メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー   作:斎藤 晃

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アトリエシリーズでは、賢者の石を調合した場合イベントが発生します。
大抵はコメディー調ですけど。


賢者の石の使い方!

 賢者の石とは何か。

 

 一にして全なる石?

 

 錬金術士の1つの到達点か。もしくは最終目標か。

 

 ……違う。賢者の石とは、確かに到達点だ。だけど、それは始まりであって終わりではない。

 

 先生やヘルミーナさんは、賢者の石をあくまで1つの素材として扱っていた。不老不死を得るためのものではなく、より高度なものを作るための材料でしかないのだ。

 

 私にとってはどうだろうか。

 

 賢者の石を作るのは何のため?

 

 先生たちに追いつくため?

 

 それとも、より高みを目指すため?

 

 私は本当に作りたいのだろうか?

 

 賢者の石を作る意味とは一体何なのだろうか。私はそれがわからなくなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とうとう賢者の石の調合に成功した。先生の弟子となり、錬金術を学び始めてから13年が経っていた。賢者の石を作るのに、これほどの時間がかかった錬金術士は、もしかすると私が初めてなのかもしれない。

 

 しかも、私が作った賢者の石は“お菓子”のカテゴリを有していた。こんな賢者の石を作れたのも、もしかすると私が初めてかもしれない。

 

 お菓子としての賢者の石を作れたのは、ある発想のおかげだった。ドンケルハイトや竜のつのには、お菓子のカテゴリを持たせられないのだろうか、という思いつきだった。

 

 普通なら一笑に付す思いつきだろう。だけど、私にはその思いつきを形にできる力があった。

 

 不思議な絵。この世にない世界を作り出し、現実では有りえない素材やモンスターが存在する不思議な世界を、私は生み出すことが出来るのだ。*1

 

 先生やヘルミーナさんは、たしかに私よりも遥かに高みにある錬金術師だ。だけど、2人には絵の才能というものがあまりにもなかった。私にもそれほどの才能はなかったけど、人並みに絵は描けたので、2人にせがまれて色々な不思議な絵を描いてきた。*2

 

 その経験を元に、私はある絵を描いた。お菓子の世界。モンスターや素材が、お菓子で出来ている世界を作り出したのだ。目に映る全ての物がお菓子な世界に、お供に連れてきたアーシャとイクセルもちょっとゲンナリしているようだった。流石の私も、少し胃もたれがしたほどだったから、2人には結構きつかったかもしれない。

 

 私が思ったとおり、お菓子の竜からはお菓子の竜のつのがドロップし、お菓子のドンケルハイトも採取できた。ちょっと味見したけど、竜のつのはチョコレートみたいで、ドンケルハイトは飴菓子のような味だった。

 

 そして、私はお菓子の竜のつの、お菓子のドンケルハイト、元々お菓子カテゴリの付いているエリキシル剤を材料に、お菓子の賢者の石の調合にすんなり成功してしまったのだった。これまでの苦戦が嘘のように、簡単に。

 

……そう、私は最近になってようやく気づいたのだ。自分の錬金術の才能が、恐ろしいほど“お菓子作り”に特化していたという事実に。

 

 普通の方法ではレベルが足りなくて逆立ちしても作れなかったエリキシル剤や賢者の石が、お菓子カテゴリを挟んだ瞬間、まるで吸い込まれるように完成してしまう。私の停滞を打ち破ったのが、まさかパティシエールとしての技術だったなんて、先生だって夢にも思うまい。

 

 だからこそ考えてしまう。賢者の石を調合できた私にとって、賢者の石とはどういう意味を持つものなのかを。

 

「止めましょう。答えの出ないことを考えるなんて不毛だわ。」

 

 大事なのは、賢者の石を作れたという事実だ。これで、私はより高度な物を作り出すことが出来るようになる。

 

 例えば、強力な装備を作ったり、強力な攻撃アイテムや回復アイテムを作ったり。そして、触媒としても非常に優秀だ。

 

