メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー   作:斎藤 晃

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久々の錬金鍛冶研究会の話です。
セシルを書くのが楽しいです。アミッドと同じくらい楽しいです。


魔法の絵!

 タケミカヅチ・ファミリアの命さんが絵を描き終わったので、桜花さんとともにヘスティア・ファミリアの本拠地に持ってきてくれた。すぐにでも絵の中に入りたい気持ちを抑え込んで、まずはチームメンバーのセシルさんとヴェルフをリリに呼びに行ってもらった。

 

 その間に、僕は絵に入るための準備を進めていく。装備の確認に、使用アイテムの確認をしておく。

 

 まるでダンジョンにでも行くかのように念入りな僕の様子に、一緒に届けてくれた桜花さんと命さんは不思議そうな顔をして、そのまま帰っていった。

 

 もちろん、代金はきちんと支払った。素人が描いた両手で持てるほどの大きさの絵に、5万ヴァリスなんて高すぎると辞退されそうになったけど、半ば無理やりに受け取ってもらった。この絵にはそれだけの価値があるんだ。

 

 まあ、それを知ってるのはオラリオでは僕たち家族くらいだけど。リリには渋い顔をされたけど、きちんとお金を渡してくれたのでよしとする。

 

 

 やがてセシルさんとヴェルフがやってきた頃、神様もバイトから帰ってきた。さらに、なぜかソーマ様までフラリとやってくる。どうやら神のカンとやらが不穏な気配を察知したらしい。

 

 セシルさんとヴェルフはリリが伝えたとおり、武装してきたのですぐにでも絵に入れるだろう。

 

 ただ、神様とソーマ様をどうするかと思ったけど、入って危なそうだったらすぐに出てくれば大丈夫だろうと思って一緒に連れていくことにした。

 

「以前言っていた絵が出来ました。これからこの中に入ろうと思います。」

 

 皆何を言ってるんだこいつ、みたいな顔をしていたけどそれに構わずに僕の周りに集まってもらう。そして、両手を胸の前で組んで目を閉じて願う。今まで何度も絵の中には入ったことがある。だから、入り方は分かっている。

 

 そして、僕たちは光の玉となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんじゃこりゃーーー!」

 

 神様の絶叫が森の中を木霊した。他の人も似たようなものだった。驚きすぎて声が出ないか、大声で叫んでいるかの2つだったけど。

 

「い、い、一体何なのよ、これはっ!」

 

 セシルさんは僕の胸元に掴みかかって激しく体を揺すってくる。答えようにも激しく揺すられて、上手く喋れない。それを救ってくれたのはリリだった。

 

「セシル様! そんなに激しくベル様を揺すっては喋れませんよ!!」

 

 リリが必死にセシルさんを静止してくれたおかげで、僕は解放された。咳き込んでしまうけど、神様とリリに背中を擦られてようやく一心地が付いた。

 

 皆が落ち着いた頃を見計らって、僕は皆にここがどういうところなのかを説明し始める。

 

「ここは絵の中の世界です。タケミカヅチ・ファミリアの命さんに頼んで描いてもらいました。」

 

「これも錬金術で作ったのかい?」

 

「はい。錬金術で作った夢の絵筆とネージュの絵の具を渡して描いてもらいました。この2つを使って絵を描いたら、中に入れるようになるんですよ。」

 

 皆信じられない表情をしていたけど、何とか理解してくれたようだ。神様とソーマ様は、流石というべきか早速この異常事態に適応した*1のか、周りを探索し始めた。

 

 僕も周りを見渡して絵の中の世界を確認する。僕が命さんに頼んだのは、川の流れる山林と草原を出来るだけ写実的に描いてほしいというものだった。命さんが描いてきた絵は見た限りでは要望通りのものだった。実際に絵の中の世界も、僕が望んだ通りのものだ。*2

 

 小川の流れる山々に囲まれた扇状地に僕たちは立っていた。山には深い森があり、狭い平地の中にも疎らに木々や大きな岩がそびえている。そして。

 

「うわぁ、可愛いね。君の名前は何ていうのかな?」

 

 大きな木の陰から青色の丸い物体が顔を覗かせていた。神様はそれに近づいて手を伸ばそうとして、青い球体の体当たりを受けて吹き飛ばされた!

