メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
私は後者ですが、ベルくんは前者だと思います。
一応念のために書いておきます。
アイテム図鑑のエピソードは本編とはほぼ無関係です。
その日、僕は偶然手に入れた世界霊魂の使い道について考えていた。世界霊魂は非常に貴重で希少な素材で、僕はこれまで1度も扱ったことがない代物だった。
世界霊魂を手に入れるには、世界霊魂の壺を調合するか不思議な絵の中で採取するしか方法はない。それを僕が手に入れられたのは、命さんが描いてくれた不思議な絵のおかげだった。もっと手に入らないかと何度も絵の中を隈無く調べてみたけど、手に入れることは出来なかった。
というわけで、僕は偶然にも手に入れた貴重な素材をどう使うかについて頭を悩ませていたのである。手元にある世界霊魂の数は3つだけで、これで何が出来るのかを調べていた。
「うーん、まずは中間素材を作ってみようかな。できれば世界霊魂1個だけで作れるものがないかな。」
パラパラと参考書のページをめくっていくけど、これというものが見当たらない。ちなみに、僕が使っている参考書はお母さんが持っている本を写本させてもらったものだ。お母さんも先生から写本させてもらったと言っていた。
この本にはいいものが載っていなかったので、他の本を手にとって開いてみる。すると、気になるアイテムがあった。
「竜の砂時計……?」
この本を写本していたときは、内容もわからないまま文字を正確に書き写すのに必死だったけど、今では何が書いてあるのかがよく分かるようになった。それだけ成長したということだろう。竜の砂時計も昔の自分では何一つわからなかったものだけど、今の僕なら作れそうな気がした。。
「素材はと、……げっ。」
うつろふ指輪、七星円環、世界霊魂✕2、竜のつの、と参考書には書かれていた。世界霊魂と竜のつのは手元にあるけど、うつろふ指輪と七星円環は非常に難易度が高い調合アイテムだった。
だけど、不思議とこれを作ろうという意欲が僕の心の奥底から湧き上がってくるのを感じた。お母さんから与えられた課題である「万能厄除け香の調合」は既に達成していたし、賢者の石の調合もあと一歩のところまで来ていた。
だったら、新しい未知を切り拓くべきだと思った。錬金術士としても、冒険者としても、お母さんのライバルとしても。
「よし、頑張るぞ!」
声を上げて自分に気合を入れた僕は、竜の砂時計の調合をするための準備をはじめた。まずはうつろふ指輪の調合だ。幸い素材はすべて揃っていたので、早速調合を始める。世界霊魂を錬金釜に投入するときは、少し躊躇ってしまったけど調合することに成功した。
「よし、次は七星円環だ!」
うつろふ指輪の成功に気を良くした僕は、続けて七星円環の調合に取り掛かった。素材の1つである(魔法)は何を使うかで少し悩んだけど、生きてるナワを使うことにした。
「ぐーるぐる。ぐーるぐる。」
掛け声を出しながらテンポよく錬金釜をかき混ぜていく。魔力をコントロールしながら錬金釜に流し込み、祝福のワインやデニッシュを食べて疲れを癒しながらも錬金釜をかき混ぜ続けた。触媒と調合スキルを駆使して、とうとう七星円環を作り上げることに成功した。
「後は竜の砂時計を作るだけだ!」
この時の僕は凄く浮かれていた。これまで作ったことのない高難易度アイテムを失敗もなく2つ連続で作れたことで、有頂天になった僕は休みもせずに「竜の砂時計」の調合を始めたのだから。
「ベル、邪魔するぞ。」
「アーシャ? こんな時間に一体何?」
いざ、調合を始めようとしたその時、調合室に突然アーシャが入ってきた。少し気が削がれた僕は少し言葉が荒くなってしまった。それを聞いたアーシャは閉じていた瞼をうっすらと開けると僕を睨みつけてきた。
