メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー   作:斎藤 晃

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長くなったので分割します。
今回こそ錬金鍛冶研究会のターンです。


値段をつけよう!(後編)

 回復アイテムの値段が決まったことで、僕だけの出番は終わり次に壇上に立ったのは、僕に加えてヴェルフとセシルさんだった。

 

「次はヘスティア・ファミリア、ヘファイストス・ファミリア、そしてアストレア・ファミリアでの合同研究会『錬金鍛冶研究会』が開発した魔剣になります。」

 

 セシルさんはそう言うと、足元の木箱から一振りの魔剣を取り出した。それを見た途端、ヘファイストス様は凄く得意げな顔になって周りを見渡していた。どうも、僕たちが作った代物を見て、皆がどんな反応をするのか楽しみで仕方ないようだった。

 

「魔剣は消耗品の攻撃アイテムとして認知されていますが、私たちはそれが本当なのかと疑問に感じ、再検証を行ってきました。その結果、ベル・クラネルの協力のおかげもあり、錬金術で魔剣を再現することに成功しました。結論を申しますと、錬金術で作った魔剣は、砕けません。この魔剣は既に50回以上使用していますが、砕ける兆候は未だ見られません。」

 

 セシルさんの言葉に会議室に集まった人と神様たちの顔は、豆鉄砲を食らった鳩のようになってしまっていた。

 

 靜寂で満ちた会議室の中で、その中でいち早く再起動を果たしたフィンさんは、おずおずという感じで質問をしてきた。

 

「それはつまり、無限に使える魔剣ということなのかな?」

 

「使用する際に精神力を使いますが、概ねそのとおりです。」

 

 セシルさんの返答に、会議室に驚きの声が上がった。魔剣は数回使えば砕け散るというのは常識だけど、僕たちはその常識を覆してしまったのだ。

 

「使用回数が無制限の魔剣……!」

 

「これはオラリオの勢力図が変わるかもしれないぞ。」

 

 さきほど僕が発表した回復アイテムは、既に知られているものやその改良品に値段を付けるだけということだけだったので驚きも少なかった。ちなみに、赤漿果(ゴードベリー)を使ったワインは2万ヴァリス、酔わないワインは3000ヴァリスという値段になった。

 

 それに対して、セシルさんが発表した魔剣は間違いなく神ですら見通せない未知だったのだろう。神も人も驚いているのが見える。驚いていないのは、研究に関わったファミリアの主神の3柱だけだ。

 

「ちゅうことは、その魔剣を使えばお手軽に魔道士が出来上がるっちゅうわけやな。ふざけんなや、なんやそのチートアイテムは!」

 

「ベル君って、回復アイテム以外にも作れたのね。」

 

「これを回復アイテムに応用することが出来れば、無限に使えるポーションが? 今度メティー先生に聞いてみましょうか。」

 

 ロキ様が何故か地団駄を踏んでいる一方で、ナァーザさんやアミッドさんは少し見当違いの事を呟いていた。

 

 それだけ、医療系ファミリアの人たちも魔剣に衝撃を受けているようだった。アミッドさんは永久機関という特性をまだ知らないみたいだけど、知ったらどれほど驚くんだろう?

 

「しかし、この魔剣は武器として使用するにはあまりにも脆く、また物理的な攻撃力もほぼ皆無です。そこで、私たちは魔剣を発動体として刀身を杖に見立てた、魔剣を使った武器を作りました。それがこれです!」

 

 セシルさんは雰囲気に当てられたのか、赤い顔をしながらもノリノリでボール状にした魔剣を柄にはめ込んだ片手剣を掲げてみせた。

 

「この柄に填まっている球状のものが魔剣です。これを発動体として、杖と剣のハイブリッドウェポンとして、この剣を作ることに成功しました。魔剣はベル・クラネルが、刀身はヴェルフ・クロッゾが、そしてそれらを組み合わせて杖として完成させたのが私、セシル・ブラックリーザとなります。」