 

「か、神様ーーー!!?」

 

 青い物体はぷにぷにだった。僕はすぐさま杖を手に取るとぷにぷにに叩きつけた。杖で叩いた青プニはすぐさま光の粒になって消え去り、ドロップアイテム(ぷにぷに玉)を残していった。

 

「神様、大丈夫ですか!?」

 

 僕は神様に駆け寄り助け起こした。失敗した。どうせ弱い魔物しか出ないはずだと、高を括っていたのが間違いだった。

 

「ああ、ベル君。最後にこんな所で君に抱っこされて、僕はとても嬉しいよ。」

 

「最後なんて、すぐに助けますから! ええと、リフュールボトルは…。」

 

「ベル様、ベル様、ヘスティア様は怪我なんてされてませんから大丈夫ですよ。」

 

「えっ?」

 

「ちっ。」

 

 どうやら神様はやられたふりをしていたらしい。涙で眼が滲んでいるのが今ではどうにも恥ずかしかった。

 

「おいベル。絵の中にまでモンスターが居やがるのかよ!」

 

「何でか知らないけど、絵の中にもモンスターが出てくるんだよ。あの青いのは青プニって言って、絵の中で現れるモンスターの中じゃ最弱だから、大丈夫だと思ってたんだけど…。」

 

 ヴェルフは大剣を構えながら僕に大声で尋ねてくる。青プニは小さい頃の僕でも倒せたほどの弱いモンスターだ。先生曰く、猫にすら負けるくらい弱いらしい。そんな事を話していると、リリは吹き出して笑い出した。

 

「へ、ヘスティア様は猫にすら負けるモンスターに吹き飛ばされるなんて。そ、それってつまり、ヘスティア様って猫以下の力しかないってことですよね。」

 

 リリはよほど可笑しかったのか、お腹を抱えて笑っていた。それどころか、立つのも辛くなったのか、地面に蹲り手で地面を叩いている。

 

「ね、猫以下。僕は猫以下なのかい…。」

 

 猫以下と言われたのがよほどショックだったのか、神様は絶望した面持ちで呆然と立ちすくんでいた。流石にプニ以下と言われてショックだったのだろう。

 

 地面に座り込んで「僕は何の役にも立てない駄女神なんだ。ゴミクズなんだ。」なんてブツブツ呟いているのを見て、慌てて僕とリリが何とか慰めた。

 

 

 

 

 

 

 神様がどん底に沈んでいる一方で、ソーマ様は嬉々として不思議の絵の中を探索して回っていた。小川の水を掬って飲んでみたり、草や樹の実の匂いを嗅いでみたりしていたけど、一本の木に興味を持ったようで何分もの間調べ回っている。

 

「この木は一体何だ? 酒の気配がするが…。」

 

「その木は酒の木と言って、樹液にアルコールが含まれているんですよ。不純物を取り除くと、“お酒のもと”というアイテムになるので、それを原料として色んなお酒を作ることができるんですよね。」

 

「樹液が酒になっているのか。そんな植物は初めて聞くな。」

 

 ソーマ様は、酒の木の幹をナイフで傷つけて、滲み出た樹液を舐めた。そして、当然のごとく悶絶した。それって凄く苦くて不味いんだよね。

 

「酒の木の樹液って、凄い不味いんですよね。お酒のもとも不味いので、あくまで材料の1つでしかないです。」

 

「ああ、たった今それを実感した。だが、これを材料にすれば素晴らしい酒が作れそうだ。アイデアが幾つも浮かんできたぞ!」

 

 『オラ、ワクワクしてきたぞ』とでも言い出しそうな、ソーマ様はすごく目が光り輝いていた。

 

 たしかにお酒のもとを使えば、いろいろなお酒を作れるけど、ソーマ様のことだから斜め上のものを作りそうでちょっと怖かった。

 