「母さんからお使いを頼まれただけだ。ハチミツはあるか?」
不快感が宿った赤い瞳と不機嫌そうな声色のアーシャに、僕は少し背筋に冷たいものを感じた。僕の妹は怒らせたら怖いのだ。これまで僕はアーシャに口喧嘩ですら1度も勝ったことがない。腕っぷしだってレベル1のままの僕では天と地がひっくり返ったって、アーシャに勝つことはできないだろう。
「あ、そこの棚のトランクの中に入ってるよ。」
そんな僕に出来ることは、アーシャにさっさと帰って貰うことだけだった。医療系ファミリアでポーションの材料として需要が増えているハチミツは、今のオラリオで品薄になっている。それに比例して値段もぐんぐんと上がっているので、中々手に入れるのは難しくなっているらしい。
「ハチミツなら絵の中で採取すればいいのに。」
「そんな時間と人手があるわけ無い。」
僕がつい放った小言に、アーシャは不機嫌そうに返してきた。確かに考えてみればお母さんの店は人手不足だ。絵の中に入って採取出来る人となるとなおさらだ。僕の方はリリやヴェルフと言った冒険者が時々手伝ってくれるので助かっている。
ハチミツの瓶を秘密バッグへと入れ終わったアーシャは部屋から出ていかずに、錬金釜を挟んで僕の顔をじっと見つめてきた。
「な、なに?」
「いや、なんとも気合を入れて調合していたようだったからな。何を作っているのか気になっただけだ。」
「アーシャもそんなこと気になるんだ。僕が調合しようとしていたのは竜の砂時計だよ。」
「竜の砂時計?」
「うん。必要な中間素材も作るのが難しかったけど、2個連続で調合に成功したから嬉しかったんだよ。いざ竜の砂時計を調合しようとした時にアーシャが入ってきたけど。」
「ふんっ、それは悪かったな。……しかし竜の砂時計か。初めて聞く名前だ。」
「たぶん、母さんでも作ったことはないんじゃない? これって世界霊魂を何個も使うから。」
アーシャがしばらく出ていく気がないのを感じ取った僕は、アーシャと喋りながら竜の砂時計の調合を始めることにした。お母さんへ報告するためにどんな物ができるのかを確認したのだろう。
アーシャの視線を感じながら僕は素材を次々と錬金釜へと投入していった。触媒には賢者の石を使うことにする。そうして、すべての素材と触媒を投入し終わった僕は、錬金釜を木べらでかき混ぜていく。それをアーシャがじっと見つめているけど、なんだかむず痒くなってきたので、つい頭を指で掻いてしまった。
「あっ……。」
その時、アーシャの口から小さな叫び声が漏れた。なにかと思ってアーシャの視線を辿っていくと、錬金釜の中へと落ちていく僕の髪の毛が!
「「ああっ!?」」
二人して何もできぬまま錬金釜に髪の毛が落ちていくさまを見ていくことしか出来なかった。
「ヤバっ!」
ようやく硬直から溶けた僕は、逃げるべきか、このまま魔力をコントロールして爆発を防ぐべきか、ほんの一瞬だけど迷ってしまった。それが命取りだったのだろう。錬金釜の溶液の色も青から赤へと変色したうえ、目を開けるのも辛いほどの激しい光が溢れ出してきた。
「これは駄目だ! 逃げるぞ!!」
いつの間にか僕の服を掴んでいたアーシャが僕を引っ張って調合室から出ていこうとする。だけど、それよりも早く調合室をまばゆい光が満たしたのだった。
それから暫くして、僕はボロボロになった部屋の中にいた。幸い怪我はなく、アーシャも一緒だった。
「ここは一体どこだろう?」
さっきまでいたはずの調合室とは全く違う部屋だった。壁も天井もボロボロで、かろうじて崩れていないというレベルの酷さだった。
「とりあえずここから出るぞ。」
アーシャの言葉に同意して、僕たちはボロボロの建物から外へと出た。すると、外に広がっていたのは薄暗い夕暮れの中、火に包まれたオラリオの町並みだった。
「えっ? これって一体……。」
僕はその光景を見てひどく動揺した。アーシャも目を見開いて驚いている様子だった。