 

「それは、つまり魔剣としても使えるし、剣や杖としても使えるということなのか?」

 

 この剣は、セシルさんが作り出した星鳥の設計をベースにして、魔剣を組み込んだものになる。ヴェルフなんて「最早なんでもありだな。」とか言って呆れる始末だった。

 

 リヴェリアさんは困惑した表情でセシルさんに尋ねた。セシルさんはゆっくりと頷くと、再び会議室はざわめきに包まれた。

 

「この剣については、アストレア・ファミリアにおいて実証実験を行っており、剣としても杖としても、そして魔剣としても使えることが確認されています。」

 

 そこでセシルさんは、セルティさんを呼んだ。セルティさんはペコリとお辞儀をすると口を開けた。

 

「私たちエルフにとり、魔剣は嫌悪すべき存在であることは間違いありません。しかし、錬金術士であるベル・クラネルが魔剣を再構築したことにより、状況は変わったと私は思っています。」

 

「この剣は魔剣なのか、それとも別のなにかなのか、俺達には判断がつきませんでした。魔剣は鍛冶師の作るものというのがこれまでの常識だったからです。」

 

「そして、最も重要なのが錬金術で作ったこの火属性の魔剣には、魔法を放つ以外の機能が現れました事です。それは、火属性に対する非常に高い耐性と、低い確率ですが敵を一撃で倒す事が出来るスキルとも呼べる力です。従来の魔剣にはなかった要素です。」

 

 セルティさんとヴェルフとセシルさんの説明にリヴェリアさんは深く頷いて口を開いた。

 

「なるほど、従来の魔剣とは全く違う代物になった以上、それが本当に魔剣か確信が持てないと。」

 

「そ、そのとおりです。ですので、誠に無礼かと思いましたがリヴェリア様にこれが果たして何であるのかを判断してもらいたくて、この会合に参加をお願いした所存です。」

 

 僕たちの説明に、リヴェリアさんは納得したのか、セルティさんを含む僕たちに幾つか質問を投げかけてきた。それに僕たちは淀みなく答えていく。会合の前に、予想される質問に対しての回答を考えていたのが功を奏していた。

 

「最後に聞きたいのだが、お前たちはこれが何であると思っているのだ?」

 

 僕たちはその質問に顔を見合わせた。それに対する答えを僕たちは持ち合わせていなかった。僕からすれば、永久機関を持った攻撃アイテムとしか思えないけど、鍛冶師の2人からしたらそれは違うと思ったらしい。

 

 僕たちが答えられないでいると、セルティさんが口を開いた。

 

「私はこれを、魔導書(グリモア)だと思っています。」

 

「ほう。その理由は何だ?」

 

「これを持った者は、自身の精神力を消費して火炎魔法を放つことが出来ます。また、強力な火炎耐性を持ちます。これは魔法やスキルを一時的に会得したものと考えることも出来ます。ですので、これは持ったものに一時的に魔法やスキルを与える魔導書(グリモア)の一種だと私は感じています。」*1

 

「それだけではまだ弱いと思うが?」

 

 リヴェリアさんの言葉に、セルティさんは怯んでしまった。僕の方をチラチラと見てくるので、鳥と陽の杖について話していいのか判断がつかないのだろう。

 

 僕はセシルさんとヴェルフの方を見て頷いた。セシルさんがアストレア様に顔を向けると、アストレア様は軽く頷いてみせた。

 

「これが魔剣ではないかもしれない理由として、ベル・クラネルの属する錬金術士の一派が、昔から作り方を受け継いできた、とある杖の存在が有ります。」

 

 セシルさんはそう言って鳥と陽の杖を取り出した。

 

「この杖は鳥と陽の杖と言い、装備した者が支援魔法や回復魔法など4つの魔法を使用可能になる杖になります。ロキ・ファミリアの方たちなら、私たちが9階層でミノタウロスと戦った際にベル・クラネルが使用した魔法のことを知っているかと思います。」