 実は少し前に、ソーマ様は錬金術で作ったハチミツを原料に、ハチミツ酒というお酒を作ってしまっていた。このお酒は、生命力と魔力と疲労を回復してしまう、三重回復薬(トリプル・ヒーリング・ポーション)なんていう凄い性能の回復アイテムだった。

 

 しかも、状態異常を1つ消す効果までついていたので、はっきり言って僕もかなり驚いた。でもかなり酔うんだよね。

 

 これにはガネーシャ様も喜び半分、使い所に困るのが半分で、どうしようかと悩んだらしい。

 

 結局、眷属に限って本拠地内でしか飲めないようにしたらしいけど。1日の疲れが取れる上に、生命力も魔力も回復でき、しかも美味しいと結構評判らしい。毒も呪いも病気も治せるし、酔っ払って気持ちよく眠れるしね。

 

 

 ちなみに神様も興味を持ったのか、樹液をチロっと舌先で舐めたらしく、口を押さえて「ぐえぇ!」なんて呻いていた。人の話をよく聞いてくれないかな。

 

「ふざけろっ、絵の中でドロップアイテムや素材が手に入るのかよ。」

 

 ヴェルフは両手で頭を抱えていた。僕としては普通のことなんだけど、初めての人たちにとってはすごい衝撃だったようで、セシルさんも「これは夢、そうよ夢なのよ。」なんて自己暗示を自分にかけている始末だった。

 

「セシルさん、これは現実ですよ。」

 

「現実逃避くらいさせてよー! アンタといると、色々と常識が壊れていって、私の中にある大切な何かが失われていくのよ!?」

 

 セシルさんは、涙を流しながら僕にそんな事を叫んできた。そんなこと言ったって、数日もすれば慣れると思うけどなぁ。ソーマ様なんてもう慣れてしまって、素材採集を始めちゃってるし。

 

「神様ってやっぱすげえんだな…。」

 

 ヴェルフはそんなソーマ様を見て、神の偉大さを再確認したらしい。あれは例外だと思うよ。*3

 

 

 

 

 

 その後、一通り絵の中を見て回って、青赤緑のぷにぷにを蹴散らしながら探索して、出てくるモンスターや得られる素材の種類を調べてから現実へと戻った。時間にして2時間ほどの冒険だったけど、皆丸一日ダンジョンに潜ったかのように疲れ切ってしまっていた。

 

 まあ、神様とソーマ様は楽しかったようで、今も元気いっぱいだけど。ソーマ様は現実に戻ると、採集した素材を持ってすぐさまアイアム・ガネーシャ(ガネーシャファミリアの本拠地)に戻っていった。お酒のもとを作るのは錬金術じゃないと無理なんだけどなぁ。

 

 セシルさんとヴェルフも疲れ切ったからか、それぞれの本拠地へと帰っていった。一応今日のことは口外しないようお願いしたけど、2人とも「誰もこんなの信じるわけ無いだろ。」と疲れた顔で言っていた。

 

 リリも驚愕したらしいけど、僕と一緒にいると一々驚愕するほうが馬鹿らしくなる、とのことだった。失敬な、と僕は心の中で小さく抗議した。

 

 そんなこんなで、不思議の絵の初お披露目は成功したのだった。後は、本格的な採集をして、それを使って調合を大量に熟していかなければならない。

 

 目指すは万能厄除け香なのだ。エリキシル剤とはいかないまでも、かなりの難易度を誇る回復薬だから、気合を入れて調合していかないといけない。

 

 僕の錬金術師としての道は、まだまだ始まったばかりなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残念ながら、不思議な絵に出現するモンスターはぷにぷにしか確認できなかった。なので、不思議の絵の題名は『ぷにの楽園』という名前にした。

 

 ただ、耳ぷにがいるのを確認したので、その辺りには近づかないことにした。素材は念願のエリキシル素材のうるおい草や、神秘の力素材のミスティックハーブを手に入れることができたし、ぷにぷに玉も大量に手に入った。ぷにぷには殺す。慈悲はない。

 

 でも、ダンジョンの素材ほどの品質はないので、そこはループ調合で品質をちょっとずつ上げていくしか無いだろう。でも、ループ調合に費やす時間が足りないのが頭の痛いところだけど。

 

