メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
最近の作品ではハゲルさんが出てこなくて悲しいです。
「ベル、匿ってくれっ!」
ある日の午後、僕がホームの調合室で調合をしていると、慌てた様子でヴェルフが駆け込んできた。そのままクローゼットの中に入り込んでしまい、僕は突然の出来事に呆気にとられてしまった。一体何があったというのだろうか?
続いて調合室へと入ってきたのはヘファイストス・ファミリア団長の椿さんだった。ヴェルフを追いかけてきたのだろうか。レベル5だけあって全く汗もかいていないし息も上がっていなかったけど、髪が少しばかり乱れていた。
「突然すまないが、ヴェル吉がここに来ていないか?」
よく考えたら、ウチのホームに他所のファミリアの人たちがしょっちゅうやってくるのは問題なのでは? しかも、ウチの心臓部とも言っていい調合室に直接乗り込んでくるなんて。僕は訝しんだ。
「ええと、ヴェルフがなにかやったんですか?」
「うむ。実はヴェル吉が手前の着替えを覗いてな。」*1
「ヴェルフならあそこです!」
女性の着替えを覗くなんて、ヴェルフのことを見損なったよ。昔ヘルメスとかいう覗きの神様が、お母さんたちがお風呂に入っている時に覗いていた。すぐにバレてヘラ様が八つ裂きにして木から吊るしていたけど。僕は一発殴ってやろうかななんて思っていたけど、ヘラ様の所業に恐怖したのはいい思い出だ。
あれ、なんか体が震えてきたや。
「ふざけろっ! 誰がお前なんかの着替えを覗くかよ! というかお前を女なんかと思っていやしねえよ!?」
「ヴェルフ、流石にそれは酷いと思うよ。」
「ほう、手前にそこまで吠えるとは見上げた根性であるな。」
あっさり見つかって噛みついてくるヴェルフに、椿さんは笑いながら一発お見舞いしていた。女性が笑いながら攻撃する時は、本気で怒っている時だから気をつけなさい、と昔言われたことを思い出した。あれって誰に言われたんだっけ?
「ま、待て。あれは言葉の綾で……。」
「問答無用!」
そして、ヴェルフは椿さんからの一撃を貰い受け、床に轟沈した。それを無表情で見下ろす椿さんだったけど、僕の方に体ごと顔を向けてきた。ついビクッと体が反応してしまった。
そして、椿さんが何故ヴェルフを追っていたのかを話してくれた。椿さんの目的はクロッゾの魔剣らしい。正確にはクロッゾの魔剣に発現する“精霊の呪い”が一体どのようなものであるかを突き止めることだという。
「仮に呪いが弱いものであれば他人でも使えるであろう。もし強い呪いだとしても、ヴェル吉本人が使う分には問題なかろう。だというのに、こやつは頑なに魔剣を作ろうとせんからな。仕方なく、手前が代わりに検証してやろうと思ったまでよ。」
椿さんの言葉は確かにと思えるものだったけど、それをするには誰かに実験台になってもらわなくてはならない。それを考えるとおいそれと頷ける話ではなかった。
「勿論いけ……ゲフンゲフン、実験する本人の同意は得ておる。」
「今、生贄って言おうとしてませんでしたか?」
「しとらんよ。」
怪しいと思ったけど、僕も呪いがどういったものなのかは知りたかった。“精霊の加護”とか“精霊特効”とかは聞いたことがあるけど、精霊の呪いというものは知らないのだ。そういえば“女神の呪い”なんてものがあったような?