「と、とりあえず消火活動を……。って、誰か戦ってる?」
そこら中で火事が起きているのに誰も火を消そうとする気配はない。まずは火を消さないといけないと思った時、かすかに金属同士がぶつかり合う音や叫び声が聞こえてきた。
「……ベル、お前はここにいろ。私一人で様子を見てくる。」
アーシャはそう言うやいなや、あっという間に街角に姿を消してしまった。なんだか様子が変だなと思いながら、仕方なく近くの火を消そうと悪戦苦闘していると、誰かが走ってくる音が聞こえ、だんだんと近づいてきていた。
走っていたのは女の子だった。その後ろには黒いローブを着た、見るからに怪しそうな人たちが少女を追いかけていた。
「た、助けてっ!」
女の子の切実な叫び声が聞こえたのと同時に、僕は動いていた。腰のポーチからレヘルンを取り出すと怪しげな男たちに投げつける。
「「「ぎゃあぁぁぁ!」」」
怪しげな連中は悲鳴とともに氷漬けになった。死んではいないのを確認して、女の子の方に向くとなんか怯えられてしまった。
「こ、氷の爆弾? あなたも闇派閥なの?」
「え?」
なんか酷い勘違いをされた気がする。慌てて冒険者だと自己紹介して誤解を解くと、女の子は避難所に連れて行って欲しいとお願いしてきた。
「ええと、正直何が起きてるのかがよくわからないから、教えてくれないかな。」
女の子から話を聞き出した結果、僕がいるのは過去のオラリオらしいということが分かった。しかも、闇派閥が跋扈する暗黒期のオラリオだ。アリーゼさんたちからその頃のことは少し聞いていたけど、地獄のように苦しい時期だったと言っていたのを覚えている。
なぜ過去に来てしまったのか。そんなの竜の砂時計の調合に失敗したからに決まっている。元の時間に戻るには竜の砂時計を失敗せずに調合するしかないのかもしれない。しばらく考えにふけっていたら、女の子に袖を引っ張られて「避難所に連れて行って。」と言われた。
「ええとね、僕は妹を探しているんだよ。僕と同じ髪と瞳の色をしていて、背丈は僕より少し低いくらいだね。見てないかな?」
とりあえずアーシャを見てないか尋ねてみたけど、女の子の答えは見てないというものだった。アーシャは僕にここにいろと言っていたので、いつかは戻ってくるだろう。その時に僕がいなければ心配すると思うので、女の子を避難所に送ったらまたここに戻ってくることにしようと決めた。
ただ、すれ違いになる可能性を考えて、アーシャへの手紙を火を消した建物の外壁に貼り付けておく。これでアーシャには僕が避難所に行ったということが分かるはずだ。
「じゃあ行こうか。」
女の子を連れて僕は避難所へと移動し始めた。途中で何度も闇派閥の構成員と鉢合わせして戦闘になったけど、ことごとくフラムで吹き飛ばしたり、レヘルンで氷漬けにしたりして撃退していった。
「お兄ちゃんすごーい! 爆弾って怖いけど闇派閥の連中が吹き飛んだところなんて、スカッとしたよ!」
「ははははは、ありがとう……。」
闇派閥とはいえ、人を爆弾で吹き飛ばしてスカッとしたなんて言う女の子の将来が少し不安になった。
ところで、避難所へ向かう道で遭遇したのは闇派閥だけではなかった。逃げ遅れた人たちも結構な人数がいたようで、僕を先頭にした集団は10人以上の大所帯になってしまった。こうなると周りの警戒を他の人にお願いして、僕は闇派閥が出てきたら爆弾で吹き飛ばすのが仕事になっていた。
そうして闇派閥を吹き飛ばしながらも僕たちは避難所にたどり着いた。避難所には幾つものファミリアが防衛や炊き出しを行っているようで、沢山の人でごった返している。怪我をしている人もかなりいたので治療していたら、避難所の責任者からいつの間にか臨時の医療担当にされてしまった。
1時間ほどかけて怪我人を全て治療し終わったので、アーシャと別れた場所へ戻ろうかと考えていると、僕はある人たちに声をかけられた。