 

 そこで一呼吸置いて、セシルさんは再び口を開いた。

 

「ベル・クラネルは未だレベル1で、1つの魔法も習得しておりません。この杖を使っていたが故に、彼は魔法を使えていたのです。」

 

「この鳥と陽の杖は、かなりの訓練を必要としましたが私でも使えました。支援魔法や回復魔法が使える魔剣というものは今まで確認されていません。故に、この杖は魔剣ではありません。」

 

「もう一つ言うならば、魔剣ではモンスターを倒しても経験値が入ることはありませんでしたが、この錬金剣や鳥と陽の杖では経験値が入ります。これは全く違うものだという証しではないでしょうか。」

 

 鳥と陽の杖の存在は、会議室に集まった皆に凄まじい衝撃を与えたようだった。魔剣は攻撃アイテム。でも、鳥と陽の杖は支援魔法と回復魔法が使える、れっきとした武器なのだ。

 

 特に、衝撃を受けているのは医療系ファミリアの2つみたいだった。杖を持つだけで回復魔法が使えるとなれば、治癒師(ヒーラー)の存在意義すら揺るがしかねない代物だからかもしれない。

 

 でも、そこまで都合の良いものでもないけど。セルティさんたちは何度も魔力暴発を引き起こして大怪我をしたりしていたし。

 

 一方で、リヴェリアさんも衝撃を受けていたようだった。杖を持っただけで魔法が使えるという事実が、魔法種族であるエルフの逆鱗に触れてしまったのかもしれないと思った。

 

 だけど、セルティさんの言葉に満足したのか、リヴェリアさんはすっと立ち上がって壇上へと近づいてきた。そして、錬金剣と鳥と陽の杖を持つと会議室の皆が見渡してから口を開いた。

 

「私、リヴェリア・リヨス・アールヴが宣言する。これは魔剣にあらず。持った者に魔法を与える、新しい形の魔導書(グリモア)だと。」

 

 一瞬の靜寂の後、セルティさんが拍手をしたのを皮切りに、会議室は皆が拍手をする音で満たされた。エルフの王族が宣言した以上、少なくともオラリオ内のエルフの中では、これは魔剣ではなく魔導書(グリモア)として扱われることになるだろう。そして、鳥と陽の杖も。

 

「ところで、そっちの彼はクロッゾ一族なんだろう? 君は魔剣を作らなかったのかい?」

 

「えー、ヴェルフ・クロッゾは確かにクロッゾの魔剣を作れますが、どうも精霊が呪いをかけているのではないかということが判明しました。」

 

「は? 精霊が呪いを?」

 

 フィンさんの質問にセシルさんが答えると、目を丸くして驚いていた。

 

「それはどのような呪いなのだ?」

 

「ヴェルフ・クロッゾが認めた相手以外が使用した場合に、精霊が呪いをかけるようです。しかも使用した回数に応じて強力になっていくようです。認められる条件などは分からなかったので、私たちはクロッゾの魔剣は作らない、使わせない、という結論に達しました……。」

 

「少なくとも、魔剣を作ることは精霊が許しているようですが、使う相手は限定しているのではないかと思います。結局のところ、ヴェルフ・クロッゾが精霊に好かれているのではないかというのが、私たちの見解です。」

 

 疲れた顔でリヴェリアさんの質問に答えたセシルさんとセルティさんの様子を見て、流石のリヴェリアさんも若干引いた様子だった。「実験台になってくれる人がいれば…。」なんてセシルさんが呟いたからかもしれないけど。

 

 それはフィンさんも同様だったようで、「あ、うん、それが正しい判断だと思うよ。」と慰めの言葉をかけてくれた。

 

