メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー   作:斎藤 晃

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例によって価格設定は適当です。
回復アイテムや回復魔法の価格をGeminiに尋ねましたが不明とあったので、適当に付けました。

凄く長くなったので分割しました。


値段をつけよう!(前編)

 不思議な絵と18階層から持ち帰った様々な素材や特性を使った装備が完成した。僕が装備の素材となる金属や布などの中間素材を調合し、それをヴェルフやセシルさんが装備へと加工していたのだが、それがとうとう形になったのだ。

 

「というわけで、これが注文の品だ。まあ、見た目は普通のナイフと服だがな。あんたらの遠征に間に合ってよかったぜ。」

 

 ヴェルフが作った装備の品質は本職だけあって素晴らしかった。僕も調合を頑張って90以上の品質のモフコットやシルヴァリアとかを作っていたけど、ヴェルフが作った装備の品質は100を軽く超えていた。多分僕が作ったら80くらいになると思う。ナイフはメタルスラッシャー、服の方はおしゃれなシャツだ。*1

 

 その上で、装備を作る際にモンスターのドロップアイテムを使ったと言う。錬金術でも装備にドロップアイテムを使うレシピはあるけど、鍛冶師のやり方とは結構違っているらしい。

 

 ヴェルフはレベル2になってからようやく出来るようになったと言うので、まだまだ技術不足の面があるらしい。僕からしたら今でも十分凄く見えるけど。

 

「私の方も作ってみたけど、品質はともかく性能では負けてるわね…。分かっていたことけど、やっぱりムカつく。」

 

「ふざけろっ! あんなバカげた代物作っておいて、どの口が言ってるんだ。」

 

 セシルさんも装備を作ってきたけど、効果も特性もない極普通の装備だった。属性を付けているけど、それはヴェルフもやっているので、自分だけ遅れているようで歯がゆいらしい。

 

 でも、品質は余裕の120超えなので、ヴェルフ以上の鍛冶の腕前があるのだと思う。

 

 そして、セシルさんが作った星火鳥(スター・ファイヤー・バード)も勿論この場に並べられている、

 

 他にも錬金剣を発動体として作った杖やナイフも並べられていた。なんでも錬金剣の“炎耐性・大”は、火精霊の護布(サラマンダー・ウール)を超える火耐性を所有者に与えてくれるので、攻防一体の武器となっていた。

 

「まあ、それは仕方ないわよ。向き不向きもあるし。」

 

 セシルさんは錬金術の才能がないので、効果を発現させたり特性を付けたりは出来なかった。これはもうどうしようもないので、セシルさん自身も割り切ってしまわないといけないと思う。

 

 割り切った結果が、杖や錬金剣を武器の発動体にするなんてヘンテコなアイデアにたどり着いたわけだけど。

 

「それはそれとして、この装備はどういうものなの?」

 

 アリーゼさんは2人の小競り合いが終わると、これがどんな装備なのかをヴェルフに問いかけてきた。ナイフを手に取って、見定めるように色々な角度から眺めながらその返答を待っている。

 

「ナイフの方は、技が2つ発現している。1つは攻撃技で1つは自己回復技だ。特性は能力ブーストと能力強化で基礎アビリティ全部に+25だな。属性は……頑丈*2だけだな。正直今の俺じゃ不壊属性とかなんて夢のまた夢だしな。」

 

「うわー、改めて聞くとぶっ壊れ性能よね。技を使うのは一苦労だけど。」

 

「第三等級武装以上第二等級以下といったところか。レベル2に成りたてが作ったにしては中々の出来だな。主武装としては物足りないが、副武装としては上出来だ。」

 

「第一級冒険者にそう言ってもらえるのは嬉しいが、いつかはあんたらの主武装を作ってみたいぜ。」

 

「ならばもっと精進することだな。期待しているぞ。」

 

 武器の出来を検分していた輝夜さんに、「期待している」と言われて、ヴェルフはすごく嬉しそうに笑っていた。僕が作ったのはただのお守りにしかならなかったから、少し羨ましい。

 

 ところで、メタルスラッシャーの基礎アビリティの上昇値は合計125。それに加えて、攻撃技と回復技が使えるという破格の性能とあって、皆も呆気にとられているようだった。ただ、技を使うのはかなり難しいらしく、渋い顔をしている人もいる。技を使うには詠唱無しで魔力を練り上げないといけないので、かなり難しいらしいのだ。

 

