メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
ザールブルグやグラムナードシリーズってすごくお酒の種類が多いんですね…。
「強力な攻撃アイテムです…か?」
冒険者になってしばらく経った頃、ヘスティアファミリアの拠点である廃教会にアストレアファミリアのライラさんがやってきて、そんな要望を言ってきた。
「今度ギルドからの命令で遠征に行くことになってさ。いつものアイテムに加えて、出来れば奥の手も持っておきたいなと思ってな。」
遠征とは、ギルドから課せられたノルマのことである。これを拒否すれば莫大な違約金が課せられるため、ほとんどのファミリアはそれに従うしか無い。
そして、遠征に対してギルドからの報酬は皆無であり、赤字になる場合も多いと言う。
なによりも、遠征は到達階数の更新を目的として発令されるために、死傷者が出ることも多いので、あらゆるツテを頼ってアイテムを集めたりするのだと言う。
「メティーはいつも通り回復アイテムだけの納品だったからな。それはそれで助かるけど、いざという時の備えとして攻撃アイテムも持っていきたいんだ。」
「うーん、今の僕の能力だとこの間売ったオリフラムあたりが限界です…。」
「アレもなぁ。すごい威力なんだけど、深層で階層主とやり合うことを考えると、いざという時の備えとしては物足りないんだよなぁ…。」
ライラさんは最悪の想定として、階層主の強化種に出会った場合を考えているようだった。強化種とは、ダンジョン内のモンスターが他のモンスターを倒してその魔石を取り込み、より強力なモンスターに成長したもののことを指す。
強化種になったモンスターは、場合によっては相当レベルが1から2ほど上がってしまうために、非常に危険な存在だ。
「とりあえず、期限はどれくらいですか?」
「出来れば来週中には作ってくれないか。もちろん無理を言ってるのは分かってるから、あくまで出来ればでいいからな。」
ライラさんは、そう言いながらも期待した目を僕に向けてくるのだった。
そして、翌週のある日のこと。僕は「星屑の庭」を訪ねていた。
「これが依頼されていたアイテムです。」
僕は遠征で使用するアイテム類を届けにやってきていた。秘密バッグに入れていたアイテムを取り出して、机の上に並べていく。
回復薬、爆弾、支援アイテムに飲食物。魔法の触媒として使う宝石類も存在していた。
そして、それらに加えて、僕は酒瓶を机の上に置いた。
「先週ライラさんから強力な攻撃アイテムを作れないかと頼まれたので、とりあえず試作品として持ってきました。」
僕が持ってきたのは『竜ごろし』と呼ばれる強力な酒である。
ソーマ様と相談しながら作ったこれは、間違いなく現在の僕が作れる最高の攻撃アイテムのはずであった。とは言え、あまりにも難易度が高いために、その品質は非常に低かった。
「品質はたったの5か。ゴミめ。」
つい、そんな事を呟いてしまうほど酷い出来だった。
あまりに品質が低いので、性能もそれに比例してかなり低くなっていると思うので、実際に使い物になるかどうかは未知数であった。
「これってどう使うの?」
アリーゼさんが代表して『竜ごろし』の使い方を尋ねてきた。実は、僕はあまりこれを使ってほしくなかった。というのも、昔旅をしていた頃に先生がこれを調合してレジーさん*1に飲ませたことがあったのだ。
レジーさんは高位の冒険者らしくお酒が大好きでとても強かっただった。ある時、ベロンベロンに酔えるとても強い酒は無いのかと先生にリクエストをしたところ、『竜ごろし』を出されて一気に飲み干した。
その後のことは酷すぎて記憶から消したいほどだった。口から炎を吐きながら、「私は竜になったぞ!」とか意味不明なことを言いながら走り出して、周囲を物理的に炎上させてしまったのだ。何もない荒野だったので幸いだったが、町中であれをやられていたら、放火犯としてブタ箱行き間違いなしの状況だったと思う。レジーさんをどうやれば捕まえられるかは置いておくとして。
しかも、翌日は酷い二日酔いで寝込んでしまうというヤバさであった。
「【女帝】が…、レベル9*2が寝込むほどの酒…。」
「あたしたちに死ねと?」
アストレアファミリアの皆さんも、僕が語った過去の出来事に引きながら感想を言ってきた。はっきり言って僕もあんなレジーさんを見てしまい一時的に幻滅したほどだった。
いつもは優しくて頼もしいレジーさんが、うなされながら寝込む姿を見て、僕はこんな強い人でも勝てないものがあるんだなと、変に悟ってしまったのだった。
「【女帝】が優しい…?」
