メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
ヴィオラートのアトリエを初めてやった時、爆弾ばかり売れるものだから、爆弾魔なんて言われるようになりました。
この作品では、そうならないように気をつけます。
僕は念願の自分のお店を持つことが出来た。アポロン・ファミリアとの戦争遊戯で手に入れたお金を使って、南西の大通りに面した所にお店を構えることになった。名前は『ベルのアトリエ』だ。
ようやく手に入れた僕たちのお城。4階建ての建物で、1階部分が店舗になっていて、2階が調合室、3階と4階が生活スペースになっていた。
そのお店のカウンターで、僕とナァーザさんは途方に暮れていた。このお店は、ヘスティア・ファミリアとミアハ・ファミリアとの共同経営のお店になっていて、『青の薬舗』と『ベルのアトリエ』は同じ店舗内で販売スペースを分けて営業していた。
まあ、お店の経営はナァーザさんが担当しているし、会計は1つだけど。
「お客さん来ませんねぇ……。」
「あれだけ悪評が響けば当然だと思うけど……。」
僕の呟きを聞いたナァーザさんが、鋭い言葉で僕の心を突き刺してきた。戦争遊戯で僕が使った暗黒水は、“レベルダウン・小”と“回復無効を与える・強”の効果を発現していたのだけど、これがオラリオの冒険者たちに恐怖を与えてしまったらしい。
とくに、レベルが低下するなんて話はこれまで無かったらしく、『ヘスティア・ファミリアに関わるとレベルを下げられる。』なんて噂が出てくるほど恐れられてしまっていた。回復無効の方も、地味にヤバい呪いだったらしくて、アリーゼさんたちには緊急時以外には使用禁止だと厳しく言われてしまった。更にはギルドからすらも暫定的に使用禁止を言い渡されていた。
その結果、僕はレベル1にも関わらず【冒険者殺し】なんていう、不名誉な二つ名が非公式に付けられてしまっていた。
「おう、じゃまするぜ!」
そんな閑古鳥の鳴くお店に入ってきた人がいた。モルドさんという冒険者の人だ。顔に傷跡の残る強面の冒険者の人だけど、凄くお酒に強いため竜ごろしを使って階層主を倒してレベル3になったという人だ。竜ごろしを買いに来る唯一の人でもある。モルドさんの後ろには、いつも一緒にいる2人の冒険者の人たちの姿も見えた。
「なんだ、まだ閑古鳥が鳴いてやがんのかよ。もったいねえな。」
「そう思うなら、お客さんが戻る手伝いをして。」
「そりゃ無理だな。」
モルドさんとナァーザさんが軽い掛け合いをしているのを横目に、僕は棚から竜ごろしを取り出して、カウンターに置いた。
「本当にモルドさんの身体ってどうなってるんですか? 前に検査したときは何にも異常なかったですし……。これ飲んでピンピンしてるのが信じられませんよ。」
「ハッハッハ。もっと言ってやれよ。こいつ今では種族詐称してるって言われてるんだぜ。俺はデニッシュとマジックポーションを売ってくれ。」
「これを試しに飲ませてもらったけれど、一発で意識を失ったのよね。こっちには塩味の素朴な焼き菓子とリフュールボトルをちょうだいね。」
ガイルさんとスコットさんと他愛もない話をしながら、商品を紙袋に包む。今の僕たちのお店では数少ないお客さんだ。大切にしないと。ナァーザさんは自分の作ったポーションが売れて、少し嬉しそうだ。
「まあ、数週間もすれば客足も戻ってくるだろうぜ。店の移転が急だってのもあったと思うからよ。」
モルドさんの励ましの声を聞いて、僕はもう少しの辛抱だと自分に言い聞かせた。
モルドさんの言う通り、1週間もすればポツポツと客足が戻ってきたらしい。らしいというのは、お店をここに出してからはお客さんがさっぱりこなかったからだ。ミアハ・ファミリアの経営していた頃の『青の薬舗』には結構お客さんが来ていたらしいだけど、今の客足は前の3割くらいらしかった。
「これでとりあえずは一安心。」
ナァーザさんは胸に手をやりながらホッとため息を付いていた。一時期は本当にお客さんがいないので、結構心配していたらしい。
それなのに、ミアハ様は近所にポーションを無料で配るし、神様はミスを連発するしで、気が休まらなかったのだという。
「ヘスティア様も店員の仕事に慣れてきたし、客足も戻ってきた。ベルの新商品も色々と並べることが出来るようになったし、私も新商品を作れた。未来は明るい。」
とりあえず経営の危機が過ぎ去って安心したらしい。建物自体の購入費用は僕たちが出したし、今のナァーザさんの立場は雇われ店長に近い状態だと理解しているという。その状態で経営が上手くいってなかったとしたら、見限られかねないと本気で心配していたらしい。