 だからこそ、悩んでしまう。今の私にとって必要なものとは何なのかを。

 

「旅を続けていた時なら、色んな物を作ろうと思ったのだろうけどねぇ……。」

 

 既に黒竜を倒してしまった以上、賢者の石を使ってまで作り出したいものは無いという本末転倒な事態。せっかく賢者の石を作れたのに、それを使って何をするのか全く考えていなかったのだ。*3

 

 でも、先生たちに追い付く為のスタートラインには立つことが出来たのだ。そして、ベルの目標としてライバルとして、私は間違いなく前に進むことが出来た。

 

 それが一番重要なことだ。また1つ夢を叶えたのだから。

 

「とりあえず、これを使ってお菓子でも作ろうかしら。」

 

 私は錬金術師であると同時に、菓子職人(パティシエール)でもあるのだ。新しい素材を使って、新しいお菓子を作ることは何らおかしいことではない。

 

「賢者のパイ。伝承では食べようとしたら歯が欠けたらしいけど、これなら普通に食べられるわよね。大丈夫よね? ……大丈夫かしら?」

 

 生憎と不老不死にはなりたくないので食べるつもりはないけれど、物語の中で語られている物を作るとなったら物語の主人公になったような感じがして、少し興奮してきた。

 

 そして、私は早速作ったばかりの賢者の石を使って、賢者のパイを作るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 賢者のパイを作り終えた頃に、アミッドさんが調合室に入ってきた。今日は店休日だったので、アミッドさんも午後になってから顔を見せに来たのだ。

 

「メティー先生、今日は何をするのですか?」

 

 先週は調合ルートについて教えたので、今週は実践と行きましょうか。

 

「ところで、これはお店で売る新作ですか? ……何か、石が突き刺さっているように思えますけど。」

 

「石に見えるけど、一応お菓子なのよね、これ。」

 

「お菓子なんですか? 宝石みたいで綺麗ですね。」

 

「まあ、宝石のカテゴリも持ってるしね。これ、実は賢者の石なのよね。」

 

「はぁ、賢者の石なんですか……。って、賢者の石! あの伝説の賢者が作ったっていうあの!?」

 

「ああ、そう言えばそういうお話もあったわね。」

 

 先生やヘルミーナさんが大量生産していることもあって、賢者の石が伝説の存在ということを忘れていたわ。賢者の石は素材としても触媒としても一級品だけど、世間一般では不老不死をもたらす伝説のアイテムらしいけど。

 

「本当……みたいですね。まさか師事した方が賢者の石を作れるほどの凄まじい錬金術士だとは思っても見ませんでした……。」

 

 メリクリウスの瞳をかけたアミッドさんが、賢者の石をじっくりと観察しながらそんな事を言ってきた。13年もの長い時間をかけてようやく作れるようになったことを告げると、納得したかのように大きく頷いた。

 

「賢者の石は魔法使いや錬金術師が、一生をかけても目指す目標だと聞いています。長い間をかけて目標を達成したメティー先生は、素晴らしい努力家だと思います。」

 

 称賛の言葉が次々と出てきたので、背中がむず痒くなってしまう。正直そこまで尊敬されるような存在ではない。半ば諦めていた目標を、ベルに失望されないためにも再び目指し始めて至ったと言うだけの話なのだ。情けない話だけど。

 

「いえ、一度挫けても再び立ち上がろうとする姿勢、それこそがメティー先生の素晴らしいところだと思いました。」

 

「おだてるのもそこまでにして頂戴。正直、賢者の石を作れたのは嬉しいけど、何に使おうか悩んでいるところだから。取り敢えずお菓子にしてみたけど……。」

 

「使い道に困ってお菓子にするのもどうかと思いますけど。しかし、賢者の石と言えば、不老不死になれるという物では?」

 

「アミッドさん、周りの神様たちを思い浮かべてみて? 不老不死になるってことは、あんなのになるってことなのよ?」

 

「……確かに不老不死になるのは躊躇しますね。」

 

