ダークネスウォリアー孫悟飯   作:晴歩

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道しるべ

胸の奥が、ずっと重かった。

父さんも、ピッコロさんも、ベジータさんも、僕には、誰よりも強い潜在能力があると言っていた。

 

けれど、例えそれが事実だったとしても、分かっていた。

 

僕には、戦士としてのセンスがない。

 

怒りに任せて爆発する力。

追い詰められた時だけ発揮される底力。

それは武術なんかじゃない。

ただの、偶然の火事場の馬鹿力だ。

 

もし父さんやピッコロさんという、最高の師匠に導かれなければ、

僕はきっと、何も開花させられなかった。

 

そして、その師匠たちはもういない。

人造人間に殺されてしまった。

 

残された僕は、案の定行き詰まっている。

もっと、強くならなければならないのに。

 

拳を握り、目を閉じる

 

思い出せ。僕の武術の原点は、ピッコロさんだ。

 

あの背中。

あの孤独。

あの誇り。

 

僕はあの人の弟子だ。

ならば、今の僕にできることはひとつしかない。

 

魔族の技を極める。

 

気の扱い方。

精神の鍛え方。

戦士としての在り方。

 

全部、ピッコロさんが教えてくれたものだ。

 

父さんのようにはなれない。

ベジータさんのようにもなれない。

戦士としての本能がない僕が、彼らの真似をしても意味がない。

 

だから、僕は僕の道を行く。

 

最強の魔族になる。

この地球を守るために。

 

悟飯は静かに息を吸い、目を閉じた。

その胸の奥に宿るのは、怒りでも憎しみでもない。

ただ、受け継いだ誇り。

 

ピッコロさん。

あなたが残してくれたものを、僕は絶対に無駄にしない。

 

深く息を吸った。

心の奥底に沈んでいた記憶が、静かに浮かび上がる。

 

悟飯はゆっくりと目を開いた。

その瞳には、もう迷いはなかった。

受け継いだ誇りだけが静かに燃えていた。

 

荒れ果てた大地に、悟飯の気が静かに満ちていく。

 

「……まだ粗い。もっと練らないと」

 

「スーパーサイヤ人みたいに、巨大な気を光として発散するんじゃない……

僕が練るのは、影のように……深く、濃く、まとわりつく気だ。

外へ爆発させるんじゃない。

内へ沈めて、圧縮して、静かに研ぎ澄ませる……

これが、魔族の気の扱い方だ。」

 

荒野に沈む灰色の空の下、トランクスがやってきた。

 

悟飯さん?

その気は、いつもと違っていた。

 

「……これ、本当に悟飯さんの気なのか……?」

 

気が弱い?

いや、弱いのではない。

深い、底が見えない。

まるで影が凝縮して形になったような、そんな気だった。

 

トランクスが岩陰から覗くと、悟飯が静かに構えていた。

風もないのに、悟飯の周囲だけ空気が揺らいでいる。

 

それは、爆発的な気ではなかった。

ただ、霧のように、静かにまとわりついている。

 

「なんだこれ……?」

 

思わず声が漏れた。

悟飯はゆっくりと目を開き、トランクスの方を向いた。

 

その瞳は、深い闇のように静かだった。

だが、憎しみではない、確かな意志が宿っている。

 

「やあ、トランクス」

 

悟飯は微笑んだ。

その笑顔はいつも通りなのに、気の質がまったく違う。

 

「悟飯さん……その気……どうしたんですか?

スーパーサイヤ人じゃ……ないですよね?」

 

悟飯はゆっくりと息を吐き、言葉を紡いだ。

 

「スーパーサイヤ人のように、巨大な気を光として発散するんじゃない……

僕が練るのは、影のように……深く、濃く、まとわりつく気だ。

外へ爆発させるんじゃない。

内へ沈めて、圧縮して、静かに研ぎ澄ませる……

これが、魔族の気の扱い方なんだ。」

 

トランクスは息を呑んだ。

 

「……すごい……悟飯さん、まるで別人みたいだ……」

 

悟飯は首を振った。

 

「別人じゃないよ。

僕は僕のまま……そして、ピッコロさんの教えを、僕の形にしただけさ。」

 

トランクスは、胸が熱くなる。

 

「すごい、流石悟飯さん!」

 

「悟飯さん……さっき言ってた、魔族、って……それって何なんですか?」

 

悟飯は気を収め、ゆっくりと語った。

 

「魔族……うん、そうだね。

簡単に言えば……僕が最初に学んだ武術の流派、みたいなものかな。

ちょっと違うけど、そんな感じだよ。」

 

トランクスは目を瞬かせた。

悟飯が最初に学んだ武術、そんな流派があるんだと。

 

悟飯は続けた。

 

「正直に言うとね、トランクス……

僕には、戦士としての才能がないんだ。」

 

その言葉は、悟飯の口から出るにはあまりにも意外だった。

だが悟飯は淡々と、しかし誤魔化さずに言葉を紡ぐ。

 

「僕には、武術家としての独自性なんてないし、戦うこと自体、好きじゃない。だから……父さんやベジータさんみたいにはなれない。」

 

トランクスは息を呑む。

悟飯が弱いなんて、一度も思ったことがない。

むしろ、誰よりも強いと信じていた。

 

悟飯は静かに続けた。

 

「でもね……師匠を失った今、僕がもっと強くなるためには……

僕が最初に教わったものを、もう一度よく思い出して、そして、究めるしかないんだ。」

 

悟飯の両手がゆっくりと構えを取る。

その動きは、悟空のものでも、ベジータのものでもない。

ピッコロの流派、魔族の構え。

 

「魔族の気は、光じゃない。

影のように、深く、濃く、静かにまとわりつく……

偶然にも、最初に学んだものが、僕には合ってると言えそうだ。」

 

その異質さに、トランクスは思わず口を開いた。

 

「悟飯さん……僕も、その、魔族の気、の扱い方を訓練したほうがいいのかな……?」

 

悟飯は少し驚いたように目を瞬かせ、そして柔らかく微笑んだ。

 

「トランクス……君はまだ若い。

何が最適なのか、僕には分からないんだ。

だから、色々試してみるのも悪くないと思うよ。」

 

そして苦笑して言った。

 

「こういうところも……僕のだめなところなんだ。

師匠として、うまく導いてやれない。」

 

その言葉に、トランクスは即座に首を振った。

目には迷いがなく、むしろ強い意志が宿っている。

 

「そんなことないです!

僕は悟飯さんにたくさん教えてもらって、ここまで成長できたんです!

気の練り方も、戦い方も……生き方だって!」

 

悟飯は驚いたように目を見開き、そして静かに息を吐いた。

その表情は、どこか救われたようだった。

 

「……ありがとう、トランクス。

そう言ってもらえると……少しだけ、自信が持てるよ。」

 

トランクスは一歩前に出る。

 

「僕は悟飯さんみたいになりたいんです!

だから……魔族の気でも、サイヤ人の気でも、なんでも挑戦してみたい!」

 

悟飯はしばらく黙ってトランクスを見つめ、やがてゆっくりとうなずいた。

 

「分かった。

じゃあ……一緒にやってみよう。

君に合うかどうかは分からないけど、試す価値はある。」

 

悟飯は両手を構え、影のような気を静かに練り始める。

 

トランクスはその言葉を胸に刻み、悟飯の隣に立った。

 

二人の影が、ゆっくりと重なっていく。

 

光ではなく、影が希望を紡ごうとしていた。

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