 リャーナさんなんて練習中に大火傷を負ってしまったというし。幸いにも、リフュールボトルが自動発動して怪我と火傷はすぐに治ったらしいけど。

 

「そして、防具はこれだ。軽鎧にしようかとも思ったが、ベルの作ったシャツの上に戦闘衣や鎧を着ていると聞いて、シャツにしてみたぞ。ベルに手伝ってもらって作ったが、なんとこれには体力回復効果がある。まあ、微々たるものだがな。特性は能力ブーストとパラメーター+5%だ。」

 

「体力回復のある防具なんて、もう着るスキルじゃない。」

 

「それでいてステータスも上昇するなんてねぇ。」

 

 おしゃれなシャツの最大の特徴は体力の回復効果があることだけど、僕が最も注目しているのはパラメーター+5%だ。これでどれくらいステータスが跳ね上がるのか。人によっては違うと思うけど、上昇量が固定の能力ブーストよりも上昇する可能性があるので気になる。

 

「じゃあ、まずは団長である私から確認するわね!」

 

 アリーゼさんが、ワクワクした様子でナイフとシャツを持って、アストレア様と共に広間から出ていった。主神室で装備をつけたままでステータスの確認をするのだろう。

 

 

 

 アリーゼさんが部屋から出ていくのを横目に、僕は装飾品を並べていった。ヴェルフが装備を完成させたのと同じように、僕も装飾品の効果を最大限出せるように頑張ってきたのだ。

 

 武器と防具はヴェルフに譲ったけど、装飾品については僕の独壇場だ。品質もようやく100を超えるようになって、十分な能力を発揮できるようになっているはずだ。

 

「アリーゼさんが出ていってしまいましたけど、僕が作った装飾品について説明しますね。これはエンゼルリボンなんですけど、ようやく目当ての状態異常無効の効果を発現させることが出来ました。」

 

「おおー!」

 

 僕の言葉に、アストレア・ファミリアの皆がざわめいた。今まで僕が作っていたエンゼルリボンは、毒無効くらいしか発現できていなかったけど、これは状態異常全てを無効化する効果があるのだ。毒も呪いも回復無効すらも効かなくなるこれは、これからの冒険でとても重要な装備になると思う。…またアリーゼさんがダンジョンで実験するんだろうなぁ。

 

 僕はそんな事を思いつつ、装飾品の効果を一つ一つ説明していく。

 

「これは水晶の指輪と言って、火、水、風、土の耐性が上がります。」

 

「次は霊花のガーランドで、その人のレベルに比例して攻撃力が上がります。」

 

「最後のはかくれずきんで、体力の回復効果と精神力の回復効率上昇効果があります。」*3

 

 僕は次々と装備品の説明をしていく。素材も特性も揃った今、僕が作れる装飾品の数はとても多くなっていた。

 

「体力と精神力の回復! それってめちゃくちゃ凄いじゃないの!!」

 

「属性の耐性が上がるのも凄くない? しかも4属性全てだなんて。装飾品が2つまでしか装備できないのが残念よね。」

 

 今回作ったのは、この4つだった。グナーデリングも作りたかったけど、材料に必要な宝石が尽きてしまったので、作れなかったのが残念だった。

 

 机の上に並べた装飾品を眺めながら、アストレア・ファミリアの皆はああでもない、こうでもないと様々な意見を出し合って、誰がどれを持つべきかを話し合っていた。

 

 ちなみに今回はリリにも手伝ってもらって、ある程度デザインを女性受けしそうなものにしてある。女性ばかりのファミリアだけあって、そういう見た目のことはみんな気にするとリリから提案されたからだ。

 

「これだけすごい性能だとお値段も凄いんでしょう?」

 

「それがまだ決めていないんですよね…。ヴェルフはどうなの?」

 

「俺が作った装備は、普通に売ったら多分100万から200万ヴァリス程度すると思う。ただ、第一級や第二級冒険者相手に作るのは初めてだから、そこら辺を考えて1つ10万ヴァリスで卸そうと考えてる。」

 

「いやいや、この性能でそんだけだと申し訳ないんだけど。」

 

「その分、これからの俺に期待してくれると助かる。だから、次回以降も贔屓にしてくれよな。」

 

「現状、貴様以外にこれほどの装備を作れるものがいない以上、我々に選択肢はないのだがな。だが、そうである以上は己の全てを懸けてより高みを目指す事だな。」

 

「それは勿論だぜ! へっへっへ、この俺が第一級冒険者に装備を作った上に、期待されるとはな。人生ってのは分からないものだぜ。」

 

