メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
今回の話は、アトリエシリーズの品評会イベントを、ダンまちに落とし込もうとしたらこんなトンチキな話になってしまいました。
全ては私の技量不足によるものです。
お酒対決!
アポロン・ファミリアとの戦争遊戯が終わり、再び日常が戻ってきた。とは言っても、戦争遊戯で私がはっちゃけたのを、結構な数の人に見られてしまっていたので、完全に元通りとはいかなかったけれど。
「いやー、メティーちゃんも結構やるんだね。あんな凄いアイテムを作れるなんて。」
「ここだけの話、増長してる冒険者の鼻っ面を叩き折ってくれてスカッとしたよ。アポロン・ファミリアは色々と迷惑な連中だったからねぇ。」
以前と違い、常連のお客さんから私に対する称賛の声が聞こえてくることが多くなった気がする。意外にも、私がメテオールであれほどの破壊を撒き散らしたにも関わらず、殆どの人は私に好意的だった。
「そりゃ、あれほどの攻撃アイテムを作れるなんてちょっと怖いと思うけど、メティーちゃんだしねぇ。それに、最後は敵だった人たちも回復アイテムで治療してたじゃないか。」
「そうそう。お店を滅茶苦茶にされたんだから、あれくらい怒ってもバチは当たりやしないよ。」
「私が現役だった頃にメティーさんがいてくれたらよかったのにねぇ。錬金術師って凄い金属を作れるんでしょ。私が昔いたファミリアの後輩*1が、ベルちゃんに凄い素材を貰って装備を作ってるらしいから、ちょっと羨ましいわね。」
皆が私を擁護してくれる中で、カリンさんは少し寂しそうに語ってくれた。後悔ではない、でももっと頑張れたのではないかという不満。あの時こうしていれば、あれがあれば、誰かがいてくれれば。そういった思いを持ちつつ、後輩が自分の分まで頑張ってほしいと願っているのだろう。
「カリンさん…。」
「おっと、年寄りのおしゃべりに付き合わせて悪かったね。でも、年を取るとどうしても昔のことを思い出してしまうんだよ。メティーさんはまだ若いんだから、昔じゃなくて未来のことを見るんだよ。」
カリンさんのアドバイスに私は軽く頷いた。過去を悔いてもしょうがないというのは理解できることだった。
もしもっと早く姉に再会できていれば、娘ではなく姉と一緒にお菓子屋をやれていたかもしれない。
もし、先生ともっと早く出会えていれば、ヘラやゼウスの両ファミリアは壊滅しなかったかもしれない。
もし、私にもっと才能があれば、先生たちと別れる事はなかったかもしれない。
でも、今は今で幸せなのだ。子供たちと一緒にお菓子屋を開いて、お客さんたちに愛されている。賢者の石を調合することにも成功した。子供たちも各々の道を見つけ、ベルに至っては既に巣立ってしまった。
もしもを語っても意味がない。今の私が歩んでいる道は、最善の道だと信じて進む他はない。その上で、私は何を求めているのか、それを知る必要があるだろう。
私にはまだまだ未来があるのだから。
延期していたヘスティア・ファミリアとダミアー・ファミリアとの戦争遊戯が開催されることになった。勝負の内容は、お酒と薬で、どちらも得意としているものだ。
勝負は3回行われ、効能、見た目、風味などを比較するという。特別審査員として酒造を得意とする神や酒が好きな神を5名ほど呼び、公募した審査員20名の投票によって勝敗が決まるという。
私は今回の勝負には参加しないことにした。これはベルが成長するための貴重な糧となるだろうと思ったからだ。それに、どうやら私はダミアー・ファミリアに怖がられているらしい。アポロン・ファミリアとの戦いで少しやりすぎたのが原因だろう。
会場となったのはバベル前の広場で、既に多くの見物客がやって来ていた。屋台も周りには出てきており、まるでお祭りの様相だった。形式的には戦争遊戯だそうだけど、実際にはただのお酒のお祭りになってしまっているのだ。
相手に求めるものも、ダミアー・ファミリアはベルが作っている祝福のワインのレシピで、ヘスティア・ファミリアはダミアー・ファミリアの持つ農地を
