メティー&ベルのアトリエ ーオラリオの錬金術士ー 作:斎藤 晃
AI検索すると、ポーションが500ヴァリス~数万ヴァリス?とか書いてあるので、考えるのは止めました。
時給30ヴァリスのヘスティア様…。
お母さんから告げられた第2の課題はお金稼ぎでした。
という話をアストレアファミリアの皆に話したら、皆が色々と意見を出してくれた。
「10万ヴァリスかぁ…。冒険者ならダンジョンへ潜れって言うけど、冒険者になるための課題だとなぁ…。」
「私たちに装備作ってくれたらすぐに貯まるんじゃないの? ね、ね?」
「えーと、アストレアファミリアの皆さんへの売上は、これに含めないと言われました。」
今回僕の話を聞いてくれたのは、アリーゼさんとライラさんと輝夜さんとリューさんの4人だった。先日の装備の件はファミリア内で共有されたようで、4人とも期待のこもった目で僕の方を見ていたけど、それは後回しにせざる得ない。
なにせ、今回の課題は期限付きなのだ。
「1週間で10万ヴァリス。あなたのお母様は何かあなたに恨みでも? それとも冒険者にさせる気がないのでしょうか?」
「しかし、獅子は子を谷底へ突き落とすとも言う。クラネルさんは子供のためにあえて厳しくしてるのでしょう。」
「だとしても厳しすぎだろ。レベル1の冒険者の1日の稼ぎなんてたかが知れてる*1のに、まだ冒険者じゃないやつにそんだけ稼げって無理じゃね?」
「あえて厳しい条件を突きつけて、覚悟を試す。これこそ真の親子愛よ!」
4人とも好き勝手に今回の課題について話しているが、僕が相談したいのは具体的な金策の内容だ。もちろん僕も無策ではないので、いくつか案は考えてきていた。
「というわけで、これが僕の考えた結果です。」
僕はバッグから今回売るために作った商品(予定)を取り出した。
今回持ってきたのは、お酒とパンだった。オラリオは冒険者の街だ。冒険者と言えば酒場。酒場と言えばお酒。そのお供にパンを添えれば最高なはずだ。
「今回はお酒とパンです。右側から、祝福のワイン、蒸留酒、デニッシュです。最後に酔い覚ましのホッフェン水です。」
お酒2種類、パン1種類、それと酔い覚ましのラインナップだ。
祝福のワインは体力と疲労の回復もできる回復アイテムでもある。ただし酔っ払う。特性は”回復量増加”を選んだ。
蒸留酒はあくまでお酒としての美味しさを追求したものだ。…僕自身はお酒の美味しさはわからないので、できるだけ品質を上げただけだけど。特性は”品質向上”だ。
デニッシュも体力と疲労回復のアイテムで、効果は弱いが体力が継続回復するものの、食べなければ効果はない。
そして、デニッシュにはお腹に溜まるという厄介なマイナス効果もある。具体的に言うとお腹が張って動きが少し遅くなるんだ。これの特性も”回復量増加”だ。と言うか、これ以上の有用な特性を僕は持っていなかった。
最後のホッフェン水は酔い冷ましに使う薬だ。他に特に効果はない。特性は悩んだ末に”品質向上”を選んだ。
これが今の僕にできる限界だった。
「お酒…。じゅるり。そう、これは後輩冒険者の相談にのるために飲むだけ。決して役得や賄賂ではないわ!」
「結果的には同じじゃねえかよ。まあ、錬金術で作った酒って言われると気になるけどさ。」
「お酒はエルフ様には無理でしょうから、私たちで飲み干して差し上げますわ。」
「…酔い覚ましはともかく、パンに回復効果があるというのは気になります。」
4人とも好感触だ。種族的な関係でお酒の飲めないリューさんはともかくとして、やはり冒険者にお酒は効果覿面だったようだ。僕の読みは見事当たり、3人は早速酒盛りを始めた。
「蒸留酒はきついなー。あたしはパス。これ絶対ドワーフ用だろ。」
「私も無理ね! でも、ホッフェン水で酔いが一気に引くから、さっと酔えてさっと覚ますという使い方ができていいかもね。」
「祝福のワイン…。このような美味しいお酒が回復アイテムとは、最早ポーションは飲もうとは思いませんね。*2けれど、患部に直接かける使い方ができないのはマイナスでしょうか。」
「このパンは結構美味しいですね。怪我をしていないので回復効果はわかりませんが、たしかに疲れが抜けていくのが分かります。」
僕が作ったものは全部高評価だった。いや、蒸留酒だけは不評と言うか酒精がキツすぎるようで、ドワーフ専用になりそうな予感がするけれど。
ただ、輝夜さんが言ったとおり、患部に直接かけて癒やすということができないのはマイナス点だ。気絶した人に無理やり飲ませたらそれこそ命の危機だ。そういった場面では、ポーションが活躍することになるだろう。