 ヴェルフは輝夜さんから期待されたことで、職人魂が熱く燃え上がっているようだった。これまで売れない鍛冶師だったから、その反動もあって凄く嬉しそうだ。

 

「じゃあ、僕もヴェルフに倣って1個10万ヴァリスにしようかな。いや、これでも高いかな……。」

 

「何言ってんだよ。体力の回復や状態異常無効化とかある装飾品なんて、お前以外の誰が作れるってんだよ。10万ヴァリスなんて安すぎるぞ!」

 

「私たちの懐具合からすると、大変助かりますが、それとこれとは別問題でしょう。適切な仕事には適切な報酬を受け取るべきです。ベル、自分を安売りするのは他者に対する侮蔑になると知りなさい。」

 

 ライラさんとリューさんの言葉に嬉しくなる。他の皆もきちんと対価を払うつもりなようだけど、これまで散々お世話になっているのだ。その恩返しも兼ねてこれは変えるつもりはなかった。

 

「でも、皆さんには色々とお世話になっていますから、この値段にします。それでも十分に元は取れますし。」

 

「はぁ。まあ、お前がそれでいいのなら構わねーよ。」

 

 ライラさんがため息を吐いて「親子揃って天性のお人好しだな。」なんて呟いていた。そんなふうに賑やかだった部屋に、突如として絶叫が聞こえてきた。これはアストレア様の声なのかな? 続けてアリーゼさんらしき叫び声も聞こえてきた。

 

「またアリーゼが変なことをしだしたのか?」

 

「まあ、団長だしねぇ。」

 

 そんな事を言い合っていると、手でこめかみの辺りを押さえたアストレア様とアリーゼさんが部屋へと戻ってきた。なんか2人とも顔色も良くないように見える。

 

「アリーゼ、顔色が悪いぞ。なんか悪いことでもあったか?」

 

「基礎アビリティの…。」

 

「は、何だって? もっと大きな声で言えよ。さっきまでの元気はどうした。」

 

 アリーゼさんはライラさんの質問にゴニョゴニョと呟くばかりで、上手く聞き取れない。ライラさんが気味が悪いとばかりに、もっとはっきり喋れと言うとアリーゼさんはがばっと顔を上げて話し始めた。その目はこれでもかと見開いていて、ちょっと怖い。

 

「わ、私の基礎アビリティが、全部合計で900以上も上がってた……。」

 

「は? いや、あり得ねぇ……わけでもないな。ベル、一体何をしたんだ!?」

 

「な、何もしてないですよ!」

 

 皆の視線が僕へと向いて、つい慌てて無実を訴える。

 

「多分だけど、潜在値も含めて5%上昇しているのだと思うわ。」

 

 そこに助け舟を出してくれたのは、アストレア様だった。

 

「潜在値にも作用しているというのですか!」

 

「そうじゃないと辻褄が合わないのよ。」

 

 アストレア様の言葉に皆が唖然としていた。だけど、僕だけがよく分かっていなかった。

 

「あの、潜在値ってなんですか?」

 

「ああ、ベル君はまだ冒険者になってまだ2ヶ月足らずだものね。潜在値っていうのは、レベルが上がった時に基礎アビリティが0になるんだけど、その数値は表面上見えなくなるだけで、潜在値として残るのよ。アリーゼはレベル5だから、潜在値の合計は1万以上あるのよね。だから、多分基礎アビリティが500以上上がることになるの。」

 

 アストレア様の説明に、僕は空いた口が塞がらなかった。パラメータ+5%だけで基礎アビリティが500以上上がるということは、今机の上に並べている装飾品も合わせたらもっと凄いことになるだろう。

 

 装飾品に付けた特性はどれも能力ブーストと能力強化なので、各アビリティが25増えることになる。装飾品だけで25✕5(全アビリティ分)✕2でアビリティの合計値は250上がることになり、武器と防具も合わせると合計1000近くステータスが上がることになってしまうのだ。

 

 その事を理解した輝夜さんは、両手でお腹を抑えながら椅子に座って呟いた。

 

「このことは、我々だけの絶対の秘密にしよう。これが外部に漏れたらと考えるだけで……恐ろしい……。」

 

「どう考えても、ベルを巡っての戦争遊戯(ウォーゲーム)……どころか、マジモンの戦争が起きそうだよなぁ。」

 

「ベル、アンタなんてものを作ってんのよ……」

 

「さすがの俺もドン引きだぜ。まあ装備を作ったのは俺だけどよ。」

 

