというのもある。

 

 けれどそれ以上に、僕が作れる『リフュールボトル』の方が圧倒的に回復効果が高かったため、わざわざ普通のポーションについて調べようと思ったことすら一度もなかったのだ。

 

 ポーションを手に持って、分解しろと念ずると次の瞬間、僕の手の中にあったポーションの小瓶が、光の粒子となって綺麗に消え去った。液体の入った小瓶が消え去ったのだ。

 

 代わりに、僕の掌の上には、一掴みほどの瑞々しい苔が現れていた。それと同時に、僕の脳裏へ直接、見たこともない新しい情報が流れ込んできた。

 

「凄い……! これ、アイテムを分解すると元の素材に戻るだけじゃなくて、そのアイテムの『レシピ』まで頭の中に浮かんで分かるんだ!!」

 

「……っ、嘘でしょ……。ありえないでしょ……それ。」

 

 ナァーザさんは凄いショックを受けているようで、カウンターに上半身を預けるように倒れ込んでしまった。何とか再び立ち上がると、僕にレシピを聞いてきたので、素直に答える。

 

「違う。私が作ったポーションのレシピじゃない。」

 

「え、本当ですか? 」

 

 なんと、僕が得たレシピはナァーザさんの作ったポーションのレシピじゃなかった。そこでふと思いついた。ナァーザさんは薬師で、僕は錬金術士だ。

 

 もしかすると、薬剤師のナァーザさんと錬金術士の僕とでは、同じポーションを作るにしても、そもそものレシピが根本から違う可能性が高いのではないだろうか。

 

 つまり、僕がアビリティによって得たレシピは、オラリオの薬学ではなく『錬金術専用のポーションレシピ』へと変換されたもの。それが僕の考察だった。

 

 ナァーザさんも僕の意見に同意してくれたので、この推測はおそらく間違いではないと思う。

 

 そして、僕が獲得したレシピはナァーザさんにとっては刺激的な内容だったようで、これを元に新薬を考えてみると目をらんらんと輝かせて意気込んでいた。

 

「信じられないけど、このレシピをもとにすればもっと凄いポーションを作れるかもしれない……!」

 

 

 

 

 

 

 それから暫くして。

 

「ナァーザ殿、…とベル殿!」

 

「あの時以来だな。あの時は本当に助かった。」

 

 扉を開けて店に入ってきたのは、タケミカヅチ・ファミリアの桜花さんと命さんだった。2人はモンスターパーティーに遭っていたところを、僕たちが助けたことで知り合った仲になる。

 

 どうやら、僕たちの本拠地が何処にあるのか分からなかったらしく、ナァーザさんを頼って僕に会えるようにお願いしていたらしかった。

 

「あの時の薬代だ。なけなしだが、ここに5万ヴァリス入っている。どうか受け取ってほしい。 残りの分も必ず近日中に用立てるから、どうか待ってほしい。」*5

 

「ご、5万ヴァリス!」

 

 あの時の薬代としては破格の値段だと思う。そう思っていると、ナァーザさんが横から口を出してきた。

 

「ダンジョンでベル君の薬で助けられたのよね? 5万ヴァリスじゃ割に合わない気がするけど。その倍以上が相場じゃない?」

 

「うっ……だ、だからこそ、残りの返済を待ってほしいと、こうして直々にお願いしに来たのだ……。」

 

「ええっ!」

 

 5万ヴァリスでも足りないなんて。一体僕の薬はどれほどの値段で売っているのだろうか?

 

「そう言えばベル様はそこら辺の金銭感覚には無頓着でしたね。」

 

「そうなの? リフュールボトルなんて2万ヴァリスで売ってるのに。」

 

 衝撃の事実。リフュールボトルの値段は2万ヴァリスだった。あの時3本使ったので、それだけで6万ヴァリスだ。最初に委託販売をお願いした時には2000ヴァリスだったのに、何でこんなに値上がりしているの!

 

 他の商品の値段も聞いてみると、1000ヴァリスのヒーリングサルブとは凄まじいまでの価格の差だった。ちなみにデニッシュは3000ヴァリスらしい。それでも飛ぶようによく売れているのだとか。

 

「以前はもっと安かったが、今は高くなってしまったな。性能や人気を考えると致し方ないが。」

 

「以前はデニッシュを2人で1個食べていたのが、今では6人で1個ですからね…。それでもあると無いとでは雲泥の差がありますが。」

 

「疲労回復アイテムなんて他に売ってないしな。ダンジョンでは疲れましたので戦えません、等と言ってられんからな。」

 

 そんな世知辛い話なんて聞きたくなかったよ!