「とりあえず、この魔剣、じゃなかった錬金剣、の値段を決めたいと思います。なお、この錬金剣は現在のところベル・クラネルしか作れないので、注文を受けたとしても納品には暫く時間がかかることになると思います。それは、鳥と陽の杖に関しても同様となります。」

 

 こうして、最後にセシルさん命名の『錬金剣』の値段を決める話し合いをした。ちなみに、値段は2000万ヴァリスにもなった。魔導書(グリモア)を価格決定の判断基準にした上に、本来の魔導書(グリモア)みたいに1人だけしか使えないというわけではないという理由から、こんなに高額になってしまったのだ。

 

 ロキ・ファミリアくらいの大派閥からすれば端金かもしれないけど、僕たちのような零細ファミリアからすれば手の届かない代物になってしまう代物になってしまった。*2

 

 なお、錬金剣を組み込んだ仮称『火炎剣(フレイムタン)』は4000万ヴァリスにもなった。上級鍛冶師2人が制作に関わっているため、第一級冒険者のメインウェポンとしても使える代物に仕上がっていることも有り、これほどの価格になってしまったのだ。勿論価格を提案したのはロキ・ファミリアだった。

 

 そして、鳥と陽の杖に至っては6000万ヴァリスという価格になってしまった。回復魔法が使える人は希少で、それが誰でも使えるというのは非常に魅力的なのだとか。耐久性は後衛専用と考えれば目を瞑れる程度らしい。

 

 「希少な回復魔法1つを1500万ヴァリスと考えれば、安い買い物だよ。」とはフィンさんの言葉であった。その金銭感覚に、僕はドン引きしてしまっていた。*3

 

 さしものセシルさんもこれには顔面蒼白になってしまっていて、ヴェルフも身体が小刻みに震えてしまっていた。

 

 僕も勿論体が震えていた上に、気を失いそうになってしまった。こんな滅茶苦茶な価格になるとは夢にも思っていなかったので、僕たちは会合が終わったとたんに少し頭を抱えることになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会合が終わった後、僕たち3人は『豊醸の女主人』で細やかな宴をしていた。取り敢えず、見本に作った品々はロキ・ファミリアが買い取って実際の使用感を確認すると言う。今日だけで1億ヴァリス以上の売上を記録してしまった。現実感があまりにもなかった。

 

「俺達やったんだな。あの大手派閥と大商いをしたんだよな!」

 

「そうよ、私たちは勝ったのよ! 決定的な大勝利をしたのよ!!」

 

 2人とも今になって実感が出てきたのか、凄くテンションが高かった。それに対して僕はテンションが低かった。

 

「どうしたベル。あんまり嬉しそうにないな。」

 

「あ、そういうことじゃなく、勿論嬉しいよ。…でも、これから僕たちは凄く期待されることになるんだよね。注文もバンバン来るだろうし。そうなったら、とてもじゃないけど、捌ききれないなと思うと…。あと、お金の桁が違いすぎてついて行けないんだよね。」

 

「ああ、今のアンタって今でも十分忙しいものね。たしかにそこら辺も考えないとね。」

 

「俺は分かるぞ! あんな金額を出されたら腰が引けてしまうよな!!」

 

 僕が心情を打ち明けると、2人とも理解してくれたようだった。特にヴェルフは売れない時代を過ごしていたからか、僕の金銭感覚に共感してくれた。今まで売れた装備が1つもないなんて悲しすぎるよ。多分その原因は酷いネーミングセンスのせいだと思うけど。

 

「いやいや、タケミカヅチ・ファミリアの連中から注文が来たから1つも売れてないってことないからな? まあ、ローンだけど。」

 

「ダンジョン内で助けた上に、10万ヴァリスなんて破格の値段で売ってたものね。私ならその10倍取るわよ。」

 

「だから、今回は150万ヴァリス請求したぜ。あの大男の顔が真っ青になっていく様は本当に観物だったぜ。」

 