「それでヴェルフが逃げたんですか?」
「だが、いつまでも呪いを放置したままではな。いつか魔剣の力が必要になるかもしれん。その時のためにも、調べておくくらいはしておくべきであろう。それに、
うーん、ヴェルフのことを思うと反対したいけど、椿さんの言うことも理解できるんだよな。アミッドさんも協力するということだし、万が一呪いが酷くてもある程度は安心だとは思うけど。
「そのうえでだ。お主にも協力してほしいのだ。クロッゾ版錬金剣を作るのと、イザという時のために解呪薬も欲しいのだ。勿論きちんと謝礼は出すつもりだ。」
椿さんの提案に、僕はヴェルフの方に顔を向けた。ヴェルフの気持ちを考えると魔剣を作れなんて言えないけど、ダンジョンに潜る時にパーティーの戦力は高いほうが良い。別に僕は使うつもりはないけど、ヴェルフ本人が使う分には呪いは発動しないわけだし。そうすれば、もっといい素材が手に入るかもしれない。
別に椿さんに説得されたわけではないけど、僕は椿さんの提案に頷いたのだった。ごめんヴェルフ……。
そして翌日。バベル前の広場にて、僕は不機嫌なヴェルフに謝り倒していた。あれから意識が戻ったヴェルフを、僕と椿さんは2人がかりで説得して、何とか魔剣を打ってもらうことに成功していた。勿論僕もクロッゾの魔剣の錬金剣バージョンを作ってきた。今日はこの2本の魔剣を使って、どのような呪いがあるのかを検証するのだ。
ちなみに、ヴェルフはぷにぷに玉を使いこなせていないので、普通のクロッゾの魔剣である。セシルさんが【
それはともかく、広場に集まった今日一緒にダンジョンに潜る人たちと挨拶を交わしていく。僕はセシルさんを誘ったのだけど、リューさんとセルティさんも一緒に来ていた。エルフだから魔剣を嫌っているのではと思っていたけど、案外受け入れているらしい。
「エルフにもあんたらみたいなのがいるんだな。」
「私はあんな視野狭窄な連中とはちがう。魔剣は所詮道具だ。使い手によって悪にも善にもなる。あなたは悪い
「私は精霊の呪いというものに興味があります。精霊が人を呪うとどういった効果があるのか、それを知りたいですね。それと、呪いが軽微なものだったら、私自身は使うつもりはありませんが戦力の強化に使えるかもしれませんし。」
2人のエルフの言葉に驚いたヴェルフだったけど、軽く頭を下げた。ヴェルフはこれまでエルフに散々罵倒されてきた経験があるらしく、リューさんたちの言葉はとても嬉しいものだったらしい。
「それで、こいつらが今回のいけ……試し撃ちするのがこの2人だ。」
やっぱり生贄って言おうとしてる!
椿さんがそう言って紹介してきたのは、ロキ・ファミリアの団員の人たちだった。
「俺はラウルっす。今日は新型の魔剣の試し撃ちと聞いて期待してるっす。」
「俺はクルスです。錬金剣やそよ風のアロマを作った人たちの新作のテストと聞いて、とても楽しみにしています。」
2人に対して、僕たちも自己紹介をして挨拶をする。2人とも緊張したようで、どこか興奮した雰囲気を感じた。アミッドさんも合流して、ダンジョンに潜って試し撃ちをすることになった。
ところで、2人ともアミッドさんが現れた時に凄く驚いた風に見えたけど、もしかして椿さんは今日の目的について2人に話していないのかな。後でそれとなく聞いてみようかな。
ダンジョンに潜ること数時間、僕たちは中層にたどり着いていた。何故中層で試し撃ちをするのかと言うと、比較的広い空間があってモンスターがたくさん出てくる場所となると、中層以降しか無いからだとか。椿さんとしては、クロッゾの魔剣の威力も見たいから本当は下層あたりまで潜りたいらしいけど、レベル1の僕がいるので妥協したらしい。
「ということで、ここでお主らに使用してもらうのがこの魔剣と錬金剣だ。」
椿さんがクロッゾの魔剣を取り出したのを見て、僕もバックパックから錬金剣を取り出した。もちろんクロッゾの魔剣を元にしたものだ。それを椿さんに渡す。
「2つとも火系統の魔剣と錬金剣だな。手前が渡したのは使用回数があるものだが、威力は大幅に向上しているはずだから、気をつけて撃ってくれ。」
椿さんが2人にそれぞれ渡す。ラウルさんには錬金剣が、クルスさんには魔剣が手渡された。ちょうどよくモンスターが固まっている場所を見つけていたので、そこに向かって歩いていく。
「俺はあの集団を狙うっすから、クルスはあっちの集団をお願いするっす。」
「了解。それ、どれほどの威力があるものか試してみるか。」
そして、2人はほぼ同時に撃った。巨大な火炎の塊がモンスターたちに向かって凄まじい速度で飛んでいき、一瞬にしてモンスターたちを消し炭にしてしまう。以前見た魔剣とは桁違いの威力を持つクロッゾの魔剣を見て、僕はつい口をあんぐりと開けてしまった。
他の人達も同じような様子で、作った本人のヴェルフですら目を見開いていた。「昔作ったやつよりも威力が上がってないか、これ……。」なんて呟いていた。ヴェルフの腕が上がったからじゃないかな?