 

二属性回復薬(デュアル・ヒーリング・ポーション)なんて代物を作れるのはベル君くらいだし、疲労まで回復するデニッシュなんて考え付きもしなかったしね。」

 

 今のオラリオでは、僕の作る回復アイテムを再現しようと、数多のファミリアが挑戦しては失敗しているらしい。ベル・クラネルに追いつけ追い越せが、現在の医療系ファミリアにおける合言葉なんだそうだ。

 

 いつの間にか医療系ファミリアの目標にされてしまってしまい、胃が痛くなってくる。冒険者になってまだ2ヶ月くらいでそんなこんなことになるなんて、考えてもいなかった。

 

「それはともかく、ベルくんが絵を描ける人を探しているっていってたじゃない。そこの命さんが、実は絵を描くの得意らしいよ。」

 

「命は多芸だからな。」

 

「いえ、自分のやってるのはただの手慰みですから!」

 

 僕は顔を赤くしてワタワタする命さんの手を握ると、話しかけた。

 

「命さん! 僕のために絵を描いてください! きちんと報酬も支払いますから!」

 

 僕は思わず命さんの手を取ってお願いしていた。命さんは慌てふためいていたけど、僕にとっては死活問題だった。

 

 上手く行けば、エリキシル素材と神秘の力素材の両方とも手に入れられるのだ。この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかなかった。

 

「て、手を……まずは手を離してください、ベル殿! 分かりました、分かりましたから! 心を込めて絵を描いてまいりますから――っ!!」

 

 無事快諾してくれたので、2人にヘスティア・ファミリアの本拠地に来て貰い、夢の絵筆とネージュの絵の具を渡してどのような絵を描いてほしいかの要望を話して、その日は別れた。

 

 ただ命さんは、僕の渡した夢の絵筆とネージュの絵の具を手に持った瞬間、「これは一体……?」と困惑した様子だったのが印象的だった。

 

 それはともあれ、命さんの描く絵が完成するのが、今から本当に楽しみだ。

 

 ちなみに、ナァーザさんの新薬を作るための素材収集は、タケミカヅチ・ファミリアが手伝うことで話が纏まったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絵が完成するまでの間も、僕は調合をしながらリリとともにあちこちへと歩き回っていた。それとは別に、ロキ・ファミリアにも呼ばれているけど、何日も先の話だった。

 

 最近の僕は、『豊穣の女主人』には最近よく足を運んでいる気がする。シルさんにヤバゲな料理を食べさせられそうになったり、ミアさんに新しいお酒を催促されたりするけど、それすら楽しんでいた。もしかして、僕ってシルさんのことが気になってるのかな。

 

 とりあえずミアさんには、赤漿果 (ゴードベリー)で作った祝福のワインを渡した。感想は、「信じられないほど美味しいが、売るほどの数がないのが残念。」だった。

 

「ベルさんって、色んなお薬を作られていますけど、やっぱり色々と勉強されているんですか?」

 

「昔から錬金術の勉強もしてますし、今は他のファミリアの人達と一緒に鍛冶とかの勉強もしていますよ。」

 

「まあ凄い。ところで、昨日店で忘れ物があったんですけど、この本って魔法の勉強になるんじゃないですか?」

 

「魔法について書いてる本ですか?」

 

 僕はシルさんがさしだした本を見て、ギョッとした。本に魔力が籠っている。それだけではなく、神秘の力も感じるのだ。この事から推測できるのは、この本は危険な物かもしれないということだった。昔この手の本で酷い目に会った経験が僕にはあるのだ。

 

「シルさん、早くその本から離れてください!」

 

「えっ!?」

 

「早く! その本になにか封印されています!!」

 

 古い遺跡には時々強力なモンスターが封印されている物があったりする。壺だったり、部屋そのものだったりといろいろあるけど、本に封印されている場合も少ないけど確かにあるのだ。

 