「あなたがこの避難所の怪我人を治療したって本当? 聞けば、爆弾を使って闇派閥の連中を吹き飛ばしていたみたいだけど、あなたって本当に治癒師なの?」
「アリーゼさん……? わ、若い。」
その人はアリーゼさんだった。だけど、僕の知っている彼女よりもかなり若かった。いや、幼いと言うべきかな。それがポロッと声に出てしまった。
「やだー! 若くて美しい正義の冒険者だなんて、そんなに褒めても何も出ないわよー。」
「そこまで言ってないです! 思っていたより若い人だったから気になっただけですよ。」
アリーゼさんは僕が言ってもいないことを捏造してたので、ついツッコミをしてしまった。
「団長殿、若い男と戯れるのもいいが、本来の仕事を疎かにするのはいただけないな。」
「いいじゃない輝夜。この人は10人以上もの人を避難所に連れてきてくれたのよ。しかも闇派閥の連中を爆弾で吹き飛ばしたり氷漬けにしたりして。その上に何十人もいた怪我人を回復魔法で治療したっていうじゃない。興味が出てくるのもしかたなくない?」
「まあ、こいつの持ってる爆弾とか回復魔法には興味があるけどな。」
「治癒師なのに爆弾を使って戦うとは、貴様は一体何者なんだ?」
「その爆弾って僕が作ったものなんですよ。」
輝夜さんとライラさんとリューさんも元の時代よりも若く見えた。僕は4人を見て、この時代に僕の知り合いはいないんだなという事実を改めて突きつけられてしまった。この場合って偽名を使ったりして、僕の身元を隠したりしたほうがいいのかな。
だけどすぐさま偽名が出せるわけもなく、僕はつい本名で自己紹介をしてしまった。
「それで、あなたは妹さんを探すために戻ろうとしてるって聞いたけど、本当?」
「あ、はい。元々そのつもりであの人達を連れてきたので、そろそろ探しに行こうかと思って。怪我人の治療をしていたら結構時間もかかりましたし。」
「危険よ。あなたは冒険者みたいだけどレベルは?」
「1です。」
「レベル1なのに闇派閥を吹き飛ばしてたというのか。やはり爆弾か。」
「そんなに大したことなかったので。それに死なないように気をつけましたし。」
「何と言うか甘いやつだな。闇派閥なんて皆殺し位でちょうどいいだろう。」
「そんなわけにはいきませんよ。医療系ファミリアとしては、死人はできるだけ出てほしくないですし。」
「うん? お前医療系ファミリアなんかよ!」
4人の質問に答えていたら、医療系ファミリアという部分に一番驚かれてしまった。まあ、爆弾投げる医療系ファミリアとか我ながら物騒だなと思うけど、それが一番効率のいい戦い方なんだ。アーシャは銃を乱射するし、リリは錬金剣で敵をこんがり焼き上げたりするけど。あれ? もしかしてウチってかなり物騒な医療系ファミリアなんじゃ……。
「じゃあ、あなたの妹さんを探すのを私たちも手伝うわ。」
「え、いいんですか? 闇派閥への対処とかは?」
「それがね、闇派閥の数がどんどん減ってきているみたいなのよね。誰かが闇派閥を倒してしまっているみたいで、そろそろ反攻しようって話が出てきてるくらいよ。」
「アリーゼ、この男にそこまでの情報を教えるのは止めるべきだ。」
「いいじゃない。こんな善意ある人まで疑い始めたらキリがないわよ。」
アリーゼさんから聞いた話では、一人の少女が闇派閥を次々と倒していっているらしい。それを聞いて僕はアーシャだと直感した。それと、なんだかリューさんからの当たりがキツイ気がするけど、僕なんかしました?
「その女の子って、白い髪と赤い瞳をしたアリーゼさんくらいの背丈の女の子じゃなかったですか? 服は確か……。」
僕は4人にアーシャの特徴を教えるとそのままピシャリと当てはまっていたようだ。それを知って僕は頭を抱えてしまった。アーシャ、一体何をしているんだよ!