そして、この場に集まった人々に両ファミリアは無料でお酒を配布していた。ダミアー・ファミリアは自家製ワインを、ヘスティア・ファミリアは祝福のワインを人数制限はあるものの無料で振る舞っていたのだ。ただ、ダミアー・ファミリアの方がワイン樽を幾つも持ち込んでいたので、住民たちの心象はダミアー・ファミリアに偏るかもしれないけど。
『さあ、やってまいりましたダミアー・ファミリアとヘスティア・ファミリアの戦争遊戯。前回の戦争遊戯とは違い、実に平和的で素晴らしい、お酒の良し悪しで決める対決となります! 実況は
『俺がガネーシャだぁ! 後で俺も飲ましてね。』
『急に素に戻るの止めてくれませんか? さて、対決する両ファミリアの酒の勝敗を決めるのは抽選で選ばれたこの25名の冒険者と一般市民となります。それに加えて、今回は特別にオラリオ在住の酒神の皆様方に特別審査員として参加いただきました。特別審査員は向かって左から、ゴブニュ様*2、ハトホル様*3ーーーーー。』
神々の名前が読み上げられるけど、私に分かるのはゴブニュ様とハトホル様だけだった。ゴブニュ様は店の修理を頼んだファミリアで、ハトホル様は私がヘラ・ファミリアにいた頃に対立していたというファミリアだ。
『ソーマはヘスティア・ファミリアと縁が深いから、今回は不参加だ。』
『今回は助っ人制度が認められており、ヘスティア・ファミリアには酒神ソーマ様が、ダミアー・ファミリアにも酒神としても知られる探索系ファミリアの主神ディオニュソス様が助っ人として参加することになりました!』
ダミアー様は天界で禁酒させられていたけど、年に1度だけワインを飲める儀式の時があり、そのワインを作っていたのがディオニュソス様だったらしい。儀式自体はヘスティア様たちが取り仕切る決まりだったのだけど、神殿で引きこもり生活をするばかりだったらしいので、ダミアー様はヘスティア様に対して言いたいことが沢山あるらしい。
『あなたの子供たちって、ヘスティアに良いように使われていない? 例えば介護とかに。もしそうなら他の所に改宗したほうが良いよ。ミアハと関係が深いなら、あそこも良いかもね。』
なんて心配されるほど、ヘスティア様に対して疑念と不安を抱えているようだった。ヘファイストス様の所で居候していて追い出されたという話は聞いたことがあるけど、ダミアー様も同じ状況だったら蹴り出すと仰っていた。
ダミアー様が善神であるのは疑いようのない事実だけど、ヘスティア様はそんなダミアー様を怒らせるほどのグータラと聞いて、ベルたちのことが今更ながらに心配になってきた。一応私もヘスティア・ファミリアに入ったことになっているので、私の方からもなにか言ったほうが良いのかしら。
『また、ファミリア同士の酒対決の後には、助っ人の酒神2柱による酒対決が待っているぞ! 滅多に飲めない神酒を飲めるまたとないチャンスだ! くー、審査員の皆さんがとても羨ましい!!』
『仕事中は飲んだら駄目だぞ。』
『あ、はい。急に真面目なこと言うの止めていただけませんか?』
『俺がガネーシャだ!』
『意味がわかりませんよ。という訳で、戦争遊戯開始ー! 第1試合はおいしさだ。よりおいしいお酒を出したほうが勝ちだぞ!』
やたらとハイテンションなガネーシャ様と司会の2人が試合の開始を告げた。審査員の方たちに、両方のファミリアのお酒が配られた。見た感じだと、ベルが出したのは品質の高い祝福のワインに見えた。ダミアー・ファミリアの出したワインよりも品質は高いけど、審査員たちがどう判断するかは分からない。
「双方とも素晴らしい出来だな。」
「ワインも中々美味しいわね。」
「だが、俺が作った酒のほうがうまいぜ。」
「ヘスティア・ファミリアのワインの材料は何だ? 美味いが、飲んだことのない味だ。」
「味が全体的にまとまっているのはダミアー・ファミリアのほうね。ヘスティア・ファミリアの方は、美味しいけど不思議な味だわ。」
審査員の人々と特別審査員の神々は様々な事を言いながら、どちらに投票するか考えているようだった。どうもベルが作った祝福のワインは、普通のぶどうが原料ではないらしい。それが吉と出るか凶と出るかは分からないけど、常に挑戦する姿勢を褒めてあげたいと思った。