 昔、僕は皆と一緒に遺跡を探検している時に、そんな本を不用意に開いてしまって強力なモンスターを呼び出してしまったことがあったのだ。幸い、そのモンスターはレジーさんたちが簡単に倒してしまったけど、僕一人だったらどうなっていたか分かったものじゃなかった。

 

 この本もその類かと思い、シルさんの持っている本をはたき落とし、シルさんの手を取って距離を取った。

 

「何だい騒々しい。」

 

 店の奥からミアさんが出てきて、僕たちの方を向いて何があったのかを確認してきた。僕は、ミアさんにこの本から魔力と神秘の力を感じることから、何らかのモンスターが封印されているのではという推測を伝えた。

 

 それを聞いたミアさんはキョトンとした様子だったけど、すぐに豪快に笑い出した。

 

「ハッハッハッハ。坊主、そりゃ魔導書(グリモア)だよ。読んだ者に魔法を強制的に発現させる魔道具さ。錬金術師なのに、そんな事も知らなかったのかい?」

 

 ミアさんが本の正体を教えてくれて、これが魔導書なのかと改めて見てみた。たしかに禍々しい感じはしない。僕たちとは別系統の錬金術で作られた、最高レベルの魔道具。それを見るのは初めてだった。

 

「あ、あの……ベルさん。その……手を……」

 

「あわわわわっ! す、すいませんっ!!」

 

 シルさんが顔を赤くして小さな声で話しかけてきたので、自分の手元を見ると、僕はまだ彼女の手を恋人繋ぎのように握りしめたままだった。慌てて手を離し、平謝りをする。いきなり手を握られたら、誰だって驚くよね……。

 

 結局、その本を読むことは丁重にお断りした。シルさんは何故か残念そうだったけど、誰かの忘れ物だそうなので、勝手に使うわけにもいかない。

 

 実はホンのちょびっとだけど、魔導書(グリモア)を分解したらって思ってしまったのは内緒だ。魔導書(グリモア)って、一冊で数千万ヴァリスする高級品だっていうから、量産できたら一儲けできそうだなんて思ってしまった。

 

 多分、とても貴重な素材を使っているだろうから、量産なんて夢のまた夢だろうけど。

 

 そんな事を思いつつ、再度謝罪をした後、僕は恥ずかしさもあり足早に『豊穣の女主人』を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『豊穣の女主人』での仕事が終わったら、今度はロキ・ファミリアの本拠地『黄昏の館』へとやって来ていた。非常に高い塔が幾つにも積み重なっている姿は、まるでお城のようだった。今日は神様も一緒だったので、僕たち3人はあまりに大きい建物に唖然としていた。

 

 その圧倒的なスケールに呆然としていると、門番の人に誰何された。僕の名前と派閥を名乗ると、確認するや否や「どうぞ!」とすぐさま奥へ通された。

 

 ……実は以前、ファミリアに入れてほしくて一人でお願いしに来たときは、まともに取り合ってもらえず門前払いだったのだ。有名になった途端のこの対応に、僕の心の中にはなんとなくモヤモヤっとした気持ちが広がっていった。

 

 僕が通されたのは応接室らしいけど、室内は広々としていて調度品もきれいに並べられていたので、つい自分の本拠地と見比べてしまった。

 

 ヘスティア・ファミリアの本拠地である廃教会は、ようやく内装が整ってきた所だった。礼拝堂部分の机や椅子を片付けて、廃材は再利用して建築資材に調合して、それらを使って部屋を作っている最中だった。

 

 建物自体には結構な高さがあるので、二階部分も作るために一階の天井兼二階の床を引っ張り、部屋や物置を増設する計画だった。

 

 将来、もし団員が増えてもいいようにするための備えのつもりだけれど……本当に増やせるのかなぁ。アリーゼさんたちの言う通りなら、僕たちの秘密を守れる「口の硬い人」しか入れられないわけだし。

 

 それと並行してベッドやクローゼットとかの家具も新しく調合*6したので、神様もリリも大喜びだった。

 

 今は地下の住居部分は神様とリリが使って、地上部分は僕が寝泊まりしていた。錬金釜の置かれた隣で寝るのにも慣れてきたどころか、すぐ近くに錬金釜があるのがこんなに便利だったんだなと思ったくらいだった。まあ、ベッドで眠ることは滅多に無いけど。*7