「兄妹揃って闇派閥を倒しまわっているのね! 素晴らしい正義だわ、バチコーン☆」
「だが、1人で戦っているというのはいただけんな。我々も加勢すべきか。」
アリーゼさんたちはアーシャの応援に行くべきか相談しているようだった。その時、他のファミリアからの伝令がある情報を伝えてきた。
「例の少女が闇派閥の増援と戦闘を開始。相手はヘラ・ファミリアの【静寂】のアルフィア!」
それを聞いた瞬間、周りの空気が変わった。アリーゼさんたちも先程までの柔らかな顔つきから引き締まった顔に切り替えて冒険者らしくなっていた。
「あなたの妹さんだけど、どうやらヤバイやつと戦っているみたいよ。私たちは現場に行くから、あなたはここで待ってて。」
「アーシャがいるというのなら僕もいきます!」
「……相手は【静寂】だ。レベル7の化物に、レベル1のお前に何が出来る。」
レベル7という言葉を聞いて僕は一瞬言葉に詰まった。レベル7といえば都市最強と言われるオッタルさんと同じレベルだ。その人相手に戦えば僕に勝ち目なんてないだろう。だけど、逃げることは出来るかもしれない。
僕はポーチから
「僕にはこういった色々な道具があるんです。これを使って空中からアーシャを支援しますよ。」
「おま……、空を飛べる道具を持ってるんかよ。」
「な、何と面妖な!」
「……確か
「もしかしてそれもあなたが作ったの?」
「そうですよ。」
という訳で、僕もアストレア・ファミリアと一緒にアーシャの応援に行くことになった。途中で何度か闇派閥の集団と出くわしたけど、アリーゼさんたちが簡単に蹴散らしてしまったので、僕の出番はなかった。
いや、僕の仕事は主に上空からの偵察なんだけどね。僕の情報を元に、ライラさんが作戦を立てて、アリーゼさんたちが闇派閥を蹴散らしながら進んでいったので、結構な数の闇派閥を倒してしまったみたいだ。
そして、やっと僕たちはアーシャの元へとたどり着いた。それはいいんだけど……。
「ねえ、左の方にいるのがあなたの妹さんよね?」
「そうです。」
「右にいるアルフィアと瓜二つなんだけど、なんで?」
「僕が知りたいくらいですよ! というか、アルフィアさんって人を初めて見ましたよ!!」
そう、街中の小さな広場でアーシャと対峙していたアルフィアさんという女性はアーシャと瓜二つだったのだ!
正確には髪と瞳の色が違うし背丈も一回りほど違っている。だけど、顔つきや雰囲気が最早同一人物ではないかというほどまで似通っているのだ。
「もしかしてっ! あなた達ってアルフィアの子どもなの?」
「「誰が親子だ!」」
その時アリーゼさんが口にした言葉を、ちゃっかり聞いていたらしいアーシャとアルフィアさんが異口同音に突っ込んできた。
「貴様の顔を見ていると妙にムカつく。今直ぐ叩きのめしてやる!」
「お前の顔を見ていると過去の黒歴史を思い出してしまう。ここでくたばれ、糞女!」
「「お前を殺す!?」」
そうして、同じ顔をした化物2人による想像を絶する戦いは火蓋を切ったのである。僕たちを巻き添えにして。
「嫌だぁぁぁぁ! なんで僕まで!!」
「喚いている暇があったら走れ! あんなのに巻き込まれたらアタシたちは一巻の終わりだぞ!!」
「いったい、貴様の妹のレベルは幾つなのだ! 12歳でレベル7と渡り合えるなど信じられん!?」
「アーシャのレベルは4だけど、神様が言うにはステータス的に6か7くらいあるって……。」
「第一級冒険者同士の戦いに巻き込まれたらこうなるというわけか……。」
「輝夜、達観しないで手伝いなさい。さあみんな、妹さんに加勢するわよ!」
「あん中に突っ込もうなんて本気か? どう考えてもアタシたちじゃ無理だろ!」
2人の壮絶な戦いに巻き込まれた僕たちは、結局吹き飛ばされてしまい、戦いに参加するどころか逃げ回ることすら出来なかった。戦い自体は引き分けに終わったらしく、アーシャは「次こそは息の根を止めてやる!」と高らかに宣言していた。