今更ナァーザさん達を切り捨てるなんてするつもりはないんだけどなぁ。
ちなみに、ナァーザさんの新商品は、体力と魔力を同時に回復する
どうも、以前僕がポーションを分解した時に出てきたレシピを見て閃いたらしい。ハチミツとランドー*1が素材に含まれていたのだけど、オラリオではマイナーな果物だったので探すのに苦労したらしい。でも、その御蔭でこのポーションの開発に成功して、とても喜んでいた。
「ただ、最近ハチミツの値段が上がっているから、注意は必要。ランドーだって、取れる量が少ないから需要が増えたら一気に値上がりする可能性がある。」
ナァーザさんの心配は材料の調達にもあるようだった。確かに、最近はハチミツの値段がとても上がってきている。
どうも、僕の作るハニーシロップの材料にハチミツが使われていることが広まったらしい。さらに先日のダミアー・ファミリアとのお酒の勝負で出したハチミツ酒が、医療系ファミリアにかなりの衝撃を与えたらしかった。
そのため、新薬の開発のためにハチミツの需要が一気に増加したのだとか。まだ何処のファミリアも開発できていないらしいけど。
ちなみに、ナァーザさんは新しく作った
「ところで、このままお客さんが増えてくると手が回らなくなるかもしれませんね。今は僕もお店に出てこれますけど、販売量が増えると昼も調合に回らないといけなくなると思いますから。」
「それは私もそうね。そうなったらヘスティア様1人だけになってしまうから、いまから店員を雇ったほうが良いかもしれないわね。」
という訳で、近い将来に備えて新しく店員を雇おうということになった。顔の広い神様やアストレア様、後はヘファイストス様にも相談して、店員をやってくれそうな人を探すことになったのだ。
それから暫くして、お店には何人かの人が応募してくれた。どうせなら応募してきた人全員を集めて、一気に決めようという神様の発案で、集団面接を行うことになったのだった。
今回応募してくれた人は総勢5人。正確には6人だったんだけど、6人目はなんとソーマ様だった。ソーマ様は僕の弟子を名乗っていて、頻繁にお店に来るので何故今更という気持ちだった。
「そう言えば今の私は与えられるばかりで、恩返しを出来ていないと思ってな。店の手伝いならば私にも出来そうだから、応募したのだ。勿論ガネーシャの許可は取ってある。」
「ソーマ様は調合要員として採用します! というか、こっちからお願いしたいくらいですよ。」
こういうことでとりあえず1人目の採用が決まった。将来お店が忙しくなった時に、ソーマ様がいてくれたら中和剤とかの調合を手伝ってくれたら助かるので、今のうちに囲い込んでおく必要があったのだ。
「ソーマ様ってベルから錬金術を教えてもらっているのよね? ミアハ様も錬金術を身につけようとしているけど、上手くいってみたいだから何かアドバイスとかしてほしい。」
「ミアハか。あの時ケンカ別れした時以来だが、そういう事ならば任せて欲しい。とは言え、錬金術はどうにも才能が必要らしい。ミアハに才能がない場合は、きっぱりと諦めてもらう他無いだろう。」
ナァーザさんからそんな事を頼まれたソーマ様は、ミアハ様と錬金術について話し合ったという。だけど、ミアハ様には錬金術の才能はさっぱり無かったみたいだった。
「無理だったか。」
「こればかりはどうしようもないな。むしろ、全知零能のはずの俺たちに、お前のような才能がある方がおかしいのだがな。」
「それは俺も思っている。だが、決して神の力によるものではないという事は言っておく。」
「ねえ、神様にも才能の有無ってあるわけなの? 全知零能なんでしょ?」
「僕に聞かれても……。」
ナァーザさんの疑問に僕は言葉が詰まってしまう。これまでごく普通に受け入れていたけど、ソーマ様に錬金術の才能があるのは凄く変なのだろうか。
「権能という意味ではお酒造りの才能はあるはずだけど。ベル君もお酒造りが得意だから、その辺りが関係しているのかも?」
「あの時、お前が苛立って私の元を去っていった理由が分かった気がするよ。同じ調合とは言っているが、錬金術と調薬とではあまりにもやっていることが違いすぎる。」
「あの時は済まなかった。俺は気付かぬ内にこの力を使って毒をばら撒いていた。それを何とかしたかったが、お前は畑違いだったというだけのことだ。」
「畑違いか。確かにそうかも知れないが、ナァーザはベルに教えてもらったレシピや素材から
「えっ!?」
ミアハ様の提案に僕は驚き慌てふためいた。余りにも突然の提案だったからだ。
「うん、ミアハだったら大丈夫だよ。ソーマよりもよほど安心できるよ。」