 

 そんな事を考えていると、扉が開いてロキ様たちが入ってきた。フィンさん以外にも、リヴェリアさんとガレスさんなどの幹部の人たちも勢揃いで、悲鳴が漏れそうになるのを必死に堪える。零細ファミリアの団長には荷が重すぎるよ。

 

 またちょっと胃が痛くなってきてしまった。

 

「おー、あんたがあの祝福のワインやデニッシュの制作者かいな。思っていたよりも若いやないか。ドチビの眷属にはもったいない逸材やないの?」

 

「ふっふっふ、ベル君はオラリオ一の錬金術士だからね。今やオラリオの医療系ファミリアは、ベル君に追いつこうと必死さ。」

 

 僕たちを見ての第一声はロキ様の言葉だった。ドチビとは神様のことだろうか。そんな神様は余裕そうに足を組んで、ロキ様を挑発している。あの、今日は商談できたんですから、いがみ合うのは止めてほしいです…。

 

「ロキが済まないね。」

 

「いえ、ウチの神様もすいません。」

 

「実は他にも1人幹部が参加するはずだったんだけど、どうも虫の居所が悪かったらしくて、不参加なんだ。済まないね。」*8

 

 そんなやり取りをフィンさんとした後に、早速商談へと入った。

 

 今回、ロキ・ファミリアは僕たちに幾つかの回復アイテムを購入したいと声をかけてくれたのだ。18階層で使ったそよ風のアロマの性能があまりにも凄かったので、購入したいという話だった。

 

「売るのは問題ないんですけど、まだどれくらいの値段で売るのか決めていないので、ミアハ・ファミリアと相談してから決めたいと思います。」

 

 前回『青の薬舗』を訪れた時に、ナァーザさんはそよ風のアロマの売値を決めかねているようだった。僕には市場価格なるものはわからないし、リリにも見当がつかないらしい。ナァーザさんですらいくらで売ればいいのか頭を抱えていたくらいだから、素直に価格が決まっていないことを伝えた。そう言えば、お母さんはアストレア・ファミリアに幾らで売ってるんだろう?

 

 僕が『青の薬舗』で販売委託をしていることは、フィンさんも知っているようだったので納得してくれた。

 

 実はナァーザさんからは「ロキ・ファミリアに価格を決めてもらったら?」なんて言われていたのだけれど、「価格決定権を自分から放棄するのは絶対に駄目です!」とリリから強く釘を刺されていたので、今回の対応につながったのだ。リリは本当にしっかりしている。

 

「価格が決められない、か。まあ、無理もないね」

 

「広範囲の回復アイテムである上に、あの毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の猛毒を瞬時に治癒できる代物だ。我々とて、どれほどの価格が妥当かなど想像もつかないな。」

 

「全体回復魔法は聞いたことはあるけど、全体回復アイテムなんて見たことも聞いたこともないからね。」

 

「もしかすると、これからのダンジョン探索の必需品になるかもしれない代物だ。しっかりと考えてもらいたい。」

 

 フィンさんとリヴェリアさんから、値段を付けるのならばしっかりと考えてから付けるようにとのアドバイスを貰ってしまった。この手のアイテムはオラリオには今まで無かったので、それだけ期待値も高くなってしまっているらしい。

 

「それよりもや。祝福のワイン、何でまた値上げしとるんや! 一杯1500ヴァリスとか洒落にならへんで!!」

 

 フィンさんとの話が終わった途端、ロキ様が『豊穣の女主人』で売っている祝福のワインの話をねじ込んできた。これに関する愚痴はよく言われているようで、リリが聞いてきた話を時々僕にもしてくれていた。

 

 それと、アストレア・ファミリアには別個に売っているのだけど、あの人達ですら文句を言ってるレベルなのだから、『豊穣の女主人』がどれほど人気のある店かがよく分かる話だった。

 

「あれは、怪我をした人がそのまま店にやってきて、ポーション代わりに祝福のワインを飲もうとするので、怒ったミアさんが……。」

 

 僕はミアさんが値上げをした理由をロキ様に話して、僕の都合ではないということを語った。

 

 ついでに、ダンジョンの中でポーション代わりにお酒を飲んで酔っ払いながら戦闘をして死傷者が出るのが嫌なので、個別でのボトル販売は基本行ってない旨も伝えた。

 