ただ、やはり僕の作った錬金剣のほうが威力はかなり劣っているように見える。“一撃必殺”の効果を発現しているから、モンスター相手では見た目ほどの威力の減退はないと思うけど。
「これがクロッゾの魔剣……。もはや魔法をも超えたようにも思えるな。」
「凄いですけど、過去にこれが精霊たちに向けられたのですよね……。」
エルフの2人は、クロッゾの魔剣の威力に驚いていたけど、同時に精霊の住む森を焼いたという過去を思い出し複雑な表情をしていた。2人ともヴェルフのことは嫌っていたりはしていないけど、それとこれとは別物らしい。
「って、ええっ! これってクロッゾの魔剣なんっすか!?」
「あの呪われた魔剣なのか! お、俺、死ぬのか……?」
魔剣と錬金剣を使った2人は、リューさんたちの会話を聞いて、初めてクロッゾの魔剣だということを知ったらしい。クロッゾの魔剣が呪われているというのは、オラリオでは割と広がっているらしい。椿さんが事あるごとに吹聴しているらしく、第一級冒険者を中心に広がったとか。いや、今はそれよりも大事なことがあった。
「って、椿さん。2人に黙ってたんですか!?」
「そりゃ隠してなくては使おうとはしないであろう。まあ、いいではないか。どうやら呪いと言っても命に関わるものではないようだし。ほら、2人ともピンピンしておるではないか。」
ラウルさんたちはギャーギャーと椿さんに抗議しているけど、2人を騙していた本人は涼しそうな顔をして往なしていた。椿さんの行動に思うところはあるけど、2人が元気そうなので何とも言えなかった。僕も2人から見れば騙した側だろうし。
「アミッドさん、2人はどんな感じなんですか? 呪いの影響はありそうですか?」
「見た感じ呪いの影響は見られませんが、時間を置いて影響が出てくるのかもしれません。取り敢えず詳しく診察をしてみましょう。」
アミッドさんはそう言うと2人に近づいて診察をし始めた。僕も一緒についていくけど、見た感じでは何の問題もなさそうだった。
「精霊の呪いは本当に微弱なものだったのか?」
ヴェルフですらそう思いかけていたその時、ラウルさんの頭から髪の毛の塊がバサリと落ちた。落ちたところは綺麗な円形となっており、生々しい地肌が露わになっていた。
「えっ?」
ラウルさんは、自分の髪の毛が落ちたのを見て、裏返った声を出して困惑していた。それを皮切りにして、ラウルさんの髪の毛が次々と落ちていく。抜け毛が落ちるような可愛い代物ではなく、まるで土砂崩れを起こすかのように次々と髪の毛が塊となって地面に落ちていき、ついにはラウルさんの頭部から髪の毛が1本も無くなってしまっていた。
「お、俺の髪の毛がー!?」
「俺のものだ!」
クルスさんの声に顔を向けると、たしかにクルスさんにも髪の毛がなくなっていた。2人とも数分前まではフサフサの髪をしていたのに、今や髪の毛1本無いツルッパゲの焼け野原だった。多分クロッゾの魔剣で焼き払われた森というのも、こんな感じになったのかもしれない。
「こ、これってクロッゾの魔剣の影響なのでしょうか?」
アミッドさんが珍しく狼狽えている。多分こんな症状を見たことはこれまで無かったのだろう。対処法が分からずに戸惑っているようだった。
「アミッドさん、魔法を!」
僕はアミッドさんに回復魔法をかけるようにお願いした。アミッドさんの魔法は全癒魔法とも言われる、非常に強力な回復魔法だ。体力のみならず、毒や呪いといった状態異常をも癒すことが出来る。だけど、同時に癒すことが出来るのは2つまでなので、モンスター化の呪いのような複数の呪いの複合体を治すことは出来ないらしい。