 永遠の生命を得た成れの果てが、あの神々なのだ。大抵の神はロクデナシばかり。そんな存在になりたいかと言えば、ほとんどの人が拒否するだろうと思う。私もお断りだった。

 

「だったら、何故賢者の石を? いえ、高みにたどり着きたいという思いは分からなくもないですけど。」

 

「賢者の石ってね、素材としても触媒としてもとっても凄いものなのよ。これを作れるか否かで、作れるアイテムの質がかなり変わる。けど、欲しいアイテムが今はないのよね。」

 

 私の正直な思いに、アミッドさんは理解できないという顔をしていた。たしかに、昔の私ならば同じような表情をしたかもしれない。

 

 でも、賢者の石を作れるようになった今、私に明確な目標が無くなってしまった。倒すべき敵はもういない。救うべき存在は今は目の前にいない。守るべき存在は、既に各々の道を見つけて歩き出している。

 

 私が賢者の石を作れるようになったのは、あまりにも遅かったということなのだろう。

 

「使い道がわからないというのであれば、誰かに相談してみては? それこそベルさんとかに。」

 

「たしかにそうね。」

 

 ベルなら賢者の石を何に使うだろうか? 冒険者を相手に商売をしている以上、強力なアイテムや装備を常に作り続けなければならないだろう。昔は私が教える側だったのに、今では教わる側になるのかもしれないと思うと、つい笑みを浮かべてしまう。

 

「じゃあ、今日はベルのところに行ってみましょうか。付いてきてくれるかしら?」

 

「いいですよ。兄弟子との交流もそろそろ本格的にしたいと思っていましたし。」

 

 アミッドさんの同意も取れたので、私たちは早速ベルのいるヘスティア・ファミリアの本拠地へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃教会に着くと、そこはかなり様変わりしていた。外観こそ変わっていなかったけど、内部は壁で仕切られてきちんとした部屋が作られていた。天井はまだだったけど、その内に2階部分も作るという話だった。

 

 そして、新しく作られた調合室では、ベルは誰かと話をしているようだった。

 

「お客さんがいるのかしら?」

 

 ベルにはベルの生活と商売がある。私がそれを邪魔するのも悪いなと思って、出直そうとかと思っていると部屋の中から誰何の声がかかってきたので、素直に部屋に入った。

 

「お母さん。どうしたの昼間から?」

 

「メーテリア・クラネルか。ちょうどいい、あなたにも聞きたいことがあるのだ。」

 

「うわー。」

 

 部屋の中にいたのは、ベルと真っ黒なフード付きのローブを着た怪しげな人物だった。これほどまでに不審な人は中々お目にかかれることはなかったので、つい声が漏れてしまった。

 

「この人はフェルズさんと言って、ギルドからモンスター化の呪いについて聞きに来た人なんだ。」

 

「フェルズだ。戦場の聖女(デア・セイント)もいるのか。なら話は早いな。」

 

「ええと、私はしがない菓子屋の店主で…。」

 

「メーテリア・クラネル。モンスター化の呪いを解呪する薬を作ったのはあなただと私は知っている。だからこそ、あの呪いについて詳しく聞きたいのだ。」

 

 そこまで知られているなんて、何処から漏れたのかしら。アミッドさんの方を見ると、首を横に振っているので彼女ではないのだろう。

 

 そう考え込む私の側に近づいてきたフェルズさんは、2人に聞こえないような小さな声で私に囁くように言葉を伝えてきた。

 

「私にあなたの情報を伝えたのは、女神アストレアだ。女神アストレアは、あなた達家族に対してギルドに最大限の配慮を求めて来た。その対価として、あなたの情報はある程度把握している。7年前のことも、3年前のことも。だが、それを公にするつもりはないと約束する。」

 

 アストレア様が私たちを守る為に、ギルドと交渉していたということなのかしら。

 

「重ねて言うが、私が気になっているのはモンスター化の呪いについてだけだ。」

 

「それを信じろと?」

 

「それは、すなわち女神アストレアを信じられないということになるが?」

 

