メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
ヨーロッパでキリスト教が広まったのも頷ける。
わけがわからない。それが私の感じた全てだった。そして、次に湧き上がってきた感情は激しい怒りだった。
今、私の店をアポロン・ファミリアの眷属たちが荒らし回っていた。開店前に来た彼らはアーシャを差し出せと要求し、それを私が拒否すると店を荒らし始めたのだ。
私はもちろんだけど、アーシャもイクセルも怒りに身を震わせていた。アミッドさんも信じられない面持ちで彼らを見つめている。
これ以上の乱暴狼藉は許せない。絶対に後悔させてやる。
私ははたきを取り出し、イクセルはフライパン*1を、アーシャは軽量おたま*2を持ち出した。*3
殺すのは不味いと、かすかに残った理性で出来るだけ殺傷性の低い武器にした。殺しはしない。だけど死ぬほどの目に合わせてやる。*4
「いますぐ止めなさい!」
「恩恵を持たないお前が何が出来る。さっさと娘を差し出すのだな。アポロン様に見初められたのだ光栄に思うが良い。そうすれば痛い目に遭わないで済むぞ。」
何処までも人を見下した目で見る優男、ヒュアキントスという男がこちらを馬鹿にしたように言ってきた。もはや言葉はいらない。ただ叩きのめすばかり。
「いいかげんにして!」
私はこの野盗の頭目にはたきを叩きつける。それで優男は店の外壁を突き破って、店の外へと吹き飛んでいった。そのさまを見て呆気にとられている他の連中は、アーシャとイクセルが同じように叩き出す。
私は錬金術士だ。10年以上フリッツ先生たちと共に世界中を廻って、各地で暴れまわっていたり封印されたりしていた強力なモンスターと戦ったり、素材を集めたりしてきた。
その中で非常に重要な特性を2つ見つけていた。“ 魂を奪う”と“生命力を奪う ”だ。前者はレベルを奪い、後者は基本的なステータスを奪う特性だ。これを付けた武器が、今私が振るっているはたきである。
だから、私のステータスを平均的な冒険者と比較すると、多分凄いことになっていると思う。恩恵のように具体的な数値で確認することは残念ながら出来ないけど、それでも今日襲いかかってきた男たちに負けないくらいの力があるということは理解していた。
「団長! 畜生、お前らこいつらを殺せ!」
叩き出された男たちが喚いているけど、アーシャやイクセルがそれぞれの獲物で再び叩きのめした。口だけは威勢がいいけれど、実力はなかったようで戦いはあっさりと私たちの勝利となった。
店の前の通りに放り出した男たちを生きてるナワで縛り上げて、アミッドさんにアストレア・ファミリアにこの事を伝えてもらうようにお願いした。慌てて走り出す彼女の後ろ姿を見ながら、私は彼らを尋問することにする。
「さて、何がどうなって私の大切なお店を荒らしたのでしょうね。」
生きてるナワでグルグル巻きにされている、寝転んだ優男の頭を踏みつけて、私は何故こうなったのかを問いただす。
「こ、このババア! 恩恵を持ってないはずじゃなかったのか。」
「誰がババアですって! 恩恵なんて持ってなくたって、あなたみたいな口だけの虫けらなんて子供でも叩きのめせるわよ。さあ、何故私の店を襲ったのかキリキリ吐いてもらいましょうか。」
「誰がお前などに!!」
頭を踏みつける力を少し強めて、はたきをもう一度叩きつけた。レベルがどれくらいあるのかは分からないけれど、これでこの男はレベル1くらいになっているのではないかと思う。どうも、基礎アビリティーが0よりも下になると、ランクダウンを引き起こすらしいのだ。*5
今の私の心は怒りの炎が激しく燃え上がっていた。オラリオは冒険者の街というだけあって、治安が良いとは言えない。それでも、ガネーシャ・ファミリアやアストレア・ファミリアの方たちの尽力もあって、比較的平穏な暮らしを送れていた。
でも、それを全部ぶち壊してくれたのが、この優男とその仲間たちだった。率直に言って許せない。
「母さん、この程度では生ぬるい。もっと激しい拷問を行うべきだ。とりあえず指を関節ごとに切り取ることから始めよう。」
アーシャが包丁を片手に物騒なことを言い出した。それだけ激しい怒りを身にまとっているということだろう。これでも丸くなったらしいけど、本当かしら?