「ほーん。よう考えとるな。なあ、ガ・レ・ス。」

 

「ああ、確かに。」

 

「何故皆してわしの方を見るんじゃ!」

 

 ロキ様とのやり取りの中で、アストレア・ファミリアには別個に取引をしていることを知られてしまうと、ロキ様がニヤリと笑って来たので少し恐怖を覚えた。

 

 それと、ロキ・ファミリアでもお酒と言えばドワーフらしい。ライラさんの言っていたことは間違いなかったようだ。アスタさんですら否定しきれなかったくらいだし。

 

 余計なことを喋った僕に呆れたのか、それからはリリが交渉することになり、ロキ・ファミリアにも個別に取引することで話が決まってしまった。

 

「では、私が祝福のワインの管理をしよう。私が管理する以上、ダンジョンには持ち込ませない事を約束する。」

 

「……え、ちょっと待ちーや。ダンジョンに潜らんウチには関係あらへんよな?」

 

「当然ロキの飲む分も私が管理するが?」

 

 殆どお酒を飲まないというリヴェリアさんが、祝福のワインの管理をすることになったけど、ロキ様はそれに最後まで抵抗していた。結局フィンさんがリヴェリアさんの肩を持ったことで、リヴェリアさんの主張が通ってしまった。

 

 これには、ロキ様は肩を落としてしまっていた。ついでにガレスさんも。

 

「それで他にも聞きたいんやけど、ソーマがあんたの弟子になってるって話はほんまか?」

 

「本当です。今も僕の所で色々と調合していますけど。」

 

「ほうほう。それでや、なんや美味しい酒とか作ってへんのか? 今回の商談はな、これが半分くらいが目的やねん。」

 

「それが目的なのはお前だけだ。」

 

 ロキ様はかなりお酒が好きな神様らしい。以前は出回っていた失敗作の神酒(ソーマ)がもう手に入らなくなったので、何とか手に入れたい一心で、今回の取引に顔を出したらしかった。

 

「うーん、ソーマ様ってもうお酒を売るつもりはないらしいんですよね。作ったお酒も全部ガネーシャ様に渡しているようですし。」

 

「それって、例の毒酒が関係しとるんか。」

 

「あ、そのことも知っているんですね。今は反省して毒酒は作らないようにしていますし、作ったものは全部僕が確認しているので、どれも飲んでも問題ないお酒ばかりですね。」

 

「ちゅうことはソーマの酒を手に入れるには、ガネーシャにお願いせんといかん訳か。ホンマ面倒な話やで。って、ソーマの酒を全部アンタが検品しとるんかいなっ!」

 

 ロキ様は驚き半分でため息を吐きながら愚痴をこぼしてきた。

 

 

 

 フィンさんは、次にモンスター化の呪いについて聞いてきたけど、今は治療薬を作るために頑張っているとしか答えられなかった。アミッドさんも作っているはずだけど、何を考えてお母さんに弟子入りしたのかよくわからない。

 

 モンスター化の呪いを治したのは、世間的にはアミッドさんということになっていたけど、ロキ・ファミリアの人たちにはお母さんが作った薬で治したと、アリーゼさんが説明してくれていた。

 

「あの呪いを誰かが作ったり、ばら撒いたりした可能性はあると思うかい?」

 

「僕の師匠でもある母は、余りにもモンスター化する速度は早すぎるって言ってました。言い伝えでは、片腕がモンスター化するまで数年かかったらしいのですけど、今回は数日だったので。でも、誰かが作ったとかというのは、すいません。わかりません。」

 

 それを聞いたフィンさんは腕を組んで考え込んでしまった。何故そう考えたのかを尋ねると、あの時僕たちがミノタウロスと戦っていた時に、フィンさん達ロキ・ファミリアを通せんぼした冒険者がいたというのだ。

 

 それは、フレイヤ・ファミリアの団長で都市最強の冒険者である、【猛者】(おうじゃ)ことオッタルという人だった。名前こそ知っているけど、見たことも会ったこともない。

 

 フィンさんたちはその事もあって、今回の騒動にフレイヤ・ファミリアが関与しているのでは、と疑っているらしい。フィンさんがその事を語る時の表情は、僕ですらゾッとするほど冷たい感じを受けた。