「…アストレア様が私たちに不利になるような事をするとは思えないわね。でも、ギルドが私たちのことを放置しているのは何故?」

 

「救世を成した最後の英雄に敬意を払うのは当然のことだ。それ以上の意味はない。」

 

 そこまで知られているというのならば、ここで騒ぎ立てるのも今更ね。ギルドが私たちになにかしようと言う意志があったのならば、この2年の間にしているはずだし。

 

「それで、モンスター化の呪いについて、何が知りたいの?」

 

「私たちはダンジョンで人の言葉を喋るモンスターを複数確認している。モンスター化の呪いにかかった人間が、人の知性と理性を保ったまま、モンスターになる可能性はあると思うか?」

 

 それはあまりにも衝撃的な情報だった。人間の知性と理性を持ったままモンスター化した人間がいる。しかも、その存在をギルドは複数体把握しているというのだ。

 

「どれくらい前からその人達はいるの?」

 

「15年以上前からだ。それ以上前からいたのかは分からない。当初、私たちは彼らを知性を獲得したモンスターだと思っていた。しかし、モンスター化の呪いの事を知り、その可能性も排除できなくなった。」

 

 そんな昔からいたということは、その人達は人の姿に戻ることは無理でしょうね。ただ、そこまでモンスター化が進んでいるというのに、理性を有したままというのは正直信じられなかった。

 

「…セシルさんの例を見ると、ありえないと思うわ。アミッドさんはどう?」

 

「セシルさんはモンスター化の症状で意識すら失っていました。あのまま症状が進んだ場合、何が起きるかはわかりません。」

 

 アミッドさんは私とは違って慎重に言葉を選んでいた。

 

「そうか…。」

 

 フェルズさんは、私たちの返答に何故か項垂れてしまっていた。

 

「ただ、…セシルさんの症状の進み具合は、伝わっている話と比べるとあまりにも早すぎるのよね。もし、もっとゆっくりと症状が進んでいた場合は、そうなる可能性はゼロではないと思うわ。」

 

 先生が話してくれた例の騎士の物語でも、半ばモンスター化していたにも関わらず、最終的には人としての意識を持ったまま生きていたようだし。

 

「なるほど。では、呪いが強くなったということなのか?」

 

「はっきり言って分からないわね。」

 

 それで満足したのか、フェルズさんはそこで沈黙した。

 

 だけど、私にも色々と聞きたいことがあった。

 

「そのローブは認識阻害の効果を持つものなの?」

 

「そのとおりだ。私は魔術師ではあるが、様々な魔道具を作ることが出来る。」

 

「顔を見せてくれる?」

 

「…良いだろう。」

 

 少しの沈黙の後にさらされた素顔は、骸骨のものだった。これには私も驚いたし、ベルもアミッドさんも声を出して驚いていた。

 

「私は賢者と呼ばれた成れの果て。無限の知識を追い求めるあまり、不死の秘宝を編み出したもののこのような姿になってしまった。」

 

「賢者の石を作ったというあの賢者?」

 

「ああ、そうだ。」

 

 アミッドさんの呟きを聞いて、私はついポーチから賢者のパイを取り出してしまっていた。

 

「あなたが賢者だというのなら、これが何なのか分かるかしら?」

 

「ん? これはパイか…ってなんだ、これはぁー!!」

 

 賢者のパイを見たフェルズさんは凄まじい絶叫を上げたかと思うと、飛び上がらんばかりに後ずさった。

 

「そ、それは賢者の石か! 見た目も組成も違うようだが、賢者の石にしか見えないぞ!!」

 

「あら、正解よ。うーん、と言うことは賢者という話は間違いじゃないようね。それに、一目みて分かったみたいだから錬金術の素養もあるみたいだし。」

 

「え? お母さん賢者の石を作れるようになったの! って、これ菓子カテゴリが付いてる!! 何なのこれ!? というか何でパイにしてるの!!?」

 

 ベルも賢者のパイを見て驚いたのか、ツッコミがキレキレだった。

 

「そ、それを早くしまってくれ! 賢者の石は酷いトラウマなのだ!!」

 

 伝承では目の前で神様に笑いながら叩き割られたようだし、トラウマになるのも分からなくはないかな?