 それはともかく、ダンジョンと不思議の絵という2つの採取地で素材を得られるようになったので、調合も捗っている。そよ風のアロマに続き、生命の蜜も作れるようになったことで、たとえ誰かが死んだとしても即座に復活できるようになったのは嬉しい限りだった。

 

 生命の蜜については、アリーゼさんたちに報告し、早速注文も受け付けたけど、まだ発現効果が低いので戦闘不能回復・微しか発現できていない。生命の蜜は、戦闘不能回復以外にも、生命力と魔力の回復も行えるのだけど、そのどれもが回復量・小だった。

 

 とりあえず、生命の蜜が作れるようになったのをお母さんに報告するついでに、アミッドさんが本当にお母さんの弟子になっていることを確認した。

 

 どうも、モンスター化の呪いの治療薬の開発は頓挫したので、お母さんに錬金術を習って万能厄除け香を作れるようになりたいらしい。既にヒーリングサルブくらいなら難なく作れるようになったようで、お母さんにうかうかしていると追い越されると発破をかけられてしまった。

 

 それに奮起した僕は、次々と調合をこなしていった。

 

「ようやく、ようやくこれが作れた。」

 

 僕が今回作ったのは、“酔わない”を発現させた祝福のワインだった。生命力と疲労の回復効果はそのままに、酔わないという効果を発現できるように頑張って作ったのだ。味もほぼ変わらないと思う。

 

 だけど、それをミアさんに見せに行ったところ、凄まじいまでのダメ出しを食らった。

 

「当たり前だろう。うちは酒場だよ。酔わない酒なんてものに価値なんてまったくないね。」

 

 なんて言われてしまい、僕はかなりヘコんだ。ダンジョンでの死傷者を出さないように頑張ったのに、『豊醸の女主人』では無価値な存在だったのだ。

 

 仕方なく、『青の薬舗』に持っていったら、これはこれで需要があると言われた。

 

「酔わないから安全にダンジョンに潜れるだろうし、体力と疲労を回復する二重回復薬(デュアル・ヒーリング・ポーション)として売れると思う。保存性も良くて液体なのも使いやすくていいと思う。何よりも美味しいし。」

 

 と褒めちぎられた。

 

「私もベルに負けないように頑張って、体力と精神力を回復する二重回復薬(デュアル・ヒーリング・ポーション)を作れた! タケミカヅチ・ファミリアの皆に手伝ってもらって、やっとベルに追いつけた!!」

 

 ナァーザさんは、とうとう念願の二重回復薬(デュアル・ヒーリング・ポーション)を作れるようになって喜びも一入なのだろう、いつもよりもテンションが高くなっていた。

 

「とは言っても、このポーションのレシピをディアンケヒト・ファミリアに売って借金返済の足しにしたけど。一応ウチでも売るけど、リフュールボトルの方が売れるかも。それに、この祝福のワインやそよ風のアロマまで売るんだから、貧乏ファミリアからようやく脱却できそう。 ありがとう!」

 

 ナァーザさんは、これまで溜まっていた鬱憤を晴らすが如く、とても感情的になっていた。いつも冷静だったのは、ファミリアの現状に絶望していたからなのだろうか?

 

 でも、今のナァーザさんのほうが魅力的だと、僕は正直思った。」

 

「うふふ、ありがとう。」

 

「え、声に出てました?」

 

「魅力的だってところがね。でも、残念。私は好きな人がいるからベルの思いには答えられないの。」

 

「いやいやいや、別にそんなつもりで言ったわけじゃないですよ!」

 

 どうも、僕はナァーザさんにからかわれたらしい。笑顔で僕のことを見てくるナァーザさんの様子に僕はついほっぺを膨らませてしまう。

 

「そんなに拗ねないで。」

 

 そんなふうにふざけあっていると、ミアハ様が帰ってきたようだった。

 

「おかえりなさいミアハ様。」

 

「ああ、ただいま。そうだ、そこで怪我をしている子がいたので、ポーションを渡してきたよ。」

 

「……えっ?」

 