 皆からそんな事を言われてしまい、僕は凹んだ。皆のためを思って作ったものが、それほどヤバいものになるなんて露ほどにも思わないじゃないか。

 

 こうして、僕たちは誰にも話せない秘密がまた一つ増えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お母さんが賢者の石を作ったり、ダンジョンで喋るモンスターが居るのを知ったりと、色々と衝撃的な日々を過ごしていたけど、僕たちヘスティア・ファミリアにとって重要な日を迎えた。

 

 今日は、幾つかのファミリアの主神とその眷族の人達を呼んで、僕たちの作った物のお披露目と値段をつけるための会議をする日なのだ。今回は、ギルドにある少し広めの会議室を借りて行うことになった。

 

 僕たちヘスティア・ファミリアからは、そよ風のアロマなどの回復アイテムなどについて考えてもらうつもりだ。本当は自分たちで値段を付けられたらいいのだけれど、それが出来るだけの知識がないので周りの人に助けてもらおうということになったのだ。

 

「うー、緊張するなぁ。」

 

「ヘスティア様、ベル様、余計な事は言わないようにしてくださいね。出来るだけ高く売れるようにしないと、後で苦労しますよ。」

 

「分かってるよ……。」

 

「そんなに高く売れるのかな?」

 

 リリの言葉に僕たちは深く頷いた。今回僕たちヘスティア・ファミリアからこの会合に参加するのは、僕とリリと神様だけだ。アーシャはお母さんのお店の手伝いで忙しいので不参加だった。

 

 今回参加するファミリアは、僕たちヘスティア・ファミリアと、協定を結んでいるアストレア・ファミリアとヘファイストス・ファミリアに加えて、医療系ファミリアからディアンケヒト・ファミリアとミアハ・ファミリアが参加し、更にはロキ・ファミリアまで参加する予定となっている。

 

 ディアンケヒト・ファミリアとロキ・ファミリアに関しては、アストレア様とヘファイストス様が参加を要請したらしい。ディアンケヒト・ファミリアはオラリオ最大の医療系ファミリアとして、ロキ・ファミリアは、都市最大派閥の片割れなので最大の顧客候補として。僕も両方とある程度関わりがあるので、それほど違和感はないけれど。

 

 それでも、合計6ファミリアの会する合同会議だ。このような事はオラリオでも結構珍しい話だと思う。

 

 だけど会議室内の空気は少し重い感じがした。ミアハ・ファミリアとディアンケヒト・ファミリアはバチバチに睨み合っているし、神様(ヘスティア様)はロキ・ファミリアの主神ロキ様と唸り声をあげて威嚇し合っているという有様だったので、先行きが不安だった。無事に終われるのかなぁ。アミッドさんだけはどこ吹く風で、ディアンケヒト様の隣で涼しい顔をしてるけど……。

 

「ベル、自分を信じろ。俺達が作ったものは間違いなく評価されるはずだ!」

 

 そんな僕をみてヴェルフは少し硬い表情で励ましてくれた。

 

 一方で、全体の司会進行役として抜擢されてしまったセシルさんが、緊張でガチガチになりながらも趣旨説明を始め、この一大ギルド会合は静かに幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは、ヘスティア・ファミリアからベル・クラネルの作った品々から始めようと思います。」

 

 この会合では、僕たちヘスティア・ファミリアがハナを務めることになっていた。多分、一番注目されるのは僕だということで、インパクトを与えるのが目的だと言う。トリは最後を飾るものだぜ、とはヴェルフの言葉である。

 

「ええと、ミアハ・ファミリアとロキ・ファミリアの方は知っているとは思いますが、僕が作った“そよ風のアロマ”の値段をつけることが難しく、結局このような多数の方々に集まってもらうことになりました。」

 

 そして、僕は壇上で挨拶を終えると机の上にそよ風のアロマを4つ置いた。

 

「この4つの“そよ風のアロマ”はそれぞれ効果が異なります。右端から、体力の回復のみ、体力と毒の回復、体力と呪いの回復、左端は体力と毒と呪いの回復となります。ロキ・ファミリアの方なら分かると思いますが、毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒も回復できたので、下層辺りまでの毒や呪いには対応できると思います。」

 

 僕の説明を聞いた人たちは「ほぉー。」やら「素晴らしい。」などと声を上げた。

 

「ですが、範囲回復アイテムという物がこれまでオラリオには無かったために、価格を設定することが非常に難しいので、どうかよろしくお願いします。」

 

