メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
メティー(31):ベル・クラネルの母親で錬金術士。原作では故人。お菓子屋「メティーのアトリエ」を経営している。白髪蒼眼。
ベル・クラネル(14):原作主人公。この作品では錬金術士。
アーシャ(12/31):元アルフィア。治療の際のあれこれで恩恵を失った上に幼女になる。ベルと同じく白髪赤眼
イクセル(11/52):元ザルド。アルフィアの巻き添えになる。ベルと同じく白髪赤眼。
この作品はコメディーです。
僕は冒険者になりたかった。
冒険者になって可愛い女の子と出会い、キャッキャウフフな冒険をしてみたかった。*1
英雄の真似事をして楽しみたかった。*2
僕にそんな邪な気持ちがあるのは間違いなかったけど、錬金術を使って冒険をしてみたいという気持ちがあったのも確かだった。
お母さんに僕の率直な気持ちを伝えて、何とか冒険者になることを認められたが、そこからが大変だった。
お母さんの出す課題をこなさなければ冒険者になるのを認めてもらえないのだから。
「…と言う訳で、冒険者になるために協力してください。」
「うーん、協力してあげるのはいいけれど、メティーさんの心象悪くしたくない*3んだよね。」
今回お母さんから出された課題は、冒険に必要な装備や道具を自分で作って揃えることだった。
どう考えても難易度が高いと思う。
そもそも冒険に必要な道具って何があるんだろうか? そこからのスタートなのだから、僕にとっては非常に厳しい課題だったりする。
だから、僕はアストレアファミリアの拠点『星屑の庭』にアリーゼ・ローウェルさんを訪ねてきたのだ。
アリーゼさんは赤毛をポニーテールにした陽気なヒューマンの女性で、お母さんの作ったアイテムをアストレアファミリアに届ける時によく会う人である。
「それは大丈夫です。お母さんはアストレアファミリアを頼ってもいい*4と言っていましたし。」
アリーゼさんはお母さんの大切な顧客だ。7年前から交流があり、今もお母さんからいろいろな錬金術で作った道具*5を買ってくれたり、逆に素材を売ってくれたりしている。
そんなアリーゼさんに冒険者になるための第一の課題を手伝ってもらおうと思っていたのだが、お母さんにはお見通しだったみたいで、「アリーゼさんによろしくね。」などと言われる始末。
なんだかお母さんの掌の上で転がされている気分だ。
「それならいいけど、うーん、必要な装備や道具を自分で全部作るの? 錬金術師*6ってそこまで何でも作れるの?」
アリーゼさんの疑問ももっともだ。お母さんは基本的に回復系と支援系アイテムしかアストレアファミリアに納品していない。そのため、性能こそ破格だが回復系と支援系のアイテムしか作れないと思っているのだ。*7
「論より証拠ということで、作ってきたものを見てくれませんか。」
僕もただ無為に過ごしてきたわけではない。自分でも考え付く限りの物を作ってきたのだ。問題は考え付かなかったもので、必要なものがある場合なのだ。
「まずは武器と防具です。」
僕は腰のベルトに通したポーチ*8から自作の風の杖*9とコンバットナイフ*10と木綿のシャツ*11を取り出した。
「は…えっ? それどこから取り出したの?」
それを見たアリーゼさんは目を真ん丸にして驚いた顔をしていた。いったい何を驚くことがあったのだろうか?