 

 それとは別に、最近イケロス・ファミリアという派閥が壊滅したらしい。詳細はまだわかっていないけど、イケロス・ファミリアの眷属の1人が錯乱して暴れているところを、ガネーシャ・ファミリアに確保されたんだとか。その人を尋問している中で、そういう話が出てきたという。

 

 どうも、モンスターをオラリオの外へ密輸していたようだけど、モンスター化の呪いの話が広まったことで、内部抗争が起きたらしいという事だった。

 

「モンスターを密輸って…。」

 

「あそこは以前から闇派閥の一派かもしれないという話があったからね。」

 

「それって……その密輸ルートを使って、モンスター化の呪いをオラリオの外に広めていたかもしれない、ってことですか?」

 

「それはわからない。イケロス・ファミリアについてはまだよく分かっていないんだ。本当に抗争が起きたのすらも。それに、フレイヤファミリアも正直怪しい。怪しいけど、証拠は何もないんだ。」

 

「フレイヤがそんなことするとは思えへんけど、一応調べておきたいんや。」

 

 ということで、僕にも調査の協力を求められた。と言っても、モンスター化の呪いにかかっている人がいないかを確認したり、治療薬の開発について進捗状況を教えて欲しいと言ったことだったので了承した。

 

「この件には、アストレア・ファミリアも深く関わっている。君の動向については、アリーゼたちとも情報を共有させてもらうよ」

 

「はい! よろしくお願いします」

 

 この事には、アストレア・ファミリアも関わっているということなので、僕は主にアリーゼさんたちと共に活動することになるようだった。それなら、今までと同じなので安心できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続けて、ドロップアイテムから抽出した毒薬を使った実験について話すと、フィンさんだけでなく部屋にいた全員の息を呑む音が聞こえた気がした。

 

「純粋な呪いだけを抽出したら数分でミノタウロスに変化してしまうのか…。」

 

「なんちゅう恐ろしい呪いじゃ。治療薬があることだけが唯一の救いか。」

 

 フィンさんとガレスさんが、顔を青くしながらおぞましそうに呟く。オラリオでも最高峰に位置する冒険者が、顔を青くしてしまうほどの危機がすぐそこにあったのだ。それを理解できたので、僕も気持ちを引き締めて続きを言う。

 

「それと、ディアンケヒト・ファミリアのアミッドさんに、抽出した毒薬を渡して治療薬の研究をしてもらっています。まだ進捗とかは聞いてないのでわかりませんけど。」

 

戦場の聖女(デア・セイント)か。お菓子屋で働いているらしいという奇妙な噂を聞いたが……。」

 

「あ、それは母のお店です。先日母に弟子入したらしくて。」

 

「治療薬の作り方を学んでいるというのかな?」

 

 そんな感じでこの話題は終わった。お菓子屋で医療系ファミリアの団長が働くのは、オラリオの基準でもおかしいようだと分かって、僕は少しホッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後の話題は、他の回復アイテムについてだった。

 

「そよ風のアロマ以外にも、有用な回復アイテムがあれば買いたいのだけど。どういうのがあるのかな?」

 

 フィンさんにはそう尋ねられたけど、まだいろいろなものを試行錯誤している最中なので、はっきりと答えることは出来なかった。アリーゼさん達からは、蘇生効果のあるアイテムは売るのをやめるよう忠告されていたので、先日調合に成功した生命の蜜などは販売するつもりはなかった。

 

 なんでも、蘇生アイテムなんて市場に売った日には、オラリオの全ファミリアが文字通り血眼になって僕を奪い合い、最悪の場合は神々を巻き込んだ大戦争になりかねないらしい。ライラさんや輝夜さんが、胃の辺りを押さえてそんな事を力説してきたから、多分そのとおりなのだろう。……あの時は、正直僕も胃が痛くなってきた。

 

 「ベル君を手に入れたファミリアが確実にオラリオの覇権を取るから、凄まじい潰し合いが起こるよ」なんてアリーゼさんに笑顔で言われたときは、あまりの恐怖に思い出すだけで涙目になってしまう。

 

 とりあえず、フルーティーや錬金ドロップのような、お茶や飴の回復薬を作れると言うと、女性陣が次々と口を開き始めた。

 