「そもそも、祝福のワインもデニッシュもポーションの代わりに作ったわけじゃない*3んですけど…。」
「いーや、こいつは絶対に戦闘中に使うやつが出てくるぞ。で、ホッフェン水は買わない奴らが続出するだろうな。」
「ポーション代わりのお酒とか絶対ドワーフの人たちがこぞって買うでしょうね! そして、これは回復アイテムだからとか言いながら酒瓶片手にモンスターと戦うのよ!」
ライラさんとアリーゼさんの言葉に、祝福のワインを飲みながらモンスターと戦うドワーフという姿がありありと想像できてしまった。やばい。そうなれば僕の作ったお酒のせいで死傷者が出るかも知れない。
ダンジョン内でお酒を飲むという話を時々聞くけれど、結構危険な行為だとも聞く。僕が調合した祝福のワインは、それを助長しかねないのだ。
嫌な想像をして冷や汗をかく僕に、輝夜さんとリューさんが話しかけてきた。
「とは言え、ダンジョンで飲まなければいいだけの話。冒険者の行動は全て自己責任ですよ。」
「それは無責任だ。…とはいえダンジョンで飲ませないようにするという話には賛成します。」
そして、リューさんが提案してきたのは、お酒のみでは販売せずにどこかの酒場に卸すというものだった。信用できるお高めの酒場のみで提供し、ダンジョンに持ち込めないようにしようという話だった。
ただ、この案の最大の問題は、どこの酒場に持ち込むかだった。僕にはそんなつてはないので無理なのだ。いや、イクセルが修行しているレストラン『サンライズ食堂』ならばいけるかも知れないから、そこを当たってみるのもいいのかも知れない。
「以前私がお世話になった『豊穣の女主人』という酒場があります。あそこの店主なら人となりが信用できますし、荒事にも対応できる実力者揃い。ダンジョンで酔っ払いを死なせることはないでしょう。」
「あら、この妖精様はお酒は飲めないくせにお酒を売ることはやぶさかではないご様子。ダブルスタンダードではありませんこと?」
「私はクラネルさんとその息子さんの力になればと思っていったまでです。なぜいちいちそのようなことを言うのですか?」
「それとお世話になったとか言ってましたが、店で暴れた罰*4としてタダ働きさせられていたの間違いでは?」
「それは短い間だけです! 今でも時々ヘルプで呼ばれますが、給金はもらっています! デマを撒き散らさないでいただきたい。」
輝夜さんとリューさんは恒例の言い争いを始めてしまい、少し場が騒然となった。
だけど、リューさんの提案はありがたかった。『豊穣の女主人』は僕でも知ってる冒険者向けの少し高級な酒場だ。行ったことはないけれど、お酒も料理も美味しいと評判だそうだ。
「そんな高い所に僕のお酒を置いてくれるのでしょうか?」
「やってみないとわからないでしょ!」
「そんな弱気でどうする。これは絶対に売れるぞ! と言うか、あたしたちには直接売ってくれない? ダンジョンには持ち込まないからさ。*5」
僕の弱気な発言に、アリーゼさんとライラさんが励ましの言葉をかけてくれる。言い争いを終えたリューさんと輝夜さんも、今夜にでも『豊穣の女主人』に行って交渉しようと言ってくれたので、僕は一旦家に帰って今夜は遅くなることを伝えてから「星屑の庭」へと引き返したのだった。
閉店後の『豊穣の女主人』にリューさんとライラさんと一緒に訪ねると、リューさんが店長らしい年配のドワーフの女性と話し合っている。
暫くして話がまとまったのか、リューさんが僕達を手招きして交渉のテーブルに付くことができた。店長はミア・グランドさんという方で、恰幅のいいドワーフの女性だった。右隣にはシル・フローヴァという店員の女性が一緒に座っていた。
「さて、ようやくクソ忙しい時間が終わった頃にやってきたんだ。あたしを失望させるような話じゃないだろうね?」
不機嫌そうなミアさんは鋭い目つきで僕達を睨んできた。『豊穣の女主人』と言えば、冒険者に人気のある名店だ。その忙しさはイクセルが修行している店と比べ物にならないはずだ。多くの冒険者を相手にしてきた人なので、その胆力は凄まじいものだろうということは僕でも容易に感じ取ることはできた。
「間違いなくこの店のためになるだろうな。というか、本来ならあたしたちで囲い込みたいところだけど、こいつは事情があって金を稼がなきゃならないんだ。」
ライラさんとリューさんは僕のことをミアさんに売り込もうと、あれこれ話してくれていた。ミアさんはそれを黙って聞いているが、表情が変わらないのでその腹の中は読めなかった。そもそも冒険者ですら無い僕に口を突っ込む力はなかった。