「いやいや、まずは目ン玉をくり抜こうぜ。最終的に口さえ無事だったら良いんだからよ。」
2人とも縛り上げた賊の手を踏みにじったり、頭を踏みつけたりしながら思い思いの事を言っている。そこまで酷いことをすれば、私たちが捕まるかもしれないので、流石にそこまではしない。
「傷つけるのは駄目よ。
「…母さんがそう言うのならそうしよう。だが、このクソ虫どもはそれだけでは再び襲撃してくるぞ。」
「そうだろうな。ここは徹底的に恐怖を植え付けるべきだと思うぞ。」
2人とも、アルフィアやザルドの頃の性格が現れてしまっているようだった。ヘラ・ファミリアやゼウス・ファミリアが健在だった頃は、こういう事はよくあることだったらしい。その度に、徹底的に痛めつけて分からせていたと言う。主神まで送還してファミリアごと滅ぼした事もあるらしい。
そんな事を離している内にアストレア・ファミリアの人たちが駆けつけてくるのが見えた。確かセシルさんだったかしら。彼女を筆頭に、初めて見る少女たちが3人ほど走り寄ってきていた。
そう言えば、アストレア・ファミリアはギルドから与えられた遠征任務とやらで、殆どの人が出払っているという事を思い出した。彼女たちは留守役ということなのかしら。
「はぁはぁ、こ、こいつらがメティーさんのお店を襲ったっていう不届き者ですか?」
「ええ。」
「こいつらはアポロン・ファミリアと名乗っていたな。アーシャを差し出せとも。」
「馬鹿な連中だ。こんな奴らに私たちが恐れるとでも思っているのか。簡単に返り討ちできたぞ。」
「こいつって
この3人の少女たちもアストレア様の眷属らしい。アーシャは知っているようで、淡々と彼女たちに何があったのかを話している。お店を始めた頃は、お客さんと話すことすらイライラすることも多かったというのに、成長したということかしら。
「とりあえず、私たちはこいつらを連れてガネーシャ・ファミリアに行きます。ええと、メティーさん、ご同行をお願いしてもいいでしょうか。」
セシルさんの言葉に私は軽く頷く。冒険者が、一般人の店を襲撃したのだ。厳罰が下って欲しいと思い、彼女たちについていくことにした。
「私は母さんと一緒に行く。イクセルは掃除を始めておいておけ。」
「はいはい。レストランの方は今日は休みだなこりゃ。全く迷惑な連中だぜ。」
アーシャはイクセルに指示を出すと、私の隣に歩いてきた。イクセルは一人で掃除をするみたいだけど、大丈夫かしら? 生きてるほうきと生きてるゴミ箱があるからまだマシだろうけど。
生きてるナワを引っ張って、セシルさんたちは襲撃犯たちをガネーシャ・ファミリアの本拠地へと連れて行こうとするけど、抵抗して中々進まない。
あの優男は私がステータスを奪い取ったので大丈夫だろうけど、他の男たちはまだジタバタ暴れている。仕方ない。少し手伝いましょうか。
「暴れずに歩きなさい。この強盗め。」
「誰が強盗だ! このババア許さんぞ!!」
私の言葉に激昂したエルフの男は、静止を振り切り私に向かって走り出そうとしてきた。それを私ははたきで軽く叩く。それだけでエルフの男は数
「さて、まだ暴れるようだったらああするわよ?」
笑顔の私を見て、残りの人達は暴れるのを止めた。それから暫くして、私たちは無事にガネーシャファミリアの本拠地へと強盗犯たちを連れて行くことが出来た。
そこで行われたのはアポロン・ファミリアに対する尋問と、私に対する聞き取りだった。私は何もやましいところはないので全てを話した。
冒険者を倒したということで、担当の人が疑問に思ったのか魔道具で私の恩恵の有無を調べたけど、勿論反応はない。アーシャを検査すると恩恵の反応があったので、故障ではないと担当者は理解したらしい。
この事から、一般人の経営する店に対する強盗行為として、アポロンファミリアは処分されるだろうと、私の担当をしてくれたガネーシャ様の眷属の方は仰られていた。ただし、そこまで厳しい処分は下らないかもしれないとも言われた。オラリオは冒険者の街なので、、何かと冒険者が優遇されてしまう。こういった時に、非冒険者は余りにも不利だった。
「後は、アポロン・ファミリアに損害を請求したいけどねぇ。」
「だったら良いやり方があるぞ。」
帰り道、私たちはこれからのことについて話し合っていた。お店の修理費用もそうだし、こういう事が2度と起こらないようにするためにはどうしたら良いか。私は冒険者の流儀や文化に疎いので、この辺りはアーシャとイクセル頼りになる。
「それじゃあお願いね。」
「ああ、任せろ!」