「えっ? ただのポーチですよ。そんなに容量も大きくないですけど。」
「普通そんな小さなポーチに杖やナイフやシャツなんて入らないと思うけど…。」
アリーゼさんは何を言ってるんだろうか?ポーチやバッグに武器や道具や素材を入れるのは普通のことだと思うのだけど。*12
「私、あなたとの間に深刻な認識の違いがある気がするわ。」
そう言って、アリーゼさんは普通は大きさや重量を無視して物を入れられないということを話してくれた。
僕からすると物心ついた頃からこれが普通だったので、アリーゼさんの話は信じられないことだった。
「知らなかった…。」
「初っ端からこれかぁ…。」
あまりにもの認識の違いに2人して溜息を吐いてしまった。そうか、それで冒険者の人はあんな大きなバッグとかを背負っていたんだなと理解する。あれはかごやバックパックがいっぱいになったから持ってるのじゃなくて、それらをそもそも持ってないからあんな風になってるのか。
そして、もしこのポーチの秘密がばれたらやばいんじゃとも思ってしまった。
「これのことがバレたらヤバいですよね…。」
「ヤバいもんってもんじゃないと思うよ。最悪それ作らされるためだけに誘拐されたりするかも。」
「こわっ! そんなことする人いるんですか!」
僕にとっては適当に作れるポーチでも、他の人に取ったらお宝なのだろう。アリーゼさんの顔にはふざけた様子はなかったので、本気で危ないのかも知れないと思った。
「ば、ばれないようにします。」
帰ったら大きめなバックパックを作ろうと決意し、次に武器の説明を始めた。
「えーと、これは少し大きめのナイフです。特性は能力強化をつけています。」
「特性? 能力強化?」
「ええと、特性は武器につけられる能力のことで、能力強化は全ての基礎アビリティを10ずつ増やすことができます。」
まだ恩恵を受けてないので、本当に増えるのかどうかはわからないけど。
ただ、これを持つと少し身体能力が上がった気がするから、恩恵なしでも効果はあるのだろうと思う。
それに、旅の最中は皆なんらかの能力向上型の特性をつけた装備をつけていたし。
「これ本当? …だとしたらすごい事じゃない? ちょっと、アストレア様のとこに行こう、さあ!」
突然何事かをぶつぶつ呟きだしたと思ったら、アリーゼさんは僕の腕を引っ張って応接室から飛び出した。僕は引きずられながらある部屋へと連れ込まれると、そこにはアストレア様が椅子に座って読書をしていた。
どうやらここは主神室だったようだ。
「あらアリーゼどうしたの? ええと、そちらはベル君だったわよね? メティーが作ってる、あの凄いアイテムとかを届けてくれている。」
「あ、いつもお世話n「アストレア様、私のステータスを確認してください!」」
そう言うや否や、アリーゼさんは上着を脱いでベッドにうつ伏せになった。慌てて僕は両手で目を塞いだ。
もしこんな事がお母さんやアーシャにバレでもしたら、どれほど酷いことになるかと思うと、顔が引きつるのが自分でも分かった。
「ちょっと他所の子がいるのにできるわけがないでしょ! それに昨日ステータスの更新をしたばかりだし。」
「お願いします! もしかしたら凄い事になってるかもしれないんですよ!」
アリーゼさんの剣幕に押されたのか、アストレア様は溜息を吐いてから僕のほうへと視線を向けた。*13僕はすぐさま部屋の外へと飛び出てドアを閉めると壁に背を預けて座った。
「え、いったい何が? これって何なの?」
ドア越しにかすかにアストレア様の困惑した声が聞こえてきた。いったい何があったのかわからないが、僕は先ほどの秘密バッグに引き続き何かをしでかしてしまったようだった。
「えーと、ベル? だっけ。何してるのこんなところで。」
声がした方向を向くと、そこにはライラさんが少し険しい顔でこちらを見てきていた。ライラさんは桃色の髪の小人族の女性で、アイテムの納入の際によく会う人だ。アイテムについて効果や使い方をよく聞いてくる人で、そのしつこさから僕は少し苦手だった。
「ええと、アリーゼさんに連れられてここに来たんですけど。」
僕は何が何だかわからないです、と扉の向こう側に目を向けながら言うとライラさんは溜息をついてあきれたように言った。
「アリーゼの馬鹿に付き合わされたか。悪いね、そんな奴じゃないのに少しでも疑ってしまって。」
ライラさんは軽く頭を下げて謝罪してくれた。アストレアファミリアは女性しかいないファミリアだ。僕も入り口から応接間しか入ったことはない。男がこんな建物の奥のほう、しかも主神の部屋の前にいたら警戒するのも当然だろう。
「いえ、頭をあげてください。ライラさんは当然のことをしたまでですよ。」
「ありがとよ。で、アリーゼは何を考えてあんたを連れてきたんだ?」
「さあ? 僕が知りたいくらいですよ。」