アミッドさんは気を取り直して魔法の詠唱をし始める。一方、僕はポーチからハニーシロップを取り出し2人に手渡した。2人が慌ててハニーシロップを飲むのを見ながら、僕は
それと同時に、アミッドさんの魔法が2人を包み込む。ハニーシロップと浄化の術法、更にはアミッドさんの魔法という三段構えでの呪いの治療を行ったのだ。これで精霊の呪いが消えなければ、恥も外聞も捨ててお母さんに泣きつくしかなくなる。それはカッコ悪いから嫌なので、どうにかこれで治って欲しかった。
僕の祈りが届いたのか、2人の呪い自体はきちんと消え去ったようだった。アミッドさんも僕の見立てと同じようで、
呪いは消えたのではと言っていたので、間違いないだろう。
だけど、最大の問題があった。
「お、俺達こんな頭じゃ帰れないっす。椿ーッ、どうしてくれるっすか!?」
「というか、これってもとに戻るのか? なあ、戻るって言ってくれよ!」
2人は椿さんや僕たちに、掴みかからんばかりの勢いでどうにかして欲しいと懇願してきた。椿さんは勿論アミッドさんもこれにはどうすることは出来ないらしく、視線をそらしていた。そして、暫くすると皆の視線が自然と僕に集まってきた。
「ベル、これでは2人が余りにも哀れです。なにかいい方法はないのですか?」
「あんたならなにかいい薬を作れるんじゃないの?」
リューさんとセシルさんに治療法を尋ねられた。一応心当たり自体はあった。だけど、作るためには問題があるのだ。
「『竹林』という育毛剤のレシピを知ってはいるんですが、……素材がオラリオじゃ手に入らないんですよね。」
「素材があればハゲが治るっすね! いくらでも持ってくるっすから、その薬を作ってくださいっす。」
「ああ、あんたはまるで神様だよ。」
2人からは酷く重い期待の込められた視線が来るけど、正直きちんとした効果のある薬が作れるかは分からない。レシピを知っているだけで、これまで1度も作ったことはないからだ。それに、素材が手に入る当てが全くといっていいほど無いからだ。
「必要な素材は1つを除いて手元にありますけど、竹という素材だけが無いんです。」
「タケ?」
「なんだそれ?」
みんな竹というものを知らないらしく、僕は竹について簡単に説明した。竹とは植物の一種で、極東の方にしか自生していないものであること。必要なのは新鮮な竹で、乾燥したものでは効果がないこと。オラリオやその周辺では見たことすら無いことなどを説明していった。
「う、嘘だろ……。」
「終わりっす。俺の人生はもう終わったっす……。」
2人とも素材を手に入れるハードルが余りにも高いことを知り、立っていられなくなったのか四つん這いになって落胆していた。オラリオから極東までは普通に歩いて旅をすれば半年ほどかかるので、それまで2人はツルッパゲのまま生活しないといけない。その上に、呪いが消えたとは言っても以前のように再び髪の毛が生えてくる保証はないのだ。
落胆する2人を見て、この場にいるみんなが同情と哀れみの視線を送っていた。
「ま、まだ希望はあるはずです。オラリオには極東出身の方も多くいますから、タケを育てている人もいるかもしれません。」
「確かに。輝夜が何か知っているかもしれませんね。」
「知り合いの極東系の人たちに尋ねて回りましょう。そうすれば道は拓けるはずです!」
アミッドさんの言葉に、リューさんとセルティさんがみんなを励ますように大きな声で希望は未だあると言ってきた。ツルッパゲの2人も最後の希望にすがりつきたいのか、目を輝かせていた。取り敢えず2人には布で頭を覆い隠してもらって、オラリオへと戻るべくダンジョンから戻ることになった。
オラリオへと戻って、僕たちは各々散らばって聞き込みをすることにした。僕はホームへと戻って神様に事の次第を説明して、極東系の神様がオラリオにいないかを尋ねた。