「か、神様!」
「俺よりも安心できるとは酷い言いようだな。」
ソーマ様の弟子入り宣言に、
これは暫くしてからの話だけど、アストレア様やその眷族の人達もこの話には驚いたようだった。輝夜さんやセシルさんは、笑いながら「手加減しろ!」 なんて僕を怒ってくる始末だった。好きで神ばかり弟子に取っているわけじゃないんだけどなぁ。
そんなこんなで、新しい弟子を取った僕は集団面接の日を迎えたのだった。
集団面接当日、お店の中には5人の応募者がやって来ていた。その中で目を引くのはタケミカヅチ様とアイズさんだった。
タケミカヅチ様は、神様と旧知の仲らしく仲良さそうに挨拶をしていた。僕もタケミカヅチ・ファミリアとは仲良くさせて貰っているので、タケミカヅチ様を雇うのも良いかもと思ったりしていた。
その一方で、僕はアイズさんに苦手意識を持っていた。ついこの間のことだけど、昔一緒に旅をしていた精霊のアリアさんのことについて、突然やって来たアイズさんが問い詰めてきたことがあった。僕が突然のことで驚いて何も言えないでいると、僕の胸ぐらに掴みかかって「お母さんのことを話して!」なんて叫んできたのだ。あの時のアイズさんの形相がとても恐ろしくて、それ以来アイズさんのことが苦手になってしまった。
幸いにして、事態に気づいたリリや神様たちのお陰で大事には至らなかったけど、神様はロキ様に抗議して、それ以降アイズさんには僕に接触を控えるように注意が出されたようだった。
「アイズ君、君にはベル君との接触を控えるように話が言ってるはずだよね?」
「……今日は『青の薬舗』のアルバイト面接に来たからセーフ?」
「アウトだよ!」
という
「はぁはぁはぁ、さあ、面接を続けようか。」
リリと共同でアイズさんを追い出した神様は、何事もなかったかのように面接を続けようと言い出した。その様子を見て面接に来た人たちの様子が少し変わった気がする。
面接に来た人は残り4人。タケミカヅチ様、アストレア・ファミリアのウランダさん、モルドさん、そしてカエルみたいな顔をした巨躯の女性…?
「ねえリリ、あれって人だよね?」
僕は右端の席に座るカエルのような女性? を見ながら小声でリリに尋ねた。
「あれはイシュタル・ファミリアの団長でレベル5のフリュネ・ジャミール様ですね。なぜこんな所に来たのか……。」
「やっぱり僕の所へ偵察しに来たのかなぁ。レベルダウンがかなり衝撃的だったみたいだし。」
「そりゃ当たり前ですよ。レベルは上がることはあっても、下がることはないというのが常識だったんですから。」
とうとう僕もスパイを送り込まれるほどになったのか、と嬉しいような悲しいような複雑な思いを感じてしまった。
とりあえず、問題行動は起こしていないので追い出すわけにもいかず、このまま面接は続けることにした。
―志望動機―
「情けないことだが、ファミリアの家系が火の車でな。子供たちだけを働かせるわけにもいかないと思い、仕事を探しているのだ。ここにはヘスティアの紹介で面接に来たが、公平に判断して欲しいと思っている。」
タケミカヅチ様の志望動機は至極真っ当だったし、僕のところなら邪険にも扱われないだろうという打算もあるようだった。神様曰くかなりの善神だと言うので、採用にリーチが掛かっている状態だ。
「ここで…働きながら……錬金術を学びたい。戦争遊戯で使った呪いを……私も作りたいから。」
ウランダさんの志望動機は余りにも酷かった。呪いとは暗黒水のことだと思うけど、あれを作りたいからここで働きながら僕の弟子にもなりたいと言っているそうだ。これは後でアリーゼさんに要相談だなと頭の中でメモをした。
「俺を用心棒として雇わないか? レベル3に上がって、もうレベル4まであとちょっとなんて言われてるんだぜ。」
モルドさんは、竜ごろしと出会ってから一気に成長の階段を駆け登っている人だ。竜ごろしと出会ってわずか数日でレベル3となり、それから1か月にも満たない短期間でレベル4にもなれそうなのだと言う。……と言うか、こんな人を僕のお店で働かせたら、ギルドからなにか言われそうで怖いのだけど。
とりあえず、モルドさんのことは保留で。あと、ソーマ様が喜びそうな人だなと思った。
「この間の戦争遊戯を見て、アタイの心はアンタに囚われてしまったのさ。この絶世の美人なアタイに見初められたんだ、光栄に思いな。さあ、この店をアタイたち二人の愛の巣にしてやるから、一生かけて感謝を捧げな!」
……一瞬意識が吹き飛んでしまった。横を見ると、神様もリリも目を白黒させている。ナァーザさんは普段通りなんだ、良かったぁ。……ってなんか口から白いものが出てるし!