 ヴェルフの商売事情は置いておくとして、話題は錬金剣や火炎剣(フレイムタン)へと移っていった。どれほど注文が来るのか、今から考えるだけで憂鬱だ。リリは、凄い利益が出るだろうって目を輝かせていたけど。

 

「でもそう考えると、俺達も今後の生産計画とかを考えないといけないな。」

 

「とりあえず受注は絞らないといけないでしょうね。腕が鳴るわね、って言いたいけど、売る相手も絞らないとすぐに手が回らなくなるでしょうし。私が錬金剣を作れたらよかったんだけど、ぷにぷに玉って言うやつの扱いが難しいのよね…。」

 

「それは俺も同じだな。錬金剣を作ろうと思ってもクロッゾの魔剣になるし、普通の武器にぷにぷに玉を使おうとしても無理だった。何なんだあの素材は? 普通、アレくらいの強さのモンスターだったら簡単に使えそうなものなんだがな。」

 

「コボルトやゴブリンよりも弱いくせに、生意気なのよね。」

 

 2人はプニプニ玉の扱いが上手くいかなくて苛立っているようだけど、とりあえず目も回る忙しさを回避することが出来たので、僕の幾分気分は良くなってきた。

 

 

 

 

「このドワーフ殺し*4を最初に飲み切るのはこの儂だ!」

 

「いや、儂こそが初代王者になるんじゃ!」

 

 そんな時に聞こえてきたのは、ドワーフたちの声だった。ドワーフ殺しとは、僕の作ったとても強力なお酒だ。本来の名前は魅惑のカクテルっていうのだけど、その酒精の強さからドワーフもイチコロということで、こんな名前になったのだった。

 

「ドワーフ殺しってえと、ベルが最近作ったっていうめちゃくちゃ強い酒だよな?」

 

「うん。ミアさんにパンチの聞いた酒を作ってくれって言われたから、誰も飲めなさそうな強力なお酒を作ったんだよ。試飲したミアさんですら一口飲んだだけで卒倒したけど。」*5

 

「あそこに、初代王者は誰か! とか書いてあるんけど…。」

 

「まだ誰も飲み干せて無いんだよね。例え飲み干せても、すぐに倒れてしまうから。ロキ・ファミリアのガレスさんですら沈んだっていう事で、ドワーフの人たちがこぞって挑戦するようになったんだよ。」

 

「うわー、重傑(エルガルム)ですら沈んだなんて、あの人達命知らずすぎでしょ。あっ、飲んだ人たち皆倒れ込んじゃった…。」

 

「なあ、もしかして今日の会合で重傑(エルガルム)がいなかったのって……。」

 

「まあ、そういうお酒だしね。」

 

「うわぁ。」

 

「あっちの連中もドワーフ殺しに挑戦したみたいだな。あの服装は……アポロンファミリアか? 小人族まで挑戦したのかよ。無茶しやがるぜ。」

 

 僕たちは冒険者たちが、ドワーフ殺しに挑戦してバタバタと倒れる姿を肴に話し合っていると、ひときわ大きな声が店内に響いた。声の持ち主の方へ視線を向けると、顔に傷のあるヒューマンの男性が大声で倒れ伏した人たちを呷っていた。多分あの人たちには聞こえてないと思うんだけど……。

 

「なんでい、なんでい。結局お前たちじゃ駄目だったじゃないか! つまりは、この俺様が初代王者になれという天のお告げってわけだな!!」

 

「ぎゃはははは! マグニ・ファミリアのドワーフ共どころか、重傑(エルガルム)でも駄目だったんだ。お前じゃぜってー無理だよ、モルド。」

 

「うるせい! 鋼鉄の肝臓を持つ俺様ならこんな酒!」

 

 そう言ってモルドと呼ばれた年嵩の男の人は、ドワーフ殺しを飲み干した。

 

「うわー、あそこまでのカマセ初めてみたわ。」

 

「ドワーフが一発で沈む酒をヒューマンが挑戦するとか、自殺行為だろう。」

 

 激しく啖呵を切った男の人は、立ったまま飲み干した姿勢のまま動かなくなってしまった。もしかして、本当に?