『1票の点数は、審査員の方は1点、特別審査員の方は5点となります。それでは、投票結果を発表します。……第1試合、勝利したのはダミアー・ファミリアだー!』
ダミアー・ファミリアの勝利と聞いて、私はため息を吐いた。ベルも項垂れていて、かなりショックを受けているようだった。品質だけでは美味しさは決まらないのを知った時は、私も結構ショックを受けた。美味しく作るには味の調和が必須だけど、品質で上がるのは効果であって美味しさではないのよね。逆に品質が低かったら不味くなるけど。
次の勝負は薬効だった。ダミアー・ファミリアはポーション並の効果を持つ薬酒を完成させたらしく、初めてのお披露目となった。第2試合の薬効を確認するのはディアンケヒト・ファミリアのディアンケヒト様とアミッドさんだった。
『第2試合の勝者は、
そして、当然ながらベルの勝利となった。ベルが作ったのはソーマ様から教わったハチミツ酒で、薬効も味もダミアー・ファミリアのそれを大きく引き離しての勝利だった。
対して、ダミアー・ファミリアが作ったのは体力を回復させるだけのワインだった。味は分からないけれど、回復アイテムとしては体力も魔力も疲労も回復できるハチミツ酒と比べると見劣りしてしまう代物だった。
『第3試合は、インパクト勝負だー! 見た目、味、薬効、どれでもいいからパンチの効いたお酒を出したほうが勝ちだぞ!!』*4
第3試合の内容を聞いて、私は頭が痛くなってきた。インパクトのあるお酒と言われたら幾つか思い浮かぶけど、そのどれもが頭の痛くなるような代物ばかりなのだ。
そして、ベルは私に錬金術を教わったのだから、当然私の知る物はベルも知っている。だから、一体何が出てくるのか予想できてしまう。
「あらメティーじゃない。あなたは参加しなかったのね。」
その時、アストレア様が私に声をかけてきた。隣にはアリーゼさんが並んで立っていた。
「アストレア様、お久しぶりです。私は冒険者という柄ではないので、こうして遠巻きに見ているだけにしていますよ。」
「まあそうでしょうね。アポロン・ファミリアとの戦争遊戯も、店を壊されなかったら参加しなかったでしょうし。」
「あんな事する人達がいるなんて思ってもみませんでしたから…。」
「私もアポロンの事は天界の頃から知っているけど、あそこまで酷くはなかったはずなんだけどね…。あなたの娘の成した短期間でのランクアップは、ああいう神が出るほど凄いことだということなのよね。」
アストレア様はアーシャの正体を知っているので、そこまで心配はしていなかったらしい。むしろベルのほうが危険だと考えて色々と手を回していたというのだ。間接的にベルの安全を守るために、ソーマ様の護衛には腕が立つ人を付けるようガネーシャ様に進言したり、ベルの作った回復アイテムの話しを広めたりしていたそうだ。
探索系ファミリアと医療系ファミリアと対立することは、普通は起きないはずだとの考えからだそうだけど、アストレア様が思っていた以上にアポロンという神様は酷かったらしい。
「まあ、過ぎたことはもういいわ。この勝負が終われば、ダミアーも納得するでしょうし、ヘスティア・ファミリアの悪名も少しはマシになるでしょう。」
「今になって思えば、やりすぎてしまったと反省しています。」
あの時は怒りで突き進んでいたけれど、冷静になった今はやりすぎだったと思う。お城を1つ更地にした上に、アポロン・ファミリアの団員を全員レベル1*5にしてしまったことで、ヘスティア・ファミリアはオラリオで恐れられる存在になってしまった。
私のお店には元々冒険者が来るのは珍しかったけれど、今ではアストレア・ファミリア以外が来ることは完全になくなってしまっていた。ベルにしても、外を出歩けば冒険者に避けられるし、『青の薬舗』での売上も落ち込んでしまったという。
しかも、【冒険者殺し】なんてあだ名まで付けられたので、ベルは落ち込んでしまい、泣き崩れて
「私でも星を落としたと聞いて驚きましたもん。あーあ、私も見たかったなぁ。メティーさんが星を落とすところ。」