「あ、愛の巣?」
「こんな美人を惚れさせて、罪な男だねえ、アンタは。」
この人は一体何を言っているのだろうか? 正直言うと、初めて見た時はこの人のことをモンスターか何かかと思ってしまったけど、どうやらアマゾネスらしい。……僕の知ってるアマゾネスと違うんだけど、本当なの?
そんな現実逃避じみたことを考えていると、フリュネさんは僕へにじり寄ってきた。周りの人が押し留めようとしているけど、全くびくともしていない。これがレベル5の実力なのか。
「うわぁっ!」
僕は悲鳴を上げながら距離を取ったけど、フリュネさんは一瞬でその距離を詰めてきた。そして僕の身体を掴むと顔をペロペロと舐め始めた。
「アタイにこれだけ言わせたんだ。もう覚悟は出来てるだろうね。」
ひぇぇ。だ、誰か助けて! そんな事を考えて周りを見るけど、ここにいる人はフリュネさんよりもレベルの低い人ばかり。モルドさんですら、冷や汗をかきながらどうすれば良いのか悩んでいるのか、立ち止まってしまっていた。
「あっあっあっ……。」
視線を再びフリュネさんに戻すと、この人の異常さが更に際立って見えた。瞳が細長い。しかも横に細長くなっているのだ。普通、人類種の瞳は丸いはずなのに。
この時、僕はあの人のことを思い出した。アリーゼさんたちがダンジョンから連れて帰ったという、モンスター化の呪いに冒されてしまい、完全にリザードマンの姿になってしまったリドさんのことを。
「フリュネさん、ちょっと顔をよく見せてください。」
「何だい、ようやくその気になったのかい。」
何かを勘違いしているようだけど、構わずフリュネさんの瞳を覗き込む。やはり、瞳の形がおかしい。
「次は口を開けてください。」
僕がそう言うと、何か勘違いしたのか大きく口を開けてくれた。舌が異様に長いし、唾液に色がついている。普通アマゾネスもヒューマンも身体的特徴は同じはずなのに、これほどの差異があるのはおかしい。
僕は、口を開けたままのフリュネさんを放置して、棚から1つの試薬の入った瓶を取り出した。そして、綿棒でフリュネさんの唾液を採取して、試薬と反応させる。
……陽性反応だ!
「こ、この人、モンスター化の呪いにかかっています!」
僕の言葉に店内にいる皆は、何も反応できていなかった。この試薬はアミッドさんが作ったもので、モンスター化の呪いに掛かった人を見つけるために作り出したものだった。
どうも、例のミノタウロスは僕たち以外にも冒険者を襲っていたようで、その人達を見つけるために開発したそうだ。その一部を僕にも渡してくれていた。
この試薬は、僕が抽出した呪いを原材料にしたため、そのお礼でもあると言うことでアミッドさんから受け取ったものだったりする。
アミッドさんが作った試薬で陽性反応が出たと聞いて、皆がざわめいた。その一方で、フリュネさんは憤怒の表情で僕を睨みつけてきていた。
「だ、誰がモンスターだい!」
「いえ、呪いがですね……。」
「もういい加減我慢できない。この怒りアンタで発散させてもらうよ!」
そう言うやいなや、フリュネさんは僕を軽々と持ち上げて、店から凄まじい勢いで出ていった。
そして、僕の意識はこの時を境に途切れてしまった。
面接は嫌いです。
アイズに店番は務まらないと思うので、退席してもらいました。
なお、アリアの居場所はまだ聞けていません。
あと、フリュネにハニートラップはやっぱり無理でした。
フリュネが面接に来た経緯ですが、アポロンファミリアがちょっかいを掛けてきたの反省もあり、アストレア・ファミリアがベルの周りを警戒していたため、バイトの募集を知り合法的に接近しようとしました。
なお、その計画は失敗した模様。