「僕が知ってるのはタケだけかな。ほら、桜花君たちのいるファミリアだよ。」
神様が言った神様の名には心当たりがあった。以前僕たちが助けたファミリアの団長が桜花さんだった。その主神は極東系の神様らしく、タケを育てている可能性があるのだと言う。
という訳で、僕は神様と共にタケミカヅチ・ファミリアへと向かった。
タケミカヅチ・ファミリアは小ぢんまりとした建物だった。所々に極東風の意匠が見える。その屋敷で出迎えてくれたのは、主神のタケミカヅチ様と命さんだった。他の人達はダンジョンに潜っているらしく、今はいないそうだった。
客間に通されて、座布団に座ると命さんがお茶を出してくれた。昔極東に行った時に教わった作法を思い出しながら悪戦苦闘して飲んでいると、タケミカヅチ様から今日の用件を尋ねられた。
「実は薬の材料となる植物が不足していまして。タケを育てていたり、育てている人に心当たりはありませんか?」
「タケ? ああ、竹か。竹が薬の材料になるのか? 済まないがウチでは育ててないな。それと、俺達もオラリオに来て日が浅いから、知り合いもそう多くないのだ。」
タケミカヅチ様が申し訳なさそうに語った言葉に、僕は落胆してしまった。タケミカヅチ様にお礼を言ってタケミカヅチ・ファミリアの本拠地を後にした。これで僕たちの持てるツテは消えてしまった。あとは他の人達が上手くやってくれてることを願うしか無い。
ヘスティア・ファミリアの本拠地に着くと、リューさんたちが待っていてくれた。ヴェルフも一緒だった。ちなみにラウルさんたちは、椿さんの工房に匿われているらしい。あの頭のままでロキ・ファミリアの本拠地には帰れないと本人たちが主張したためだった。
僕たちの本拠地は狭いし、アストレア・ファミリアは女性ばっかりだ。ディアンケヒト・ファミリアは多くの人に知られる可能性が高いために、消去法で椿さんの工房で過ごすことになってしまった。
「皆さん、どうでしたか?」
僕は待っていた人たちに成果を尋ねたけど、皆一様に俯いてしまった。それを見て僕も俯いてしまう。オラリオに竹はないのだろう。だとすれば、育毛剤を作ることは……。
「ねえ、不思議な絵でタケを手に入れられないの?」
痛い沈黙が流れる中、そんな事を言ってきたのはセシルさんだった。不思議な絵で竹を。そうか!
「それですよ、それ! 幸い命さんはいましたから、不思議な絵を描いてもらいましょう! あ、でも、そうすると不思議な絵について説明しないといけないかも?」
「不思議な絵はもう何枚も描いてもらっているでしょうに。そろそろ真実を話して協力者となってもらうべきでは?」
「タケやその子供たちなら信用できると思うよ。」
リューさんと神様からそんな事を言われたので、僕は命さんたちに不思議な絵についてすべてを話す事を決めた。
「じゃあ、善は急げってことで、今すぐタケの所に行こう!」
僕は神様とともに再びタケミカヅチ・ファミリアへと向かった。
翌日、徹夜で絵を描きあげてくれた命さんとタケミカヅチ様、神様と僕は不思議な絵の中へと入った。不測の事態に備えて、リューさんとセルティさんにも来てもらった。総勢6人のパーティーで入った絵の中は、一面の竹林だった。
「やった、これで育毛剤が作れる!」
「み、命ーっ! しっかりしろ!?」
僕が喜んでいる横で、命さんが泡を吹いて倒れてしまった。徹夜の上に不思議な絵のことを知ってしまって、色々と限界に来てしまったらしい。必死になって介抱するタケミカヅチ様の側に近づき、リフュールボトルを命さんに飲ませる。
「私たちも最初に入った時はあんな感じだったんでしょうか。」