 ミアハ様はお金に無頓着だし、なんなら無料でポーションを近所の人にばらまくという悪癖があったりする。今回もそれが発揮されたようで、それを聞いたナァーザさんの顔は凍りついてしまっていた。

 

「ナァーザさん、強く生きてください。」

 

 いくら僕でもただで回復アイテムを渡したりはしない。したら、アーシャやリリにこっぴどく叱られてしまうのだ。この3人は、最近かなり仲が良くなっているようで、怒らせたらどんな連携を取られるか分かったものじゃない。

 

 絶対に怒らせるような真似はしまいと、僕はナァーザさんの様子を見て固く誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「ここが絵の中の世界なのね♪」

 

「ベル君のおかげで、僕たちは新しい未知に出会えたんだ!」

 

「ええ! 錬金術って、とっても素敵なものなのね♪ メティーもこんなものを黙っているなんて…、まあ黙っていないと神々のおもちゃにされてしまうでしょうけど。」

 

「アストレア、これは僕たちだけの秘密だよ。じゃないと、ベル君もメーテリア君も酷いことになりそうだし。」

 

「ええ、勿論。」

 

 今日は不思議な絵の『ぷにの楽園』の中に、アストレア様を招待していた。アストレア様は神様と親戚らしく、とても仲が良いと言う。

 

 そして、アストレア様だけが絵の中に入ったのではなく、お供として眷属の人も一緒に入っていた。

 

「ベルたちの錬金術が非常識なのは分かっていたが、これほどとは…。ううっ、頭と胃が痛い…。」

 

 輝夜さんは頭とお腹に手を添えて蹲るほど衝撃を受けているようだった。後で何か回復アイテムを見繕っておこうかな。

 

「ははははは。そりゃ、セシルが現実逃避してまた引きこもるわけだ。」

 

 ライラさんも乾いた笑い声を浮かべて頭を抱えていた。

 

「ここはだれ? わたしはどこ?」

 

 セルティさんは混乱のあまり、まともな言葉すら喋れなくなっていた。

 

 アストレア・ファミリアが誇る歴戦の第一級・第二級冒険者たちが次々と現実逃避をしていく。そんな惨状(?)を目の当たりにして、僕は、自分が錬金術で生み出した『不思議な絵』が、客観的に見てとてつもない超常識の塊なのだという事実にようやく思い至った。

 

 思えば、秘密バッグや特性のことなど、アストレア・ファミリアには苦労を掛けてばかりな気がしてきた。今回も、3人とも酷く混乱しているのでまた苦労をかけてしまったようで、少し申し訳なく思った。

 

「アンタは少しは自重って言葉を覚えなさい。それと、事前に何をするつもりなのかもっと丁寧に説明をしなさい!」

 

 セシルさんからは怒られてしまった。ライラさんの話では引きこもったらしいけど、元気になったようで何よりだ。

 

「セシルさんは大丈夫なんですね。」

 

「まあ、あれから何日か時間があったからね。と言うか、一々頭を抱えてたら私の身体が幾つあっても持たないわよ。」

 

「ウンウン、そのとおりだ。」

 

 セシルさんは、もう僕のやること為すことに悩むのが馬鹿らしくなったらしく、あるがままに受け止めることにしたようだった。ヴェルフも同感らしく、大きく頭を縦に振っていた。

 

「それより、こんないい場所があるのだから、私の作った新しい武器のお披露目をするわよ!」

 

 そう言って、セシルさんはポーチから一振りのナイフを取り出した。刃渡りは40Cくらいのナイフだけど、鍔の部分に球形の宝石の埋まった木材が填まっていた。あのボールには見覚えがあった。

 

「セシルさん、この球体って、もしかして僕が作った鳥と陽の杖ですか?」

 

「そうよ。これとナイフを一体化したのが私の自信作よ!」

 

「おいおい、杖の機能をそんな風に球状に丸めたのか? 錬金術ってそんな構造変換までできるんだな……って、おいちょっと待て、なんじゃこりゃあ!?」

 

 ヴェルフはナイフを見て大げさに仰け反りながら絶叫した。なにか変なことがあったのだろうか? ヴェルフの絶叫に、他の皆も集まってきた。

 