「いい話のように語ってるけど、今の話にそんな要素あったか?」
皆僕の語る話に疑問符を持ったようだったが、僕にとってレジーさんは頼れるおば…お姉さん*3だった。
「とりあえず、『竜ごろし』自体は結構強力なアイテムのはずです。ただ、品質が低いので、かなり不味いと思います。低品質による性能の低下もたぶんあると思うので、気をつけて使ってください。」
「ベルが不味いって言うくらいだからかなりのもんなんだろうな…。」
とは言え、品質が低くても元の威力はかなり高いはずなので、切り札として使えるだろうとは言っておいた。
あくまで切り札なので、使わないに越したことはないので、そこら辺は運を天に任せるしか無いのだった。
アレから2週間ほど経ったある日のこと。廃教会でいつものように調合している僕のもとに、遠征から帰還したアリーゼさんとライラさん、それと輝夜さんがやってきた。
どうやら、今回の遠征で使ったアイテムの評価を教えにやってきてくれたらしい。
ヘスティア・ファミリアに馴染んできたリリにお茶とお菓子の用意を頼み、最近新調したソファーに座って皆の話を聞いた。
「遠征自体は成功したと言っていいけどね…。」
アリーゼさんの表情は優れない。いつも快活な明るい笑顔が特徴なアリーゼさんが、こんな暗い顔をするなんて、天変地異の前触れなのかと思ってしまうほどだった。
「それは言い過ぎだ!」
いつの間にか口に出していたようで、ライラさんは腹を抱えて笑っていた。それを忌々しそうに睨むアリーゼさんは、やはりいつもと違う感じがした。
「一体どうしたんですか?」
僕が疑問を投げかけると、しばらく沈黙した後にポツポツと何があったのかを話し始めてくれた。
あれは37階層にでウダイオスと対峙した時のことだった。幾度か戦ったこともあったものの、深層の階層主ということもあり少しばかり私たちは追い詰められてしまった。
そこで、ライラは私に切り札として『竜ごろし』を使用することを提案してきたのだ。
ここで使ってしまうと後でキツイかも知れないと思ったものの、ここを切り抜けなければ先はないというのも事実だった。だから私は『竜ごろし』を使った。あのヤバい酒を飲んでしまったんだよ。
それからのことはあんまり覚えていないんだよね。皆が言うには、口から炎を吐きながら見渡す限りを火の海にしたらしいけど。
階層主を倒してからも、周りを火の海にしている私をなんとか宥めて39階層の安全階層へと連れて行ってくれたらしいけど、2日ほど意識を失っていたらしいんだよね。ホッフェン水*4もハニーシロップ*5も効果なかったみたい。
それと、口から炎を吐いた後、皆が言うには激しい嘔吐をしていたらしいだよね。しかも炎みたいに勢いよく。
それが原因で、皆にバーニングゲローゼなんてからかわれる始末で…。
だから、なんていうかね、うん。もう二度と『竜ごろし』は飲みたくないかな。
アリーゼさんから語られたのは、乙女の尊厳破壊の生々しい様子だった。
僕は顔が引きつるのが自分でも分かってしまった。それほどまでに僕は表情を隠せていないのだろう。
「ベル様、リリはベル様の作ったアイテムの余りもの酷さにドン引きしてしまいます。」
「待って、待ってよリリ。僕はそんなのを目的に作ったんじゃないから!」
「ベル、酒を作るのはいいが、ソーマの悪い影響を受けているんじゃないのか?」
「アーシャまで!」
あまりにも理不尽な評価を受けて僕は憤慨した。このままでは終われない。乙女の尊厳破壊が起こらない、安全な『竜殺し』を作る。僕は新たな目標を1つ作ることにした。
「ああ、うん。『竜ごろし』はもう嫌だから! もうアレは飲みたくないのよー!!」
「アリーゼの戯言は無視してくれ。アレは切り札としてとっても役に立ったから、次も期待してるぜ!」
「いやーっ!!」
廃教会にアリーゼさんの凄まじい絶叫が響いた。
アイテムNo.XXX
竜ごろし
幻の銘酒。強烈な強さ。このお酒を飲めばドラゴンですらたちどころにフラフラらしい。
どうやって飲ませるのかは知らないけど。
これを飲めば、非常に強力な炎を口から吐いて大ダメージを与えられるよ!
飲んだ後のことは知らない。
ベル
「超強力な火炎攻撃が可能になる攻撃アイテムです。お酒ではありません。」
アリーゼ
「もう二度と飲まないわよ!」
ライラ
「いざとなったらアリーゼに飲まそう。駄目だったら、アスタにでも飲まそうか。」
アスタ
「絶対に嫌だからね!」
アトリエと言えばコメディですよね。
ダンまちでもコメディパートがあるので、こういう話は親和性が高いと思います。
これで書き溜めた分は出し切ったので、これから再び書き溜めます。