ライラさんと他愛もない話をしていると、扉が開きアリーゼさんが顔をのぞかせた。そしてちょいちょいと手手招きして部屋に入るように促されたので、ライラさんに確認をとるために顔を向けると、顎の動作で行くように言われ恐る恐る部屋へと入っていった。
部屋にあるソファーに座るよう言われたので、素直に座る。アストレア様とアリーゼさんは並んで座り、僕はアリーゼさんの正面に座った。ライラさんはなぜか僕の隣に座る。
「ライラも来たのね。ちょうどいいわ。あなたの意見も聞かせて。」
そう言うとアストレア様は僕が作ったナイフを机の上に置いた。
「アリーゼがこのナイフを持ったままステータスを見てみたら、すべての数値が10増えてたわ。」
「は?」
アストレア様の言葉にライラさんは間抜けな声を出した。よかった、恩恵を持った人にきちんと数値が反映されたんだ。
「いやー、すごいよこれ。属性つけたり攻撃力を強化したりってのは時々聞くけど、全てのステータスを上げるなんて初めて聞いたから。」
「へ? そんなにすごいんですか? だって、能力強化ですよ。たったの10ですよ。」
先生やお母さんなら、全能の力*14やら 武勇のソウル*15やら魂を吸収する*16をつけているだろう。だけど僕には手持ちの強力な特性がない。
12歳まで旅をして、各地で採集した素材はすべてお母さんが管理している。今回の課題を始めるに当たって、素材からすべて自分で用意するようにというのがお母さんの意向だった。
そして、我が家で一番権力があるのはお母さんである。逆らえるわけがなかった。
「あのね、私が去年頑張って上げたステータスってどれくらいだと思う? 260よ、合計260。アビリティ合計で50っていうのは、私の努力約2ヶ月半と同じ数字なのよ!」
アリーゼさんはやたら早口でいかにこのナイフが凄いのかを力説した。そういわれると凄いと思えてくるから不思議だ。ライラさんのほうへ顔を向けると、呆けた顔をしていたがアリーゼさんの言葉に何度もうなずいていた。
「それで、このシャツは…って全部まとめてここで説明して。」
説明の途中でここに連れてきたのはアリーゼさんだというのに、そんなことなど忘れたと言わんばかりの態度に少しあきれながら、シャツの説明を始める。
「ええとこの木綿のシャツですが、防御力は見た目通りですが、こっちにも能力向上の特性をつけています。」
「これで合計100かぁ…。」
ライラさんがもはや何でもありだな、とぼやいているのを無視して僕は説明を続けた。アストレア様とアリーゼさんは食い入るようにシャツを見ている。「私の5ヶ月分…。」とかブツブツ呟いてて、少し怖い。
そんなに見てもこのシャツは見た目通りの防御力しかない代物なんだけど。
「
「わかりません。やったことないので。で、次ですけど。」
アリーゼさんの質問に適当に返すと、ポーチから次の装備を取り出した。今度はアクセサリだ。レザーグローブ*17。これも今の僕が作れるだけあって、品質も性能も低い。それでもこれにも能力効果の特性をつけているので、それなりにいいだろう。
そして、最後に取り出したのもアクセサリだ。今日持ってきた中で一番の自信作でもある。特性はやはり能力強化。くどいようだが、今の手持ちの特性ではこれくらいしか使えそうなものがないのだ。
「これは、エンゼルリボン*18というアクセサリーで、状態異常にかかりにくくなるのと、毒にかからなくなる効果があります。」
それを聞いた途端、アリーゼさんとライラさんの目がクワッと見開いた。
そして、すごい勢いで話しかけてきた。
「それ本当?」
「ええと、だと思います。毒を受けたことないので、断言はできないですけど。」
そういう効果のあるものだということは知っているが、実践したことはないのでわからない。
ただ、旅の途中では皆エンゼルリボンやエレメントガード等を常に付けていたから、効果はあるのだろう。
「毒消し持ってる?」
「一応ハニーシロップ*19を持ってます。」
アリーゼさんの表情と言葉に、「あ、これヤバいやつだ。」と思ったが、ライラさんが流石に見かねて止めてくれたので事なきを得た。
でも、多分機会があったら実験してみようとか思ってるんだろうな、ということは容易に想像できた。
「それから、ランタンと食品類に水袋、つるはしとスコップとヒーリングサルブとリフュールボトルに…。」
それ以降の説明はつつがなく終えることができた。最後のほうはこういうのがあれば便利だよとか、僕の期待した通りのアドバイスをもらえたのはうれしかった。
そして、やはり2人ともにポーチに驚かれた。やはりこれは結構な厄ネタになるのかもしれない。
「なんだか今日は信じられないくらい疲れたわ。」
「同感だ。この子兎のせいで1年分驚いた気がするな。まあ、とはいえだ。」
「ベル君! この装備、私たちにも作って! もちろんお金は支払うし、素材だってあげるよ。」