こうして、僕たちの暗黒期のオラリオでの生活が始まったのだった。
アイテム図鑑No.XXX うつろふ指輪
古くから錬金術の歴史の中で度々登場する、強力な魔力を秘めた錬金術の指輪。
魔法の力を常に放出しており、変幻自在の輝きを放つことから、このような名前で呼ばれている。
メティー
「中間素材としても装飾品としても優秀なアイテムね。」
ベル
「世界霊魂を手に入れるのが難しいので、ほぼ幻のアイテムです。」
アーシャ
「装飾品としては見た目がイマイチだな。」
メティー
「がーん。」
アイテム図鑑No.XXX 七星円環
様々な魔方陣を組み合わせて強力な結界を作り出す、古くから伝わる伝説のアイテム。
実際に調合するためには、かなりの技術と洗練された錬金術のセンスが必要になる。
ベル
「賢者の石よりも難しいとか言われてるけど、一発で調合できたよ。」
メティー
「あら、やっぱりベルは凄いわね。」
アーシャ
「アイテムとして使えば、敵のステータスを1つ完全に消滅させることが出来るぞ。」
ベル
「アルフィアさんに使ったらスキルが1つ無くなったみたいだよ。」*1
アイテム図鑑No.XXX 竜の砂時計
時空を操作する力を持つ、魔法の砂時計。
ただし、その力は不安定で、必ずしも完全に時間を操作できるわけではない。
その力には、使った材料が深く関わっているらしい・・・?
ベル
「もう二度と時間移動なんてしたくない!」
アーシャ
「これのせいで、この世で一番嫌いなやつに出会ってしまった。」
ベル
「ところで、なんでアルフィアさんとアーシャってあそこまでそっくりだったんだろう?」
メティー
「そろそろアーシャの正体を教えたほうがいいのかしら?」
おまけ
ボロボロの建物から外に出た時、アーシャは何となくかつての暗黒期を思い出していた。遠くから聞こえる戦技の音や叫び声、炎に包まれるオラリオの町並み。その全てがかつて自分が犯した罪を思い出させるものだった。
「……ベル、お前はここにいろ。私は一人で様子を見てくる。」
守るべき大切な甥にして兄であるベルにそう告げると、アーシャは無事な建物の屋根へと飛び上がり、建物の屋根伝いに周囲を走り抜けた。途中で見かけた破壊と殺戮を行う怪しい集団を見たアーシャは、どういうわけか自分たちが暗黒期のオラリオへとやってきたことを理解した。
(調合の失敗で時間移動した? 神ですら不可能なことをやってのけるとは、これだから錬金術士というやつは。)
内心でため息をつきながらアーシャは秘密バッグから武器を取り出そうとした。だが、秘密バッグの中は空っぽだった。時間移動したことでメーテリアのアトリエにあるコンテナとの接続が切れてしまったのだ。
「仕方ない。有象無象ども相手なら素手でも十分か。」
とは言え、武器がないのは心もとないので、倒した闇派閥の団員から剣を拝借した。作りは酷いがないよりはマシだろう。
そうして、アーシャは周囲の闇派閥を駆逐していった。全てはベルの安全を確保するためである。だが、アーシャにとって誤算だったのは、闇派閥の構成員が大量に次から次へと押し寄せてくることであった。
かつてアルフィアであった頃は気にしていなかったが、数が多いというのは面倒なことだとアーシャは実感した。こちらの目的はベルの安全の確保なので、敵が出てきたら倒さなくてはならない。それに時間をとられてしまい、ベルの安全が脅かされてしまうかもしれないという本末転倒な状況が生まれつつあった。
実はこの時には既にベルは避難所へと向かっていたのだが、アーシャはそれを知ることはなかった。
「なるほど、確かに他の有象無象共とは違うようだな。」