 

「賢者の石を作れる者がこんな所にいるとは…。私だけではなかったのだな。」

 

「賢者の石を作れる人なら、あと2人ほどオリンピアにいるけど?」

 

 私の言葉に、フェルズさんは驚きで顎が外れんばかりに口を開けてしまっていた。というか、本当に顎が外れてしまっているように見えるんだけど…。

 

「というか、何でパイにしてるんだよ。賢者の石を食べようとして歯が折れた逸話を忘れたの?」

 

「だから、食べられるようにお菓子の賢者の石を作ったんじゃない。」

 

 ベルも私の言葉に空いた口が塞がらなくなったらしい。正確にはお菓子の賢者の石をわざわざ作ったのではなく、お菓子の賢者の石しか作れなかったわけだけど。

 

 そこで、口を開いたまま固まっているフェルズさんを見て、私は賢者の石の使い道を思いついた。この人は不死の秘術を生み出したものの、皮と肉を失ってしまったと言う。

 

 だったら、賢者の石で失ったものを取り戻せるのではないだろうか?

 

「えいっ!」

 

 ちょうど、大口を開けて固まっているのだからと、私は賢者のパイをフェルズさんの口の中に押し込んだ。生身では飲み込むのも難しそうな大きさだけど、骸骨なら簡単に入るものなのね。

 

 そして、眩い光がフェルズさんの腰辺りから漏れ出し始めた。骨盤にでも引っかかったのかしら?

 

 余りもの眩い輝きに、手をかざして目を守る。2、30秒ほど経ってようやく輝きが収まると、そこには骸骨ではなく20代ほどの若く可憐な女性が立っていた。

 

「はっ、私は一体何を…?」

 

「うーん、顔も手もきちんと肉が戻っているようね。賢者の石はきちんと使えたようで嬉しいわ。」

 

「賢者の石を使えた? それはどういう……って、なんじゃこりゃぁあ〜〜っ!?」

 

 フェルズさんは自分の顔を両手で触りながら、慌てて室内の鏡を探し、自分の顔がどうなっているのかを確認し始めた。本来の自分の顔など、とうの昔に忘れてしまっているのだろう。

 

「こ、これが私だというのか?」

 

「良かったじゃないの。骸骨のままよりは良かったでしょう?」

 

「賢者の石ってこう使うんですね。初めて知りました。」

 

「アミッドさん、多分これは本来の使い方と違うと思います…。」

 

 フェルズさんは呆然とした表情のまま、自分の顔をしきりに撫で回したり、鏡に映る自分の姿を様々な角度から見つめたりしていた。やがて、今の自分の姿をやっと受け入れられたのか、視線を鏡から私の方へと向けてきた。

 

「これが賢者の石の効果というのか…。」

 

「人に使ったのは初めてだけど、多分そうじゃないかと思うのだけど。」

 

 はっきり言って自信がない。先生たちは賢者の石を中間素材にしていたから、本来の使い方としてはどうなのか分からないのだ。

 

 それでも、骸骨から元の、しかもこんなに綺麗な姿に戻れたのだから良かったのじゃないかしら。

 

「良かったのか……。いや、本当に、良かったのか?」

 

「骸骨の方が好きなんですか? アレは正直言って、夜中に見たら泣いちゃうくらい趣味悪いと思いますよ。」

 

「違う、あの姿は好きでなっていたのではない! だが、この姿も……悪くない、と思う。」

 

 疲れた、と言うとフェルズさんは背中を丸くして廃教会から出ていった。私はそれを見送ると、本来の用事を思い出した。

 

「そうだ、ベル。賢者の石って何に使ったら良いと思う? 作れたはいいけど、使い道が思いつかないのよね。」

 

「お菓子以外のものを作ればいいと思うよ…。」

 