「それよりもさ、錬金術師君。18階層で作ってたお菓子とかもっと作ってきてよ! あれも回復アイテムでしょ?」

 

「私はジャガ丸くんの回復薬を作ってほしい。できれば小豆クリーム味。」

 

「マフィンが美味しかったので、あれも欲しいです。あれも2属性回復薬ですよね? それとあのお茶も一緒に欲しいです!」

 

 アマゾネスの短髪の人、ティオナさんが「お菓子が欲しい!」と言ったのを皮切りに、ティオネさん、アイズさん、さらにはレフィーヤさんまで加わって、次々と僕に熱い要望を口にしてきた。

 

 どうやら、オラリオの普通のポーションが信じられないほど不味いのは彼女たちにとってもかなりの不満なようで、美味しく食べられるお菓子や飲み物タイプの回復アイテムに、ものすごく興味があるらしい。

 

「えーと、作ることは出来ますけど、マフィンとかはあまり長持ちしないので…。それと、ジャガ丸くんは冷めたら美味しくないと思いますよ?」

 

「あー、そっかぁ。使わなかったからって取っておくわけもいかないのかぁ。それはポーションに分があるってわけね。」

 

「クッキーや飴の回復アイテムならありますから、これなら結構日持ちしますよ?」

 

「クッキーや飴なんて素敵じゃない! それに決定ね!!」

 

 錬金ドロップやロッククッキーなら結構持つだろうけど、おまんじゅうやマフィンとかは1週間くらいが限界だと思う。

 

 そんな事を話したら、クッキーのポーションもあるならそれが良いということで、定期的にそれらを売るということで話は決まった。これもナァーザさんと相談して売値を考えなくちゃ。

 

 

 

 

 後日、保存性を考慮して作ったロッククッキーは、あまりの硬さに不満が続出した。口の中でふやかしながら食べるのだけど、すぐに食べれないのが駄目らしい。ティオネさんからは「あれはクッキーの形をしたただの岩じゃない! 歯が折れるわよ!」と本気で怒られてしまった。

 

 その一方で、素朴な焼き菓子は結構好評だった。甘いのとしょっぱいのと両方作ったけど、甘いほうが好評だった。これは『青の薬舗』での評判と同じだった。

 

 また、別の焼き菓子である『ストラパール』は、「美味しくてものすごく食べやすい!」と最初は最大級の評判だった。

 

 ……けれど、納品を始めてしばらくすると、なぜか女性陣からの注文数が目に見えて減少してきたのだった。

 

 効果のバランスには結構気を使ったんだけどなぁ。“ 食べて回復・中”を発現させるのに結構頑張ったのに。*9

 

 なんでか理由を聞いたけど、皆話をそらしてしまうので真実は闇の中だった。その時の皆が、何故かお腹周りを押さえていたのは気になったけど……。

 

「悪いのはこのお菓子のカロリー……。錬金術士君に罪はない……はず。」

 

「もっとダンジョンに潜ってカロリーを消費しなきゃ!」

 

 そんな声が聞こえてきた気がするけど、僕にはその意味がよく理解できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通りに営業活動も終え、再び調合とダンジョン探索の日々に戻った頃になって、命さんから連絡があった。

 

 そう、とうとう不思議な絵が完成したのだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
魂を奪うや、魂を吸収するなどの特性が必要。

*2
もちろん神会でアルフィアとの関係性を疑われたが、年齢とレベルという決定的な証拠によって別人と判断された。

*3
※錬金術士に睡眠は不要。

*4
アーランドシリーズ準拠。

*5
装備やアイテムを失ったり、探索が失敗したりで、タケミカヅチ・ファミリアの財政は火の車である。

*6
フィリスのアトリエでは家具が調合できる。

*7
なお、錬金術士は睡眠を取る暇すら惜しんで調合を続けるため、実質的に眠らない生き物と化す。

*8
ベートのこと。せっかく特効薬を運んできたのに、無意味になっていた時の彼の心境やいかに。

*9
ベルが調合したストラパールの効果は、“食べて回復・中”と“太りやすい”の2つ。




次回こそ絵のお話にします。
命が絵が得意という設定は、ダンメモから持ってきました。
なお、フレイヤ・ファミリアは、無実です。
ロキ・ファミリアの女性冒険者は少しぽっちゃりしてきています。
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