 

「うそっ、あの人立ったままじゃない?」

 

 セシルさんがそんな事を言っていると、仲間らしき男の人が肩を揺するとモルドという男の人はバタンと床に倒れ込んでしまった。立ったまま失神してしまっていたようだった。ある意味凄い。

 

「立ったまま気絶してたのかよ。度胸と根性はあるのな。」

 

「あっ、見て。立ち上がったわよ。」

 

「嘘だろ……。」

 

「どうか見たか! うっ、こ、これで俺が初代王者だー、うげぇー!」

 

 本当にあのお酒を飲み干せる人がいるなんて、信じられなかった。吐き気を必死に抑えているのは御愛嬌だけど。

 

「うわー、あれ飲んで無事な人いたんですねぇ…。」

 

「アレはヒューマンじゃないニャ、きっとヒューマンの皮を被ったドワーフニャ。」

 

 いつの間にか、シルさんとクロエさんが僕たちのテーブルの側にやってきていた。リューさんも厨房の方から手を振ってくれている。本当に時々だけど、リューさんはこのお店で手伝いをしているらしいのだ。

 

「お仕事大丈夫なんですか?」

 

「ドワーフ殺しで撃沈した連中が最近は多いから、仕事も楽になったニャ。それに関しては、少年に感謝するニャ。」

 

「と言う訳で、ベルさん。あの人に何か賞品を出しませんか?」

 

「え、僕が出すんですか?」

 

 まあ、アレだけ酒に強い人だし。絶対に飲める人いないだろうというほどのお酒を作ったのに、飲み干されて無事だったのは少しプライドが刺激されたかも。だったら、アレを渡そうかな。

 

「じゃあ、これをあの人に渡してください。これは“竜ごろし”って言うお酒で、ドワーフ殺し以上にキツイお酒です。キツすぎて、飲んだら口から火を吐いてしまうくらいの代物なので、注意してくださいね。」

 

「ふふ、わかりました♪」

 

「凄まじいドSニャ。いくらアレを飲み干されたからと言って、止め刺そうだなんて…。」

 

「そ、そんなつもりはないですよ!」

 

「こらっ、アンタたち、サボってないで撃沈した連中にホッフェン水を飲ませな! このまま気絶したままじゃ初商売上がったりになっちまうよ!!」

 

「わ、分かったにゃ。」

 

 シルさんに渡すと、吐き気をこらえながら自慢げに笑っているモルドという男の人に近づき、竜ごろしを手渡した。なんか顔が青ざめている気がするけど、笑顔だったので喜んでいるのだと思う。

 

 その一方で、ミアさんに急かされたクロエさんは、ドワーフ殺しで撃沈した人たちにホッフェン水を飲ませて回っていた。アポロン・ファミリアの人たちはドワーフ殺しの入っていたショットグラスを持ちながら、何故かクロエさんに噛みついていたけど、騒ぎを聞きつけたミアさんに叩き出されてしまった。このお店では、ミアさんが法律なのに知らなかったのかな?

 

 ちなみに、竜ごろしは非常に高難易度なお酒だけど、最近になって発現したスキルのお陰でなんとか作ることができるようになっていた。

 

 僕が手に入れたスキルの名前は【酒神師匠】で、どう考えてもソーマ様が原因だと思えるスキルだった。スキルの効果は、お酒を調合する時の成功率上昇と品質上昇だった。

 

 ステータス更新した後の神様(ヘスティア様)は、『ベル君が寝取られたー!』と泣き叫んで大変だったし、暫くしたら『そんなにソーマが好きなら、ソーマの所の子になればいいんだ。』なんて拗ねてしまったので、宥めるのが大変だった。