「ヴェルフには分かったのね。このナイフの凄さが。引いては私の素晴らしさが。」

 

「わからいでか! と言うか何なんだよ、これは!?」

 

「おい、鍛冶師。セシルの作ったナイフがどうしたというのだ?」

 

 ヴェルフとセシルさんだけが何かを分かっている中で、輝夜さんが皆の疑問を代表して尋ねてくれた。僕にも何が凄いのかわからない。と思っていたけど、このナイフの品質は100を軽く超えているし特性が4つも付いてる? それに効果も8つ付いているように見える。

 

「これはな、一見ナイフに見えるが杖なんだよ。」

 

「はぁ? これの何処が杖だよ。どっからどう見てもナイフだろうが。」

 

 ヴェルフの言葉に、ライラさんは信じられないのか食ってかかった。ただ、セルティさんは「ああっ!」と声を上げたのでなにか分かったらしい。

 

「セルティ先輩も分かってくれたんですね!」

 

「こ、こ、これはたしかに杖です! このボールを発動体として、剣を杖身(じょうしん)に見立てて作ってるんだと思います。」

 

「そのとおりです。このボールは、ベルが球状に作った鳥と陽の杖で、刀身はベルの作ったミスリル…じゃなかった、シルヴァリア*4という金属を使用して、ヴェルフに限界まで効果を発現して作ってもらいました! 私はその2つを剣としての機能を損なうことなく、杖として作り上げたんです!!」

 

「刀身だけ欲しいって言うから作って渡したが、まさかこんなもの作っていたとはなぁ…。」

 

「つ、つまりですね、鳥と陽の杖の固有技能である“ガードブレイク”、“強化の術法”、“浄化の術法”、“治癒の術法”が全て発動できるナイフなんですよ!」

 

「つーってことは、敵の防御力を下げて、味方のステータスを上げて、状態異常を治して、味方全体の体力を回復するってわけか。なんだよ、そのバカげたナイフは! 冒険者の役割分担(ロール)を一人で崩壊させる気か!!」

 

 セシルさんとセルティさんの解説に、ライラさんは信じられないものを見たかのような目でナイフを見つめていた。輝夜さんも驚きに目を見開いている。

 

 ちなみに、ダンジョン18階層で採取できた素材を使って、僕はようやく鳥と陽の杖の全ての効果()を発現できるようになっていた。もちろん、作った鳥と陽の杖はアストレア・ファミリアにも渡してある。

 

「それだけじゃないぜ。セシルの恐ろしいところは、効果や特性を損なわずにこれを作り上げたところだ。ナイフの部分には、“能力ブースト”が、鳥と陽の杖の部分には“能力強化”が付いてるから、基礎アビリティが25ずつ上がるな。それに加えて、俺が打った刀身には効果が発現しているから、力と耐久と魔力が更にプラスされてるぜ。」

 

「これを持つだけで基礎アビリティが合計125も上がるのか。いや、それ以上か。」

 

 ヴェルフの言葉に輝夜さんはため息を付きながら、胃の辺りをまた押さえていた。それだけ出鱈目な性能だと理解できたのだろう。合計値で言うと140くらいだと思う。

 

「自分や味方を強化したり回復しながら、敵と戦える武器か…。前衛も後衛もこれ1本で事足りるじゃないか。」

 

 ライラさんはこのナイフをそんな風に評価した。でも、鳥と陽の杖を扱うのに皆四苦八苦しているみたいだから、そんな簡単にはいかないと思うけど。特に、魔力を必要量だけ杖に込めるのが難しいらしい。

 

「これって、ベルのために作ったのよ。ほら、ベルって杖とナイフを持ち替えて戦ってるじゃない。両手に持ったらフラムとか投げられなくなるから、片手で持ち替えながら戦ってるのも不便だろうなと思って、一本にまとめてみたのよ。」

 

 僕のために作ってくれたらしい。セシルさんは、「大事に使いなさいよ!」と僕にナイフを渡してくれた。こんなすごい武器を手に入れられるなんて、夢にも思っていなかった。

 