「リューとは一緒に仕事をしてたから、こいつが嘘をつけないというのは分かるさ。つまりは、論より証拠。その酒を実際に確かめてやるよ。」
ミアさんはライラさんの話が一段落した頃を見計らって、そんな事を言った。決め手はリューさんへの信頼。ライラさんの話術は決定打にはならなかったようだ。それを理解したライラさんは不機嫌そうに歯ぎしりをしていた。
「これが僕の調合した祝福のワインと蒸留酒です。」
僕はバッグから2本のボトルを取り出した。前回の失敗を反省し、大きめの背負い型の秘密バッグを用意していた。誰も不審に思っていないようなので、今回それが功を奏したようだった。
僕が机の上に出したボトルを見聞しているミアさんに対して、シルさんはグラスの用意をしていた。まずは蒸留酒から注いだミアさんは匂いを嗅いだ後に口に含んで、暫く余韻を楽しんだ後に口を開いた。
「これ単体ではそれほどのものじゃないね。ただ、果汁やお茶で割ればそれなりには楽しめるだろうよ。」
蒸留酒に対する評価は辛辣だった。正直僕にもこれはそれほど美味しいものだとは思えなかった。お酒の美味しさを理解しているとは言えない僕ですら、美味しいとは思えない蒸留酒なのだから当然の評価だった。
「ただ、これほど酒精が強い酒は初めてさね。一部*6には需要がありそうだから採用だ。」
「ありがとうございます!」
不合格かと思っていたが、売り上げに繋がると言われて信じられなかったが、直ぐに頭を下げて感謝を述べた。1つ目で合格を言われた。それもオラリオでも有数の名店で。
それは僕に確かな自信をもたらしてくれた。
「それで、これが本命の酒か。」
ミアさんはそう言って祝福のワインのボトルを手にとって、グラスに中身を注ぎ入れた。祝福のワインの見た目は一般的な赤ワインだ。ただ、その芳醇な匂いはこちら側にも漂ってきたために、隣りに座るライラさんが思わず喉を鳴らす音が聞こえてしまった。
先程まで祝福のワインで酒盛りをしていた*7にも関わらず、もっと飲みたいと思っているのかも知れない。それを思うと、これも合格をもらえるのかもと期待が高まった。
「…凄いね。ここまでのワインは中々出会うことは無いね。」
ミアさんは目を閉じたまま風味を確かめているのか、暫く沈黙してからそう言ってくれた。かなりの高評価ということだろう。
「だったら…!」
僕は期待に胸をときめかせた。こんな名店で僕のお酒が売れれば10万ヴァリスなんて一気に稼げるかも知れない。しかし、ミアさんはあくまで冷静だった。
「これに体力と疲労回復の効果があるっているじゃないか。それを証明できるのかい? まあ、疲労回復の方は今実感してるがね。」
そう、祝福のワインの最大の特徴は、ポーションのように体力を回復することと、その上で疲労回復の効果があることだった。それを証明するためには、誰かが体を張らなければならないのだ。
制作者である僕が体を張ろうと思った瞬間、なんとライラさんがどこからか取り出したナイフで指先を切り、血が滴り落ちた。
そして、祝福のワインの入ったグラスを奪い取ると一気に呷った。僕は信じられない気持ちでライラさんを見るが、当のライラさんは落ち着いた様子で、先程切り裂いた指先を見せた。
なぜそこまで僕の為にしてくれるのかはわからない*8が、ライラさんの行動に助かったのは事実だった。
「どうだ? これで証明できただろう!」
ライラさんの指先に既に傷口は存在しなかった。血液の雫こそ存在していたが、それ以上滴り落ちる様子はなかったし、傷口すら見当たらなかった。
それを見ていたミアさんは大きく頷くと、僕の方へ向いて鋭い目つきを向けてきた。僕は思わず身体をすくめてしまった。
「さて、坊や。合格だよ。今持ってる酒をすべて渡しな。」
僕は素直に今持っている全ての祝福のワインと蒸留酒を机の上に並べた。その数合計6本。だが、それを見たミアさんは不満そうに僕を見ていた。
「こんだけしか無いのかい? この2倍、いや3倍は欲しいさね。」
そのミアさんの言葉に僕は喉から言葉が出なかった。今の3倍ともなると、1日の大半を調合に当てることになる。それは今の僕にとってはかなりの負担になる量だった。
それと、昼間にアリーゼさんたちが結構な本数を消費してしまったので、手持ちの数は更に減ってしまっていた。
だけど、僕は冒険者になると決意したのだ。これくらいの冒険をこなせなくて、何が冒険者だ!