 

 僕はヘスティア・ファミリアから移籍するつもりがないということを、こんこんと説明したので何とか機嫌を治してもらえたけど、神様のソーマ様に対する態度がちょっと悪くなったような気がする。*6

 

 ちなみに、ソーマ様は僕のスキルのことを神様経由で知って、『さすがは我が師だ。どうかこれからも私を導いて欲しい。』ととても嬉しそうだった。一方で、そんなソーマ様を見たリリはドン引きしていたけど。

 

 

「アレって喜んでるの? 引きつってるように見えるんだけど。」

 

「足も震えてるな…。」

 

 2人はジト目で僕の方を見てくるけど、それを無視して僕は料理とお酒を口に入れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、モルドさんは17階層で階層主(ゴライアス)を倒してレベル3になったと暫くしてから知った。

 

 どうやら、単独で18階層を目指している時にゴライアスと不慮の遭遇をしてしまい、死を覚悟して最後の酒として持っていた竜ごろしを飲んだところ、強力な火炎口撃*7を放ってゴライアスを単独撃破してしまったらしいのだ。

 

 そのことを、モルドさんから直接会って感謝されてしまい、僕はこの人は実は凄い人なのかもと認識を改めることになるのであった。*8

 

*1
この時点で、多くの者がベルが“神秘”の発展アビリティを持っていると確信した。魔導書(グリモア)は神秘持ちの魔法使いしか作れないからである。

*2
その零細ファミリアに大金が転がり込んでくる模様。

*3
ロキ・ファミリアからしたらバーゲン価格である。

*4
誘惑のカクテル。リリーのアトリエより。

*5
そのために、ミアは腹いせにドワーフ殺しと命名した。

*6
拗ねているだけである。

*7
誤字にあらず

*8
誤解である。




モルドさんにはドワーフを超える酒豪となってもらいました。
そうしないと出番無さそうだし。

ちなみに、アーシャにはとっくの昔に因縁つけて、簡単に捻り潰されてしまっています。執拗なまでにボコられたので、トラウマになったほど。
レベル3になる切っ掛け(?)をくれたベルには感謝していますが、アーシャが妹であることを知り複雑な心境になってます。

なお、これ以降竜ごろしをベルから購入して冒険する数少ない冒険者となりましたとさ。(強化フラグ:多分出番はない?)

ベルのスキルは、竜ごろしを作れるようにするために捏造しました。

ちなみに、アポロンファミリアの狙いはアーシャです。オラリオ最速でレベル2になったアーシャは、今やオラリオの話題の的となっています。ベルは医療系ファミリア限定で話題になっています。






















ベル・クラネル
〈ヘスティア・ファミリア〉
レベル1

《スキル》
 【酒神師匠】
  ・酒の調合成功率大幅上昇。
  ・酒の品質が大幅上昇。
  ・神酒を調合可能。



 ベルがソーマを弟子にした結果発現したスキル。酒を調合した場合に大きな効果が出る。
 神にしか作れないはずの神酒すら調合可能となるチートスキル。
 ヘスティアはこのスキルが発現したことで、ベルがソーマに寝取られたと思って酷く拗ねることになる。一方ソーマは歓喜した。
 リリルカは、ベルが一体何処に向かっているのだろうかと心配した。


















 モルド・ラトロー
 <オグマ・ファミリア>
 レベル3

《スキル》

 【鋼鉄肝臓】
  酒に対する耐性が大幅に向上する。



元はお酒に強い以外のスキルではなく、ほぼ役立たずスキルだった。
しかし竜ごろしと出会って有用スキルに変化した。
しかも、第一級冒険者ですら使用後は寝込んでしまう代物なのに、ピンピンしている。正に竜ごろしを呑むために生まれたような男である。
なお、アリーゼはモルドのことを知り憤慨した。(アトリエ図鑑:竜ごろしを参照)
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