 ナイフの銘は、『星火鳥(スター・ファイヤー・バード)』だった。アストレア様の名前には星乙女という意味もあるらしい。それとヴェルフの主神のヘファイストス様が火の権能も持っているのと、僕の作った鳥と陽の杖の頭文字を合わせて、『星火鳥(スター・ファイヤー・バード)』と命名したらしかった。

 

「他にも技を使える武器があったら、これを元に作れるはずよ。……実はこれって先輩たちの武器をいつか作りたくて研究してた物を応用してたのよね。こんな形でお披露目するなんて思っても見なかったけど。」

 

「いやいや、セシル、お前はすげえやつだよ。」

 

「ああ。これは間違いなく世界を変えるだろうな。胸を張れ。貴様はそれだけのことをやってのけたのだ。」

 

「これって、魔力の伝導率も良さそうだし、(魔道士)でも扱えそうだね。」

 

 アストレア・ファミリアの先輩に褒めちぎられて、セシルさんは恥ずかしそうに手を振っていた。

 

「セシル、私に新しい未知を見せてくれてありがとうね。これは間違いなく新時代を切り開くものになるはずだわ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 アストレア様の褒め言葉に、セシルさんは感激したのか涙をこぼしながら大きくお辞儀をして嬉しさを体現していた。そんなセシルさんに、アストレア・ファミリア全員が駆け寄って、抱きしめ合っているのを見て少し羨ましいと思ってしまった。

 

「所でヴェルフ君、セシル君って君から見てどんなふうに見えたんだい? なんだか、さっきから凄く難しい顔をしているけど。」

 

 いつの間にか隣にいた神様が、優しくヴェルフに問いかけていた。言われてみれば、ヴェルフは腕を組んだまま、険しい表情でナイフを凝視している。

 

「いえ、自分の頭の固さ、発想の柔軟さの欠如を悔やんでいるだけです。剣ではなく『杖』を作るなんて発想、普通の鍛冶師じゃ逆立ちしたって思いつきません。なのにセシル嬢は、それを完璧にやってのけた。どれほど血の滲むような勉強をし、努力を重ねてきたのか……、それが同じ職人として理解できてしまったからこそ、自分の未熟さが骨身に染みているんです。」

 

「ヴェルフ、このナイフはあんたが打ってくれたシルヴァリアの刀身と、ベルの作った鳥と陽の杖がなかったら絶対に完成しなかったわよ。どっちも私一人じゃ逆立ちしたって作れないものなんだから。私は2人が作った最高の素材を、ただ組み合わせただけ。まあ、強いて言うなら『発想の勝利』ってやつね!」

 

「俺を慰めるのか、自慢するのかどっちかにしてくれよ。ただまあ、こんな物が作れると分かったなら、俺も負けてられねえな! 杖を発動体にして杖を作るなんて、発想はバカげていると言うか変態的だけど。」

 

「ちょっと、そこは素直に褒めなさいよ!」

 

 ヴェルフはセシルさんの出した成果を見て、自分も新しいものを生み出すことに挑戦したくなったようだった。多分、ヴェルフの心には、職人としての猛烈な対抗心と情熱の炎が灯っているのだろう。

 

「まあいいわ。だったら、ちょうどいい事を考えているの。ヴェルフ、あんた魔剣を打ちなさい。」

 

 セシルさんのその言葉で、今回のナイフ以上に世界を変えてしまう物ができるなんて、この時の僕たちは思っても見なかった。

 

 

 

 

*1
神々は、事実上の異世界転生者。

*2
絵が下手だと、出てくるモンスターが理不尽なほど強くなってしまう。

*3
酒造り以外のことに興味がないだけである。

*4
この作品ではミスリルに近い性質を持つものとする。




セシルの作ったナイフは、ファミリアクロニカルリュー2でリオンのために作った星屑の剣のオマージュですが、もともとは違う発想から来ました。

最初は、リディー&スールのアトリエの武器のカスタマイズを参考にしました。その後、上記の本を読んで、似たようなことしてるじゃんと思ってこんな感じにしました。

ちなみに、不思議の絵の中では経験値は得られません。
耳ぷにはレベル2くらいの強さを想定しています。うさぷにはレベル4くらいです。
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