その時、アーシャの背後から声が聞こえた。かつて飽きるほど聞いた声だ。振り向いて確認する必要もない。だって、彼女はかつての自分なのだから。
「アルフィア……。」
かつての自分の名前を呟く。妹が死ぬ姿を見たくなくて、当時の彼女の前から自分は消え去った。もしあの時最後まで一緒にいたら、フリッツに救われた妹共に旅に出ることになっていただろう。それが現実ならば楽しく美しい記憶になっていたはずだ。
だが現実は違った。7年前のあの時、燃え盛るオラリオの街中でメーテリアは姉に対して懸命に語りかけてきた。『馬鹿な真似はやめて、私達と一緒に行きましょう!』と。だが、その時の自分はメーテリアが生きていることに動揺し、その手を振り払った。
その後も何度かメーテリアと会う機会はあったが、アルフィアは既に闇派閥の幹部として大罪人となってしまっていた。故に、メーテリアとともに行く道は既に絶たれていた。妹の幸せのためにも、自分はここで死ななければならない。その覚悟で望んだ最終決戦でメーテリアに敗れ、気づけば4歳の幼女として生きることになってしまっていた。
自分がメーテリアの娘になった経緯を思い出しながら、アーシャは振り向いた。そこには最早見飽きた、しかし久しぶりに見る顔を持った魔女が立っていた。
「……っ! お前、名前は?」
アーシャの顔を見たアルフィアは目を見開き驚愕した表情を見せた。
「アーシャ、アーシャ・クラネル。」
自分は最早アルフィアではない。それは過去の自分との決別だったのかもしれない。愚かで無知で素直でなかったかつての自分を、アーシャは今になって断罪することが出来るのだ。
一方で、アルフィアは困惑の中にいながらもアーシャの正体について考えていた。自分と同じ顔に、妹と同じ髪色、そして憎きあの男の瞳の色。それらがすべて揃った少女を見た瞬間、アルフィアは少女が妹の血縁者ではないかと考えた。自分の中に流れる血もそれを肯定していた。
妹が自分の命と引き換えに生んだ子どもは男だったはずだ。しかし、目の前にいるのはまだ子どもとは言え女だった。メーテリアは生前、自分の子供の名前は男でも女でもベルにすると言っていた。つまり、このアーシャと名乗る少女はベルの次に生まれた子どもではないかと、アルフィアは直感した。
(ふざけるな! 何故この世界じゃないんだ。何故、この世界のメーテリアは死ななければならなかったんだ!!)
アーシャの正体を理解したアルフィアに真っ先に芽生えたのは嫉妬と憎悪だった。妹の最後を看取った後、甥の顔も見ずにアルフィアは竜の谷で門番をしていた彼女は、ある神から提案された策に乗ることにした。自らを新たなる英雄を誕生させるための薪として、この命を使う。それは彼女にとって最も合理的な自分の命の使い方だった。
「黒竜は倒された。私の母が倒した。」
「!?」
「自らの無知と愚かさを抱いて死ね!」
そして、2人の同一人物の殺し合いが始まった。
前半はユーディーのアトリエのオマージュ、後半はイレギュラーレコードです。
この話では、ベル君たちは自力で時間移動しているので、原作みたいに勝手に元の世界に帰ることは出来ません。帰るためには、自力で竜の砂時計を調合しないといけません、
ちなみに、この話は原作の時間軸なのでメティーも【女帝】も死んでいますし、フリッツたちもいません。ベルが一から錬金術を使えるように環境を整備(アトリエ建設)して、素材を収集して、調合しないといけません。
参考書もないので、難しいアイテムの調合には四苦八苦することでしょう。
Q.なんでアーシャとアルフィアが戦ってるの?
A.同一人物が出逢えば殺し合いに発展する。
アーシャのアトリエでイチリンカもそう言っている。(言ってない)
アルフィアが一番嫌っているのは多分自分自身です。ジェノス・アンジェラスの詠唱文の「私は貴様を憎んでいる」の貴様は自分自身ではないかと思っています。(異論は認める)