 ペコリと頭を下げた後、各ファミリアの様子を窺った。皆難しそうな顔をしているのが分かる。特に、医療系ファミリアの2つの派閥は眉間にシワを寄せて主神と団長で話し合っているようだった。

 

「18階層で、君の作る回復アイテムの凄まじさは理解しているつもりだ。ところで、希望価格などはあるのか聞きたいのだが。」

 

 最初に質問してくれたのは、ロキ・ファミリアの団長であるフィンさんだった。それに答えたのはリリだった。

 

「はい、希望価格としては、万能薬(エリクサー)と同等以上となります。」

 

「なるほど。確かに万能薬(エリクサー)と同じく回復性能は凄まじいからね。パーティーの切り札として持っておくべき代物というわけか。」

 

 フィンさんはそれに納得してくれたようだった。ディアンケヒト様もそれには軽く頷いていて、理解はしてくれているようだった。

 

「18階層ではロキ・ファミリアの30人近い団員を1回の使用で助けたのよね。そよ風のアロマは1瓶で5回分使えるから、毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の特効薬30人分✕5回(実質150人分)の金額でもおかしくはないと思うけど。」

 

 次に発言したのは、ナァーザさんだった。たしかにその通りだけど、パーティー人数はそれぞれ異なるのでその価格では納得しない人が必ず出るだろうと思えた。だからこそ、リリは万能薬(エリクサー)を基準にしたのだと思う。

 

「なるほど…。万能薬(エリクサー)と同じように、切り札となると考えると納得できる。」

 

 ちなみにナァーザさんは出来るだけ高価格で売りたい立場だったりする。その方が委託販売手数料が沢山入るからだ。手数料は固定ではなく割合*4なのだ。

 

「儂から言わせてもらうと、呪いと毒の両方を回復できるものに関しては、アミッドの魔法と同じ価格にしてほしいがな。」

 

 ディアンケヒト様の言葉は的を射ていた。アミッドさんの魔法は、体力の全回復と2つの状態異常の回復だと聞いている。それと同じ価格にしないと、どちらとも損をするかもしれないのだ。

 

「いつでもどこでも戦場の聖女(デア・セイント)の魔法と近い効果を得ることが出来る回復アイテムか。少なくとも、毒と呪いを癒せるものに関しては、ロキ・ファミリアとしては100万ヴァリスを出してもいいと思っている。」

 

 そんな事を言いだしたのはロキ・ファミリアの副団長リヴェリアさんだった。100万ヴァリスという数字に、僕はつい意識が遠のきかけた。会議室内もざわめきが大きくなったけど、概ねリヴェリアさんの言葉に賛同する意見が多かった。

 

「では、毒と呪いを回復できるそよ風のアロマは、100万ヴァリスということでいいでしょうか?」

 

 セシルさんが賛否を問うと、誰も反対はしなかった。これで毒と呪いを治癒する“そよ風のアロマ”の価格は100万ヴァリスとなった。そこからはトントン拍子で価格が決まっていった。体力回復だけは50万ヴァリス、呪いと毒のみを癒すそよ風のアロマはそれぞれ75万ヴァリスとなった。

 

 余りに現実離れした数字の数々に、僕は多分血の気の引いた青い顔をしていると思う。それほど、この部屋の中で交わされている数字は、あまりにも普段とはかけ離れているものだったのだ。

 

「続いて、18階層で取れる赤漿果 (ゴードベリー)で作った祝福のワインです。」

 

 赤漿果 (ゴードベリー)で作ったお酒は、一応オラリオにも存在する。だけど、その多くは珍しいだけの代物で、僕の作る祝福のワインのように回復効果のあるものは皆無だった。味に関しても、僕が作るもののほうが美味しいという自信はある。

 

 ちなみに、事前にソーマ様がこれを一口飲んだところ、「なぜ私は下界に生まれなかったのだ……!」とボロリと涙を流して悔し泣きをするほど感動していた。自分も18階層に行ってこのお酒を作りたくなったらしいけれど、神がダンジョンに入るのは絶対禁止なので叶わないのだそうだ。

 

「この祝福のワインは味は勿論の事、回復効果も従来の祝福のワインの2倍ほどに強化されています。ただ、原料の調達の難しさから、生産は不安定となります。ちなみに、現在はここにある2本しか存在しません。」*5

 

 セシルさんの言葉を聞いた瞬間、会議室にいる全員の目がギラリと光ったのが分かった。特に主神たちの目は、獲物を狙う肉食獣のそれみたいだった。

 