アリーゼさんが、少し暗くなった雰囲気を察してか、明るい声で話題を変えようとしてくれた。メテオールについては、今のベルの実力なら作れないこともないと思う。だけど、作ってないということは素材が見つからなかったのだろう。いえ、自分にそこまでの実力があるとは思ってもいない可能性もあるけれど。
「え、ベル君ってあれを作れるんですか!」
「素材があれば作れると思うわよ。暗黒水やスカイフリーカーってメテオールと同じくらいの難易度だし。」
私の言葉にアリーゼさんは絶句し、アストレア様は口を手で隠して面白そうに小さな笑い声をあげていた。今のベルの実力は2人が思っている以上に上達しているのだ。この間は、錬金術で再現した魔剣を作ったと言う。それは先生やヘルミーナさんですら成し得なかったことなのだ。そんなベルを私は誇らしく思う。
『第3試合は、ヘスティア・ファミリアの勝利だー! というか、なんで酒の中で魚が泳いでいるんだ。本当にお酒なの、あれ?』
『ガネーシャもびっくり!』
「ううっ、魚臭い…。」
「インパクトはあるよな。インパクトは。それ以外が駄目だけど。」
「魚ってお酒の中でも泳げるんだね…。」
「でも、慣れたら案外いけるかも?」
「「っ!?」」
ベルの作った爆弾酒*7に審査員たちは非難轟々だったけど、インパクトがあることが審査基準な以上、投票せざるを得なかったらしい。一部に凄い物好きが居るみたいだけど。
そして、最後のイベントである酒神同士の神酒対決が始まった。始まったけれど、ベルたちの様子がすごくおかしい。正確に言うと、ベルとソーマ様かしら。それと、ゲストとして残っているアミッドさんも。
その一方で、ディオニュソス様の様子もおかしかった。何だか顔が青ざめている気がするし。
「なにか様子がおかしいわね…。」
「ソーマ様とベル君が慌てていますね。アミッドもガネーシャ様に何か言ってるみたいだし。」
「アストレア様、もしかして酒神って無自覚に毒酒を作ったりするのが普通なのでしょうか?」
「…私もそれを思ってたわ。」
「ええっ! で、でも、ディオニュソス様ですよ!」
「ディオニュソスって天界では結構やんちゃと言うか、自分の作ったお酒に文句を言う相手には容赦しなかったからね……。」
「うわぁ。」
もしかして故意にヤバいお酒を作ってたりするんだろうか?
ディオニュソス様と言えば、オラリオでも有数の善神として有名だったという神だ。実際に会ったことはないし、完全に過去の神物として語られる存在だけど。どうも昔に、不幸な事件があってオラリオを去ったという話を聞いた覚えがある。
その後、ガネーシャ様の宣言により神酒対決は中止となり、酒神2柱はギルドで詳しい話を聞くということになった。ディアンケヒト様とアミッドさんも同行するようで、ガネーシャ様はディオニュソス様の作ったお酒に疑念を持っている様子だった。
とりあえず、
その後、アストレア様からディオニュソス様が作ったお酒はやはり毒酒だったという話を聞いた。どうも、眷属たちにも飲ませていたらしく、事態を重く見たギルドはディオニュソス様に酒造りの禁止を言い渡したという。
ベルから聞いた話では、ソーマ様が『悪意しか感じないような酒だった。』と零していたらしく、かなりヤバいお酒だったらしい。そのためか、ディオニュソス・ファミリアにはギルドからの監査が入ることになったという。
まあ、私にはあまり関係ない話だと思っていた。その時までは。
「メティー先生、この人を、フィルヴィスさんを助けてください! この人、モンスター化の呪いに冒されているんです!!」
「御伽噺の存在だったはずなのに、何でこうもぽんぽんと出てくるの!?」
アミッドさんが連れてきた、うつむいて暗い表情をした黒髪のエルフの女性を見ながら、私は絶叫してしまった。
デュオニソスへの酒造り禁止令と、フィルヴィスの怪人化の治療というイベントを、メティーは引き当てました。
2ヶ月ほど更新を休んでいるうちに、カリアのアトリエ(太る)とかライザAIとか、アトリエシリーズの先行きが不安になり話ばかり出てきているので、少し残念です。