どうやら僕が持ってきたものは3人から高評価を貰えたらしい。口々に欲しい、売って、という声が聞こえるたびについつい顔がにやけそうになるのを必死に抑え込んだ。
だが、ここで売るという判断をするのはまずい気がした。だって、さっきまで僕は秘密バッグが一般的ではないということすら知らなかったのだ。もしかすると、何か後で取り返しのつかないことが起きるかもしれないのだ。
とにかく僕には知識や常識がないということが分かっただけでもよしとすることにした。
「すいません。」
「まあ、仕方ないよね。あとはこのことは周りに広めないようにしないとね。ベル君だけじゃなくメティーさんも苦労するかもしれないし。」
僕は今ここで判断することはできないと断り、『星屑の庭』を後にした。
その日の夕食の時に、僕はお母さんに今日あったことを話した。秘密バッグのこと、装備品のこと、足りない道具のこと。
それらを黙って聞いていたお母さんだったが、アーシャの方はこめかみを指で押さえて難しい顔をしていた。イクセルに至っては乾いた笑い声をあげている。
「ここまで常識が無かったとは…。冒険者になる前に母さんがお前に課題を出して正解だったな。」
アーシャの声にはかなり呆れが混じっていた。アーシャよりも年上にもかかわらず、妹よりも物を知らないことを恥じ入るばかりだ。いつもは年下のくせに偉そうだ、なんて思っているけど流石に今はそんな事を言える立場にはない。
だけど、アーシャの言うことももっともだけど、僕がまともに先生や家族以外の人たちと交流を持つようになったのはここ2年しかないのだ。生まれた時から2年前まで、ずっと皆と旅を続けていた僕にとっては、錬金術士の常識と世間一般の常識が違うことのほうが驚きだったのだから。
「それで、ベル。アリーゼさんたちは必要な道具や装備は揃っていると言ってくれたの?」
「いくつか足りない物があるから、それは作るつもり。それより、装備品を売ってもいいかどうかわからないんだけど、どうしたらいいだろう?」
「悩ましいところね。私も武器や防具を売ろうかと思ったときはあったのよ? でも、薬品類以上に悪用される可能性が高くなる。アストレアファミリアならそんなに問題ないと思うけれど、踏ん切りがつかなかったのよね。」
お母さんは僕の質問に、なぜ今までアストレアファミリアに薬品類以外を売らなかったのかその理由を教えてくれた。
「そんなに悪用されやすいの? というか悪用されたらヤバいの?」
「いい、ベル? 私たち錬金術士の作るものは、他の人たちが作るものよりも、とっても性能が高いの。そして使い道もとても幅広いから、悪用したら沢山の人が抵抗もできずに殺されたりするかもしれないのよ。」
お母さんのその言葉に、僕は背筋がぞっとする思いだった。
確かに、先生やお母さんの作る爆弾は非常に威力が大きい。爆弾だけじゃない。一見普通のはたきに見えるお母さんの武器だって、アンタレスなんて言うサソリの化け物を一発で半殺し*20にしてしまったのだ。
「そして、飛びぬけた性能を持つ武器や爆弾*21を作れるとなれば、周りから警戒されるし、悪人どもからは付け狙われることになる。母さんはそれを警戒して特定の人にだけ、売るものを絞って販売してたわけだ。」
イセクルの話は非常に簡潔だった。家族の平穏を守る。その為にお母さんはアストレアファミリアにだけ、回復アイテムのみを売っていたのだと。
「まあ、アストレアファミリアの人たちなら問題はないと思うわ。その話は置いておくとして、最初の課題はクリアしたということでいいでしょう。」
「やった!」
「そして、2つ目の課題よ。」
最初の課題をクリアしたという言葉に喜ぶ僕だったが、すぐさま2つ目の課題の話をされて気を引き締める。
一つ目の課題であれだけ大変だったのだ。色んな特性や素材を集めるためにオラリオ内を駆け巡っただけでなく、都市外にも素材収集のために出かけたのだ。ダンジョンに入れない以上、素材集めはダンジョン外で行うしかなかったのだ。
「2つ目の課題は…。」
お母さんの出す課題はやはり厳しかった。
死んでも生き返れるという事実は、かなり大きい。
ただし、メティーは特殊だということは理解している。
ちなみに、猫さんではない。
HPとMPを回復し、毒を治療する。
ベル君の錬金術の腕前は、ゲームにおけるレベル10前後としています。
今作ではレベルが低くても、レシピが分かっていたら作れるけど成功率と品質が低くなるという設定です。(ガバ設定)
品質が下がれば性能も下がるので、ベル君は冒険せずに無難な調合品だけを作りました。素材も少ないしね。
作品によっては効果でステータス補正があったりするけど、今のベル君は恩恵を受ける前&錬金術の腕が低いので効果を十分に引き出せないという設定です。