その日はお店を休みにして、店内の片付けに専念した。錬金術を使って直せれば簡単なのだけど、あまり目立ちたくないので、建築系のファミリアにお願いすることにした。一般人相手にも仕事をしてくれるけど、値段が高いのが難点なので、こういう早く店を直したい時には彼らを頼りにするべきだ。
冒険者だけど街中で建物を立てるのが生業の彼らは、結構物腰が柔らかくて、何処かの誰かさんたちとは全く違っていた。
ただ、自分たちが絶対に正しいという職人の悪癖が見え隠れするのは御愛嬌というところかしら。こうした方が良いのでは、とあちらから提案してくれたけど、確かに見栄えが良さそうに見えるから少し悩んでしまった。
だけど、結局はお金と時間を理由に元に戻すだけにした。あちらも嫌な顔はせずに了解してくれた。店の修理には2~3日かかるそうで、その間は臨時休業にするしか無いだろう。
建築系ファミリアの人との話が終わると、今度はベルが声をかけてきた。騒ぎを聞きつけて駆けつけ付けてくれたらしい。隣にはヘスティア様と小人族の女の子の姿もあった。
「お母さん! 何があったの?」
私はベルに、アポロンファミリアが襲撃してきて店が壊されたことを話し、今はガネーシャ・ファミリアで尋問を受けている最中だと話すと、驚いたことにベルの方にもアポロンファミリアは襲撃を仕掛けてきていたのだとか。
もっとも、ヘスティア・ファミリアの拠点となっている廃教会には、結構な頻度でソーマ様がやってくるので、その護衛のガネーシャ様の眷属の方*6が蹴散らしてしまったらしいけど。
……と言うことは、アポロン・ファミリアはガネーシャ・ファミリアにも喧嘩を売ったということなのかしら?
「ベル、母さんの店を滅茶苦茶にした連中は許せんと思うよな?」
「そりゃそうだよ! それで何をする気なの?」
「戦争遊戯だ。奴らに戦争遊戯を仕掛けて、自分たちがしたことを後悔させてやる。」
「せ、戦争遊戯って、ファミリア同士でやる決闘みたいなアレだよね? うちって3人しかいないんだけど……。」
「俺も参加するぞ。」
「イクセル……。大丈夫なの? 料理人になるんでしょ?」
「ここまでやられて黙ってたら男がすたる。10倍にしてやり返してやるさ!」
イクセルの言葉に頼もしく思ったけど、私はどうするべきかと考える。ルールを良く知らないけど、戦争遊戯に参加するには恩恵を受けなければならないだろう。冒険者登録もいるのかしら?
「ねえ、私も参加しようかしらね…。」
「母さん!」
「お母さん…、そりゃ怒ってるよね。」
「死人は出さないようにな。」
「火種だけは、どうか火種だけは止めておくれよ?」
こうして、クラネル家の方針は決まった。次は行動に移す時だ。
ベルはヘスティア様と共に、アポロンファミリアの本拠地に向かい、戦争遊戯の申し出を叩きつけてくるそうだ。もしもの時に備えて、アーシャも一緒に行かせる。2人は心配そうな目をしていたけど、今はイクセルがいるし、やる気満々なので大丈夫だろう。
私が向かった先は例の廃教会だ。いや、廃教会だったという方がいいだろう。攻撃を受けたせいなのか、天井などの一部が壊れているところがあるけど、以前見た時よりも見栄えが良くなっていた。外観はペンキで塗り直して綺麗になっているし、内観もまるで別の建物のようだ。
2階も作ったようで、柱と壁で部屋割りがされている上に、1階の天井兼2階の床材がきちんと作られていた。階段もあったけど2階部分はまだ未完成だという。それでも、この短期間で作れたのは立派だと思った。
「ベル様は寝る間を惜しんで*7調合と拠点の改装をしてくれてましたから。お母様にそう言っていただけて、ベル様も喜ぶと思います。」
「あら、ありがとう。あなたがいてくれるおかげで、ベルは錬金術士としての仕事に専念できているようだし、本当にありがとうね。」
「いえ、そんなことっ! 正直、ベル様がリリを拾ってくれていなかったら、今頃どうしていたものか……。それに、今回何とか助かったのも、ベル様の顔の広さのお陰ですし。ソーマ様の護衛の方が、襲撃してきたアポロン・ファミリアの団員たちをあっという間に倒してくれましたから。」
小人族の女の子は、リリルカと言う名前らしい。ベルが時々ファミリアについて語る時に出てくる、ソーマ様の元眷族で経営担当の子らしい。ベルが拾ってきた時は運が悪いと思ったけど、今では立派にベルたちの助けになってくれているのは非常に頼もしい。
それから、しばらく廃教会でベルたちが帰ってくるのを待っていると、3人は1時間ほどで帰ってきた。こんなに早く帰ってきたのは何故だろう?