「10万ヴァリスや! 10万ヴァリスでその2本とも買ってやろうや無いか!!」

 

「お前は何を考えているんだ!?」

 

 ロキ様が身を乗り出して声を上げると同時に、リヴェリアさんの容赦のない拳骨がロキ様の脳頂に振り下ろされた。第一級冒険者、レベル6の拳骨をもろに食らったロキ様は、痛みでその場に蹲り、「あだだだだ……!」とうめき声を上げていた。

 

「このお酒は先ほどセシルさんが言ったように生産が不安定なので、『豊醸の女主人』で販売することが出来ませんでした。また、次に何時作れるのか分からないので、予約も受け付けられません。」

 

 次に18階層に行くのが何時になるのかは分からないので、予約も受け付けることは出来ないのだ。都合がついたら作るという程度の口約束しか出来ないお酒なのだけど、神様たちはこのお酒に興味津々な様子だった。

 

「ちなみに僕は飲ませてもらったけど、下界に降りてきてから飲んだお酒の中では1番美味しかったよ。」

 

「マジで! くー、いや、リヴェリア、ちょいとばかしのお目溢しを…。」

 

「そんな事に大金を使おうとするな!」

 

「今回は、試飲会ということで皆さんに少しずつ飲んでもらおうと思っています。」

 

「おお、太っ腹やな。」

 

「それと、この酔わない祝福のワインも飲んでもらおうと思います。正直、回復アイテムとしてはどちらも値段を付けづらくて…。」

 

「酔わないワインだと? そんな物があるというのか。」

 

「錬金術の腕前が上がったので、味はそのままに酔わないワインを作ることが出来るようになりました。」

 

「これは『青の薬舗』でも売る予定。だけど、『豊醸の女主人』の価格に合わせるか否か判断がつかなかった。」

 

 そういうわけで、皆にワインの試飲をして貰った。どちらとも概ね好評だったけど、赤漿果 (ゴードベリー)で作った祝福のワインは別格だった。

 

「うまっ! なんやこれ、神酒(ソーマ)にも引けを取らへんで!!」

 

「ソーマ様も、これを飲んで涙を流して悔しがってましたよ。なんでダンジョンに自分は潜れないのかって。」

 

「そっちかいな! まあ、ソーマが赤漿果 (ゴードベリー)で酒を作ったらどないなるか、ウチも知りたいけどな。」

 

「これは本当に素晴らしいわね。確かに下界に降りてから飲んだお酒の中で、一番の傑作だと思うわ」

 

「ベル君の作るお酒はどれも美味しいから、ついつい飲みすぎてしまうのよね。」

 

 ロキ様やヘファイストス様にアストレア様は素直に称賛してくれて凄く嬉しく思った。ロキ様の言う通り、ソーマ様が赤漿果 (ゴードベリー)でお酒を作ったらどうなるのか、僕も知りたいけど、あれって本当に日持ちしないんだよね……。

 

「……なぜあの小僧は、ミアハ・ファミリアばかりに都合の良いものを持ち込むのだ……。」

 

「やはりベルさんは凄まじい才能の持ち主なのですね……。」

 

 ディアンケヒト様が僕の方を見ながら恨めしそうに呟いている。アミッドさんはよく分からないや。

 

 まあ、皆さんそれぞれお酒を楽しんでくれているようで何よりだ。

 

 

 とりあえず、これでヘスティア・ファミリア単独での出番は終わりだ。1人だけ壇上に上がっていたので、結構緊張したけど何とかこなせたと思うとホッとした。

 

 だけど、僕はまだここから降りるわけには行かない。次からが今回の会合の本番なのだから。

*1
フィリスのアトリエ、シャリーのアトリエより。

*2
独自設定。鍛冶師が付与できる属性が分からなかったため。

*3
全てエスカ&ロジーのアトリエより。

*4
10%

*5
これ以外は関係者で飲み干した。




ヴェルフの作る装備の値段って、原作でも出てきてないっぽいので適当に付けました。
アトリエシリーズでは、店売りの装備は買うことはほぼないですけど。(ライザあたりから入ってきた人は買ってるかも?)
ダンまちの冒険者の殆どは、装備を整えるのに凄い借金を背負っているらしいですが、ヴェルフとベルのお陰でアストレア・ファミリアに新たな借金持ちは生まれませんでした。



少し思うところがあり、次回より更新時間を日曜夜に変更します。
申し訳ありませんが、よろしくお願いします。
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