「4時間、いえ3時間ください。絶対に必要なだけ持ってきます!」
僕はそう言うと席を立ち家へと走っていった。正直言えば大見得もいいところだった。今の僕にそこまでできる力ははっきりいって存在しない。だからといって何もしないのは嫌だった。
慌てて家へと転がるようにして戻ると、すぐに錬金釜に取り付く。僕専用の錬金釜があって助かった。お母さんは自分用の錬金釜で調合をしている最中だったからだ。
お母さんがなにか話しかけてくるが、それを無視して急いで材料の用意をして調合に取り掛かる。祝福のワインの調合時間は約1時間半。蒸留酒は約1時間。これを合計8本作らなくてはならない。普通に考えて半日はかかる。それを僕は3時間で作らなくてはならないのだ。
だから、僕は触媒を使う。フルーティー。作成数+2の特性を信じて、僕は必死になって調合を始めた。いくら頑張っても3時間で作れる数は9本以下。祝福のワインの調合を1回だけにしても、3時間半はかかってしまう。30分早く調合する方法はないのか。そればかりを考えて、僕は必死に調合をする。
「ぐーるぐる。ぐーるぐる!」
調合時に掛け声をすると成功率が上がるらしい。僕はそれをお母さんを通して先生から教えてもらった。ちなみに、掛け声には
必死に錬金釜をかき混ぜていた僕だったが、時間が経つに連れ少しずつ冷静さを取り戻していた。冷えてきた頭脳を使って、これまで学んできた内容を振り返っていくうちに、僕は錬金スキルという存在を思い出した。
錬金スキルとは、調合中に使える技術の1つで、これを使えば作成数を増やしたり調合時間を短縮したりできるらしい。この錬金スキルを使えるのは、先生とヘルミーナさんだけだったけど、この状況で僕はこの錬金スキルが使えないか試行錯誤をすることに決めた。それしか方法がないのだ。
はっきり言って無謀もいいところだった。お母さんですら使えない錬金スキル。それをお母さんの弟子であり、しかもお母さんに遥かに劣る僕が使おうというのだ。無謀というよりも自殺行為だった。
だけど、今それを使えなければ僕は一生冒険者になれない。そんな強迫観念を持ったのが功を奏したのか、わずか1時間で祝福のワインを調合することに成功した。それどころか、できた数は4個にもなっていた。
続けて蒸留酒も作ったがこちらは30分で作成できた。信じられない面持ちで調合した酒のボトルを見る僕だったが、時間の許す限り調合しようと思い、再び祝福のワインの作成に取り掛かった。残念ながら今度は1時間以上の時間がかかったが、それでも時間内に祝福のワイン7本、蒸留酒4本の合計11本のお酒の調合に成功していた。
残り時間は20分しか無かった。僕は急いで調合したお酒のボトルをバッグに入れるや否や、駆け足で「豊穣の女主人」へと急いだ。
はたして、店を出てから2時間55分後に僕は11本ものお酒を届けることに成功したのだった。
僕が到着した頃には「豊穣の女主人」の灯りは半分くらい消えていた。それでも、ミアさんとライラさん、リューさんは僕を待っていてくれた。
「はぁ。ここまで無茶して持ってきたんだ。明日試しに売ってみるから、また明日の閉店後に来な。」
ミアさんからはそんな言葉をいただいて、その日は解散となった。ライラさんとリューさんからはチクチクと厳しい言葉をもらったが、街でも名のしれた名店に僕の作ったものが置かれることを思うと、つい頬が緩んでしまうのだった。
そして、翌日の夜にて。
「明日同じだけの量を、いやもっと沢山卸してくれないかい?昨日の分は今日全部はけちまったからね。」
ミアさんから追加の注文が来て僕は得意の絶頂へと上り詰めた。もちろん頑張って調合して、納品した。
ちなみに10万ヴァリスはわずか4日で達成できたので、お母さんの信じられないという驚愕した顔を見れて嬉しかった。
ベルくん、錬金スキルに目覚めるの回でした。
錬金スキルは黄昏シリーズ独自のシステムでしたが、後の作品には触媒やエッセンスという形で足跡を残しています。
不思議シリーズのパネル調合は好きでしたが、好き勝手やれる黄昏シリーズの錬金スキルも中毒性が高かったです。
まあ、それでもDX版の隠しボスを倒せなかったヘッポコ錬金術士な私でしたが。
お酒関係はグラムナートあたりも参考にしました。というか、回復アイテムとしてのお酒が出てくる作品がアーランド以降は皆無でした…。