「どうも、奴らは戦争遊戯をすることが目的だったようだ。私が欲しいというのならば、私1人しかいない時に正面から殴りかかってくれば良いものを。」
「幹部たちがガネーシャ・ファミリアに逮捕されたと聞いた時の、アポロンの顔は傑作だったよ!」
「はははは……。」
アーシャは少しばかりお冠らしい。今回の事件は、アポロンとかいう神が原因だけど、まさか自分が戦争遊戯のきっかけになるなんて思ってもいなかったのだろう。もしかすると、その怒りが自分自身にも向いているのかもしれない。
一方で、ヘスティア様はアポロン様の幹部がガネーシャ・ファミリアに捕まったことを伝えたことで、少しばかり溜飲が下がったらしい。ベルはそんな2人の様子に乾いた笑い声を上げる事しか出来ていなかったけど。
最速でのレベル2への到達という偉業が、こういった形で私たちに降り掛かってきたことで、アーシャがもっと強くなってみせると私に宣言してきた。強くなることを言葉にしなければならないほど、アーシャのの心はかなりヘコんでしまったのだろうか。
「それで、メーテリア君も僕の眷属になりたいということでいいのかな?」
「イクセルもですね。彼らを徹底的に叩きのめしてやらなくては気がすみませんから。」
「やっぱりそうなっちゃうか…。」
顔を掌で覆ったヘスティア様は、ため息を漏らした。私って何か迷惑でも掛けたかしら?
「出来れば、あの2つの種火は使わないでほしいかなぁ、なんて…。」
「使いませんよ。アレを使わなくても勝てる相手ですし。」
「はぁー、よかったー。」
「ただ、2度とこんな馬鹿なことをする人が出ないように、ちょっと派手にやろうかとは思っていますけど。」
「は、派手に? 世界がどうかなったりとかしないよね?」
「しませんよ!」
全く人を何だと思っているのだろうか?
残念ながら、私は落ちこぼれなのだ。世界を破滅させるような爆弾なんて作れやしない。天界の大掃除やN/Aなら可能かもしれないけど、私じゃ作れないし。……賢者の石を作れるようになったから、落ちこぼれの称号は返上しても良いような気がしてきたけど。
そんな事を話し合いながら、私たちは地下の寝室の前に着いた。
「じゃあ、メーテリア君に恩恵を施すからね。」
私とヘスティア様だけになった部屋で、私は上半身裸になりベッドへとうつ伏せで寝転んだ。ヘスティア様は私の腰のあたりに乗っかかり、恩恵を授け始めた。
「うわー、やっぱりベル君とアーシャ君のお母さんだけあって、凄いことになってる…。アーシャくんのほうが可愛く見えるレベルだよ。」
一体何がどうなっているのか分からないけど、どうもアーシャよりも私のステータスはかなり凄いらしい。以前は姉さんは魔法とスキルがてんこ盛りだったのに対して、私は何も無かったし、基礎アビリティもろくに上昇しなかった。ろくに剣すら持てなかったのだから当たり前だけど。
今だったら剣は持てるでしょうけど、普通にハタキを使ったほうが強いと思うから意味はないわね。そんな事をつらつら考えている内に、恩恵の付与は終わったらしい。私の上から降りたヘスティア様は、机の上で羊皮紙に私のステータスを書き写している所だった。
「はい、これが君のステータスだ。本当は家族にも教えないほうが良いと思うけど、そこのところはメーテリア君に任せるよ。こんな滅茶苦茶な君をどうこうできる人なんていなさそうだし。ハハハハハ…。」
ヘスティア様は乾いた笑い声を上げながら、壁に額を預けて何かをブツブツ呟いていた。
「この子もヤバいスキルばかり持ってるじゃん。しかも滅茶苦茶ヤバい数字を加算とか…。これバレたら、絶対ヤバいよね? うう、胃が痛いよぉ。」
壁に話しかけているヘスティア様を私は無視して、自分のステータスをじっくり読むことにした。
メーテリア・クラネル
〈ヘスティア・ファミリア〉
レベル1
力 :I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【】
《スキル》
【只今御仕事中】