「今ではすっかり慣れてしまったが、これは果たして正しいことなのだろうか……。」
エルフ2人組は、そんな命さんを見て複雑な表情をしていた。アストレア・ファミリアの人たちは、不思議な絵にどっぷりと嵌まり込んでしまったアストレア様のお供で、最低1回は不思議な絵の中に入った経験があったりする。皆最初は衝撃を受けるのだけど、それも数回続くと当然のこととして受け止めてしまっていた。
2人はそれが果たして「正しいこと」なのだろうかと疑問に思っているらしい。
「と、とりあえず竹を採取したらすぐに元の世界に戻りましょう。早く育毛剤を調合しないと。」
なんとか意識を取り戻した命さんのこともあるし、僕の提案に皆は頷いてくれた。
そして、僕たちは竹を手早く切り取ると、現実世界へと戻ってきた。幸いモンスターには襲われなかったけど、遠目にラミアっぽい姿を見かけることはあった。ラミアはダンジョンでは下層に出現するモンスターなので、襲いかかってきたら大変なことになっていたかもしれない。リューさんと椿さんがいるとはいえ万が一もありうるし、ダンジョンのモンスターよりも強い可能性もあるからだ。
現実世界に戻った僕は、早速『竹林』の調合を始めた。竹林の材料はトーン、ほうれん草S、竹の3つだけで作れる。割と簡単に思えるけど、ほうれん草Sという物を作るのが大変だ。ほうれん草自体がこのあたりでは手に入らないので、調合して手に入れる必要があるのだ。
なので『竹林』を作り終えたのは翌日の太陽が昇る頃になってしまっていた。このことは事前に皆に知らせてあったので、自分たちのホームへと帰っていた。なので、調合した育毛剤をもって、僕は神様と一緒にヘファイストス様のところへと向かった。なお、リリは『竹林』が売れるのではと踏んで、サンプルを持って『青の薬舗』へと出かけていった。
今回の事件は、いくら椿さんが暴走した結果とはいえ、ヘファイストス・ファミリアの失態でもある。なので、この事を知ったヘファイストス様は、今回の事件に関わる全ての責任を持つ事になってしまったのだ。ロキ様にも謝罪しなければならないらしく、ヘファイストス様は本気で頭を抱えているらしかった。
とりあえず椿さんには謹慎処分を下し、ヴェルフには主神としてもファミリアとしても、正式にクロッゾの魔剣の製造を禁止する命令を出したらしい。僕にも極力作らないようにとの要請があったので素直に頷いた。
実は、僕たちはアストレア様からも、クロッゾの魔剣と錬金剣は作らないようにとのお小言を貰っていた。僕もあんな不憫で悲惨な目に合う人をこれ以上増やしたくないので、もう作るつもりはない。
「まあ、気を落とさないで。ベル君の作った、この薬でなんとか元通りになるはずさ!」
「本当に効くんでしょうね? それに、頭髪が元に戻ったとしても、ロキにグチグチ言われそうなのが頭が痛いわ。」
主神室に通された僕たちだったけど、ヘファイストス様はずいぶん気落ちした様子だった。元気のないヘファイストス様に、神様は『竹林』を机の上に置いて慰めの言葉をかける。だけど、オラリオの最大派閥の眷族2人をツルッパゲにしてしまったので、ヘファイストス様にそれを素直に受け止める余裕はなさそうだった。
「育毛剤ができたって本当っすか!」
「俺のフサフサが戻るんだよな?」
その時、ヴェルフと一緒に輝く2人が主神室に入ってきた。見る感じ頭髪が生えてきた様子は見られない。ツルピカになって2日になるはずだけど、それでも少しは髪の毛が伸びてくるかと思っていたけれど、2人ともツルツルピカピカのままだった。磨けば鏡の代わりになりそうなほどだ。もしかして毛根ごと死滅してしまったのかな?