 ひどく疲れた顔でベルはそう言うと、私たちを調合室から力づくで追い出して、ご丁寧に鍵までかけてしまった。

 

 部屋の中からは、「賢者の石の使い道ってなんだよ……」とか「何で僕に聞きに来るんだよ……」なんて激しい頭痛に耐えるような声が聞こえたので、私たちは大人しく退散することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、とりあえず賢者の石に関する騒動は終わった。翌日からは賢者の石を使って、これまで作ってきた道具や装備を作り直す日々を送るようになり、それはそれで楽しい時間を過ごしていくのであった。

 

 メテオールをお菓子の賢者の石を使って作ったら、お菓子が降り注いで範囲回復した上に、状態異常を1つ消し去るという代物になってしまったりと、色々と研究の余地があることに気づいて、私はどんどん楽しくなってきていた。

 

 後日、フェルズさんが私を訪ねてきて、最近のファッションについて聞きに来ることがあったので、彼女のために服を作ることになった。

 

 どうも、人間に戻ってしまったので、骸骨時代のクソダサローブのままでいるのが苦痛になってしまったらしい。

 

 彼女は見た目もスタイルもとても良いので、つい私も張り切ってしまい、取っ替え引っ替え色んな服を着せたりして、二人で楽しい時間を過ごせたと思う。新しい友人ができたようで、とっても嬉しいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひ、酷い目に遭った……。しばらくメーテリア・クラネルには、なるべく近づかないようにしよう」

 

 メティーに散々着せ替え人形にされ、へとへとになったフェルズは、人気のない路地裏で自分の真新しい衣服を見つめながらため息をついた。

 

「⋯⋯それにしても、『友人』、か。久しぶりにそんな言葉を聞いたな」

 

 かつて賢者と呼ばれ、やがて不死を手に入れたものの異形となって歴史の裏に隠れた自分。そんな存在をただの女性として扱い、屈託のない笑顔を向けてくれた錬金術士の顔を思い浮かべ、フェルズの唇が自然と緩む。

 

 その時、大きな音を出して腹が鳴いた。

 

「⋯⋯ん? ⋯⋯ふふふ、まさか今更になって、空腹を感じるようになるとはな。」

 

 お腹の虫が鳴いたことに気づき、彼女は驚いたように目を見張った。

 

 昔好きだった食べ物すら、すでに記憶の彼方に消え去っている。だが、その失われたはずの温もりを、あのパティシエールは強引に、賢者のパイと一緒にその口へ押し込んできたのだ。

 

「その点に関しては、メーテリア・クラネルに感謝だな。さて……何を食べるか、悩むな」

 

 数百年ぶりに訪れた悩みに胸を躍らせながら、元・賢者は、賑やかなオラリオの街並みへと歩き出すのだった。

 

 だが彼女はあることを失念していた。食べるということは、いずれ出す必要があるということを。それを彼女が思い出すのは、おろしたての服を駄目にしてしまってからであった。

*1
死病に冒されていた頃は、部屋から出ることもままならなかったために、絵を描くことを趣味の1つにしていた。

*2
芸は身を助ける。

*3
アトリエシリーズあるある。最強装備やアイテムを作れるようになるのは、大抵ラスボスを倒した後のことである。




賢者の石に食品カテゴリが付いているアーランドシリーズですら、実際に食べられなかったですが、メティーが作ったものは(一応)食べられます。
まあ、骸骨には味がわからないと思いますけど。
メティーのテンションが高いのは、賢者の石を作れたことが嬉しいからです。普段の彼女なら、他人の口にトラウマの原因を突っ込んだりしません。
使い道に悩んでいたとしても、錬金術士の目標の1つを達成できたわけですから。

なお、賢者の石で若かりし頃の姿(肉皮付き)を取り戻せるというのは、独自設定ですのでご了承ください。
(ロロナの若返りの薬を使っても多分無理だと思う。トトリで出てきた着ぐるみならあるいは?)

フェルズが服を駄目にした理由は、彼女の名誉のために書きません。
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