調合時、発展アビリティ『調合』『神秘』『錬成』『錬金』が一時発現。
特性枠解放+1。*8
生産数+1。
調合により錬金術士としての経験値を得る。
【掃除愛好家】
錬金術士にあるまじき掃除好き。故に大成しない。
獲得経験値半減。
調合成功率低下。
品質低下。
【菓子職人】
発展アビリティ『製菓』が発現する。
菓子やそれに関連する物の調合成功率が100%になる。
調合品に菓子カテゴリを付与可能。
【不思議画家】
発展アビリティ『描画』が発現する。
不思議な絵の中で得られる素材の品質が上昇し、特性のレアリティも上昇する。
経験値を得られる不思議な絵を作成できる。
【霊魂吸収】
敵からレベルやステータスを奪う。(装備依存)
基礎アビリティーに次の数値を均等に分配する。
“198437”
「先生の言っていたことは正しかった…。」
恩恵を授けられた私は、部屋を出て1階の調合室へとふらふらとたどり着いていた。何となく錬金釜のある場所へ来たくなったのだ。
私は自分のステータスを見て、かなり昔に先生が私に言った言葉を思い出していた。私の弟子入りを認めてくれた時のことだったと思う。
『君は決して大成できない。』
何故そう言われたのか、当時の私は分からなかった。だけど、一緒に旅をしている内に先生たちとの間に、錬金術士としての絶対的な差があるとわかり、それが間違いではなかったと理解してしまっていた。何故大成できないのかはこれまで謎だったし、先生は決して教えてはくれなかったけれど。
でも、今になってその理由が私の目の前に現れた。掃除好き。たったそれだけのことで、私は錬金術士として高みに登れなかったのだ。*9
最早笑い声すら出ない気分だった。まさか、こんな形でこれまで賢者の石が作れなかった理由がわかるなんて思いもしなかった。
そんなことと比べたら、【靈魂吸収】の数字など些細なことだった。というよりも、掃除好きが原因で錬金術士として大成できないことが分かり、他のことを考える余裕など私にはなかった。
「お母さん、どうしたの?」
そんな私をおかしいと思ったのか、ベルが話しかけてくれた。つい、ベルを抱きしめてしまう。ベルは私の行動に驚いたようだったけど、されるがままになってくれていた。
静かな調合室の中で、無言で息子を抱きしめている私は心の中で静かに泣いていた。こんなことで。でも、その理由がわかって、解決策も分かって。私はある意味で間違っていないのだと分かって。
私には凄まじいハンデがあった。絶対に賢者の石にまで届かないハンデが。
でも、私はそれを自力で乗り越えたのだ。自力で先生達と同じように賢者の石の調合に成功したのだ。自分を信じてお菓子作りを続けてきた私は間違ってなどいなかったのだ!
そして、私はそれでも高みに到達できたのだという事実が嬉しくて。
ただただ、私は泣いていたのだった。
アポロン・ファミリアは登場してすぐに退場しましたが、まだ出番はありますからご安心ください。もっとも、仮にメティーたちに勝てたとしても、ガネーシャ・ファミリアにも喧嘩を売ってしまったので酷いことになりますけど。
メティーのステータスですが、もっとシアっぽくしようかと思いましたが、レベル1の状態で魔法を発現するのはやりすぎかなと思い自重しました。
アトリエシリーズの主人公たちは掃除が苦手なので、はたきを武器にしている掃除好きなメティーはマイナススキルが発現することになりました。メティーが伸び悩んでいた原因はこれです。
以下は独自設定の発展アビリティの解説です。
【錬成】
錬金術で装備類を作る際に大きな補正がつく。
元ネタはエスロジの武器錬成。
【製菓】
お菓子を作る際に大きな補正がつく。
また、引き継ぎ無しで特性を付与可能となる。
黄昏シリーズの潜力の発現が元ネタ。
【描画】
絵を描く時に大きな補正がつく。
具体的には、不思議な絵の中で取れる素材をある程度指定できるようになる。
イメージとしてはライザの採取地作成。
その内、命にも発現するはず。