「これが『竹林』です。毎日頭皮にふりかけてください。」
「おお、髪よ!」
「あんたは俺達の光明だぜ!」
2人からは凄く感謝されたけど、毛根が死滅していても髪が元通りになるかは未知数だった。今はその期待が凄く重くて怖かったけど。
とりあえず、僕に出来ることはこれで終わった。
結果だけを見れば、『竹林』はその効果をすぐさま発揮した。使用した翌日にはフサフサの頭髪が戻ったらしく、2人はわざわざヘスティア・ファミリアへとやって来て感謝の言葉を述べてくれた。
だけど、同時に厄介事もやって来た。ロキ様が直接やって来て、ロキ・ファミリアから厳重な抗議と、クロッゾの魔剣と錬金剣の製造禁止の要求だった。
「今回は何とかなったからええもんを、今度同じようなことしたら容赦せぇへんで。」
「うう、ごめんよ。」
「はい、もう絶対に作りません。」
2人と一緒に来たロキ様に怒られて、僕と神様は素直に頭を下げた。普段はロキ様と仲の悪い神様だけど、今回ばかりは普段のような喧嘩腰も睨み合いもなかった。
今回の出来事はロキ・ファミリアにも知られてしまい、大騒ぎになりかけたとか。特にエルフの人たちが凄く騒いでいたらしい。
「クロッゾを亡き者に! 天誅です!?」
「ベル・クラネルにも……、でも、あの子は美味しい回復薬のお菓子を作るし……。」
「でも、あれのせいで私たちの体重が……。」
「そうだ、そうだ! やっぱりあの2人は許せません!!」
なんて声がエルフたちを中心に巻き起こっていたらしい。ロキ様はそれを何とか宥めたうえで、ヘスティア・ファミリアとヘファイストス・ファミリアに、2度とクロッゾの魔剣を作らせないことを約束させるとエルフたちに言い聞かせて、僕たちに製造禁止の要求をしてきたのだ。
こうして、椿さんが発端として巻き起こった小さいけど、恐ろしい大事件は幕を閉じたのだった。
「ベル様、ナァーザ様が『竹林』について詳しく知りたいらしいです。」
「じゃあ、明日にでも行こうか。」
ナァーザさんは育毛剤についてすごく興味をもったみたいで、絶対に売れると確信しているらしい。なので、僕もそれに気軽に答えてしまっていた。
この時の僕はまだ知らなかった。『竹林』が、元々禿げている人には効果が薄いということを。一旦は髪の毛が生えるものの、すぐさま元のハゲに戻ってしまうという鬼畜仕様の薬だなんて、僕はまだ知らなかったのだ。この事を、僕は後悔することになる。
のちに、『竹林』を使ったことのある、元からツルッパゲの人達によって『ベル・クラネル被害者の会』なんてものが作られるなんて、僕はこの時思ってもいなかったのだ。
アイテム図鑑No.XXX ハゲルの魔剣
本当の名前はクロッゾの魔剣だけど、精霊の呪いでハゲてしまうから最近ではこっちの名前のほうが有名だよ。
ヴェルフが作る魔剣だけじゃなくて、僕の作った錬金剣でもハゲるよ。
今では事実上の禁制品だから手に入ることはないから安心だね。
ヴェルフ
「もう2度と作らなくてもよくなって、せいせいしたぜ。」
ベル
「このレシピは破棄しました。」
ラウル&クルス
「史上最悪の魔剣っす(だ)、これ。」
エルフたち
「ヴェルフ・クロッゾとベル・クラネルに天誅をーーーっ!」
アイテム図鑑No.XXX 育毛剤『竹林』
塗ればたちどころに髪が生えてくる夢の薬……のはず。
呪いや事故などで一時的に抜け落ちた場合は劇的な効果を発揮するけれど、加齢や遺伝で元から薄くなっている人には一切の効果がないよ。
今の僕にはまだ必要ないかな……。
ベル
「ハゲた人にはイマイチ効果のない育毛剤です。」
ナァーザ
「これのせいで『詐欺だ!』って騒ぐクレーマーで店が満杯になったんだけど……。」
ミアハ
「ハゲは神の御光である故に、……神ですら治せないのだ。髪だけに。」
ハゲたち
「俺達の希望を踏みにじったベル・クラネルを許すなーーーっ!?」
クロッゾの魔剣の呪いと育毛剤とを合わせたお話でした。
これをこれを書くに至ったきっかけは、感想でヴェルフがハゲるとか言っていた人がいたからでした。ヴェルフはハゲルさん枠ではありますが、ハゲる予定はないです。
実は、最初にハゲにする予定だったのはリヴェリアでした。でも、それをしたら本当にヴェルフとベルがエルフに殺されそうだったので、ラウルとクルスにしました。この2人なら原作でも不幸担当なので大丈夫でしょう。
なお、複数回使用すると来世で禿げます。ダンまちの神は死者の魂を漂白しますが、浄化はしてくれませんから。
ちなみに、私はスキンヘッドです。